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情報屋さんは駆け回る  作者: 仮面色
第2章 プレイヤーズ
16/25

13 情報屋さんと東方山

再開記念なので、2日連続更新です!

 さて、メインとなる武器は新調してもらったが、他の物も準備しておきたい。ポーションは余りがある。後は……そうだ、投擲用の武器が欲しいな。せっかく【手裏剣】スキルがあるんだし、魔法玉以外にも何か投げる物があったら便利だろう。例えば……投げナイフとか。文字通りに手裏剣があればありがたいが、流石にそんな物はないと思う。


 という訳で、武器屋にやってきていた。最初は引き返してキジトラにもう一回依頼しようかとも思った。だが、投げる為の武器となると、使い捨てになるだろうし、量が沢山必要になる。だったら、大量生産品を買った方が安く済むと思ったのだ。……速雨の代金で手持ちのお金も心もとないし。



「減ってしまった分は、モンスターを狩りまくって補充せねばな」




◆◆◆




「ありがとうございましたー」



 適当な武器屋に入って、ナイフを探してみた。すると、ちょうどよさそうな小さなナイフを見つけたので、一気にまとめ買いさせてもらった。その数なんと百本。これだけ買ってもたった一万Gで済むという。その代わり、威力はだいぶ低そうだった。



「よし、これで準備は整ったし、次はクエストを受けにいくか」



 武器屋を出て、その足で斡旋所まで向かう。到着した先は相変わらず、大勢の人で賑わっていた。


 人混みをすり抜けながら、依頼票が貼ってある掲示板まで歩いていく。大勢プレイヤーがいて、圧巻だ。


 ……こうして多くのプレイヤーを目にすると、色々な奴がいるなぁ。まだ第二の街だし、大半は似たような装備のプレイヤーが多い。それでも目立つ奴はいる。


 例えば、身長が二メートルはありそうな全身鎧の奴。着物っぽい服装に大剣を背負った奴。中には頭だけ兜を被って、ヘルメットっぽくしている奴もいる。


 一見するとコスプレにしか見えないが、それだけじゃない。この序盤の時点で目立つ格好をしてるってことは、強さよりも見た目を重視しているか、もしくは……他にない強い装備を手に入れる強さか伝手があるってことだ。前者ならいいが、後者は油断ならない。


 いや、どっちかといえば敵ではなく、お近づきになっておきたい。いいお客様になりそうだしな。だが、いきなり話しかけても不審に思われるだけだし、うまいこと近づくきっかけがあればいいんだが。



「ふむふむ……お?」



 目についたプレイヤーを片っ端から鑑定してまわってみた。四、五人ほど頭一つ抜けた強そうなプレイヤーがいる。この人達はおそらく近いうちにトッププレイヤーなんて呼ばれる可能性がある。



「観察はこれくらいにしとくか……」



 ひとまず強そうなプレイヤーはだいたい覚えた。だが、油断は禁物だ。この場にはいない強者だっているだろうし。



「とりあえず俺も依頼を受けるか」



 ずらりと壁一面、端から端まで大量の依頼票が貼り付けられている。実際こんなに依頼があるってどうなんだろう。商売繁盛と捉えるべきか、仕事が溜まっていると捉えるべきか……。


 まずは簡単なところから、採取系のクエストを何個か取っていくか。貼り出された中から、採取と書かれた奴を適当に五、六枚取り、受付まで持っていく。



「すいませーん」

「いらっしゃいませ。どのようなご用件でしょうか」



 話しかけると、受付嬢さんはいつも通りの丁寧な対応を返してくれた。



「こちらの依頼を受けたいんですが」



 依頼票を渡す。受付嬢さんは一枚一枚読み込んで確認しているようだった。しかし、途中から様子が変わった。読んでるうちに眉を潜めるような顔つきになっていったのだ。



「あの、すみません。本当にこれらを全て受けるのですか?」

「? ええ、そのつもりです」

「こちらの依頼は【東方山】と【西方山】が両方混ざっておりますが、よろしいですか?」

「えっ?」



 東と西? ……あっ。もしかして、街を挟む二つの山のことか? だがそれが何か問題なんだろうか。


 気になった俺は、詳しく話を聞く。よくよく聞いてみると、納得できる内容だった。なんでも、東側と西側では、事情がだいぶ異なるらしい。


 東の山にはそこまで危険はない。地形もなだらかだし、モンスターも大して強くない。だが、薬草や鉱石は割と多めにあるので、比較的安心して入っていけるらしい。忙しくて自分では採取に行けない人が依頼を出すことが多いんだとか。


