表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
情報屋さんは駆け回る  作者: 仮面色
第2章 プレイヤーズ
18/25

15 情報屋さんと西方山

前回ポイントが欲しいとあとがきに書いたところ、多くのポイントを頂きました。

読者の皆様の優しさに、大変感謝です!

これからも頑張ります!

 もしや、という思いが頭をよぎる。ケットシーに攻撃が効かなかったのは、てっきり俺の火力が足りないんだと思っていたが……まさか……?



「いやいや、落ち着け」



 直感的に結論が浮かびそうになったが、首を振って敢えてその結論を頭から追い払った。まだ決めつけるには早すぎる。そう、まさしく()()が足りない。確認の必要があるな。



「うわっ、また出たよ!?」

「……めんどい」

「みんな落ち着いてー!」



 ちらりとパーティの方を眺める。再度現れたガードキャットの部隊に動揺しているようだ。せっかくだから、彼女達は検証に使えるかもしれないな……? いや待てよ、このまま共闘してくれるとは限らない。分が悪いと判断したら離脱するかもしれない。念のために交渉してみるか。



「なぁ……」

「は、はい! なんでしょう!?」



 俺が近寄るとびっくりしたようなリアクションをとられる。鎧の少女に向かって話しかけた。すると、四人の目が一斉にこちらへと向けられた。ちなみにこうやって話はしているものの、戦闘自体は止まってない。攻め込んでくるガードキャット相手にひたすら戦っていた。四人ともこちらを見たのは一瞬だけだった。まぁいい。



「良かったら、しばらく戦闘に付き合ってくれないか……?」

「えっ……?」



 見たところ、バランスよく色々な職業が集まっているパーティのようだ。これなら様々なバリエーションで検証して、情報収集ができる。


 思いがけない提案だったのか、少女は目を丸くして驚いていた。俺を危機的状況から助けたら、撤退するつもりだったのかもしれない。



「えっと、あのでっかい猫を倒す、ってことですか?」

「いや倒さなくてもいい……。戦ってみたいだけだ……」



 嘘は言ってない。戦って(情報を集めて)みたいだけなのは本当だからな。俺の返答を聞いた少女は、不思議そうにしていた。



「まぁ、少しくらいならお付き合いしますけど……」

「ありがとう、助かる……」



 よし、勝った。パーティがいればいける。



「みんなー! このまま戦うから準備してー!」

「「「はーい」」」



 リーダーの号令と共に、それぞれ動き始める。俺も刀を握り直し、気合いを入れた。




◆◆◆




 結論から言えば、思ったよりも収穫は大きかった。まずケットシーはやはり、眠っている間はほぼ無敵状態だと思われる。全部の攻撃を試した訳ではないので、絶対とは言い切れないが……多分間違いない。


 そして、起きているわずかな間なら基本的にダメージは通る。中でも風属性の攻撃が多少効き目が良かった。おそらくケットシーは土属性だろう。


 他にも起きている時間と寝ている時間の長さ、ガードキャットの召喚する数、ガードキャットの攻撃パターンなど、かなりの情報が手に入った。戦闘中、隙を見てはこっそりメニュー画面からメモを取る。



「ごめん、ポーション切れた!」

「……MPがもう無い」



 とかやってるうちに、戦闘は終盤に入っていた。というか、こちら側がじり貧だ。どうやら彼女達は火力に関してはそこまででもなかったようだ。ダメージは与えているものの、こちらの方が押され気味だ。一気に巻き返すのは多分無理だな、これは。俺も初対面の人にあんまり手の内を晒したくないし、仕方ないな……。



「あ、あの、どうしましょう!? このままだとヤバいと思うんですけど!」

「撤退しよう……」



 タイミングよく声をかけられた。俺は迷わず撤退を提案する。残りの三人にも声をとばすと、慌てて全員集まってきた。



「一気に突っ切るよ!」



 リーダーの号令と共に、五人で一塊になって走る。だが、それを見逃すガードキャットではない。次々と槍を突き出しながら、追いかけてくる。多少のダメージは受けながらも、何とか走って山を降りることに成功した。



