16 情報屋さんと魔法石
「いやー、楽しかったね!」
「俺も約束が果たせてよかったわ」
ふもとで待っていた二人に落ち合うと、早速ギルドまで納品に行き、クエストを終わらせた。報酬も山分けして、一息ついたところだ。
ちなみに俺が暴れたせいとはいえ、派手に目立つのを避ける為、相変わらず人気のない路地で話していた。
「もうちょっと遊びたいところなんだけど……」
「今日のところは落ちるわ」
「そうか……。じゃあまた明日、学校でな」
満足そうな二人がログアウトするのを見届けると、また一人になった。装備を街中モードに切り替えて、ステータスには【偽装】を施しておく。
「さて、まずは依頼の品を納品に行くか」
◆◆◆
「確かこの辺のはずだが……」
依頼書に書かれた地図とマップ機能を組み合わせながら、依頼者の居場所を探して行く。かなり複雑というか入り組んだ場所にあるようだ。さっきから路地裏を右に左に曲がってグルグル回ってるように錯覚してきた。
「と、ここか」
ようやく見つけた場所は家と呼ぶにはかなり小さい、古めかしい小屋だった。ノックするも返事がない。ドアノブに触ると、扉は開きそうだった。
「ごめんくださーい……」
悪いとは思ったが、鍵がかかってないので心配になった。恐る恐る、ドアをそうっと開き中を覗いて見る。小屋の中を見回すが誰もいない。
「おかしいな……」
「キエエエエエッ!」
「うおおおおおっ!!??」
とか思ってると、目と鼻の先に何かが落ちてきた。思わずバックステップで飛び退いてしまう。混乱しながらも次の瞬間俺が見たのは、床に振り下ろされた剣の刃だった。
「曲者め! 成敗してくれる!」
「なんで!?」
扉の横から出てきたのはおじいさんだった。白髪に立派なひげを蓄えたいかつい感じの老人だ。服装は町人のシンプルなデザインだが、服の上からでも筋肉がついているのがわかる。
再び斬りかかってきたのをナイフで受け止める。そのままつばぜり合いになる。
「ぬおおおおぉぉぉ!!」
「ぐうぅぅぅぅ!?」
ヤバい。力では明らかに負けている。このまま押しきられるかもしれない。その前になんとかしなければ……!
「あ、あの! 依頼! 依頼で来た者です!」
「む?」
膝をつきながらもなんとか目的を伝えると、ピタリと剣が止まった。互いに見つめあったまま、数秒が過ぎる。
「なんだ、そうであったか。これはすまんな」
「ハァ……ハァ……わかって頂けて何よりです……」
「話を聞こう。中へ入るがいい」
剣を腰の鞘に納めると、そのまま小屋の中に入っていった。全く……なぜ納品に来て死にかけないといけないのか……。
「で、依頼の品は?」
小屋の中に入ると、一応椅子を勧めてくれた。早速というか、すぐに本題へと入る。
「こちらになります」
俺はボムハウンドの牙をアイテムボックスから取り出してまとめて差し出した。
「おお、これじゃこれじゃ! いやー先ほどはすまんかった。てっきり賊かと思っての」
「はぁ……」
どんな勘違いだ。俺じゃなかったら死んでたかもしれないぞ。
「それで報酬なんじゃが……」
「確か応相談と書いてましたが……」
「うむ、この小屋にあるものから何か一つ選ぶとよい。その道具を渡そう」
言われて気付いた。壁の棚には色々とよくわからないものがずらりと並べられていた。黒くて四角い塊、毒々しい紫色のビンや大きな鳥の羽根のようなものまで。どれがいいのかわからない。
「どれどれ……」
見た目ではわからないので、俺は【識別】を使うことにした。こういう時、スキルがあると便利で助かる。
「んー? 【帰還の羽根】に【秘伝の劇毒】だと……!?」
驚くべきことに、そこにあったのは今までに見たことない効果のアイテムばかりだった。『一瞬で街に帰れる』とか、『百パーセント相手を毒状態にする』とか。まさにお宝だ。
「…………これだ!」
正直どれも目移りしてしまうが、その中でもピンときた物があった。それがこの【妖精の香木】だった。
─────
妖精の香木
妖精族に属するモンスターを酩酊状態にする
─────
「あの、すみません! ケットシーって知ってますか!?」
俺はそれを見つけた瞬間、おじいさんに質問していた。以前本で読んだ事があった。確かケットシーとは猫の妖精の一種だと。
「ケットシー? ああ、猫王のことか?」
「それです!」
どうやら知ってるらしい。これは好都合だ。
「あれは何十年も前に封印されたモンスターじゃからな……今は山の奥に封印があるというが、そこまで立ち入る者は滅多におらん」
「それで、猫王は妖精なんですか?」
「そうじゃよ。猫達の一段階上の存在、妖精だからこそ他の猫を従えるのじゃ」
ということは、理屈の上ではケットシーにのみ効くアイテムということになる。これはいけるんじゃないか?
