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情報屋さんは駆け回る  作者: 仮面色
第2章 プレイヤーズ
22/25

19 情報屋さんと緊急事態

連続更新です!

「勝った……」



 クーシーが消滅した瞬間、ついつい声が漏れ出てしまった。達成感と安堵のあまり、その場に座り込む。見ると、ジョーとサクヤも同じようにへたり込んでいた。



『おめでとうございます! 【西方山】のボスモンスターを討伐しました!』

『以降、ボスモンスターは弱体化されます』

『このお知らせは全プレイヤーに向けて通達されます。初回討伐パーティを登録しますので、パーティ名を入力して下さい』



 いつかの時と同じように大きな音でファンファーレが鳴り響く。そしてアナウンスが流れ、入力画面が表示されていた。三人で顔を見合わせる。



「へぇ……ボスを倒すとこんな感じになるのか」

「知らなかったねー」



 二人ともボスの初討伐に際して感動しているようだった。



「パーティ名、どうする?」

「念のために言っておくが、絶対に俺の名前は出さないようにな?」

「カラスは本当に暗躍が好きだね……」



 結局倒すことになってしまったが、ある意味では不本意な結果でもあるんだからな。


 三人で相談の末、パーティ名は『トライアッド』に決まった。三人組とか三つで一組みたいな意味だ。あんまり特徴がなく、なおかつシンプルが一番と考えた。


 入力が終わったところでふと気がついた。三人それぞれの前に何か光が浮かんでいる。確認すると、それはアイテムのようだった。恐る恐る手を伸ばす。そのまま、そっと手に取ると光が消えた。



「おい、なんかアイテムドロップしたぞ」

「なんだろ、これ……鈴かな?」

「一応鑑定してみるか……」



─────

猫避けの鈴

・猫にとって不快な音を出す。特定のモンスターが寄り付かなくなる。


─────



 ふむ、これは……。特定のモンスターとぼかしているけど、見たところ猫系のモンスターを避けるためのアイテムだろうな。確認したが、三人とも同じ物を手に入れていた。



「何に使うんだろねー」

「猫避けってことは……東方山を攻略する為のアイテムじゃないか?」



 二人が首をひねって考えているが、俺はやや違うことを想定していた。このアイテムがここで手に入ったってことは、もしかして……? まぁ検証はまた後でやろう。



「それより他の落ちてるアイテムを分けないか?」

「おお、そうだったな」



 クーシーを倒したことで、鈴以外にもいくつかアイテムは落ちていた。どれが役に立つかはわからないが……とりあえず優先権は二人に譲ってあげた。今回は俺が依頼したようなものだし、何がドロップするかの情報が手に入っただけでも有益だからな。結局、俺は残ったアイテムの、【犬王の毛皮】をもらった。



「お疲れさん。二人ともありがとな」

「どういたしまして!」

「こっちこそな。……なぁカラス」

「ん?」

「やっぱこのままパーティ組まないか?」

「そうだよ! このまま三人で攻略していこうよ!」



 少し考える。ジョーの誘いは、ある意味魅力的だ。この二人なら戦士と魔法使いでバランスもいい。組むには最適だ。何より二人は俺の正体を知っているので、ロールプレイする必要がないとも言える。だが……。