「ふぅ~……。危なかったねー」

「……死ぬかと思った」



 多少走ったところで、一息つく。周囲にモンスターがいないことを確認し、全員息を整えていた。ゲーム内だから、息切れするはずは無いけどな。


 四人はまだ興奮がおさまらないのか、さっきの戦闘についての話でキャッキャッと盛り上がっていた。俺は一人冷静にそれを眺めていた。……べ、別に寂しくなんかない。



「あの、大丈夫でした?」

「ああ、助かった……」



 ひとしきり盛り上がったところで、俺のことを思い出したようだ。リーダーの重戦士がこっちに話しかけてきた。とりあえずお礼は言っておく。


 とはいえ、こちらとしては早めに立ち去りたい。さっき手に入れた最新かつ貴重な情報を、どう活用するかじっくり考えたいところだ。さっさと街に戻らないと。



「じゃあ、俺はこの辺で……」

「はい、お気をつけてー」



 さっさと立ち去ろうと、彼女達に背を向ける。振り向く瞬間、彼女達は反対方向に行こうとしているのが見えた。そして歩き出そうとしたところで、背後からこんな声が聞こえてきた。



「さっきの猫すごかったねー!」

「どうする? 誰かに話す?」

「……任せて。こっそり写真撮ったから」

「じゃあ掲示板に載せて……」

「ちょちょちょ、ちょっと待った!」

「「「「!?」」」」



 俺は会話の内容を頭で認識した瞬間、迷わず最大速度で彼女達の行く手に回り込んでいた。思わず【縮地】まで使ってしまったが、問題ない。慌てすぎて若干口調も乱れたが……気付かれてないと思いたい。


 今別れたはずのプレイヤーが突然目の前にくるという、おそらく予想外だろう事態に四人ともポカンとしていた。



「えっと、どうかしました……?」



 よく考えたら、そうなるよな。あんな見たことない物見たら、自慢しようとかなる。ましてや、女子だったら絶対話の種にするに違いない。偏見? ……経験則だ。


 しかしそれは、非常にまずい。これから売ろうと思ってる商品を無料で配られたら、商売上がったりだ。



「頼みがある……」

「頼み?」

「あの猫の情報を広めるのはやめて欲しい……」

「……どうして?」

「そ、それは……」



 ストレートに理由を聞かれてしまった。どうしよう……。まさか情報を売るつもりだから、と素直に言う訳にもいかないしなぁ。


 いや、だが待てよ? この人達の反応から察するに、俺のことを知らない可能性が高い。だから不思議に思ってるのだろう。と、なるとここは素直に明かして交渉に入った方が、手っ取り早いかもしれない。



「それは……」

「それは……?」

「俺が情報屋だからだ……」

「「「「情報屋……?」」」」



 四人ともポカンとしていた。さっきと微妙に意味合いは違うが。とりあえず簡単に、情報を売り買いする仕事だと説明してやった。



「へぇー……そういう商売があるんですか……」

「そういうことならいいんじゃない? 面白そうじゃん!」

「ええ、お邪魔するのは悪いですしね」



 説明を聞いた彼女達は、素直に感心していた。話の方向も黙ってくれそうな流れになりつつある。よし、これなら……。



「……待った」

「ん……?」



 しかし流れを断ち切るかのように、一人が発言した。さっきから黙っていた魔法使いだ。



「……黙っておくのはいい」

「おお、なら……」

「……でも条件がある」

「条件だと……?」



 くっ、やはりそう上手いこと話が進むはず無かったか。いったいどんな条件だろうか。あんまり無茶のことを言われても困るが、立場的にはこっちが弱い。何とかしたいところだが……。



「……そう。何か役に立つ情報を譲ってほしい」

「そう来たか……」



 まぁある意味では願ったりと言えなくもない。手札を消費するのは痛いけど、それくらいで済むならまだましな方だろう。さて、どの情報を渡すとするか……。



「なら、他のダンジョンの情報でどうだ……?」

「他のダンジョン……?」

「【深奥の湖】だ……」

「そ、それってあの噂のダンジョンですか!?」

「お、おう……」



 リーダーがぐいと顔を近づけて迫ってきた。予想以上に食い付きがいいな。



「そんなに驚くようなことか……?」

「もちろんですよ! だって名前は知られているけど、情報が無いって評判なんですから!」



 それはタイミングの問題だとは思う。みんなが第二の街であるコクタンに移動してきてる為、【大森林】を探索しようとするプレイヤーがあんまりいなかった。実際、真面目に探せばすぐ見つかりそうなものだが……今は先へ先へと攻略する人が多過ぎてそこまで手が回っていないのだろう。しかし、それは好都合。



