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情報屋さんは駆け回る  作者: 仮面色
第2章 プレイヤーズ
17/25

14 情報屋さんと猫王

忘れないように予約投稿しました。

「………………はっ!?」



 視界が真っ暗になったと思った次の瞬間、目に入ってきたのはやたら高い天井だった。感覚的に仰向けに寝かされているのがわかった。恐る恐る体を起こし、辺りを見回す。辺りには数えきれない程の大量のベッドがずらりと並べられ、何人か同じように寝ていた。その人達も体を起こして辺りを見回している。壁は全てステンドグラスが貼られ、荘厳な雰囲気を出していた。



「そういうことか……」



 どうやらここは教会のようだ。つまり、俺はガードキャットにやられて、いわゆる『死に戻り』したって訳だ。そうとわかれば、こうしちゃいられない。


 急いでベッドから降りると、走って扉を出た。廊下を通って教会の外に出る。そしてパッと目についた路地に飛び込んだ。



「危なかった……教会にいるところを誰かに見られたくないしな」



 クールで謎の情報屋で通そうと思ってるのに、知らないところで一人死んでたとか。もし誰かに見られたらイメージが台無しだ。……気付かれてないよな、多分。教会には数人いたけど、俺の事なんて誰も気にしてなかったはず。



「とりあえず……ステータスの確認から、っと」



 メニューを開いて確認していく。とりあえず、レベルが下がったりステータスが減ったりってことは無さそうだが……あっ!



「経験値と所持金が減ってる……」



 現在俺はレベル15。もう少しでレベルが上がるところだったのに、経験値がゼロになってる……。しかも所持金が半額まで減ってしまっていた。


 なんてこった……。キジトラにも払ったし、買い物もしたから結構出費がかさんだところだった。更に所持金が減ったことで、相当貧乏になってる。



「アイテムや装備に変化がないのが、唯一の救いだな……」



 くよくよしても仕方ない。帰り方は想定外だったが、結果的に薬草を集めて街まで戻ってきたんだ。これは依頼達成したと言っても過言じゃない、うん。とりあえず斡旋所に納品して、減らした金を少しでも補填しよう。俺は装備を元通り一般人に戻した。




◆◆◆




 斡旋所まで戻ってきた。教会は街の中心部にあったので、割と早めに戻ってくることができた。


 ドアを開けると、一瞬こちらに視線が集まる。だがそれで終わりだ。みんな興味無さそうに会話へと戻っていく。俺も今は積極的に関わるつもりはないので、特に気にしない。



「すみません、こちらお願いします」



 真っ直ぐ受付まで行き、依頼であった薬草と依頼書を提出する。



「こちらは……はい、確認致しました! こちらが報酬の金額となります」



 報酬の金額としてはそこそこだったが、プラスにはなった。さっき死んだ分の補填にはまだまだ程遠いが……地道にコツコツ貯めるしかないな。



「いや、ここはでっかく報酬の取れそうな依頼はないか……ん?」



 壁に貼ってある依頼書を一枚ずつ内容と報酬をじっくり読み込んでいく。するとやけに桁が高い依頼を見つけた。



「『槍が欲しい』……?」



 薬草を取ってこいとか、素材が欲しいってなら分かるが、槍が欲しいとはいったい……? しかも報酬が数に応じて、となっている。



「あの、すみません。こちらの依頼なんですが……?」

「これは……直接依頼者の方に、お聞きになった方がいいかと思います」

「はぁ……」



 たらい回しにされてるような気がしなくもないが……。まぁそういうなら行ってみようか。




◆◆◆




「すみませーん」



 依頼者のいる場所として、書いてあった場所に向かう。そこは門の近くにある大きな建物だった。


 入口には誰もいなかったので、勝手に扉を開けて中に入っていく。すると、すぐに人を見つけた。アイコンの色からしてNPCなのは間違いないが……あの格好は兵士かな?