「是非これを下さい!」
その後、老人に手厚くお礼を言って、小屋を後にした。しかし、思わぬ収穫だった。ケットシー相手に試したい。だが他にも調べたいことは多々ある。
「これからどうするか……」
とりあえずできることから確かめていこうかな。まずは街の外側だ。
◆◆◆
「なんだ、ありゃ……」
気になっていた事、その一。次の街に行く方法についてだ。情報を集めるにしても、できれば流れには乗っておきたい。攻略の最前線にいたい訳じゃないが、情報が古いなんてことにはならないようにしたいな。
そんな訳で確かめにきたのだが……街の北側、山と山の間にある道を通ろうとしたが、不可能だった。そこにはモンスターの群れが待ち構えていたからだ。近くの木の上からこっそり観察する。
群れの中身は、無数の犬と猫だった。間違いない、東方山と西方山でそれぞれ戦ったモンスターが、何匹どころか百匹単位でうろうろしている。ほとんど密集しているレベルだ。
「そういえば、ギルドで聞いたな……、なんかモンスターが住み着いたって」
てっきり一匹だけと思っていたが、こういう意味だとは思わなかった。
道の両側は、崖が崩れたように大小様々な岩石が積み重なっており、とても登っていける高さではない。もちろん【跳躍】で飛び越えるのも難しそうだ。
どうするか……。一人で挑んでみるか? いやいや、とてもじゃないが突破できるとは思えない、圧倒的な物量だ。そこまで考えたところで、足音が聞こえてきた。
息を潜めて確認していると、現れたのはプレイヤーのパーティだった。ぞろぞろと仲間を引き連れて、まっすぐこちらに向かってくる。どうやら道の突破に挑むようだ。
だがこれは丁度いい。挑むというなら、ここで観察させてもらおうか。……先に挑まなくてよかった。
俺が枝の上に腰を落ち着けている間に、戦闘は始まっていた。それぞれ斬りかかったり、魔法を撃ち込んでいく。だが、それは全くの無意味だった。
いや、正確には無意味じゃない。ダメージは入っているし、きちんと倒せてもいる。だが、次から次へと襲ってきてキリがない。倒しても倒してもどこからか湧いてくる。
やがて一人、また一人とやられていき、抵抗も虚しくあっという間に全滅してしまった。
「これは……調査が必要かもしれないな」
大群レベルで住み着くモンスター。これを突破するには力任せでは無理だろう。何かからくりというか、抜け道があるはず。それを見つけないと次の街には進めないだろう。なら、俺が最初に見つけ出して情報を売ってやろうじゃないか。
◆◆◆
戦いを見届けた後、俺はすぐ街へ戻って来ていた。気になることその二を確認する為だ。その為に向かう先、それは鍛冶場だ。
「よう、キジトラいるか?」
「ありゃ、カラ……じゃないヤドカリさん、どうしたんすか?」
例によってログインしているのはわかってたので、とりあえず話をしにきた。
「話があるなら、メッセージでもよかったんすよ?」
「ちょっと長くなりそうだったからな、直接話そうと思ってな」
キジトラはずっとハンマーで素材を叩き続けていたが、俺の言葉にふと動きを止めた。
「いいっすよ。で、今日のテーマはなんすか?」
「ああ……。まず、生産業界では研究はどうなってる?」
生産関連の情報だったら、やっぱり生産職に聞くのが一番手っ取り早い。そう思ってキジトラに話を聞きにきた。
俺の質問を聞いたキジトラは一回辺りを見回すと、少し近づいて声を潜めた。
「正直、あんまり進んでないっすね……。鍛冶に限らないっすけど、現状手に入る材料での試作はほとんど試し尽くされてるっすから……行き詰まってるとも言えるっす」
「ふむ……魔法石に関しては?」