「よし、じゃあそれを教えよう……」

「はい、お願いします!」

「ここを……こう行って……」

「ふむふむ……」



 【深奥の湖】の情報について説明してやった。といっても、場所が【大森林】の中にあることと、ボスがいることくらいだったが。あんまり何でもかんでも教える訳にはいかない。そこまでいくと、対価としてバランスがとれなくなる。



「これで取引成立だな……」

「はい! ありがとうございました!」



 正直、本当に黙っていてくれるかは不安が残る。が、もう教えてしまったものは仕方がない。情報ってのは形がない分、返品することはできないのだから。後は約束を守ってくれるように祈るしかないな。




◆◆◆




 さて、何とか口止めすることに成功した俺は、現在山を降りて街へと戻ってきていた。ひとまず、槍を納品するところからしないとな。



「おお、よく来たね! 依頼の方はどうかな?」



 再び詰所を訪れて、早速隊長さんに会っていた。俺は答える代わりに、取ってきたガードキャットの槍をどっさりテーブルの上に並べる。



「こ、これは……すごいじゃないか!」



 大層喜んでもらい、なんと一本あたり一万Gで引き取ってもらえた。これは大儲けだった。大満足のまま詰所を後にした。さて、次はどうしたものか。


 情報屋としての調査をメインにするのであれば、何かしらレアな情報というか、貴重なものの情報が欲しいな。価値がある情報ってのはそういうものだ。


 ただ、ケットシーの攻略についてもそれはそれで収穫がある。



「う~ん……頭がこんがらがってきそうだな……」



 あれこれ考えること十分。そして至った結論は聞き込みしようというものだった。やっぱり情報集めの基本は聞き込みだ。迷った時は基本に帰る。これがベストだ。


 ということで斡旋所まで来ていた。この街で一番情報が集まりそうな場所といえば、斡旋所だからだ。



「何か珍しい物の情報とかありませんか?」

「そうですね……」



 受付さんに向かって話しかけていた。俺の漠然とした質問にも考え込むようにしている。こういう時、高性能なAIを搭載している凄さを改めて実感する。



『受付嬢【エル】との交流度が上がりました!』



 するとその間にアナウンスが聞こえてきた。メニュー画面から記録を確認すると、確かに聞こえた通りのコメントが記載されてる。あれ、これはもしや【話術 】スキルが発動したかな?



「ああ、こんなのがありますよ」



 すると、交流度の上昇に反応したかのように、受付嬢……エルさんが話題を振ってきた。カウンターの上から一枚の依頼書を取り出す。



「えっと、これは……?」

「はい、この街の長老というか、高名な方の依頼なんです。本当は依頼を三十件以上こなせるような方にのみ、紹介するようにと言われてるんですが……」



 なるほど、これが交流度のおかげと言う訳か。これは……もしかしてレア物の可能性が来ちゃったんじゃないか? 俺はワクワクする気持ちを抑えられなかった。



「えーと、内容は……『ボムハウンドの牙を十個持ってくること』? 報酬が応相談……?」



 なんだかよくわからないが、受けない手はないだろう。迷うことなく俺は承諾を選択した。




◆◆◆




「よーし、ここが西方山か」



 俺は現在西方山の入口前にやってきていた。クエストを受けてから一直線にここまで来た。


 外見は木に囲まれた山と言うことで、東方山とあんまり変わらない。中も入ってみると、かなり酷似していた。



「くそっ……『雨流し』!」



 だが、モンスターの強さは明らかに違う。モンスターも割りと弱く、どこかのどかな雰囲気を出していた東方山に比べてここは明らかに雰囲気が殺伐としていた。モンスター自体の強さもかなり違う。


