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情報屋さんは駆け回る  作者: 仮面色
第1章 ニューゲーム
2/25

01 情報屋さんと始まりの街

現在の目標は毎日PV10人以上。

 開発当初のVR機器はコードの繋がった大型のヘルメットだったそうだ。だが現在では、大幅に小型化・軽量化が進められ、ポケットにしまえるサイズのゴーグル型となっている。充電式ではあるもののワイヤレス化され、通信ケーブルはもちろん必要なくなっている。


 電源を入れて装着すれば、あっという間に個人専用の仮想空間へと意識が飛ぶ。俺の場合は書斎のような個室に設定してある。


 落ち着いた茶色の机に座ると、机全体がディスプレイとなり、選択画面が展開される。



『しばらくお待ち下さい……。コンテンツを選択して下さい』



 穏やかな女性のような機械音声が流れる。それに従ってプレイするゲームを選択する。今日届くように予約してあったが、問題なさそうだな。



『「ビリオン」が選択されました。ロード中です……ロードが完了しました』



 一昔前だったら、初めてのゲームはダウンロードに何分も時間がかかっていたそうだが、今では数秒で準備完了になる。


 音声と共に一瞬視界が真っ暗に切り替わる。そしてゆっくりと明るくなっていく。


 はっきり見えるようになる頃には、俺は小部屋の真ん中に立っていた。壁も床も白一色に塗られており、ぼんやり光っているように見える。



『ようこそ、ビリオンへ! プレイヤーの新規アカウントが確認されました』



 ゲームが開始されると、先ほどとは違った音声が流れる。機械的なのは変わらないが、若干幼いというか少女のような印象を受ける。


 ディスプレイには鏡のように俺自身の顔が映り、横には様々な項目が列記されている。



『アバターは現実世界での肉体を元にして自動生成されますが、顔の各パーツ、及び髪型は自由に設定することができます』



 残念ながら現在の技術では、実際の自分と極端に違うアバターを操作することはできないらしい。例えば俺が小学生サイズのアバターを使うとか、女性のアバターを使うとか。


 実際、開発段階でそういう案も出たらしいが、いざテストとなった時に様々な問題が生じたと話題になった。


 システム上のエラー発生だけでなく、現実の肉体と全く違うアバターを使用したプレイヤーが、テスト終了後に身体に違和感を感じて、しばらく立てなくなる事故が起きたらしい。短時間のテストだったから症状が軽くて済んだのだろうが、長時間使用すれば神経系に異常が出る可能性が高いとして、使用禁止扱いになった。


 そんな訳で、アバターは自分の肉体が基本となる。その代わり、顔のパーツはかなり自由に設定できる。その気になれば、筋肉ムキムキの人が顔は美少女に設定する、なんてのもできるが……俺はやりたくない。



「よし、こんなものか」



 数分後、なんとか顔の変更を終えた。といっても、もともとの自分の顔から変更した点はそれほどない。


 まず、わざと目付きを少し悪くして、目の下にはっきりわかるくらいの()()をつけた。やや強面の悪人風スタイルだ。


 あとは、後ろ髪を少し伸ばして首のところで結んだ。ちなみにテーマは、軽薄そうで胡散臭い若者だ。まぁ、これくらい変えておけば、身元バレすることもないだろう。



『プレイヤー名を入力して下さい』



 入力画面に切り替わった。ベータテストのように本名を使う気はない。無いとは思うが、福町の奴以外にバレないように気をつけねば。



『重複を確認中…………該当無しを確認。プレイヤー名は【カラス】で決定されました』



 名字の『黒』と名前の『飛』から連想してカラス。ひねりはないが、シンプルが一番だと思う。


 重複はどうやら問題なかったようだ。もし被ったら適当に数字でも追加するつもりだったが、無用な心配だった。



『初期のスキルを五つ選択して下さい』



 このゲームにおけるスキルとは、要するにキャラクターの持つ才能のことだ。スキルがあるかないかで行動に大きく違いが出る。そしてスキルはあくまで才能、実際に使用する技、技術は「アーツ」と呼ばれる。


 例えば【長剣】スキルを持っていれば、《斬り払い》や《直線突き》などのアーツが使えると言う訳だ。



「これとこれと……あとこれだな」



 事前に調べておいた中から、必要なスキルを選んでいく。


 俺が選んだのは【短剣】【加速】【跳躍】【鑑定】【解錠】の五つだ。


 【短剣】は文字通り短剣を使いこなすスキルだ。武器は、装備するだけならどんな職業でも可能だ。格闘家がハンマーだって装備できるし、弓兵が杖を使うことだってできる。だが実際に敵と戦っても、それだけでダメージを与えることはできない。スキルを持っていない武器では、攻撃してもノーダメージと判定される。