「あれはまだ、ほとんど出回ってないっすね。鍛冶だけじゃなく、他の生産職も欲しがってるんすけど……」
俺が気になっていたこと、その二。それは属性武器を使ってる人をほとんど見かけないことだ。シラハナだけじゃなく、この街にきてからもそうだ。観察した限り、アーサーもシロもウルルもサクヤもジョーもみんな、そんな素振りを見せなかったし、話題にも出なかった。
もしやと思い、推測の裏付けを取りにきた訳だが……どうやら当たってしまったようだ。その原因は魔法石の不足にあるようだ。
「まさか、ほとんどドロップしてないと……?」
「ええ、魔法石自体は知っていても、レアドロップだと認識されてるっす」
思ったよりも、情報というか検証は進んでないな。俺は、魔法石程度の情報ならすぐに広まると考えていた。だからこの情報で儲けるのは難しいと思い、諦めていたのだが……予想が甘かったらしい。
「なら、もし入手方法がわかったり、安定して供給できたりしたら……?」
「そりゃもう、一気に大儲けの可能性が出てくるっすよ」
これは……思わぬチャンスかもしれない。と、俺が考え込んでいるのを見て、急にキジトラが震え出した。
「ま、まさか……ヤドカリさん、知ってるんすか? 確実な入手方法を?」
「仮説の段階だけどな。手がかりはあるぞ」
本当はほぼ確証を持っているが、あえてぼかした言い方をしておく。相手が誰であっても、手札はそんな簡単に切るものじゃない。
「以前、大量に貰った時からもしかして……とは思ってたんすけど、偶然じゃなくて確実ってことすか?」
「うまくいけば、な」
「だ、大発見じゃないすか!」
「ば、ばか!? 声がでかい!」
慌ててキジトラの口を塞いだ。モガモガ言ってたが、少しそのまま押さえとくと、大人しくなった。
キジトラには、俺が情報を持ってるとか余計な事を言わないように、しっかり言い含めておいた。あいつは信頼できる奴だから多分大丈夫だろう。
「問題はこの情報をどうするかだが……」
果たして誰に売り付けるのが正解なのか。
生産職か? いやいや、入手方法がわかっても自分で取りに行くのは困難だろう。
じゃあ前衛職か? いや、そもそも魔法をぶつけるのが前提なんだから、魔法が使えないと魔法石は入手できない。
「ここは……魔法使いを探すべきだな」
◆◆◆
俺は斡旋所にやってきていた。プレイヤーが一番集まってくるのはここだと踏んだからだ。なので、一般人モードで行き交うプレイヤーを観察していた。
「違う……。あの人は……微妙だな。あっちは……ダメだ、弱い」
魔法使いらしき装備のプレイヤーを探しては、片っ端から鑑定をかけていく。しかし、今のところ条件に適しそうな「強い魔法使い」は見当たらない。
「参ったな……。もう夜遅いし、諦めるか……ん?」
もうそろそろログアウトしないと、明日寝坊しそうだ。今日のところは引き上げようか、そう思ったその時だった。
「いやー、参ったな! まさか猫があんなに出てくるとはな!」
「笑い事じゃないわよ……散々だったわ……」
「シロちゃん大丈夫?」
入ってきたのは例によって、アーサー達いつもの三人組だった。他のプレイヤー達もひそひそ噂している。
なんだ、あいつらか……いや待てよ? そういえばシロは魔法使いだったな。それだったら、あいつらに情報を売り付けるか……? でもあいつら、あんまり金持ってなさそうな気がするんだよな……。
「いや、そうか……! 何も一人にだけ売るとは限らないか」
まず誰かに情報を売る。すると情報を買った側はどうするか? お金を払って買った情報を、そんな簡単に他人に教えたりしないんじゃないか?