 たった今、フレイムハウンドと言うモンスターを倒したばかりだが、三体目にしてもう俺は死にかけていた。



「ダメだこれは……相当きつい」



 ダンジョンをソロ攻略がおかしいと言えばおかしいのだが、明らかにここのダンジョンは今の俺にはきつかった。準備不足を思い知らされてしまった。



「ここは一時撤退だな」



 俺はトボトボと街中を歩いていた。迂闊に踏み入った結果、ボロボロになりポーションも使いきるという失態を犯してしまった。



「この件は教訓にするとして……どうしたものかな」



 一人でダメなら助っ人を頼むしかないか……。この日はポーション類を買い足してからログアウトした。




◆◆◆




 次の日、学校に着いた俺は早速、閂に相談していた。



「西方山を探索したいんだが、良かったら一緒に行かないか?」

「おお……まさかお前の方から誘ってくれるとは……! いいぜ、是非行こうか!」



 予想以上の食い付きだった。一緒にプレイしようという約束をようやく果たせるというのもあって、一石二鳥だと考えていたからな。



「ちょっと待った! その話、僕も混ぜてよ!」



 後ろからかけられた声に、閂と同時に振り返る。予想通りというかなんというか、そこには腕を組んで仁王立ちした柵が立っていた。



「二人だけずるいよ! 遊ぶなら僕も誘ってよ!」



 柵は俺達の服を掴み、揺さぶる様にして連れてけとせがんでくる。



「わかったわかった、いいか飛躍?」

「もちろん構わないさ」



 二人だけでは心もとないし、好都合だ。



「じゃあ放課後、ログインして集合な」



 と、会話したのが今朝のこと。俺は現在、いつもの情報屋スタイルで街の路地裏にひっそりと立っていた。念のために持ってるアイテムの内容を確認しながら。


 すると向こう側、大通りの方から誰かがやってくる。一瞬身構えてしまったが、近づいてくるに連れて、警戒心は無くなってきた。



「あのー、もしかして飛躍くん?」



 二人組のうち女性の方が話しかけてくる。もう一人、男性の方は笑いながら軽く手を挙げていた。



「そうだぞ。ってそういえば、プレイヤー名を教え合ってなかったな」



 なんとなく三人で笑ってしまう。一段落したところで、改めて自己紹介し合う。



「じゃあ僕からね。プレイヤー名はサクヤ。ジョブは魔導師だよ」

「俺はプレイヤー名、ジョーにしてる。ジョブは重戦士だな」



 二人の名乗りを聞く。サクヤとジョーね。次は俺の番だな。



「俺はカラス。ジョブは……秘密だ」

「なんで秘密なのさー!?」

「ちょ、待て、首を揺さぶるな!? は、話を聞けって!?」



 かっこよく秘密だと告げてやったつもりなのに、なぜかいきなり両肩を捕まれてガクガク揺さぶられていた。視界が揺れまくっているのを、なんとか必死で止める。前にもこんな事があったような気がする。


