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情報屋さんは駆け回る  作者: 仮面色
第2章 プレイヤーズ
20/25

17 情報屋さんと交渉

 さて、ここしばらく俺は情報集めと、売買に勤しんでいた。それ自体は満足しているのだが、思わぬ問題点があった。



「俺自身があんまり強くなってない……」



 情報屋としては、あんまり強さは必要ない。だが、それにも限界というか最低限の基準はある。



「このまま弱いままだと支障が出るな……」



 例えば情報収集の為に、他のパーティに入れてもらう事があるかもしれない。アーサー達と共闘した時のように。そんな時、弱いから拒否されるなんてことがあったら致命的だ。戦闘が本分ではなくても、ある程度は必要になってくる。スキルを強化する必要もあるし。



「という訳で、今日は一日修行だ!」



 一日くらいなら、まだ余裕があるはず。そう思って俺は敢えて西方山へと来ていた。リスクは高いが、より強い敵を倒した方がレベルの上昇も速いと思うし。


 入口から入ると、早速モンスターが出現する。俺は右手に速雨を構えて、左手は魔法を撃てるように備えていた。




◆◆◆




「ふう……休憩するか」



 一時間後、俺のレベルは25まで上昇していた。ボスモンスターでもない、ただのモンスター相手なのに命懸けだった。まぁ無理もない。俺は速度ばかり上げているので、回避は割りと余裕だ。だが、耐久は障子紙なみなので、一撃食らっただけでもダメージが半端じゃない。だが、必死になって戦い続けたおかげで、だいぶ収穫を得られた。スキルもいくつか得られた。


 そして、休憩の為に安全そうな木の上に登ったその時だった。



『スキル【空歩】を入手しました!』



 俺はメニュー画面を開き、戦闘中に得られたスキルも合わせて確認する。



─────

【空歩】

空中に透明な足場を作り、乗ることができる。

*再発動するには地面に足をつける必要がある。


─────

【隠れ身の術】

十秒間体が透明となり、モンスター及びプレイヤーに完全に見えなくなる。


─────

【変わり身の術】

HPが九割以上から一度にゼロになった場合、HP一割で復活する。

*再発動には十分以上経過の必要がある。


─────



 どれもなかなか面白そうなスキルだった。


 【空歩】は空中移動には便利そうだ。跳躍で届かない距離でも移動できる。最初にガードキャットにやられた時、これがあればな。逃げ切れたかもしれないのに。


 【隠れ身の術】は【潜伏】の進化版に近いな。潜伏は半透明になるだけなのでプレイヤーに見えるけど、こっちはプレイヤーにも見えなくなる。だが時間が十秒とかなり短いので、注意が必要だな。


 【変わり身の術】……これが一番役に立ちそう。もし、うっかりミスしても一撃だけなら大丈夫という、心の平穏も保てるし。俺は某人気ゲームの、逃げ足速いけど経験値をたんまり持ってるモンスターに近い存在だからなぁ……。


 なんにせよ、レベルも上がった。スキルも増えた。ここからは情報屋プレイに戻ろうじゃないか。



「おっと、その前にやることがあった」




◆◆◆




 俺は街に戻ることなく、西方山から東方山へと移動していた。木から木へと飛び移り、本当に忍者のような移動を行う。新しく手に入れた【空歩】はかなり使い勝手がいい。届きそうにない枝も届くようになった。


 もちろん今移動してるのは、頂上を目指す為だ。あっという間に広場まで到着する。もう何度も移動してるだけあって、手慣れたもんだ。



「早速、実験を開始しようかな……『火弾』!」



 俺は周りに人がいないことを確認すると、いきなり魔法を石像へと撃ち込んだ。当たった部分がひび割れる。そこにさらに連続して魔法を撃ち込んでいく。あっという間に石像は砕けてケットシーが現れた。



