21 情報屋さんと終戦
「おお、カラス! よく来てくれたな!」
「バカ、声がデカい……!」
みんなクーシーに集中してるとはいえ、誰かが気づくとも限らない。できるだけ大声は避けたいところだ。
「で、こっちはなんで苦戦してるんだ……?」
「ああ、攻撃に専念してたんだけど……どうも回復の方が早すぎてなー」
「力業すぎる……」
やっぱり作戦に無理があったんだよな。
「香木はどうした……?」
「ああー……ほら、登ろうとしたんだけど、クーシーって炎に包まれてるだろ?」
「そうだな……?」
「だから触れるとダメージで登りづらいんだよ。跳躍できる奴はHP少ないし」
確かに炎のオーラのような物に包まれてるが……あれって当たり判定があるのか。しかしそうなると少々厄介だな。
「だから結局顔まで誰も近づけなくてさー」
「ふむ……」
「……そういえばカラス、前に共闘した時に跳躍使ってたよな?」
「……」
「……」
「……急用を思い出した」
「まぁ待てって!」
「は、離せ……!」
いかん、この流れは非常にまずい。また働かされるパターンだ。
「断っておくが、俺は手伝わないぞ……!」
「まーまー! そう言わずに、頼む!」
「だから言ってるだろ、俺は目立ちたくないんだ……!」
「でもサクヤ達の方は手伝ってたよな?」
「ぐっ……」
痛いところを突かれてしまった。ここでもし俺が断ったらどうなる? まるで贔屓してるかのようにも見えなくもない。そうすると今後のアーサー達との取引にも支障が出る。
くっ……。もう一回同じ事をやらないといけないのか……!
「だが、炎のダメージは俺にもどうにも……あっ?」
そういえばつい最近、関係あることがあったような?
◆◆◆
「仕方ない……」
俺は再度ボスと向き合う羽目になっていた。今度は猫ではなく犬だが。
「『潜伏』……『縮地』」
アーサーと話している間に再発動時間は過ぎてしまっていた。なのでさっきの焼き直しのように、アーツを発動させていく。
素早く駆け出すと、クーシーの足の間を潜るようにして移動していく。少し走ったところで止まって振り返ると、クーシーの尻尾が見えていた。変わらずクーシーは暴れまわり、炎を撒き散らしている。
「『ハイジャンプ』……『空歩』」
うまいことクーシーの巨体に隠れるようにして、尻尾に飛び付いた。そのままよじ登り、うつぶせのままクーシーの背中を進む。プレイヤー側からはクーシーの頭が邪魔で俺の姿は見えないはずだ。
「にしても、予測が当たってよかった……」
背中にしがみついて、炎のダメージを受けるはずの俺は、現在無傷だった。そう、この前改良してもらったデイブレイクコートの火属性ダメージ減少のおかげだった。まさかあれがこんなところで役に立つとは。
そのまま慎重にクーシーの後頭部まできたおれは立ったまま大の字になってしがみつく。そしてロッククライミングのように頭を登る。
「『忍法・隠れ身の術』」
もう少しでてっぺん、というところで隠れ身を発動させた。後は俺のバランス感覚がものを言う。
てっぺんから倒れるようにしてクーシーの鼻の上、マズルと呼ばれる部分に乗った。そしてケットシーの時と同じように香木を嗅がせていく。
作戦は成功だった。クーシーは暴走状態に陥り、動きがフラフラになっていく。俺はマズルから飛び込みのようにジャンプすると空中で一回転して着地した。着地点はプレイヤーで密集してる中の隙間だ。
みんながクーシーの様子に注目している間に下がって、アーサーのところまで戻る。
「やったな、カラス!」
「役目は果たした……これは貸しだからな……」
「ああ、今度なんかお礼するぜ!」
それから、二体のボスを倒すのに大した時間はかからなかった。香木によって行動を阻害された二体は、プレイヤー達の猛攻により、すぐにHPを削り切られて崩れ落ちたのだった。
「「「「「うおおおおおっ!!」」」」」
ボスが消えた瞬間、歓声が湧き上がる。達成感でみんな大盛り上がりだった。
『おめでとうございます! クエスト【交易都市コクタンの防衛】を達成しました』
『クエスト達成により、【北の街道】が解放されます』
『貢献度に応じて各プレイヤーに報酬が渡されます!』
『貢献度を計算中です……』
『報酬を配布しました! プレイヤーの皆様はメニューよりご確認下さい』
ファンファーレのような軽快な音が周囲に鳴り響く。と同時に俺達が立っている場所の上空に、巨大なメッセージが表示されアナウンスも流れていた。
俺は早速メニューを開き、報酬を確認する。
─────
プレイヤー カラス
ケットシーの討伐貢献 20P
クーシーの討伐貢献 20P
モンスター討伐 10P
合計貢献度 50P
─────
「賞品はなになに……【光の魔法石】だと!?」
─────
光の魔法石
光の魔力を帯びた石。神聖な力を感じる。
─────
アイテムボックスから出すと、ほんのり白く光る石が出てきた。これは大発見かもしれない。今まで光属性、または光魔法なんてものはなかった。いや、存在するのかもしれないが、誰も見つけてはいないはず。もし、他のプレイヤーも報酬で受け取ってるとしたら、新たな属性の誕生になるかもしれない。
周囲を見渡すと、みんな武器だったり、ポーションのような物を持っていたりしていた。多分いろんな物を受け取ったのだろう。
「こうしちゃいられない!」
俺は変装すると、聞き込みをすべくすぐにプレイヤー達の輪の中に紛れ込んでいった……。
◆◆◆
「いやー大量大量っと」
メモ画面を確認しながらほくそ笑む。プレイヤー達との情報交換で様々なアイテムの情報を知ることができた。だが、あちこち聞き込みしてみたが、光の魔法石を受け取ったプレイヤーを他に見つけることはできなかった。俺が貢献度高かったからか?