「ん? 何か用か?」

「依頼を受けて来たんですけど……」

「ああ、そういうことか。そっちに座ってくれ」



 近くにあった椅子とテーブルまで案内される。二人とも座ったところで、兵士が口を開いた。



「俺はここの守備隊の隊長をしている者だ、よろしくな」

「よろしくお願いします」



 なんと。一般の兵士かと思ったら、隊長とはなかなか偉い人を引き当ててしまった。割りと年配の男性だと思ったが、その通りだった。手間が省けて助かる。



「それで依頼の件なんだが、とにかく槍をたくさん用意して欲しいんだ」

「どうしてですか?」

「今回用意するのは、兵士達の訓練用に使う物なんだ。武器ってのは消耗品だからな。いくらあっても困ることはない」

「なるほど」

「特に訓練では結構粗っぽいこともするからな。折れることも頻繁にあるんだ」



 それで大量の槍が必要なのか。確かに理にかなっている。



「武器屋に頼まないんですか?」

「頼んだけど、やっぱり作れるスピードには限度があるだろ。だから外部にも募集をかけてるんだ」



 まぁ、工場なんかがある訳じゃないし、大量生産は難しいだろう。折れることもあるなら、一人一本用意すればいいというものでもない。



「どうだろう、引き受けてくれるか」

「わかりました、やってみます」



『クエスト【槍の発注】を引き受けますか?』



 出てきたメニュー画面に、当然イエスを選択する。



「そうか! よろしく頼む!」



 丁寧に礼を言ってから、隊長さんと別れた。そういえば名前とか聞いてなかったな……。


 建物……守備隊詰所を出てから軽く背伸びをする。行動開始だ。


 生産職でもない俺がこの依頼を引き受けたのは、ちゃんと当てがあってのことだ。決して報酬が高いから考え無しに受けた訳じゃない。



「もしもし、キジトラいるか?」

『ほいほーい、なんすか?』



 連絡すると、ちょうどログインしていたのですぐに繋がった。



「実はいい話があるんだ」

『なんすかなんすか?』

「槍を作って欲しいんだ。かなり儲かるぞ」

『うーん……』



 条件を告げたところ、キジトラの反応が思ったより良くない。てっきり、『任せて欲しいっす!』とか言って食い付いてくると思ったのに。



「どうした?」

『カラスさん……やめた方がいいかもしれないっす』

「何ゆえ!?」

『槍を作るのは、剣よりも大変なんすよ』



 そこからキジトラが説明してくれた話によると、こうだ。槍は剣と違って、素材に木材なんかも必要になる。この時点で手間がかかる。更に槍は剣よりも作成するのに難易度が高く、成功確率が下がる。



『だから総合的にみて、その依頼やめた方がいいかもっす』

「なんとかならないか?」

『ハイリスクハイリターンっすね……』



 なんてことだ。俺が必要な材料を集めてきて、キジトラが作成する。そして報酬をがっぽり頂き山分けの予定だったのに。



「わかった……なら仕方ないな」

『諦めるんすか?』

「俺がそう簡単に諦める訳ないだろ。こうなったらプランBだ」

『何か当てがあるんすか?』

「もちろん!」



 こっちの方が可能性が低いので、あんまりやりたくなかったが、試すしかないな。




◆◆◆




 俺は再び東方山までやってきていた。最悪の場合は依頼を断るしかないな。それでも俺自身にはノーリスク……のはず。



「『ハイジャンプ』」



 すぐに木に跳び移り、真っ直ぐに頂上を目指す。前回は回り道しながらだったが、今回は違う。一直線に進む。こういう時スキルがあると楽でいいな。


 あっという間に頂上までたどり着いた。変わらず広場の中央にポツンと石像がそびえ立っている。


 誰かいたらしばらく様子を見ようと思っていたが、誰もいなくて助かった。どうやらまだ、たどり着いてるプレイヤーはいないらしい。



「『投擲』!」



 俺は武器屋で買った安物のナイフを取り出して、思いっきり振りかぶる。そして石像目掛けて投げつけた。


 すると、前回と同じようにガードキャットが多数地面から出現する。今回は何の策も無しに突撃した訳じゃない。



「『潜伏』」



 一旦潜伏で隠れる。すると標的を見失ったガードキャットは槍を振り回したまま、うろうろと辺りを徘徊していた。


 そのうちの一匹に静かに近づく。そして槍の柄の部分、穂先に触れないようにしながら思いっきりぶんどった。



「ニャー!?」

「「「「ニャー」」」」



 槍を取られた一匹は飛び上がって驚き、おろおろと右往左往している。潜伏が解除された俺は見つかり、すぐさま無数のガードキャットが槍を持って突撃してくる。



「そーれっ! ……『雨流し』!」



 手に入れたばかりの新しい刀を使ってアーツを撃つ。刀を振ると広範囲に水流が発生し、突撃してきたガードキャットを怯ませていく。


 その隙に持っていた槍を、アイテムボックスに収納できるか試してみた。……よし、上手くいった!