「ニャ~ア~……」

「「「「ニャー!!」」」」



 決まった流れのようにガードキャットが出現し、立ち塞がる。



「だが、同じ手は食わないさ」



 今回やってきた目的、それは【妖精の香木】がどの程度効くのか、確かめる事だ。アイテムボックスから取り出す。長さは三十センチくらいで太めの茶色い木の棒だ。一見するとただの木にしか見えないが、ほんのりといい香りがする……気がする。


 しげしげと妖精の香木を眺めていると、すぐさまガードキャットが隊列を組み、槍を突き出しながら向かってくる。だが俺もただ、突っ立ってる訳じゃない。



「『忍法・隠れ身の術』」



 覚えたばかりのスキルを使って隠れる。感覚的には【潜伏】を使ってるのと同じような感覚だ。俺を見失ったガードキャットはやはりおろおろと戸惑っている。その隙に槍と槍の間をすり抜けて、ガードキャットに接近する。そして香木を近づけてみた。



「……? 反応が無いな……? おっと『潜伏』」



 顔に近づけてみたものの、ガードキャットには特に効果がなかった。やはりガードキャットは妖精ではなく、あくまでもただの猫という扱いなのだろうか。あっという間に隠れ身が解除されそうになったので、今度は潜伏で隠れる。


 ガードキャットの軍団を避けながら、ケットシーへと近づく。いよいよ本命の実験だな。


 まずは確認しとかないといけないのは、ケットシーには攻撃が通じないことだ。俺はケットシーの後ろに回り込むと刀で斬りつけた。だが予想通りピタリと止まってしまう。


 そして潜伏が解除されて、ガードキャットに気づかれる。攻撃が来る前に回避行動へと移る。



「『ハイジャンプ』……からの『空歩』!」



 ハイジャンプで槍をかわしつつ、空歩で更に高く上昇する。一歩分の足場があれば、上昇するには充分だ。



「おっとと……お?」



 俺はケットシーの頭の上、王冠の上に着地していた。どうやら王冠は頭に固定されてるらしく、しがみついてもずり落ちることはなかった。ガードキャットは槍が届かなくなり、周辺を取り囲んでニャーニャー言ってる。



「うわー……高いな」



 普段飛び回っているものの、改めて認識すると相当な高さだとわかる。だが不思議と高くて怖いとは思わなかった。むしろ絶好のチャンスだ。


 香木を取り出して、王冠の上からケットシーの顔面に覆い被さるように身を乗り出す。そのまま手を伸ばして香木を近づけると、ケットシーが嗅ぎ出した。



「ニャ? ニャ~? ニャニャニャ~??」

「うわわわっ!?」



 香りを嗅ぎ出した途端にケットシーの首から上がみるみるうちに赤くなっていく。そして様子がおかしくなっていった。ふらふらと頭を揺らし始める。振動に耐えきれなくなって、俺は冠の上から飛び出した。跳躍と空歩のコンボで近くの木の上に降り立つ。



「これが香木の効果なのか……」



 ケットシーは動きが全体的にふらふらし始め、まるで酔っ払いのようだった。ガードキャットはそれを見ておろおろしている。



「『水弾』!」



 俺は早速検証の為に、ケットシーに魔法を狙い撃った。すると今までと違い、ダメージがあっさりと通っていた。やはりそうか。香木を使うことでケットシーは眠りから覚め、無敵状態が解除される。つまり普通のモンスターと同じように攻撃が通るようになるわけだ。



「おお、これは使えるな……」



 香木の効果は確認することができた。これもまた交渉の材料として活用できるだろう。俺は酔っているケットシーを尻目に、そのまま静かに木から飛び出しその場を後にした。




◆◆◆




 さて、せっかく手に入れた情報を使って、一稼ぎしたいところだが……。そこで気付く。そういえば、現在のところトッププレイヤーって誰になるんだろう?