中には、攻略を進める為に無償で情報を広めようとする、奇特な人もいるだろう。だがその場合は、広まる前にできるだけ多くの相手に売ってしまえば、一儲けできるはず。……そうと決まれば、早速、接触するとしよう。
一旦出て、こっそり装備を変更する。そして改めて入った。案の定、三人はまだ中に留まっていた。
「よし、じゃあ今日はこの辺で解散に……」
「アーサー……」
「「「!?」」」
普通に声をかけたつもりだったが、三人とも思いっきり飛び上がって驚かれてしまった。なぜだ。
「びっくりしたぁ……! なんだ、カラスか。普通に声をかけろよ!?」
「別に普通だ……」
反論したものの、三人とも納得いってない様子。そんなに俺の声は驚くか? ……喋り方の問題かな。
「それより、話がある……」
「おう、なんだ?」
「人気のない場所で話そう……」
三人を連れて出る。誰かが聞いてるような場所で、堂々と話す訳にはいかないからな。そのまま裏路地まで連れ込んだ。
「で、今回は何の話なんだ?」
「魔法石の話だ……」
「ま、魔法石だと……!?」
流石に話は知ってたか。まぁ、いくら入手方法を知らなくても、戦ってたら一回位はドロップしててもおかしくないしな。
「ちょっと待ちなさい! 魔法石って、あのレアドロップでしょ!?」
「そうだ……。その入手方法についてだ……」
「ま、まさか見つけたの……!?」
三人とも滅茶苦茶動揺していた。いきなりそんな事言われたら当たり前か。だが、これで俺が凄腕だってことが、更に印象づけられるはず。そうすれば情報にも信頼性が増すというものだ。
「どうだ……? 情報を買わないか……?」
「おう、ぜひ……」
「買うわ! いくら!?」
意外なことに即座に食い付いたのは、シロだった。アーサーを押し退ける程の食い付きだ。まぁシロはしっかり者の参謀タイプだし、アーサーよりもお金の管理が得意そうだしな。どうでもいいが、この二人結婚したらいい夫婦になりそう。
「情報料は百万Gだ……」
「「「なっ!?」」」
前回情報を売った時以上の、強気な値段設定。もちろんここまで行くと高すぎると自分でも思う。だが、この情報はまさに戦闘職も生産職も巻き込んで、ゲームの流れを一歩進めるだろうと考えている。そう安くは売れない。
「流石にそれは……」
「この情報があれば、魔法石が取り放題だぞ……? 集めて売ればあっという間に損を取り返せる……」
「で、でも……」
予想通りの反応だ。すぐに断るではなく、かなり迷っている。高すぎるのは事実だが、貴重な情報なのも事実だからな。
「ちょっと相談させてくれ!」
三人は相談に入った。この前と同じだな。数分相談した後、三人揃って俺の方に向き直った。果たしてどんな結論を出すのか……。
「相談の結果、買わせて欲しいと言うことで決まった」
「よし、では……」
「しかし!」
「しかし……?」
早速取引に移ろうとしたところで、待ったがかかった。やっぱりすんなり決定とはいかないか。
「もう少し値段をなんとかならないか?」
「ふむ……まぁ知らない仲でもないしな……。大負けに負けて五十万でどうだ……?」
「おお!」
これでいい。クエストを受けていることや、回復アイテム、武器の新調などを考えると貯金はそう多くないはず。武器がドロップして得したものの、俺でさえ所持金は三十万程だ。
それを基準に考えると、他のプレイヤーが払えるのはその半分……一人十五万、よくて二十万ぐらいだと見込んでいた。三人合わせて五十万弱だ。きりがいいので五十万にした。
三人とも喜んで顔を見合わせていることから、どうやらこの計算で良かったらしい。本当はもっと払えたのかもしれないが。
だが、あんまり搾り取るのも良くない。あくまでお得な買い物だと思わせて、継続的な顧客になってもらわないとな。
「交渉成立だな……」