 【加速】は移動時のスピードに補正がかかるスキルだ。スタートダッシュが速くなるだけでなく、走れば走るほど徐々に速くなっていくらしい。どのくらいまでスピードが上がるのか、ベータ版ではわからなかったので要検証だな。


 【跳躍】は文字通りジャンプ力を上げるスキルだ。これは【加速】とのコンボを期待して取ることにした。走り幅跳びのように組み合わせれば、かなりの高さや距離まで跳べるかもしれない。


 【鑑定】はゲームでお馴染みの、物や人の状態を調べるスキルだ。これは割と重要なスキルで、運営の方でも最初に取得するのを推奨しているようだった。


 最後に【解錠】は、これもある意味盗賊の必須スキルだと言えるだろう。ダンジョン内には大抵宝箱が設置されているが、鍵がかかっている物もある。これがあれば自分で開けられるので、非常に便利だ。



『ジョブを選択して下さい』



 選んだスキルに基づいて、なれるジョブの一覧が表示される。流石に魔法系の職業は選択肢にないようだ…………魔法系スキル取ってないから当たり前か。


 一通り目を通してから、あらかじめ決めていたジョブを選択する。



『ジョブは【盗賊】でよろしいですか?』



 俺が選ぶのは【盗賊】だ。もちろん言葉通り盗みを働く職業ではなく、いわゆるファンタジー世界での盗賊だ。


 素早い動きを基本とし、斥候役だったり撹乱を行う役割。戦闘以外でも罠の解除や宝箱の解錠などを行う。戦闘も補助もこなせるので、育て方次第では何でも屋になり得る職業だ。


 バランスよくしようとすると、どれもこれも中途半端になりがちだが……そこは要注意だ。



『最後にステータスの設定をして下さい』



 メニュー画面からステータスを開く。ステータスは数字表記ではなく棒グラフ表記だった。なので正確な細かい数値はわからない。だが盗賊を選んだせいか、腕力や速度は他の数値よりやや高い。


 棒グラフを操作してステータスを調整する。と言っても、今回は最初から速度を徹底的に伸ばそうと考えていた。なので調整はさっさと終わった。


 あと、ついでにダメージを受けた時の痛みの設定もしておいた。現実と同じ痛みを受けていたらショック死する可能性もあるので、基本的には軽減されている。その上でどの程度の痛みを体感するか選べるシステムだ。


 俺はリアルな感覚を楽しみたい派なので、かなり体感を現実寄りにしてある。後はチュートリアルだ。



『最後にチュートリアルを行います。選択した職業に合わせて内容は変わります』



 いよいよ最後か。内容が違うというのは、戦闘職と生産職を分ける為の配慮じゃないかと俺は睨んでいる。



『初心者用アイテムセットを配布します。セットの中身は選んだ職業とスキルの内容に合わせて変化します』



 なるほど。職業毎に共通の装備をくれるのではなく、スキル内容もきちんと反映した上で装備が決まるのか。


 ポンッ、と目の前にサッカーボール大の茶色の皮袋が出現した。紐をほどくと、独りでに口が開いていく。



『【初心者のナイフ】【初心者のバンダナ】を入手しました!』



 画面を開いてアイテムを確認しておく。



─────

初心者のナイフ


簡単な作りのナイフ。初心者にも扱いやすい。

・腕力上昇


─────

初心者のバンダナ


特徴の無い普通のバンダナ。大量生産されたもの。

・速度上昇


─────



『準備ができたら、メニュー画面から開始を選択して下さい』



 メニューを操作して手早くナイフとバンダナを装備していく。バンダナは装飾扱いかと思ったが、どうやら頭部の装備になるらしい。


 ナイフはアンティークの諸刃のナイフだった。刃の長さは二十センチほどだ。右手に握った感触はしっかりと重さがあって、本物そっくりだ。今さらながら再現度の高さを感じる。


 バンダナは特に模様の無い、青い無地の布だった。メニューから装備を選択すると、一瞬で頭に巻かれるので楽で良かった。


 軽く身体を動かして、違和感がないことを確認する。



「よし、開始っと」

『チュートリアルを開始します。モンスターとの戦闘が発生します。勝敗に関係なく、戦闘後ゲーム開始となります』



 始まりの合図と同時に、四方を囲む白い壁が俺から遠ざかっていく。いや、部屋自体が徐々に広がっているのだろう。音もなく滑らかな動きだ。ある程度の大きさまで広がると、ピタリと停止した。目測だけど、だいたい体育館ぐらいの広さだな。