「考えてなかったが……戦闘系の情報を売るんなら、そういう人を探すべきかもしれない」



 何よりトッププレイヤーとコネがあるとか、いかにも裏の住人っぽい。例えるなら警察のお偉いさんと、麻薬の売人がこっそり裏で繋がっているかのような……。よし、そういうプレイヤーを探すことにしようか。


 そうと決まれば、善は急げだ。俺はいつもの一般人スタイルに着替えると、近くの建物の壁に寄りかかる。メニュー画面を開くと、掲示板を読み漁り始めた。



「ふーむ……。割りと掲示板も量が膨大になってきてるな……」



 全部読もうとしてたら、時間がいくらあっても足りなくなるだろう。ざっと流し読みしながら、強そうなプレイヤーの話を探していく。


 しばらく読み続けていたが、なかなか情報が無い。一旦切り上げようかと思ったところで……気になるコメントを見つけた。



「ん……? 『サバイバーズ、レベル30目前』……?」



 今現在、プレイヤーのレベルはおよそ20前後が平均くらいだろう。俺もそこそこ上げてはいるものの、今はレベル25だ。それなのにこの発言を見ると、レベルがもうすぐ30に到達すると書いてある。他の人のコメントから見ても、あんまりガセネタにも見えない。



「しかもこれ、サバイバーズってパーティ名だよな……」



 この記事からでは読み取れないが、パーティの一人だけが30に到達するならそういう言い方はしないだろう。最低でも二人以上いると考えるのが自然だ。そう考えると、かなり強いパーティだろう。


 よし、決めた。まずはこのパーティに接触するところから始めるとしようか。



「それでさ、探そうと思ったんだが掲示板には個人名とか全然載ってなくてさー」

「そりゃまぁ、個人情報を晒したら、通報対象になりかねないっすからねぇ」

「かといって、手がかりゼロだと街中うろついても無駄だしな」

「そうっすね……って! なんでここでさっきから愚痴ってるんすか!?」



 言った通り、掲示板から手がかりが得られなかった俺は、鍛冶場に来ていた。そしてキジトラを捕まえて愚痴をこぼしている。



「お前も相槌打ってくれてたじゃないか。……鍛冶師だけに相槌なんてな」

「別にうまいこと言えてないっすからね!? ……作業中なのに、あまりにも自然に話しかけてきたからつい返事しちゃったんすよ」



 キジトラはブツブツ文句を言ってはいたが、帰れとは言わなかった。俺はそれを、話を聞く気ぐらいはあるんだろうと解釈する。



「というか、その変装状態で聞き込みとかすれば良かったんじゃないっすか?」

「手当たり次第だと効率が悪いだろ。まずは場所に目星をつけるべきだ」

「それで鍛冶場(ウチ)に来たってことっすか……」



 戦闘系のパーティなら、武器を使わないはずはない。そして武器と言えば真っ先に浮かぶのは鍛冶だ。なので、ここなら噂が集まると踏んでやってきたという訳だ。ついでに愚痴ることもできて一石二鳥。



「うちは鍛冶場であって居酒屋じゃないんすから、愚痴はやめて欲しいんすけど……」

「まぁ、そう言うな。……お前居酒屋とか行くのか?」

「アタシ一応、リアルでは女子大生っすから。友達と行くこともあるっすよ」



 二十歳過ぎてたのか。雑談で意外な事実が明らかになったが、それは置いといて……。話を本題へと移す。



「で、結局『サバイバーズ』はここを出入りしてるのか?」

「……顧客情報を売るのはちょっと」

「なるほどな」



 わずかな沈黙の後、キジトラは苦い物を食べたような顔で、呟くように答えた。会話しながらも、ハンマーて叩く手は止めない。カーン、カーンとリズムよく金属がぶつかる音が響く。


 素直な奴だ。本当に知らないなら、不思議そうな顔で『知らない』と答えるのが一般的だ。そんな反応されたら出入りしてると答えてるのと同じだろうに。いや、あるいは『答えない』ことで、俺の疑問に『答える』つもりなのかもしれない。


 鍛冶場でキジトラと会話すること、一時間。本人は若干顔をしかめていたものの、追い出そうとはしなかった。もちろん俺の目的は、サバイバーズに接触することだ。会話しながらも周囲の観察は怠らない。