「ああ、頼む!」
お金をきっちり受け取ってから情報を伝える。魔法石を得るには、そのモンスターと同じ属性の魔法でダメージを与えなければならないことを丁寧に教えてやった。
「そうだったのか……!」
「盲点だったわね……。普通弱点の属性で攻撃するものだと思い込んでたわ」
「じゃ、じゃあシロちゃんの出番だね……」
三人とも疑うことなく、すんなり信用してくれていた。前回はあんなに警戒されたのに、えらい違いだ。やはりきちんと正確な情報を伝えたり、一緒にボスを討伐したりと、信用の積み重ねがここにきて効いてきた証拠だろう。
「ありがとな、カラス!」
「毎度あり……」
だからこそ油断はできない。「信用は積み重ねには時間がかかるが、失うのは一瞬」という言葉もある。情報屋として長くやってくには、気を引き締めないと。
懐がなかなか暖かくなったところで、次の行動に移ろう。 情報を他のプレイヤーにも売り付ける。しかし、問題は信用してもらえるかどうかだな……。あいつらと違って初対面の相手を納得させるのは、なかなか骨が折れそう。
「実際に魔法石を見せてやれば、納得するかな?」
現物を見せてやるのが一番手っ取り早いだろう。ただ、適当に集めるのでは面白くないな。第一、使いそうにない物を集めても売るくらいしかない。いやそれはそれで儲かるけど……。
「実用的な目的も欲しいな……うーん……」
首を捻って考える。落ち着け、俺。一から考え直してみよう。魔法石を集めるのは……属性武器を作る為だ。属性武器を作るのはなぜか? モンスターの弱点を突くためだ。つまり、今現在手こずりそうなモンスターがいれば、それを狙うのに必要ということになる。
「あっ、そういえば……」
◆◆◆
「『雷落とし』……!」
とどめの一撃が直撃したクリアケルピーが崩れ落ちていく。そしてそのまま、ゆっくりと消滅していった。
俺は一旦、シラハナまで戻っていた。そして大森林をサクサク進んで行き、現在【深奥の湖】まで来ていた。もし誰かがクリアケルピーを倒してくれてたら楽に中に入れたんだが、残念ながら上手くいかなかった。仕方ないので、再度挑むことになった。
一度倒してはいるので、パターンはわかっている。前よりはレベルもステータスも上がっているので、以前よりは楽に戦えた。まぁ、それでもやっぱりボスはボスだし、ソロで倒すのはそこそこきつかったが。
ドロップアイテムをテキパキ回収して、湖底の入口が開いたのを見届けると、まっすぐ中へと入っていく。
「おお。いたいた、っと」
ダンジョン内部に入ると、変わりなくクリアフィッシュの群れがうようよと空中を泳いでいた。早速、実験を始めよう。
「『水弾』」
水属性の魔法で群れのうちの一匹を狙い撃つ。勢いで吹き飛ぶものの、一撃では倒れない。一匹がダメージを受けたのを引き金に、周辺の数匹が反応して襲ってくる。
前回は面食らってしまったが、今回は心の準備はできている。戦闘の準備もな。
襲ってくるクリアフィッシュを、鳴神ではなく、速雨を使って斬っていく。遠くにいれば水弾で撃ち、近づいてくれば速雨で斬り飛ばす。その繰り返しだ。残念ながら、範囲攻撃はまだ覚えていないので、チマチマと削っていくしかない。
倒し始めてから一時間後、俺の手元には大量の水属性の魔法石が集まっていた。これだけあれば充分だろう。
今回、水属性の魔法石を大量に集めに来た理由。それは【西方山】攻略の為だった。思い返してみれば、あそこのダンジョンはどうにも火属性のモンスターがやたら多かった。つまり攻略を進めるのに、水属性の武器があれば圧倒的に有利だろう。水属性の攻撃ができるのが魔法使いだけでは、前衛が役立たずになってしまう。
「これだけあれば充分だろう。あとは……」
集めに集めて二十個以上は手に入れた。次はこれを使って儲けるとしよう。