「悪いな。やっぱり俺はソロで行動するよ」

「えー……そんな……」

「そうか……」

「二人とも露骨に落ち込むなよ。時々なら付き合うからさ」



 一瞬心が揺らいでしまったが、すぐに思い直した。やはり俺が目指すべきなのは、孤高の情報屋。和気あいあいとしたプレイは、また別の話なのだ。




◆◆◆




「待ってたわよ!」



 クーシーを倒したものの、俺の主目的はそこではない。寄り道してしまったが、今回の目的は素材集めだからな。俺は頼まれた品を納品するべく、斡旋所まで戻ってきていた。


 街まで戻ってきたところで、サクヤとジョーとは別れた。本当は二人も紹介しようと思ったが、今日はログアウトするとのことだった。残念だ。



「早速見せてくれるかしら!」



 興奮した様子で、ナゴミさんが食い付いてくる。ちなみにヨル姉はいつもと変わらず、のんびりした調子で歩いてきた。



「はいはい、こちらが依頼された毛皮と林檎です」

「おお……すごいわ! やるじゃない!」

「ヤドカリちゃん、ありがと~」



 てっきりタダで渡した後、装備を作ってくれるものかと思ったが、きちんと保証金を支払ってくれるという。持ち逃げしたりしないようにとのことだ。



「当たり前でしょ? これくらいしないと、信用なんてしてもらえないじゃない」

「おお……」



 職種は違えど、俺と同じく信用を大事にしてることがわかる発言だった。態度は尊大だから怪しんでいたものの、案外常識的な人みたいだな。考えを改めなければ。



「じゃあ、行きましょうか!」



 装備作成の為、二人に連れられて街中を移動していく。鍛冶師には鍛冶場があるように、裁縫師も工房のような場所……作業場があるらしい。


 たどり着いた場所は、長机が無数に並んでいる広い場所だった。それぞれの机に座って黙々と手元で作業しているプレイヤーばかりだ。心なしか女性プレイヤーが多い気がする。



「早速作るから……改良して欲しい装備とかある?」

「じゃあ……これをお願いします」



 俺が取り出したのは愛用の一品。いつもメインで使っている【ミッドナイトコート】だ。ただ改良してもらうにあたって、若干の懸念はある。それは俺がコートと一緒に【カースドブーツ】を一緒に装備していることだ。


 カースドブーツのデメリットとして、どんな装備をつけても耐久が最低に固定されてしまう。だから、改良してもらっても耐久をあげるタイプの効果だったらあんまり意味はないのだが……。



「………………できたわー!」



 待つこと二十分。邪魔にならないように作業場の隅でヨル姉と雑談と言う名の情報交換を行っていた。俺にとっては情報収集は非常に貴重な仕事のうちだ。


 そろそろかな、と思ったタイミングでナゴミさんが立ち上がり、コートを広げていた。黒一色だったミッドナイトコートに赤い線で縞模様が控えめに描かれている。


 実は毛皮だけでなく、手持ちにあった魔法石も材料として渡していたのだが……果たしてどうなったのか。希望と不安が入り交じった気分の中、恐る恐る受け取ったコートに【識別】を使用する。



─────

デイブレイクコート


夜明けをモチーフにしたコート。赤と黒の対比が特徴。

・速度上昇

・耐久上昇

・火属性のダメージ減少


─────



 おお、なかなか強化されてるな。魔法石を使った甲斐があったというものだ。ミッドナイトコートにあった、モンスターとの遭遇率減少はなくなってしまったが、ダメージ減少はありがたい。耐久が紙の俺には、わずかでも生き残る可能性は増やしておきたいからな。


 こうなってくると、もう一つもお願いしようかな……?



「どうかしら……?」

「ありがとうございます……予想以上の出来ですね」

「そうでしょうそうでしょう!」



 最初は不安げに俺の反応を窺っていたが、俺が完成品を褒めると鼻高々な態度に戻っていた。リアクションがわかりやすいというか、純粋な人なんだろな。



「それで、お願いがあるんですが……」

「何かしら?」



 この際だから、カースドブーツも改良してもらうことにしよう。もちろん、正式にお金を払った上でお願いする。



「な、なんか禍々しいデザインね……いいわ! 請け負ったからには全力でやらせてもらうわね」

「よろしくお願いします!」



 そして再び待つこと二十分。ヨル姉はのんびりした人なので、会話のテンポものんびりしている。だから割りと時間が経つのも、いつの間にか経っていた言う感じだった。



「あれ、これは……」



 さっきみたいにできたわ! と叫ぶかと思ったが、何か不思議そう……いや怪訝そうにしていた。



「どうかしました……?」

「えっとこれなんだけど、多分作り直したら効果が下がると思うわ……」

「えっ?」



 聞いた話によると、こうだ。カースドブーツは効果が高い分、手直しして改良するとデメリットが消えて、効果が下がるという。大まかにそういう、完成予想図がわかるスキルがあるという。


 確かにキジトラにカースドシリーズを改良してもらった際に、似たような話をした気がする。まぁ、速度三倍の効果は破格とも言えるし、これでデメリットだけ無くすのは無理があるだろう。もっと上級の職業ならできるのかもしれないが……。