 少し離れたところの床に、黒い丸が現れた。マンホール程度の大きさまで広がった黒の円から、モンスターが現れる。



「グルルルルル……」



 現れたのは狼だった。それも半端な大きさじゃない。四足歩行の状態でも、俺の身長と同じくらいだ。もし立ち上がったら、三メートルに届くんじゃなかろうか。


 唸り声を上げて俺を威嚇してくるものの、その場から動く気配はない。睨んでくるだけだ。


 そして狼の頭上には、緑色の横棒のようなものが浮かんでいた。おそらくHPを示すゲージだろう。



「おっと、せっかくだから……『鑑定』」



 試しに【鑑定】のアーツを使ってみる。狼のゲージのさらに上に文章が浮いているように見える。



─────

ウルフ


巨大化した狼の魔物。毛皮に覆われている為、打撃に強い。

斬撃または火が弱点。


─────



「これは丁度良かったな」



 火魔法は使えないが、斬撃が効くなら好都合だ。ナイフの攻撃が効くはずだ。……もしかして、このチュートリアルも選んだスキルによって、出てくるモンスターが違うのか?


 少し距離を取りつつ、ゆっくりと狼の周りを歩く。狼は棒立ちのままではなく、常に俺の方を向くように、その場で回転していた。



「一個ずつ試してみるか……」



 攻撃を仕掛ける前に、もう少しスキルの確認をした方がよさそうだ。【鑑定】は使ったし、【解錠】は使っても意味ないし……やはり【加速】と【跳躍】に慣れておくか。




◆◆◆◆◆




「ふむ、だいたい分かってきたな」



 二十分程練習に使ったが、スキルの仕様について色々と分かった。


 まず、アーツ発動の際は必ず声に出す必要があること。これが第一の条件だ。まぁ思っただけで使えるなら便利だろうけど、そこまで万能ではないか。それだと複数のスキルを同時に思い浮かべた場合の処理とか、面倒なシステムになりそうだし。


 次に、その各スキルに必要な体勢を取っていること。これが第二の条件だ。例えば床に座ったり寝転んだりしたまま【加速】を使ってみたが、何も起こらなかった。


 結構動き回っていたが、身体の方は全然疲れてない。VRならではだが、なんとなく不思議な感覚だ。



「そろそろ実戦といくか」



 改めてウルフの方へ向き直る。ちなみに俺が練習している間、狼はずっと臨戦体勢のままだった。特に変化はないはずだが、心無しか寂しそうにしている気がする。



「『加速』」



 小走りになりながらアーツで加速していく。周りの景色が後ろに流れるように消える。感覚的には自転車を全力を漕いでいるくらいの速さか。そのままウルフに向かって突っ込む。



「『スラッシュ』!」



 ぶつかる寸前で進行方向をわずかにずらして、ウルフの横を通り過ぎる。そしてすれ違いざま、横薙ぎに斬りつけた。



「ウォォォォン……!」



 ウルフが声を上げた。声を背中に受けながら、急停止しようと足に力を込める。そのまま片足でくるりと回って振り向き、ナイフを構えた。



「ガルルルァァ!!」

「!?……『ハイジャンプ』!」



 しかし俺の見通しは甘かったようだ。振り向いた時には既に、ウルフは俺から一メートル程の位置まで距離を詰めていた。


 とっさに【跳躍】スキルで跳び上がる。目測で三メートル程まで身体が浮かび上がった。ウルフは無言で俺を見上げていた。しかし次の瞬間、ウルフは俯いて体を丸め────いや、違う。あれは、()()()()だ。



「────まずい!」



 その体勢のまま一拍置くと、ウルフは爆発的な勢いで思い切り跳躍してきた。一直線にこちらに向かって飛んでくる。対して俺は既に勢いを失い、落下の真っ最中だ。ウルフは大きな口を開き、迫ってくる。


 まずいまずい、どうする……!?