 俺が考えていたプランBとは、ガードキャットの槍を横取りできないかというものだ。あの依頼で槍の文字を見た時にパッと頭に浮かんだのは、戦ったばかりのガードキャットの存在だった。あれをなんとかできないか、試してみたくなったのだが……成功して良かった。



「後はもう同じだな」



 それからは同じことの繰り返しだった。ガードキャットから槍を奪い取り、仕舞い込む。反撃してきたら雨流しで怯ませる。ただ残念だったのは、槍を奪う前に倒してしまうと、槍ごと消滅してしまいドロップしないことだった。惜しいことをした。


 ひたすらガードキャットの槍を集めること、一時間。数が減ってきたらまた石像に触って呼び出し、の繰り返しだった。おかげで集まった槍の数は五十本にもなった。



「ふー、大量大量っと、……ん?」



 なんとなく石像を見ていると、妙なことに気づいた。おそらく最初に投げたナイフが当たった部分が砕けていたのだ。しかも砕けた部分の中から、何か白いものが見えていたからだ。


 不思議に思い更に石像へと近付く。顔を近づけてみると、それは白い毛のようなものだった。なんというか、ふさふさした白い毛が何本も生えている。実際に触ってみたいところだが……触ればガードキャットが出てくる。今のところ、ガードキャットに対抗する有効な手段はないしな……。


 しかし、結局これはなんだろう? 触れないから観察して判断するしかないんだが……。そのまま眺めていると、白い部分が徐々に灰色に変わっていく。石化していくかのようだ。一分もしないうちに、白い部分は完全に石になり、どこが砕けたのか区別がつかなくなっていた。自動で石像が修復されたかのようだった。



「もうちょっと砕いてみるか……? でも危険だしな……」



 俺は考える。接近したまま砕くと取り囲まれるなら、遠距離攻撃ならどうだろうか? 走って木のあるところまで下がった。そして木の傍に立ち、右手を突き出して構える。少々距離があるので、やや上向きの構えだ。



「『火弾』!」



 試しに軽い魔法攻撃を撃ち込んでみた。右手から放たれた火の玉は軽く山なりに飛んでいき、石像へとまっすぐ命中した。



「「「ニャー!」」」

「おっと、ヤバいヤバい。『潜伏』からの……『ハイジャンプ』」



 予想通りガードキャットが多数出現した。前回は取り囲むように石像の方を向いていたが、今回はきちんと木の傍にいる俺の方を向いている。攻撃した相手がどこにいるか、ちゃんと感知しているらしい。


 最初から予想していた展開だ。慌てることなく、切れてしまった『潜伏』をかけて、木の上に飛び移る。俺を見失ったガードキャットは槍を構えたまま、辺りをうろついている。



「ひとまずは心配ないな……さて」



 ガードキャットはしばらく気にしなくていいだろう。それより石像の反応だ。目を凝らして石像の様子を確認する。魔法が命中したと思われる部分はまたしても砕けていた。このまま何もしなければ、先程のようにじわじわと元の石像へと戻っていくのだろう。……ならば。



「『水弾』! 『雷弾』! 『土弾』!」



 両手を使って魔法を連発する。再使用時間があるから、様々な属性かつ速く出る、初級魔法ばかりだ。次々ガードキャットが現れるが、今は気にしない。まだ木の上にいる俺に気付いていないことから、感知範囲は案外狭いのかもしれない。


 みるみるうちに石像のあちこちが砕けていく。そして砕けた部分から白い毛が露出していく。十発ほど撃ち込んだところで、一区切りにしようと思ったその時だった。石像にピシッと音が入るとともに勝手にヒビが入り始めた。そして全体にヒビが入り込んだところで、ガシャンと大きな音がして全部が砕けた。



「まさかこれって……」

「ニャ~ア~アァ~……」



 ひび割れた石像。そこから姿を現したのは、巨大な猫だった。まさしく石像がそのまま実体化したような、現実ではあり得ないサイズの真っ白な猫。頭には金色の王冠、肩には赤いマントを羽織っている。それが招き猫のように地面にどっしりと座り込んでいる。非常に腹周りが大きいというか、太っているというか……。恐らくガードキャットのように、立ち上がったら二足歩行なのだろう。短い後ろ足を投げ出して座っていた。なんか、あくびをしてるかのような鳴き声も上げている。



「まさかボスか、こいつ……『識別』」



─────

スリーピーケットシー

【東方山】のボスモンスター。猫達を統べる王。非常に防御力が高い。


─────



 どうやら【識別】は通用するようだった。グランドベアやクリアケルピーの時には情報不足で、若干もどかしい思いをしたものだから、非常にありがたい。いつの間にか、ケットシーの頭上にはHPが表示されている。これは戦闘に入ったと考えていいのだろうか?