 だが、なかなかそれらしき人物は現れない。というか、勘で探し当てるしかない。掲示板には個人のプレイヤー名を見つけることができなかった。つまり周囲の反応で、おそらくそうだろうという人物に渡りをつけないといけない。なかなか面倒なミッションだった。


 今日はログインしてないかもしれないし、今日はそろそろ諦めて帰ろうか……。そう思った時だった。



「ん? なんか騒がしいな?」



 正確には騒がしいのとはちょっと違う。空気が変わったというか、雰囲気が違った。ひそひそと話すような声が聞こえてくる。辺りをゆっくり見ていると、一人の男が鍛冶場の入口から入ってくるところだった。


 その男は中肉中背くらいで、体格は標準的と言えるだろう。短い髪をツンツンと逆立てた、気の強そうな顔立ち。軽装備の動きやすそうな鎧姿に、腰の両側にはやや短めの剣を一本ずつ提げている。恐らく剣士系のジョブだろう。


 堂々とした歩き方から、なんとなくわかる。あの男、強いな。もしかして……。



「なぁキジトラ」

「知らないっす」

「まだ何も聞いて……」

「知らないっす」

「いや、だから……」

「知らないっす」

「……うん、わかった」



 俺は思わず振り返って聞こうとした。だがキジトラはさっきから俺と目を合わせようとしない。というか、彼の方に目を向けようとしてなかった。……態度があからさま過ぎるというか、わかりやす過ぎるな。


 俺はキジトラと話す振りをしながら、しばらく観察していた。どうやら彼は鍛冶師の一人と談笑しているようだった。数十分後、鍛冶場を後にして行った。



「よし、行くか」

「カラスさん」



 早速剣士の後を着けようと立ち上がったところで、キジトラに声をかけられた。つられてそっちを見ると、キジトラは俺を真っ直ぐに見上げていた。



「なんだ、キジトラ。というか、今は本名で呼ぶなって……」

「気をつけて下さいっす」

「何?」

「サバイバーズは今のところ、攻略最前線のパーティっすから」

「それは知ってるが……」

「目をつけられたりしたら、面倒なことになるかもしれないっすよ」

「わかってるって。忠告ありがとな」



 どうやら俺を心配してくれていたらしい。確かにどこの世界も偉い人や有名人に睨まれると、やっていくのは難しくなるだろう。だが俺だってその辺はわきまえてるさ。




◆◆◆




 鍛冶場を出て数分後。俺は剣士の後をつけながらさりげなく街中を歩いていた。尾行の時は怪しまれないように、距離を空けつつ自然体で行動しなければならない。さりげなく、というのがなかなか気を遣うところだ。


 幸いなことに街中はプレイヤーからNPCまで多くの人が行き交っている為、ばれる心配はなさそうだ。



「さて、とりあえず尾行はしたものの……」



 問題はどのタイミングで話を切り出すかだな。どこまで行くかは知らないが、ログアウトされても困る。どこか人気のない場所まで行ってくれると都合がいいんだが……最悪、日を改めないといけないかもな。



「ん?」



 タイミングを悩みながら歩いていると、彼は急に立ち止まった。つられて俺も立ち止まる。そして次の瞬間、ふらりと建物と建物の間、狭い路地に入って行った。これはチャンスだ。


 俺は慌てて装備を戦闘スタイルに着替えると、後を追いかける。彼は振り返ることなく、スタスタと路地を進んでいく。



「いったいどこに向かってるんだ……?」



 迷いなく進んでいるように見えるが、この先は確か一本隣の大通りに通じていたはずだ。通ったことはない道だが、位置関係から言って、おそらくそうなるはず。それとも、俺の知らない何かがあるのか?


 物陰に素早く隠れながら追っていたが、またしても彼は急に道の真ん中で立ち止まった。俺も合わせて立ち止まる。なんだ、何をしてる……? メニューでも操作してるのか?