 さて、どうするか。速度を犠牲にしてデメリットを消すか。それともデメリットを無くすことを優先すべきか……。



「……わかりました。じゃあカースドブーツの改良はやっぱりキャンセルします」

「いいの?」

「ええ、構いません」



 よくよく考えたが、下手に耐久にこだわるのは方針としても間違ってるだろう。俺がこだわるのはあくまで速度であるべきだ。そう思って、結局改良はやめておいた。


 その代わりと言ってはなんだが、新しく革の鎧でシンプルなデザインの物をナゴミさんから買わせてもらった。これは変装用に用意したものだった。なので大して強くはないが……。




◆◆◆




「さーて、次は何をしようかな……と」



 ヨル姉の料理は色々試してみたいとのことだったので、材料だけ渡して別れることにした。料理は別にすぐに必要になる訳じゃないしな。


 それより次の一手をどうするかが悩む。割りとやるべきことはやってきたし、少し手が空いてしまった。ここは基本に戻って情報収集をするべきかも……と思っていたその時だった。



『パーティ【サバイバーズ】が【東方山】のボスを討伐しました。以降、ボスモンスターは弱体化されます』



 唐突にアナウンスが聞こえてきた。これは……あいつらがやったのか。俺の教えた香木の件も含めて稼がせてもらったからな。まぁ無事に突破できたのなら、俺としても言うことはない。


 俺がしみじみ思っていたのもそこまでだった。アナウンスが終わった瞬間、警報のような大きな音が聞こえてきたからだ。周りを見回すと、戸惑っている人と気がついてない人がいる。これは……聞こえているのはプレイヤーだけなのか。NPCは無反応のようだった。


警報が止んだと思うと、次は街の上空に画面が出現した。いつもステータスで見てる半透明な画面、その巨大なバージョンのようなものが浮かんでいる。街のどこからでも見えているだろう巨大さだ。



『緊急! グランドクエストを発令します!』

『【交易都市コクタン】の北側、【北の街道】においてモンスターの爆発的な大量発生が起こりました!』

『モンスターの大群は街の方へと向かい、三十分後には街まで到達します!』

『街の防衛の為にクエスト参加を募集します!』



 画面はじっくり読める速度で浮いていたが、しばらくすると音もなく消えた。やがてステータスも開いていないのに俺の目の前に画面が出現する。



『グランドクエスト【交易都市コクタンの防衛】に参加しますか?


報酬:クエストへの貢献度によって変化』



 これは……なにやら緊急事態が起こっているものと見ていいだろう。何が引き金になったのか……。今日起こることが予定されてたのか? それとも他の要因……ボスが倒されたことによるものか? いや、それだとクーシーを倒した時に何も起こらなかったのはおかしいな。だが、それならいったいどういう……もしかして、ボスを二体とも倒したからか……? とりあえず考察は後にしよう。今は参加するかどうかだ。


 どうしよう、報酬は欲しい。何が出るか知らないが。だが目立ってしまうのは最悪のパターンだ。ここは目立たない方向で上手いこと参加せねば。



「とりあえず参加っと」



 クエストに参加を選択すると、カウントダウンのような物が表示されている。メニューを閉じたり開いたりしてみたが、数字は徐々に減っていってるのがわかる。残り三十分弱だ。察するに、おそらく街までモンスターが到達する時間を表したものだろう。


 更にクエスト内容が細かく書かれている。勝利条件は……敵モンスター集団の全滅で……敗北条件……モンスターの街への侵入か。これはなかなか面倒そうだな。



「さーて、まずは様子見からだな」



 周りを見ると、多くのプレイヤーが街の北側へと向かっているのがわかる。クエストを受けただろうプレイヤーだな。防衛の為に集合するつもりだな。先ほどのお知らせは消えてしまったが、今遅れてログインしてきたプレイヤー達にもクエスト参加の申請が届いているようだった。



「北門にさりげなく向かってみるか」




◆◆◆




「うーわ、これは壮観だな」



 北門まで向かうと、かなり大勢のプレイヤーが集合していた。これはまさに防衛戦といった雰囲気だな。俺はというと、その大勢の中にさりげなく混ざり込んでいた。言い方はおかしいが、こういう時は怪しい動きをすると怪しくなるものだ。なのであくまで一般プレイヤーの振りをして、こっそりと入っていた。


 ただ、皆ガヤガヤと盛り上がるばかりで、全くまとまりがなかった。これでは作戦行動を取るのは難しいな。誰かが仕切らないと。



「おーい! みんな注目してくれー!」



 すると前の方から大声が響き渡った。人が多くてよく見辛いが……あれはもしやクロスか?