 だが、俺は未だに木の上に隠れたままだ。ガードキャット達もうろうろしたままだし、ケットシーも座り込んだまま何のリアクションも見せなかった。



「もしかして、これは特殊なケースでは……?」



 なんというか、特殊というより裏技というかバグみたいな。ボス戦が開始されたのに誰もいないなんて、おかしな状況だ。例えばこれが部屋の中とかだったら、倒すまで扉が開かないとかなるんだろうが、ここは開けた場所だ。いつでも俺は逃走可能だ。だが……。



「ここで逃げる選択肢は最初からないな」



 運良く周囲には人がいない。千載一遇のチャンスだ。当然ソロで倒すつもりはない。いや倒せる訳がない。……が、ここでありったけの情報を集めておきたい。と、なるといつまでも隠れて様子を窺ってもいられないな。



「このまま隠れてたら、どうなるのかも知りたかったが……それはまたの機会にしよう」



 もう一度手持ちの装備を確認。問題ないことを確認して、腰から刀を抜く。刀は二本あるが、魔法を使えるように片手は常に空けておく。そして【潜伏】をかけ直した後、木の下に飛び降りた。



「慎重に、慎重に……っと」



 ガードキャット達にうっかり触れないように、できる限り距離を置いて歩いていく。人混みみたいなものだし、【縮地】なんか使ったら間違いなくぶつかる自信がある。そして耐久力が紙の俺ははね飛ばされるだろう。


 何とかガードキャットの群れをすり抜けた俺は、ケットシーの目の前まで歩いてきた。そのまま見上げるようにして観察する。ケットシーは前足をだらんと下げて目を細め……いや、もしかしてこいつ寝てるのか?



「じゃあまぁ、小手調べといくか。……せーの!」



 俺はケットシーの背中に回り込んだ。そして刀を両手で構えて、横薙ぎに思いっきり力を込めて切りつけた。……別に力を込めても軽く持っても威力は変わらないのだが、そこはまぁ気分というか気合いの問題だ。



「……えっ?」



 だが、渾身の一撃のつもりの攻撃は止まってしまった。いや比喩とか大げさではなく、本当に止まってしまったのだ。ケットシーの毛皮に触れた瞬間、ピタリと。切りつけた感触はあると思っていたのに、それすらない。衝撃を吸収されたかのような、何の手応えもない奇妙な感覚だった。慌ててケットシーを見上げる。頭上のHPは全く減っていなかった。



「「「「ニャーア!」」」」



 しかし首を捻ってる場合じゃない。ケットシーの向こう側から、揃った猫の鳴き声が聞こえてくる。攻撃で潜伏が解除されて、ガードキャットが俺の存在に気づいたらしい。



「だが、抜かりはないさ……!」



 同じ失敗をするつもりはない。俺はケットシーに背を向けて走り出した。ちらりと振り返ると、ガードキャットが続々と俺を追いかけてきていた。


 わざわざケットシーの背後に回り込んだのは、ケットシーが反撃をした場合ガードキャットと挟み撃ちにされるのを防ぐ為だ。目論見は当たり、一旦距離を取ることに成功した。



「よし、まずはこいつらを片付けるか!」



 槍はきりのいいところまで集まったし、それより今はケットシーの方が気になる。倒すことを最優先にしよう。

 


「ニャー!」

「『雷落とし』!」



 槍を構えて向かってくるガードキャットに攻撃を浴びせる。多少怯んだものの、突撃は止まらない。俺は刀で槍を払いながら、もう一方の手で魔法を撃ち込む。連続攻撃で何とか一体を討ち取った。


 だが安心してもいられない。すぐにその場を走って離れる。既にガードキャット達は左右に別れて、俺を挟み撃ちにしようと動いていた。



「さすが集団戦が得意とか、説明に書いてあっただけあるな……!」



 ちょこまかと走りながら斬りつけ、魔法を撃ち込み、高速移動でかわし、跳躍して緊急回避する。手持ちのカードを最大限活用しながら、目まぐるしく変わる状況を何とか生き延びていった。最初の方はかなりきつかったが、ガードキャットを確実に一体ずつ仕留めていくうちに、段々と楽になっていった。最後の一体を倒す頃には、周囲に気を配る余裕もできていた。