「おい」

「……!?」



 しかし俺の予想に反して、彼は次の瞬間、思いもよらない行動に出た。いきなり振り返って喋ったのだ。俺は慌ててしゃがみ、その辺にあった木箱の陰に身を隠した。なんだ? 何が起きてる……!?



「隠れてないで、出てこいよ。いるんだろ?」



 木箱の向こうから声が飛んでくる。この言い方、まさか俺の尾行に気付いていたのか? だとしたらやはりただ者ではない。


 どうする……? このまましらを切って隠れておくか? いや、こっちに来て覗き込まれたらすぐにバレる。じゃあ隠れたままログアウトするか? 



「いや、だが……」



 聞こえないようにボソボソと呟く。これは接触の機会かもしれない。尾行がバレかけてピンチなのは変わりない。だがそれならそれで、ピンチの状況をチャンスに活かさないと。覚悟を決めるか。俺は一回深呼吸をすると、できるだけ怪しく()()()ようにゆらりと立ち上がった。


 剣士は腕を組みこちらを見ながらニヤリと笑った。



「よぉ、お前がカラスだろ?」

「よく気づいたな……」



 名前を知られている事自体は驚かない。多少知れ渡っているのは承知の上だ。問題は俺の尾行にどこで気づいたか、だ。



「まぁな。その辺はスキルのおかげだな」

「なるほど、そういうことか……」



 正直どういうことかは、よくわかってない。どのスキルを使えばそんなことができるのか、さっぱりだ。だが素直にそう言ってしまうと、話の主導権を握られてしまう可能性がある。ここは知ったかぶりしておこう。



「一応名乗っとくぜ。俺の名前はクロスだ」

「そうか、よろしくな……」



 クロスと名乗った男は、表面上はとても友好的に見える。だが、待ち伏せしていたということは、そうとは限らない。尾行に気付いていたとして、関わりたくなければ振り切ることもできたはず。俺は若干警戒レベルを上げた。



「で、俺に用があって尾行してたんだろ? 何の用なんだ?」

「ああ、情報を買わないかと思ってな……」



 早速本題に入る。不安は残るが、出会ってしまった以上は話を進めるしかない。俺は東方山にボスがいる、と言った感じで少しだけ話した。



「へぇ……。なるほどな……」

「どうだ、気にならないか……」

「ああ、是非話を聞きたいな」

「よし、では……」

「まぁ、待て。その前に俺一人じゃなくて、パーティ全員で話を聞きたいんだがな」



 考える。あんまり大勢の前に姿を現すのは微妙に気が進まない。だが、せっかくの商談チャンスだし……。



「お前一人に話すんじゃダメか……?」

「それだと俺が、仲間にもう一度話すことになって二度手間だろ」



 言われてみれば確かに効率が悪い気がする。



「わかった……」

「よし、契約成立だな。じゃあ早速だが、うちのメンバーと顔合わせしてくれるか?」



 予定は入ってなかったし、特に断る理由もない。俺は二つ返事で了承した。クロスはメンバーと連絡を取っているようだった。


 話がついたとのことなので、二人で連れ立って待ち合わせ場所まで歩いていく。街中を歩くので本当は変装したい気もあったが、流石にそれはできない。正体がクロスにばれてしまっては、意味がないからな。



「なぁなぁ、情報屋っていうからには、色々情報持ってるんだろ? いくつか教えてくれよ」

「もちろんだ……金は取るがな……」

「堅いこというなよー。俺とお前の仲だろー」

「さっき知り合ったばかりなんだが……!?」



 馴れ馴れしいというか、フレンドリーに接してくれるのはありがたい。だが、さりげなく雑談の中から情報を得ようとするのはやめて欲しい。油断も隙もない。というか情報収集は俺の専門だから。