 というか、仕方ないだろう。俺は謎の情報屋なんだから。十分かけて、俺のキャラについて説明した。



「なるほど……だいたいわかった」

「納得いかない! 隠し事は無しにしようよー!」



 ジョーは割とすんなり了解してくれたが、サクヤは頬を膨らませている。自分たちがジョブを明かしたのに、俺だけ秘密なのが不満のようだ。



「ねえねえ、こっそり僕達だけに教えてよ、ね?」

「ダメったらダメだ。一人でもバレるとそこから間違いなく広まる」



 なるべく手の内は明かさない。バラしていいのは自分がいいと判断した時だけだ。そして、それは今じゃない。



「俺が目指してるのは、クールでミステリアスなプロの情報屋だから、な」

「むー……」

「まぁまぁ、いいじゃねぇか。で、今日は何する?」

「ああ、実は……」



 俺は二人に、クエストの為に西方山を攻略したいと言うことを伝えた。



「なるほど、そういうことか」

「いいんじゃない?」

「ありがとな、助かる」



 ただ、俺が受けてるのがレアクエストかもってことは黙っておいた。どこからか情報が漏れてしまうと困るからだ。何度も言うが、明かしていい部分はきっちり線引きしないと。




◆◆◆




「やっぱりカラス君って、あのボス倒したって人だったんだ」



 山に向かう前にひとまずギルドに行くことにした。ただ単に探索するだけでなく、クエストを受けておいた方がお得だということで三人の意見が一致したからだ。



「あれは失敗だった……。まさか名前がアナウンスされてしまうなんてな……」

「いいじゃねぇか、有名プレイヤーの仲間入りだぞ?」

「お前わかってて言ってるよな?」



 雑談しながらギルドまで到着した。そのまま手分けして壁に貼ってある依頼を見て回る。やはり西側の依頼はどれも見ただけで、なかなか難しいものばかりとわかる。



「これなんかどうだ?」



 そんな中、ジョーが一枚の依頼を持ってきた。どうやらモンスター討伐系の依頼のようだ。報酬もそれなりというかそこそこの額だし、比較的簡単な依頼に入るかもな。



「手頃だし、いいんじゃないか?」

「そうだね!」



 満場一致でこの依頼を受けることに決めた。早速カウンターまで持っていく。



「よし、依頼受けてきたぜ」

「じゃあ行こっか!」



 今回でなんとかクエスト達成できればいいのだが。




◆◆◆




「ガウウウゥゥ……!」

「お、現れたか」



 入って数歩も歩かないうちに、モンスターが飛び出してきた。犬型のモンスターだ。白っぽい中型犬くらいのサイズで、奇妙なのは頭に白いヘルメットのようなものを被っている。


 初めて見るモンスターだったので、もはや癖のレベルで反射的に鑑定を発動させていた。



─────

チャージドッグ


とても気性の荒い犬。炎を噴射して突撃を仕掛けてくる。


─────



 やはりこっちは、犬系モンスターがほとんどのようだ。しかもかなり凶暴そうで、穏便に止めるのは難しそうだ。すぐに倒そうと思い、刀を腰から抜く。



「まぁちょっと待ってよ。ここは僕にやらせてくれないかな?」

「サクヤ?」

「まぁ見ててよ」



 さっさと始末しようとしたところで、サクヤに止められてしまった。



「『ファイアランス』」



 サクヤが魔法を発動させる。杖の先端から円錐形の炎が飛び出した。そのまま一直線にチャージドッグへと向かっていく。一方、チャージドッグはそれにカウンターを決めるかのように、飛び上がって頭から突っ込んでくる。


 炎が交差した瞬間、光が弾けた。そして、チャージドッグが仰向けに吹き飛んでいく。



「おお……」



 感心してしまった。あの魔法、なかなかの威力だと見える。俺の魔法はまだ初級レベルだから、比べると威力の違いがよくわかる。俺の一撃では、あんな風に吹っ飛ばすのは難しいだろう。



「グルルル……!」



 だが、チャージドッグはしぶとかった。空中でくるりと一回転して体勢を立て直すと、威嚇の構えを取る。HPを見ると、思ったよりもダメージを受けてないようだった。



「あれー? あんまり効いてないね?」

「ここのモンスターは結構強いって聞いてたけど、噂通りみたいだな」

「単純に火属性だからじゃないか?」



 多分チャージドッグは火属性のモンスターだろう。それならファイアランスの効果が薄いのも頷ける。


 立ち上がったチャージドッグは足を曲げて、グッと体を沈み込ませる。そして勢いよくこちらに突撃してきた。俺は今度こそ刀を抜いて迎撃体勢を整える。


 だが、その攻撃が当たることはなかった。俺達とチャージドッグの間に、ジョーが割り込んできたからだ。



「ふん!」



 そのまま大盾で攻撃を受け止める。衝撃を受けたはずなのに、微動だにしていない。見た目通りの防御力の高さだ。



「『シールドバッシュ』」



 盾で受け止めたまま一歩踏み出し、タックルのようにして吹き飛ばす。地面に叩きつけられたチャージドッグは大きくダメージを受けて、消滅していった。


 二人ともまあまあやるな。ジョーはともかく、サクヤはどちらかといえば素人に近いと勝手に思い込んでいた。



「こう見えても結構ゲームは好きなんだよ。昔からジョーに付き合わされてたからねー」

「俺のせいみたいに言うなよ。サクヤだって楽しんでただろ?」



 二人の掛け合いが小気味よかった。なんだかんだ言って、互いのことをよくわかってるんだな。



「さて、クエストの内容はなんだったっけ?」

「えーと、【炎熱の牙】を五つ集めろ……だな」

「ということは討伐メインか」



 ジョーの言うとおり、おそらくはモンスターがドロップするタイプのアイテムだろう。名前からして、落ちてるようなアイテムとは考えにくい。


 ここからはRPGらしく、ひたすら地道な作業といきますか。




◆◆◆




「やっと落ちたねー」

「これで四つめか……長いな」



 アイテム集めは思ったよりも時間がかかっていた。【炎熱の牙】自体は、フレイムハウンドというモンスターが落とすとわかった。それを見つけるのにも何体も倒しまくってたが、その苦労は置いとこう。