 一方、西の山は非常に危険だと言われている。モンスターもかなり手強く、強さに自信のある人でも充分な準備が必要らしい。量はわずかだが、希少な植物等が奥地に生えているので、高級品などの材料として依頼が出される。


 見た目は似たような二つの山だが、中に入ると全然勝手が違う。その為、立ち入る際はそれぞれの山に対する準備をするのが普通で、両方の山に向かう依頼を受ける人はいないそうだ。


 なるほど……それで俺に確認をとってきたのか。てっきり並んでる山は二つとも同じようなものだと、思い込んでたからな……。場所をろくに確認せずに、採取系だけ取ってきたのはミスだったな。



「うーん……だとすると、どっちに絞るべきか」



 改めて返してもらった依頼票を見る。確かに、東側への依頼は報酬が安く、西側はかなり高めになっている。まぁ、両方の山を行ったり来たりするのは、移動自体も面倒だ。いくら俺がスピードがあろうとも、それはそれ、これはこれという話だ。


 少し考えて、腹は決まった。何事も簡単な方から済ませてしまうのが、一番だろう。面倒な事を先に片付けるって人もいるだろうが、俺は反対派だ。できることから終わらせる。



「じゃあ、東側の依頼だけ受けることにします」

「かしこまりました。では手続きをさせて頂きます」



 手続きを終えると、再び人混みの中をすり抜けて出口へと向かう。しかし、流石に全員避けきって通るのは難しい。途中で人にぶつかってしまった。



「おっと、すいません……あっ?」

「ああ、こっちこそすまん!」



 ぶつかった人に目を向ける。そこにいたのは、つい最近協力したばかりの男。真っ直ぐというか単純な剣士、アーサーだった。


 げっ……! まずいな。まさかこんなところで出会ってしまうとは。



「もー、何やってんのよ」

「だ、大丈夫……?」



 内心焦っていると、アーサーの後ろから、シロとウルルの二人がやってくる。三人が勢揃いしてしまった。できれば今は話したくないんだが、話しかけられる。



「ごめんなさい、うちのバカが迷惑かけて……大丈夫ですか?」

「おい、バカってなんだ」

「い、いえ。お気になさらず」



 いやいや落ち着け、俺。今は偽装状態だ。装備も初心者っぽくしてあるし、名前も【偽装】で変えてある。例え鑑定されたって見破ることはできないはず……。



「なぁ、あんたどっかで会わなかったか?」

「!?」



 なにっ!? こいつ、まさか俺の正体に気付いたのか……!?



「ち、ちょっと、覚えがないですね……」



 内心の動揺を抑えて、なんとか返事する。大丈夫か? 声が震えてしまったか?



「そうか……なんかそんな感じがしたんだけどな……勘で」



 野性動物か、こいつ。そんな曖昧な感覚で、正体を見破ろうとするんじゃない。


 なんとか誤魔化して、すぐにその場を後にする。アーサーは首を傾げていたが、特に追撃してくることはなかった。




◆◆◆




 街の東門から出ると、視界いっぱいに緑色が広がる。山に生えている無数の樹木だ。こちら側の山は比較的穏やかだと聞いていたが、さてどんなものだろうか。


 辺りには同じように、ぞろぞろとプレイヤー達が山に入っていく。雰囲気や見た目から察するに、生産職が混ざっているようだ。


 俺もいつもの黒いコートの装備を変えて、二本の刀を腰の右側と左側に、一本ずつ挿しておく。そのままずんずんと山の中に立ち入った。初見のダンジョンなので、【潜伏】を発動させておいた。


 地形的には山ではあるが、木が壁のようにずらりと並んでおり、まるで迷路のような地形だった。確か生け垣とかでこんな迷路見たことある。



「どんなモンスターが出るのか……聞いた話だと…「ニャ~」…おっ」



 ぶつぶつ一人言を呟いていると、そこに割り込むように鳴き声が聞こえた。だが周りを見回しても、何もいない。立ち止まって、もう一度ゆっくりと周りを見る。すると、木の根本に隠れるようにして、真っ白な猫が座り込んでいた。



「ニャ~」



 猫は鳴き続けている。俺を威嚇しているのか? でも潜伏を発動させているから、モンスターには気付かれないはず……。


 確認したが、まだ効果時間は続いていた。俺はよくわからないまま、猫にそろりと近づく。既に腰から鳴神は抜いていた。


 至近距離、刀が届く範囲まで近づいた。だが、猫は反応を見せない。鳴き続けるばかりで座り込んだままだ。毛を逆立てたり、尻尾を伸ばしたりもせず、警戒してないかのようだった。



「……えい」

「フニャッ!?」



 試しに刀で斬り付けてみた。猫は刀の振り抜いた方に飛ばされて、コロリと転がる。一回転して、元通りの姿勢に戻った。


 しかし、反撃してこない。一撃を加えたことで俺の潜伏は解除された。猫も俺に視線を向けている。だが、特に何もしてこない。変わらず、のんびりした声で鳴くばかりだ。


 なんだ? なぜ何もして来ない? 何かの罠なのか?