「もうすぐクエストで多くのモンスターがくるはずだ! 防衛にはみんなの協力が必要だと思う!」



 クロスの後ろには、サバイバーズのメンバーが全員並んで控えている。



「そこで、この場は俺達サバイバーズに仕切らせてもらいたい! 従ってもいいと思う奴は、この場に残ってくれ! 不満がある奴は離れてもらって構わない!」



 なるほど、無理に従わせるのではなく、あくまでも自由意志で行動させるつもりか。まぁ無理に押さえつけてもいい動きは期待できそうにないしな。


 その言葉を聞いて何人かは離れるように動いていたが、大多数のプレイヤーはその場に残っていた。みんなわかってるんだろう。報酬の為に貢献度を上げるには、協力した方が可能性が高いということを。


 一方俺はというと、この場に残っていた。団体行動するのは気が進まないが、とりあえず話を聞くだけ聞いてみようと思う。最悪の場合は、こっそり抜けよう。話をよく聞くため、前の方に移動する。



「まず、人数が多いから三チームぐらいに分割しよう。一チームは俺達が仕切るとして……他に仕切りたい奴はいるか?」



 流石に全プレイヤーをすぐにまとめるのは、無理とわかってるらしい。だが、クロスの呼び掛けにもなかなか出てくる奴はいない……。



「はーいはいはい! 俺達がやるぜ!」

「ちょっと、待ちなさいって!」

「ふ、二人とも待って……!」



 …………と思ったんだが、どこからか聞き慣れた声が聞こえてきた。見ると、俺にとってはお馴染みの三人組、うさぎ団だった。



「おっ、お前達がやってくれるのか?」

「ああ、任せとけ!」

「勝手に決めないでってば!」

「うう、人が多い……」



 名トリオならぬ迷トリオが、指揮を取りたいと話していた。まぁ本人達がやる気ならやらせてみてもいいとは思うが、アーサーがリーダーで大丈夫か?



「なるほど、()()うさぎ団か……なら任せて大丈夫そうだな」



 それは内情を知らない奴の発言の気がするぞ、クロス。



「あと他のパーティで、希望者はいないか? ……いないな。ならそうだな……【トライアッド】はいるかー?」

「ぶっ!?」



 思わず変な声が出た。クロスが一瞬反応して、こっちを見た気がするが、すぐに周りをキョロキョロする振りをした。


 まさかこんなところで名前を出されてしまうとは……まずいな。



「はーい!」

「いるぜ?」



 しかも呼ばれたサクヤとジョーは、前に出てきていた。二人がクロスやアーサー達と自己紹介し合っている。



「サクヤとジョーか、よろしくな。……ところで、トライアッドって言うからには三人組じゃないのか?」



 いかん、まずいな!? 俺は慌てて少し離れた位置に移動して、サクヤにチャットを飛ばした。それに気づいたサクヤが皆に断りを入れている。



『おーい、サクヤ!』

『いたんだ、カラス。呼ばれてるよ?』

『こんな大勢の前に出れる訳ないだろ!? なんとか誤魔化してくれ!』

『えー……? しょうがないなぁ、カラスは照れ屋さんなんだから』

『いや、そういう問題じゃないから』

『わかった、うまく誤魔化しとくよ』



 ばれないように小声でサクヤとのやり取りを終える。あとはサクヤに任せるしかない……!