 空中では加速しても空振りだし、跳躍しようにも足場が無い。防御したいところだが盾も無い。というか武器はナイフ一本だけだ。回避は……厳しいだろうな。体をひねっても狙いがわずかにずれるくらいだし。



「待てよ……一つ思いついた」



 あまりやりたくないが……、対処は他に思いつかない。俺は意を決して、左腕を前に突き出した。そのまま吸い込まれるようにウルフの口の中に突っ込む。そして思いっきりガブリと噛まれた。



「ぐあぁ! 痛ってぇな、このヤロー!!」



 つい叫んでしまったが、実際にはそこまで痛くない。叫んだのは単に気分の問題だ。流石にVRで、痛みを完璧に再現なんかしたら、とんでもないことになるからな。


 俺は噛まれたまま、ウルフと一緒に落ちていく。腕に力を入れてみたが、びくともしない。チクチクとした痛みはずっと続いているから、恐らく継続ダメージが入っていると思う。


 そして落ちながら、ウルフの眉間に思いっきりナイフをぶっ刺した。衝撃で口を開けたので、さっと左腕を抜いた。


 ウルフは頭を振ってナイフを抜き取ろうとしていたが、しっかり根元まで刺したナイフは全く外れなかった。じわじわウルフのHPが減っていくのが見える。


 俺はそのまま抱きつくような格好で落ちてゆき────ウルフをクッションにして着地に成功した。そして背中から落ちたウルフはその衝撃で一気にHPがゼロとなり消滅した。



『チュートリアルを終了します。戦闘の報酬が支払われます』

『【10万G】【下級ポーション】10個を入手しました!』



─────

下級ポーション


最大HPの30%を回復


─────



「これは得したな……」


 金の単位は(ゴールド)らしい。下級ポーションも一緒に手に入れたので、買わなくて済む。


 負けた場合はどうなるか知らないが、少なくともこれは勝ったからこそ、手に入ったのだろう。頑張った甲斐があったというものだ。


 一応、これまでのステータスを確認する。


─────

カラス 盗賊 LV1


スキル

【短剣】【加速】【跳躍】【鑑定】【解錠】


装備

頭部:初心者のバンダナ

右腕:初心者のナイフ

左腕:

胴体:

脚部:

装飾:


─────


『お疲れ様でした。それではゲームを開始します。ようこそビリオンの世界へ』



 白い光に包まれたと思ったら、周囲の景色が一変していた。さて、ここからがいよいよ本番だな。


 目の前に広がる、中世ヨーロッパのような石造りの町並み。まさに、ゲームの中に来たんだと実感させられる。どんなゲームでも、この始まりの瞬間はわくわくして仕方ない。


 そんな街中の中央広場に俺は立っていた。周囲を知覚したところで、眼前にメニュー画面が開いた。そのまま、説明が流れる。



『ビリオンの世界へようこそ! この世界には決められた物語は存在しません。何をするのも自由です! 自分だけの楽しみ方を見つけましょう!』

『初期スタート地点は【始まりの街シラハナ】です』



 読み終えたところで画面を閉じる。


 ここはシラハナと言うのか。俺は納得していた。なぜなら俺が立っていたのは大きな広場の中心、石でできた大きな花の像の隣だったからだ。


 ベータテストのスタート地点は名前も【はじまりの街】だけでもっと小さな街だったから、多少変更されているようだ。


 辺りには大勢プレイヤー達がたむろしていた。服装はみんな同じ簡素なもので、違いといえば、杖を持っていたり、剣を背負っていたりするくらいだ。行動も、楽しそうに談笑する者、景色に感動している者、キョロキョロ辺り見回す者と様々だ。


 さて、俺もゲームを進めるとしようかな。


 右も左もさっぱりわからないが、ひとまず広場の外に向かって歩きだした。




◆◆◆



「そう、森の周辺に薬草が生えてるのよ」

「へぇー」

「この街は昔から、魔法の研究が盛んでよ」

「ふむふむ」

「あっちの一番でっかい建物は、図書館なんだよ!」

「なるほど……」



 俺はMMORPGで遊ぶ際に、一つ決めていることがある。それは必ず極端に偏ったステータスを組むことだ。徹底的に何かに特化させて遊ぶ。


 もちろん全てを最高レベルまで上げられれば理想的だろうが、そんなことしてたら莫大な時間がかかる。だから何か一つだけ極めることで、他の人がやってないことを実現させる。自分だけの楽しみ方を見つけましょう、と言っていたがそういう意味では俺は既に見つけている。


 そして今回やろうと考えているプレイスタイル…………それは情報屋スタイルだ。


 主人公なんかに、重要な情報を売ったり買ったりするような怪しげで謎の多い存在。そんなクールでカッコいいポジションをぜひやってみたい……!