 疑心暗鬼に陥っていたが、そこでふと気付いた。つい、警戒して攻撃から入ってしまったが、それは間違いだ。初めて見る物には、モンスターでもアイテムでも何でもまず、鑑定を使うべきなのに。どうやら初めての場所に対して、知らないうちにワクワクしていたようだ。


 一回深呼吸して反省する。そして改めて猫に鑑定を使用した。



─────

コーリングキャット


非常におとなしい猫。例え抱き上げても攻撃を仕掛けてくることはないが、鳴き声で仲間を呼び寄せる。


─────



「……………………めちゃめちゃ倒し辛いな」



 攻撃してこない猫って、それもうモンスターじゃなくてただの猫じゃないか。しかも、抱き上げても攻撃しないってペットじゃないんだから。【大森林】にいたサンダーキャットの方が、まだ強かったぞ。


 いや、倒すのはおそらく簡単だろう。二、三回斬り付ければそれで済む。だが、なんというか……罪悪感が半端ない。さっきは警戒していたから普通に斬ったが、説明を見た後だと申し訳なくなる。動物虐待しているような気分だ。



「何を考えてこんなモンスター作ったんだ、運営……」



 まさか、倒し辛いモンスターというコンセプトでデザインしたのか。そんな風に現実逃避している間にも、コーリングキャットはずっと鳴いていた。


 すると、近くにあった茂みがガサガサと揺れた。反射的にそちらに目が向く。茂みを大きく揺らしながら、何かが飛び出してきた。



「これはまた……でかいな」



 現れたのは非常に大きな虎猫だった。コーリングキャットは普通サイズの猫だが、この猫はその何倍もの体を持っていた。例えるなら大型犬、ゴールデンレトリバーくらいあるんじゃないか? しかもやたら太っているというか、丸々とした体型をしている。


 こいつにも続けて鑑定をかけてみる。



─────

ヘビーリンクス


動きは遅いが、防御力は高く、倒しきるのにかなり時間がかかる。


─────



 コーリングキャットの鳴き声で呼び寄せられたのだろう。ムスッとした顔つきで、こちらを睨んでいるように見える。



「フミャ~オ!」



 互いに見つめ合う、一瞬の空白。だが、すぐにその空白は破れた。ヘビーリンクスは一鳴きすると、こちらに向かって突進してきた────!



「……遅いな」



 ……が、勢いとは裏腹に、ほのぼのした戦いになった。ヘビーリンクスは鑑定した通り非常に動きが遅く、のそのそとこっちに向かってくるものの、簡単に避けきれるスピードしかなかった。人間で言うと、早歩きしてる程度だ。


 戦士系とかならともかく、速度特化型の俺にとってはめちゃめちゃ遅く感じる。一回休憩してからでも、避けるのが間に合いそうだ。



「まぁ一応モンスターだし……攻撃してみるか。────『火弾』」



 手のひらから撃ち出された火の玉が、真っ直ぐ飛ぶ。ヘビーリンクスは避けようともしない。そのまま顔面に直撃した。



「おっ?」



 だが突撃は止まらない。というか、意にも介してないようだった。実際ヘビーリンクスのHPは、ほんの僅かに減っただけだ。だいたいで言うと、十分の一も減っていない。


 なるほど、防御力に自信があるのは伊達ではなさそうだ。だがこっちもまだ、魔法を一種類試しただけだ。まだまだ余裕がある。



「『風弾』! 『土弾』! 『水弾』! ……効いたか?」



 属性を変えて、次々魔法を撃ち込む。ぐるぐる回り込むように動いて一定の距離は取ってある。まぁ、俺の動きに合わせて、ヘビーリンクスも向きを変えて追跡して来ているが、やっぱり遅い。


 試していると、『水弾』が効いたような気がする。他の魔法より僅かにダメージが大きい。とすると、奴は火属性だろう。


 火属性だと……鳴神で斬ってもダメージはあんまり期待できないか。ここは新武器の出番だ。


 腰の左側に差してあった青色の刀を抜き、逆手に持つ。忍者刀・速雨の試し切りといこう。



「ふっ……!」



 ヘビーリンクスはダメージを受けても平気な顔で、ひたすらこちらを追ってくる。俺は腰を落として軽く踏み込むと、素早くヘビーリンクスの脇に回った。そして、刀を振り上げる様にして、思いっきりザクッと斬り付けた!