「さて、と」



 ケットシーを見上げる。依然として変わらず眠っているように見える。おかしい……。ガードキャットと戦っている間、俺はケットシーにも注意を多少向けていた。もちろん意識をそっちに向け過ぎてガードキャットにやられてしまっては本末転倒なので、本当にチラチラ見る程度だったが。


 だがケットシーはじっとしたままで、何も動きを見せなかった。石像状態と同じで何もして来なかった。……そういえば、ケットシーに攻撃したけど、別にガードキャットは増えたりしなかったな……?



「ニャーアー!!」

「な、なんだ!?」



 そこで事態は急変する。ケットシーが唐突に動き出したのだ。まるで俺が考えたのを見透かされているかのようなタイミングだ。


 ケットシーは目をパチリと開き、両の前足を真上に上げた。万歳をするかのような態勢だ。うっすらと体が光ってる。そして、それに呼応するかのように周囲の地面がいくつか丸く光り始めた。



「えぇ……嘘だろ……」



 光り始めた理由はすぐにわかった。そこの地面から浮かび上がってくるかのように、ガードキャットがまた何体も現れたのだ。せっかく今、全滅させたところだったのに……。


 ガードキャットが現れたところで、光はピタリと消えてしまった。そしてガードキャットの軍団が槍を構える。ケットシーはいつの間にか足を下ろして再び寝てしまっていた。


 ……また最初からやり直しかよ。



「仕方ない、やるか……」



 さっきまでの苦労が台無しになってしまった。もうしばらく落ち込んでいたいところだったが時間は、というかモンスターはプレイヤーを待ってはくれない。向かってくるガードキャットを見ながら首を振り、仕方なく気合いを入れ直した。


 本音を言えばもうやめたいところだが……さすがに早すぎる。というか得られた情報が少な過ぎる。ここで帰ってしまっては損だ。いや特に何か減ってる訳じゃないんだが、時間の無駄だったというか……何かしら手に入れないと気が済まない気持ちもある。



「しかし、あれはいったい……?」



 再度迎撃しつつも考える。一度やってる戦闘だ、今回は更に余裕がある。思考しながら戦えるくらいには。気になるのはケットシーを斬りつけたあの感触だ。あれは硬いというより、手応えゼロだった。今まで戦ってきたモンスターと比べても何かおかしい。物理攻撃を無効化するクリアケルピーだって、斬った時には何かを斬った感触はあった。まぁ、元々水の体だし、すり抜けたってのもあるだろうが……。



「いや待てよ? 物理無効?」



 そうか、その可能性があったな。もしかしてケットシーも無効化能力を持ってるのかもしれない。そうとわかれば、早速実践あるのみだ。


 俺は向けられた槍先をしゃがんでかわしつつ、逆手で持った鳴神でガードキャットを斬りつける。そして姿勢を低くしたまま、左手を横に突き出し、ケットシーに狙いを定める。



「『火弾』!」



 掌から飛び出した火の玉はまっすぐ、ガードキャット達の間をうまいことすり抜けてケットシーへと飛んでいく。そしてすぐに命中すると同時に─────フッ、と霧散した。



「んー……んっ?」



 おかしい。いつもの火弾は当たった時にあんな効果は起こらない。一瞬だけ燃えるような感じで弾けるはずだ。あれは今までみたことない。何が起きた……?



「『水弾』!」



 今度は属性を水に切り替えて撃ち込む。その間にも俺は動きというか、走るのを止めない。一応ガードキャットの集団と戦闘中だし、気を抜いたらうっかり死にかねない。そして、再び飛んでいった魔法はケットシーの出っ張った腹に当たると同時に、再び跡形もなく消えてしまった。



「えー? 刀もダメだったのに、魔法もダメ? なんで?」



 そうこう言ってるうちに、再びケットシーが目を覚ます。そして追加のガードキャットを召喚し始めた。これはまずいな。さっきまでの数だったら余裕でさばけていたが、ここまで増えると、対応が若干きつい。というかそろそろ限界だ。