「えーっと、もう一人は今日はログインしてないんだよね」

「ん? いやあいつなら……グハッ!?」



 余計なことを言おうとしたジョーに、サクヤが素早く足を踏んで黙らせていた。急に黙ったことを、クロスが怪訝そうに見ている。



「お、おい、どうした?」

「ぐおおおぉぉぉ……い、いや、そうだな、今日はいなかったな」



 一瞬睨んだというか目配せしたサクヤを見て、ジョーはなんとなく察したらしい。



「? なんだかよくわからないが……とりあえずこの三パーティが指揮を取ることにしよう」



 クロスは違和感は持ったようだったが、特に気にせずにやり過ごしたようだった。助かったな。



「じゃあ前線で活動する部隊と、後方で魔法を使う部隊、あと支援系の三つに分かれてくれ」



 完全に職業できっちり分けるのではなく、あくまで自主的に分けるらしい。だからある程度はごちゃごちゃと色んな職業が混ざっている。


 さて、俺はというと、班分けのどさくさに紛れて一旦この場を離れていた。あのまま班に組み込まれても良かったが、それはそれで正体を隠したままになるので、大した働きはできないからだ。



「もうそろそろかな……『潜伏』」



 ということで俺は、一人北門からまっすぐ北上し、街道の近くまでやってきていた。果たしてどのくらいの数のモンスターがいるのか、調べたかったからだ。気配を消して、こっそり近づく。



「って、なんちゅう数だこれ……」



 そこにいたのは恐るべき数の大群だった。以前街道で見た時に蠢いていた猫系モンスターと犬系モンスター。それが大群となって、一直線に街へと向かってくる。その数は軽く二百は超えるだろう。一応メニューでカウントダウンを確認したが、やはりこの歩くスピードなら三十分後……今はもう二十分後には到着すると思われる。



「こりゃー相当きついな……ん?」



 そこで妙な物を見つけた。群衆の最後尾辺りに、妙な灰色の影が見えたのだ。ここからだと遠すぎてよく見えないが……何か大きな物体のようだった。もう少し近づいてみるか。


 街道にまばらに生えている低い木に飛び移りながら、こっそり移動していく。潜伏の効果が切れてしまう前に急いで移動しないと。



「んんん……げっ!?」



 巨大な灰色の何かが動いていると思ったら、それは()()だった。つい最近、山の頂上で見かけたばかりの石像。巨大な猫と犬を象ったものだ。それを最後尾にいる数体の猫と犬が、神輿のような物に載せて運んでいる。



「こ、これはまずいな……!?」



 まさか、あれを街まで運んでいくつもりか……!? あの封印が解かれたら、非常に厄介だな……本当にまずい。



「とにかくこのことを、本隊に伝えないと!」



 俺が木の上からチャットを飛ばそうとしたその時だった。



「グルルルル……」

「!?」



 足元で犬の唸り声が聞こえた気がした。反射的に下を向く。そこには何体かのフレイムハウンドが木を取り囲み、こちらを見上げていた。


 しまった、潜伏が切れたか……! だが、木の上にいるのにどうしてバレて……まさか、木が低いせいか? 山の木よりも低いせいで、モンスター達の感知範囲に引っ掛かってしまったのか……!?



「いかん、これは逃げないと……!」



 下にいるフレイムハウンドは見上げたまま口を大きく開き、火の玉を口の中にチャージしていた。今にも発射可能な体勢だ。


 俺は慌てて、木から飛び出した。間一髪、背中の辺りを何かが通り過ぎた感触がした。そのまま前方に一回転しながら着地する。振り返ると、俺を発見した無数のモンスターがこちらに向かってこようとしていた。



「『縮地』!」



 俺は一旦縮地で距離を取り、体勢を立て直す。正直言って迎え撃つ選択肢はないのだが……せっかく見つかったんだから、一つ試したいことがある。



「この鈴……効果あるのか?」



 クーシーから手に入れた鈴を使ってみるチャンスだと思った。早速取り出して紐を持ち、振り回して鳴らしてみた。カラカラと澄んだ音が響き渡る。


 それを聞いた途端、猫系のモンスターが怯んだ。嫌そうに首を振り、その場で動きが止まる。



「やはり、猫には効果があるのか……」



 だがフレイムハウンドやチャージドッグのような犬系モンスターは怯まずに向かってくる。俺は考える間もなく急いで逆方向、街の方に向かって逃走を始めた。流石に受けきれる量を超えている。


 仕方ない。このまま安全なところまで戻ってから、改めて連絡するか。

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