 現代は、ゲームの攻略情報なんて見つかり次第、あっという間に掲示板に書き込まれ、拡散してしまう時代。だからこそ独占できるような重要情報をいち早くゲットして売買できる。俺はそう睨んでいる。


 情報屋になる。その為に必要なのはまず…………情報を仕入れること、つまり聞き込みだ。そう思った俺は、さっきから街中を歩き回り見つけたNPCに片っ端から話しかけていた。


 ちなみにNPCとプレイヤーの見分け方は、頭上に表示されている三角形のアイコンの色で判断できる。青色ならプレイヤー、緑色ならNPCだ。



「やっぱりRPGの基本は情報収集だよな。それにしても……」



 NPC達と会話していて感じたのは、会話が非常にスムーズなことだ。ほとんどのNPCに学習機能のついたAIが搭載されているというのは、どうやら嘘じゃなさそうだ。会話だけならプレイヤーと区別がつかない。


 メニュー画面をあれこれ探っていたら、メモ機能を見つけた。住民達から聞き込みして得た情報を片っ端から打ち込む。NPC……住民の外見から特徴、名前や年齢までわかった事はなんでも細かくだ。どんな情報がどこで役に立つかわからないからな。


 その中で住民達の共通認識というか、皆が知ってることをまとめてみた。


 ここは地理的には大陸の南端、半島のような場所であること。この街の南側に【大森林】と呼ばれる巨大な半島が広がっていることなどだ。


 ここまで情報を集めたところで、変化が起きた。マップの表示が変わったのだ。新たに大森林が追加されていた。大きさで言えば、シラハナの五倍はありそうだ。ここが最初の探索場所になるのか。


 このゲームにはストーリーが存在しない。当然、メインクエストみたいな必ずやるべき行動もない。自由に遊べるのは素晴らしいが、最初は何をすればいいのかわからないとも言える。



「街の外の情報は、今はこんなもんか。後は街中だが……」



 街中の情報も一通り確認した。商店、宿屋、教会、図書館など、必要そうな建物の位置や目印なんかも、聞き込みで教えてもらった。ありがたいことに、建物の配置などの情報は手に入れた時点で自動的にマップに書き込まれるらしい。これで迷うことなく街中を歩ける。



「しかし、本当にすごいよな……。適当に振った雑談も通じるんだから……」



 中央広場から出て、通り道にいる住民は逃さず話しかけてきた。その結果、気がついたら街の一番端、外に出る大門までたどり着いていたのだが……。



「聞き込みはこのくらいにして、次は……外に出る為の準備だな」



 むしろ最初に準備に行くんじゃないか、というツッコミは受け付けない。




◆◆◆




「おお……」



 俺は聞き込みした情報を元に、薬屋までたどり着いていた。イメージでは裏路地の奥にひっそり建つ、小さくて怪しげな家で老人が一人でやっている感じだった。しかし、実際は大通りのかなり大きな建物で、多分コンビニよりもでかい。


 中に入ってみると、いくつも並んだ棚に薬品やアイテムらしきものがずらりと置いてある。一番奥のカウンターに店員らしき人が座っていた。ドラッグストアを中世風のインテリアにしたらこんな感じじゃないか、と思わせる内装だった。


 俺は一通りぐるっと店内を見回してから、店員さんに話しかけた。



「どうも、こんにちは」

「いらっしゃいませ! 何かお探しですか?」



 店員さんは二十代くらいの若いお姉さんだった。長い茶髪を一本三つ編みにまとめ、穏やかな笑顔を浮かべている。



「えーっと、おすすめとかありますか?」



 お姉さんは一瞬きょとんとして眼を瞬いていたが、すぐに笑顔に戻って返事を返してきた。



「おすすめですか……お客さんは【来訪者】さんですか?」

「ん?」



 新しい単語が出てきた。詳しく話を聞いてみると、来訪者とはプレイヤーのことを指しているらしい 。どこからかやって来て、またどこかに去っていく優れた能力の持ち主だとか。



「そうですね……来訪者さん達はみんな、大森林の探索に行かれると思いますので、回復用のポーションを沢山持っておくのがおすすめですね」

「大森林は、やっぱり強いモンスターが多いんですか?」



 まだチュートリアルで戦闘したきりだし、モンスターがどのくらいの強さなのか知りたいところだ。



「森に入ってすぐのところだったらあんまり強いモンスターはいないんですけど、奥に行くほどかなり強いモンスターがいるらしいですよ」

「そうですか……何か便利なアイテムとか無いですかね?」



 軽い気持ちで聞いてみた。相手は商売人だし、戦闘に関しては素人だろうし、「よくわからない」と返されても不思議はない。しかし予想に反して答えが返ってきた。



「それでしたら、これなんかいかがですか?」

ポイントも入れて頂けたら嬉しいです。

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[気になる点] ベータテスターという設定なはずなのに、チュートリアル時点での物言いや描写が完全に初プレイ…… 少なくともチュートリアルの流れとか、序盤の敵の情報とか、アーツの基本的な仕様とか、その辺…
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