 問題なのは、思ったよりドロップ率が低かったことだ。倒しても倒してもなかなか落とさない。強さはそこそこなので倒すのは時間かからないが、なかなかの苦行だった。


 しかもフレイムハウンドは戦闘してると、ぞろぞろ仲間がやってくる。一回戦闘を始めるときりがなく、仕切り直すには身を隠すしかなかった。



「ここのモンスターって、火属性が多いみたいだね……」

「というか、火属性しか見てないぞ……」



 二人が愚痴ってるのもわかる。火属性の相手をするんなら、常識として水属性の攻撃が必要だろう。だが、俺達は攻撃手段に乏しかった。サクヤは『ウォーターランス』を使えたものの、効果が高いのはそれくらいだった。ジョーはもちろん防御と物理攻撃がメインで、属性攻撃は使えない。



「そう愚痴るな。あと少しだろ」

「カラスは一人だけ活躍してるから、そんなこと言えるんだろ……」



 そう、俺はというと、水属性の刀である速雨を持っているので、意外と役に立っていた。魔法は水弾しか使えないが、接近戦ならかなり有効だ。


 なので俺が前衛として突っ込んでいき、モンスターを斬りまくっていた。そうこうしている内に、残り一つのアイテムがようやくドロップした。



「ふぅ……やっと終わったね!」

「思ったより楽じゃなかったな……」



 ボムハウンドは自爆技を持っており、自爆される前に倒さないとアイテムが落ちない厄介なモンスターだった。とりあえずフレイムハウンドもボムハウンドも倒してクエストは終わったし、後は街に帰るだけだが……。



「なぁ、二人とも」

「「ん?」」

「このまま、奥まで向かってみないか? 行けるところまでさ」



 せっかくなので提案してみた。今俺達がいるのは、ふもとから見て、四合程の地点だ。どうせだからマップを埋めておきたい。



「僕は構わないよ!」

「俺もいいぞ。奥に何があるか気になるからな」

「じゃあ決まりだな」



 二人の同意も得られたところで、どんどん奥へと進む。だが、予想以上にきつい道のりだった。モンスターがガンガン涌き出てきて戦闘の連続となり、進めば進む程、進行速度は下がっていった。


 やがて手持ちのポーションも無くなり、いよいよ持って限界が近づいていた。残るは頂上付近だけだと言うのに。



「そろそろ厳しいな……」

「撤退しない? もう無理だと思うよ?」



 くっ……。後ほんの少しでマップが埋められるというのに……。諦め切れない。こうなったら俺だけでも。



「じゃあ二人は先に戻ってくれ。俺は【潜伏】を使って、こっそり頂上を覗いてくるから」

「一人で大丈夫か?」

「心配するな。本当にたどり着いたらすぐ帰るから」



 心配する二人を説得して、先に下山させた。俺はお馴染みの【潜伏】と【跳躍】と【縮地】のコンボで枝から枝へ跳び移る。


 途中モンスターに見つかることもあったが、スピードを活かしてなんとか振り切った。そして遂に頂上へとたどり着く。



「これは……」



 そこで見たのは、三メートルを越えるだろう巨大な石像だった。【東方山】で見たのと同じだ。


 ただしモチーフが違う。向こうは猫だったが、こちらは犬だ。口を大きく開き、吠えかかるポーズを模した迫力ある巨大な犬の石像。炎を纏うかのように、表面が揺らめく形で彫り込まれている。



「あの石像……おそらくボスだろうな」



 確認したいところだが、一人では少々厳しいな。二人も連れて来られれば良かったんだが、やむを得ない。


 俺は画像だけ撮影すると、躊躇なく向きを変えて下山した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] お疲れ様です! 今後も楽しみにしています! [気になる点] ギルドの件は改稿されて無くなっていませんでしたっけ?たしかすぐに装備を変えて誰にも見つからなかった気が...。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