「フギャァ!!」



 先ほどから攻撃を平然と受け止めていたのに、初めて悲鳴が上がる。丸々とした巨体は斬りつけられた勢いでごろんと転がった。 一回転して元の姿勢に戻る。


 HPを見ると、今までで一番ダメージを受けていた。キジトラに鍛えてもらった刀だが、なかなかの高性能に仕上がっているな。


 こうなってくると、後は単純作業だ。固くてダメージが全く通らないならまだしも、ダメージが通るなら遅い敵なんて敵じゃない。


 と、思っていたが、防御力の高さはやはり驚異的だった。同じパターンで二十回以上斬りつけて、やっとヘビーリンクスは消滅していった。



「ごめん……!」



 ついでに鳴き続けていたコーリングキャットも、罪悪感が半端じゃなかったが、倒しておいた。最後に消滅する時も鳴いていたのが断末魔の声みたいで心が痛かった。慣れるまでに、トラウマになりそうだぞ、これ。


 強くは無いものの、ひたすら面倒だな……。ヘビーリンクスとは戦わないようにしようか。逃げ切るだけなら簡単だし。



「とりあえず、薬草を探していかないとな」



 山の中をうろうろ歩き回って、ようやく目当ての薬草が生えている場所を見つけた。その場所だけ、なんとなく木が間隔を空けて生えており、少し開けている。そして、緑色のギザギザした模様が入った草が密集して生えている。おお、明らかにそれっぽいな。だが念のため、鑑定を使って確認しておく。



─────

クーレ草


主にポーションの原料として使われる。そのまま食べるとかなり苦い。


─────

偽クーレ草


主に毒薬の原料として使われる。そのまま食べるとかなり甘いが、毒状態が続く。


─────



「………………んっ?」



 お、おかしいな。今、視界に映ってはいけない説明が、表示されたような気がする。


 もう一度、今度は一旦しゃがんでよーく顔を近づけて見る。本が読めるくらいの至近距離で、目をばっちり開いて見つめた。すると、このくらいの距離じゃないと気付かないが、葉の模様がギザギザではなく、波の様に丸っこい草がいくつも紛れ込んでいた。



「恐ろしいトラップだな……」



 依頼されたのはあくまでクーレ草の採取のみ。何も知らないプレイヤーがここまでたどり着いて、薬草を見つけた! と喜んで採取する。しかし、実際に持って帰ってみると、全く違う毒草だったという結果だ。なんて恐ろしい。


 難易度の低そうな山だと思ってたら、こんな落とし穴を仕掛けてあるとは。運営側の意図が見えるかのようだ。



「まぁ、それはさておき。両方とも採取するけどな」



 クーレ草はもちろん、偽クーレ草もありったけ摘んでおく。納品する分だけでなく、アイテムボックスに入るだけだ。一本取ってみて気付いたが、どうやらこの草は取ってもすぐに新しい草が生えてくるらしい。アイテム枯渇などにならない為の配慮だろう。


 他にも周辺をうろうろと回って、薬草を探していく。依頼された品は一通り集まったと思うが、どうだろう。ちなみに、薬草の生えている位置は、マップとメモ機能で一通り記入しておいた。これで次回からは最短ルートで山の中を移動できる。




◆◆◆




 採取が終わった後は、本業に移るとしよう。せっかく未知のダンジョンに来てるんだ。ここで集められるだけ、情報を集めておかないと損だ。


 まずはマップの空白を埋める作業からだ。迷路にずっと付き合ってたら、日が暮れてしまう。俺は【跳躍】を使って飛び上がった。



「おっ、いけそう」



 【跳躍】と【縮地】を駆使して木から木へと飛び移りながら、少しずつ移動していく。一気に移動してもマップ自体は埋められるが、実際に自分の目で見てみないと、どんな地形かとかはわからない。


 山の麓からぐるぐると渦を巻くように少しずつ上へ上へ登っていく。隙間なく、見落としが無いようにする為だ。



「ふーむ……やっぱりヘビーリンクスには苦戦してるようだな」



 たまにモンスター、またはプレイヤーが徘徊しているのも見かける。モンスターの方は今のところ見かけたのは全て猫型モンスターだった。どうやらこの山は猫だらけのようだ。実際にそんな山あったら行ってみたいところだが、モンスターが相手では長居はできないな。


 プレイヤーも大勢来ている。密集してるって程ではないが、なかなか人数は多そうだ。ギルドにいる時は気にしてなかったが、装備品に注目するとなかなかよさそうな物が多い。生産職の技術も向上している証拠かもな。