 そんなこんなで、クロスの追及をかわしつつ歩いていくと待ち合わせ場所まで到着した。



「おう、みんな待たせたな!」

「リーダー遅いよ!」

「待ってたんだからねー」



 待ち合わせ場所の広場まで行くと、四人のプレイヤーが待っていた。どこかで見たような……。



「あれ、あなたは確か……」

「……この前の情報屋」

「まさか君らだったとはな……」

「ん? なんだお前ら、知り合いだったのか?」



 そこにいたのは、ケットシーを調査した時に共闘した女性パーティだった。



「いやー、びっくりだな! 先にボスと戦ってたなんてな。俺も呼んでくれればよかったのに!」

「リーダーが単独行動するからでしょ!」

「そーそー、ネネも連れてって欲しかったなー」



 クロスによって俺の存在を紹介される。以前情報屋だと名乗ってはいたが、名前は名乗らなかったからな。


 逆に四人の事も自己紹介を受けた。まず、しっかりした感じの『重騎士』がカオリ。クロス不在の際は仮のリーダーを務めているとか。確かにケットシーと戦った時も、皆を引っ張っているようだった。そして、弓を使っていた『狩人』がネネ。他のメンバーより一際背が低く、なんとなく言動からも子供っぽく感じる。



「この皆さんなら、勝てそうですね」

「……血が騒ぐ」



 おっとりした『司祭』がマリア。ふんわりとした笑顔で全員を見つめている。なんとなくうちの姉を連想させる気がするな。そして最後の一人。『魔導師』のトモシビ。若干不穏な発言をしていることからもなんとなくわかるが、変わり者らしい。


 なかなか個性的なメンバーが揃っているなと思う。それにしても、女性ばかりのパーティに男性一人とはなかなか珍しい気が……。



「クロス、このパーティは現実でも知り合いだったりするのか……?」

「ん? いやゲーム内で知り合ったぜ」

「そうなんです。初心者でよくわからなかった私に声をかけてくれて……」

「うんうん、ネネもそんな感じかなー」

「クロスさんは親切ですからね」

「……助かってる」



 ……あっ、これ、あれだ。なんとなく察した。四人がクロスについて語る表現が、仲間としての親愛だけでなくそれ以上の感情が含まれているだろうことを。べ、別にうらやましくなんかないんだからな。



「いやー、みんながついてきてくれて助かってるぜ。いい仲間を持ったな!」



 クロスの言葉に、四人が一瞬不満そうな表情を浮かべたのを見逃さなかった。こいつ、まさか気がついてないのか……!? いやいやラノベの主人公かよ。いつか刺されるんじゃなかろうか。



「ん、どうしたカラス、なんか苦々しい顔して?」

「爆発して死ね……」

「なんでだよ!?」




◆◆◆




「なるほどなるほど……」



 俺はケットシーの情報について説明していた。どうすれば出現するかから、攻撃のパターン。そして弱点まで。


 あの時、クロス以外のメンバーは一緒に戦っていたので、もしかしたらもう既に知ってる情報もあるかと不安に思っていたが……大半の情報については納得するような反応を見せていた。それは知ってる、とか途中で口を挟んでくることはなかったが、気を遣ってくれたかもしれないな。



「こんなところで、どうだ……?」

「なるほど、参考になったぜ。だが……もう少しなんかないのか?」



 俺は考える。もう少しか……。ここは追加で()()情報も出しておくか。



「ならとっておきの情報がある……少々高いがな……」

「おう! なんだそれは?」

「これだ……」

「……本当になんだこれ?」



 クロスだけじゃなく全員が首をひねっている。まぁ無理もない。俺の取り出した【妖精の香木】はただの木の棒にしか見えないからな。



「これを使えば、ケットシーの無敵状態を解除することができる……」

「なに!? ……これはレアアイテムなのか?」

「察しがいいな……」



 続けてレアクエストについて説明していく。俺は交流度を上げる独自ルートだったが、それについては省略。あんまり確証がないからな。



「なるほどなるほど……」

「どうだ……?」

「ああ、これだけあれば充分だ! 高値で買わせてもらおう!」

「毎度あり……」



 サバイバーズとの取引で、かなりの金額を儲けることができた。いやー、順調順調。

とりあえず、2章まではきちんと完結させます。

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