「それはさておき、調子はどうだ?」
「はあ……ぼちぼちっすけど……」
「ん? どうした?」
「いやいや! どうしたじゃないっすよ!? なんで鍛冶場まで来て雑談してるんすか!?」
「まぁ、そう言うな。あ、キジトラは防衛クエスト参加したか? 見当たらなかったけど」
「リアルの方で用事があって行けなかったんすよねー……じゃなくて!」
せっかく情報交換の為に鍛冶場まで来てキジトラと駄弁ろうと思っていたんだが、今日はテンション高いな。
「そう、カリカリするな」
「誰のせいだと思ってるんすか……まったく……」
「ははは」
「なに笑ってるんすかー!?」
きっとイベントに参加できなかったから、落ち込んでるんだろう。そうに違いない。
「はぁ……はぁ……今日は雑談に来ただけっすか?」
「それもあるが……依頼もあってな」
「先にそっちを言って欲しいっす……で、内容は?」
「ああ……投擲武器の件なんだ」
「投擲?」
今まであんまり気にしていなかったが、俺は職業は忍者だ。武器も和風に刀だし、使う魔法も術とかが多い。
「だから、できるところは和風にしようかなってさ」
「はぁ……つまり?」
「苦無とか手裏剣を作れないか?」
俺がそう頼むと、キジトラは腕を組んで考え込み始めた。
「うーん……難しいっすね……投げナイフならレシピにあるんすけど……」
「やっぱり難しいか……」
「そうっすね……」
「まぁいい。一応予約ってことで考えといてくれ」
とりあえず依頼だけしておいて、もし作れるようになったら作ってもらおう。
「わかったっす。用事はそんなところっすかね?」
「実はもう一つあってな……そろそろのはずだが……」
俺がそう言った瞬間だった。後ろから声が聞こえてきた。
「お待たせ、カラス!」
「おう、待たせたな」
案の定後ろに立っていたのは、サクヤとジョーのコンビだった。
「えっとカラスさん、そのお二人は……?」
「紹介しよう。俺の友達で仲良し双子のジョーとサクヤだ」
「どうも、ジョーって言います。重戦士やってます。仲良しではないです」
「サクヤです! 職業は魔導師です! あと仲良しではないです」
「は、はぁ……あたしはキジトラ、中級鍛冶師っす……よろしく……」
おお、すごい。普段から変人っぽいキジトラが気圧されている。やはりこの双子侮れないな。
「それにしてもジョーはクエストいたのか?」
「いたよ! 最前線でタンクやってたぞ!?」
「あはは、ジョーは目立たないもんねー」
「そうだな、羨ましいな」
「全然嬉しくねーぞ!?」
俺達が盛り上がっていると、キジトラが声をかけてきた。
「な、なかなか個性的なお友達っすね、カラスさん……」
「やめろ、そんな類友みたいな顔で俺を見るんじゃない」
俺はあくまで情報屋のロールプレイをしてるだけで、中身はまともだし。
「コホン……気を取り直して、今日はこの四人で顔合わせをしておきたかったんだ」
「「「顔合わせ?」」」
「ああ、今のところ俺の正体を知ってるのは、お前達だけだからな」
本当はヨル姉も知ってるんだが、都合がつかなかった。ログインしてないみたいだし。
「そっか、そういうことならよろしくね、キジトラさん!」
「よろしく、キジトラさん」
「よろしくっす!」
よかった、喧嘩するような連中ではないと思っていたが、どうやら顔合わせはうまくいきそうだった。
「ねえねえ、ところでさ!」
「?」
「せっかく次の街に行けるようになったんだから、みんなで行ってみない?」
「そうだな、せっかくだからそうしようぜ」
「賛成っす!」
という訳で、四人で連れ立って第三の街を目指すことになった。
◆◆◆
「うわー……本当にがらんとしてるね……」
「ああ、俺が見たときにはあんなにうじゃうじゃいたのにな」
四人でやってきた北の街道はさっぱりモンスターがいなくなっていた。若干坂になっているその道を喋りながら歩いていく。クエストの達成により、こんなに変化するとはな。
「あ! あれじゃない?」
坂を登りきった先、下り坂の向こうには大きな街が見える。一面青い中の中央に立っているが、あれは海か?
「じゃあ、早速行こうか」
俺が号令をかけると、四人で街に向かって坂を下り始めた。