「俺も知り合いを作った方がいいな……」



 刀に関してはキジトラが専属っぽくなっているが、他の装備も強化した方がいいかもしれない。


 ぼんやりそんなことを考えながら移動していく。もうすぐ頂上といったところだ。ここまで来るとプレイヤーの姿は見かけなくなっていた。無理もない。上に行けば行くほどモンスターは強くなっている様だし、そこまで上がって来れるほどの強さはまだ無いんだろう。俺の裏技みたいな移動法でもなければ。


 頂上付近までたどり着いた。もう少しで見える。だが一つ困った事が起きた。頂上は背の高い木に囲まれているが、本当にてっぺんと呼べる場所には木が生えていない。一回降りてから確認するしか無さそうだ。



「辺りにはモンスター無し……だが、念を入れておくか、『潜伏』」



 気配を消して地面に降り立つ。刀を抜いておいて、そのまま歩いていく。



「これは……石像か?」



 頂上の中心部、そこにあったのは巨大な石像だった。全長は三メートルを越えるだろう、猫の像。普通の猫と違い、招き猫の様に座り込んで、目を閉じた猫の像だった。頭には王冠らしきもの、肩にはマントがかけられている。全部、石を彫って作り込まれた、なかなか精巧な像だ。せっかくなので鑑定をかけてみた。



─────

猫王の巨像


かつてこの山に住んでいたと言われる、猫王の石像。まるで本物のような出来映え。


─────



 こんなモンスターが住んでいたのか……何かダンジョンの設定だろうか? 像の周りを回って、様々の角度から眺めてみたが、何も無い。無駄足だったか……それとも何かが足りないのか?


 一瞬迷ったが、今ここで考えても仕方ないことだ。記念にスクリーンショットでも撮影して帰るとしよう。石像をぺちぺち叩いていたその時だった。



「「「「「ニャーア!!」」」」」」

「な、なんだ?」



 突然、猫の鳴き声が大音声で響いた。慌てて振り向くとそこに居たのは、大勢の猫だった。だが普通の猫とは違う。


 猫は全て二足歩行で立ち上がり、西洋風の甲冑を身につけていた。銀色の兜に胸当て、それに長い槍を俺に向けて構えている。白、黒、縞、三毛と猫達の模様は色とりどりだったが、武装しているところだけは共通だった。



─────

ガードキャット


王の護衛を任された猫。多数による集団戦を得意とする。


─────



 鑑定してみたが、どうやら近衛兵のようなものらしい。しかし、おかしいな。さっきは周辺にモンスターなんて影も形も無かったのに、いったいどこから現れたのか。


 考えられるのは……俺が石像に近づいたから出現したのか? 試しに石像をもう一度軽く叩いてみた。すると地面から浮き上がってくるようにして数匹の猫が現れ、俺を取り囲む配置に加わった。予想通り、石像に触れるのがスイッチとなって現れるタイプのモンスターらしい。誰もいないからといって、【潜伏】が切れてもかけ直さなかったのが裏目に出たか。


 なんとなく冷静に状況判断をしているが、実はこの状況は割とまずい。まずここが開けた場所ってことだ。防御力の低い俺には障害物があった方が有利だが、ここでは望めそうにない。うっかり触れる可能性があるから、石像にもあんまり近づきたくない。


 あと、逃走も厳しい。四方八方を囲まれている以上、逃走経路がない。隙間なく槍を構えているので、すり抜けるのは難しい。跳躍で逃げることも考えたが、感覚でわかる。ここからじゃ加速して跳んでも、木までは届かない。



「……あれ? もしかして詰んでる?」



 俺が呟いたのが契機になったのか、猫達は一斉に槍を突き出してきた。そのまま突撃してくる。



「『ハイジャンプ』!」



 慌てて飛び上がったが、やはり距離が足りない。猫達は落ちてくる俺に合わせて、槍を上に向ける。このまま串刺しにするつもりだ。



「『火弾』!」



 魔法を撃ち込んだが、槍が邪魔になって猫自身には届かない。何発か撃ってみたが同じことだった。



「ぐっ! …………ぐはっ!?」



 両腕で頭と胸をかばうように構えて、身を丸く縮める。正面から突き出された槍はなんとか腕で止めた。が、次の瞬間背中に衝撃が走った。多分背中側から刺されたんだろう。


 そのまま動けずにいると、徐々に目の前が暗くなっていく。そして完全に真っ暗になった。

ブクマがどんどん減っていきます……。


改稿しない方が良かったという、読者様からのメッセージでしょうか……?

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