「やむを得ないか……?」



 これで取り囲まれてしまったら、またしても死に戻りすることになってしまう。情報の仕入れはまだまだ不十分だが、背に腹は代えられない。一旦隠れるのもありかとは思うが、それでは隠れながらでは充分な検証は難しいだろう。


 未練が残るけど、渋々撤退するしかないか。そう思って回避に専念しつつ、逆方向に走り出そうとしたその時だった。



「えっ、何あれ!?」

「でっかい猫だー!」



 聞き覚えの無い声が聞こえてきた。咄嗟に声の聞こえた方に振り向くと、そこには何人か人が立っていた。いや正確には四人組だった。横目で見るとなかなか良さそうな装備をつけてあいる。どうやら、他のパーティが頂上まで上がってきたようだった。装備から見て、プレイヤーなのは間違いなさそうだ。


 まぁ仕方ないな。少し戦うのに時間をかけすぎた。クリアケルピーの時と違って、ここは誰も来なそうな人気のない場所じゃない。誰かが来る可能性は充分考えられることだった。



「誰かいるよ?」

「えー、どうする!?」



 何とか回避しながら四人組をよく観察する。どうやら四人とも女性……若い女子のようだった。俺を見つつ、キャッキャッと騒いでいる。


 俺も考える。さっきまではすぐに逃げるつもりだったが、状況が変わった。もしここで何も言わずに逃げたら、俺がモンスターを押し付けたようになるんじゃないか? 試したことはないけど、試すにはリスクが高すぎる。万が一、モンスターの押し付けなど迷惑行為に認定されたら……そして運営に通報なんかされたら……。ヤバいな、考えただけで背筋が寒くなってきた。


 どうするか、ここは彼女達と少し話をしたいところだが……戦闘で手が離せない。地味に面倒だな。



「あの、大丈夫ですか!?」



 と思っていたら、パーティのうち一人が一歩前に出て、俺に話しかけてきていた。俺のことを心配しているらしい。


 ここはどうするべきか……。手伝ってもらって一緒に戦うか……? それとも一緒に逃げるか……? 任せて俺だけ逃げるって選択肢もなくはないが。


 まぁ情報収集の為にも、できれば戦闘は続行したいと思っていた。そう考えると、共闘がベストだろう。だが、一緒に戦ってもらった場合、得られた情報はこの人たちとも共有することになる。ということは俺の独占情報ではなくなる。……迷うところだな。



「もし良かったら、一緒に戦わないか……?」



 瞬間悩んだが、結論としては手伝いを要請した。どうしても、ここで退くのはもったいないと言う気持ちを捨てきれなかったからだ。もし断られたら……とりあえず逃げるように注意勧告してから俺も逃げるしかないな。



「は、はい! みんな行こ!」



 言い方があんまり良くなかったかな、と心の中で反省していたが、すんなり了承してくれた。なんというか、いい人達だなー。



「……『フレイムウェーブ』」

「『トリプルショット』!」



 一人の呼び掛けに応じて、三人もついてくる。そして、魔法使いらしき人と軽装の、弓兵らしき人が前に出て攻撃を行う。恐らく広範囲攻撃のアーツだろう。



「大丈夫ですか? 『ヒール』」

「ああ……」



 そして僧侶らしき人が俺の回復をしてくれていた。別にダメージ自体は大したことないんだが、休憩も兼ねて甘えさせてもらおう。休んでる、その間にもガードキャットが次々討伐されていく。



「『ハイガード』!」



 そして俺を心配してた最初の一人は、鎧に大きな盾を持ち、槍を受け止めていた。どうやら重戦士系だな。みるみるうちにガードキャットが討伐されていく。やっぱりパーティでやると効率が全然違う。すぐにガードキャットは全滅していた。



「よーし、このままいこ! 『スナイプショット』!」

「あっ、ちょっ、待……!」

「ニャーア!」



 全滅させたところで、全員がケットシーに意識を向けた。そのうち弓兵が先陣を切って攻撃を仕掛けていた。俺が注意しようとしたが間に合わない。見たところ物理攻撃だし、効くわけがない。


 ガードキャットを全滅させたせいか、ケットシーはちょうど目を覚まし、再度召喚を行うタイミングだった。ケットシーが前足を振り上げると同時に、飛んでいった光る矢が真正面からケットシーに直撃する。


 そしてケットシーのHPゲージが()()していた。



「!? 今のは……」

たまにでいいから、ポイントを分けて下さい。

お願いします……。

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[良い点] 頑張って下さい! 応援してます!
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