◆◆◆
「ぜひ買わせてもらう!」
「毎度あり……」
走ってコクタンまで戻ってきた俺は、強そうな魔法使いを探して、情報を売り付けていた。最初は怪しんでいるプレイヤーがほとんどだったが、俺が魔法石の実物を見せると目の色を変えて食い付いてきた。
交渉が始まってからはトントン拍子で話はすすんだ。多少の値段交渉はあったものの、情報を買わないという選択をしたプレイヤーは一人もいなかった。中には魔法石そのものを買いたいと申し出た奴もいた。それはそれで高く売ってやった。
数時間ほど同じことを繰り返した結果、俺はかなりの金持ちになっていた。
「いやぁ、大儲けだな……」
儲かりはしたものの、まだまだ魔法石は余っている。あとは売ってしまうか? いやそれも悪くないが、他にも打てる手はある。
「……それで、あたしの所に来たってことっすか?」
「簡単に言えば、そうなるな」
余った魔法石を持って、キジトラの所を再度訪ねていた。正直、他の発想が浮かばなかったのもある。
「難しく言っても同じっすよ。もう……」
「いいじゃないか、魔法石なら大量に用意したんだし」
「それはありがたいんすけど、魔法石貰っても代金が払えないんすよ……」
「む……」
これは予想外だった。まぁNPCじゃないし、金欠になることだってあるか。よく考えたら当たり前か。しかし、それだとどうしたものか……。いや、そうだ。
「じゃあ、こうしよう」
「どうするんすか?」
「以前と同じだ。俺が武器を作って貰って、代金として魔法石を現物で払おう」
これなら誰も損しないだろう。俺は武器が手に入って満足。キジトラは魔法石が手に入って満足。両方得になる。
「そして素材はこれを使ってくれ」
「なんすか、これ……!?」
キジトラの口から戸惑った声が漏れた。無理もない。俺が取り出したのはいくつかの武器だが、明らかに様子がおかしい。禍々しい気配というか、デザインが既に不気味なものばかりだ。
そう、以前謎の商人から手に入れた、呪われた武器。俺が勝手に『カースドシリーズ』と呼んでいる品々だった。
「こんなの見たことないっすよ……!? どこで手に入れたんすか!?」
「出所は……秘密だ」
入手方法についてはあんまり明かしたくなかった。また、あの商人に会えるかもしれないし。もし会えたら、もう一回買い占めて活用するつもりだ。呪いの武器だけあってかなり安かったからな。
「これらの武器を魔法石で改良して貰いたい」
「は、はぁ……。正直、研究してみたい気持ちもあるんすけど……依頼なら仕方ないっすね」
必要な分の素材を渡すと、早速武器の作成に取り掛かってもらった。
◆◆◆
「うん、相変わらずいい仕事だな」
「いえいえ、そんなことないっすよー」
しばらくして頼んだ武器が出来上がった。どれもこれも魔法石で強化してもらった結果、デメリットが消えて使いやすくなっていた。その結果がこれだ。
─────
ウォーターシールド
水の魔力を帯びた盾。火属性の攻撃に対して圧倒的な防御を得られる。
・耐久三割増加
・火属性の被ダメージ半減
─────
ウォーターロッド
水の魔力を帯びた杖。水属性の魔法について圧倒的な魔力を得られる。
・知力三割増加
・水属性の魔法使用時、ダメージ四割増加
─────
ウォーターランス
水の魔力を帯びた槍。水属性の圧倒的な威力を得られる。
・腕力三割増加
・魔法ダメージ追加
─────
呪われた状態の時は一部のステータスが二倍になる効果だった。そこからすれば効果は下がっていると言える。だがデメリットが消えた上に、属性ダメージが追加されているんだから、全体的に見ればプラスになったと言えるだろう。
いい買い物ができたところで、俺は鍛冶場を後にした。
たまにいいですので、皆様の感想をお待ちしております。




