プロローグ
新作投稿です。よろしくお願いします!
「なぁなぁ、いよいよ今日だな?」
「ん?」
高校に入学してから一ヶ月ほど経った、ある日の放課後のことだ。俺、黒崎飛躍は自分の席でうとうとしていたところ、唐突に話しかけられた。
声の方に振り向くと、一人の男子が立っていた。坊主頭とまではいかないが、さっぱりと刈り揃えた短髪が目立つ。制服の上からでも分かるくらい、がっしりとした体つきでよく鍛えられているのが分かる。人懐っこい笑顔を浮かべて俺の言葉を待っているようだ。
「えーと……同じクラスの……五所川原君だっけ?」
「いや誰だよそれ!? 福町だよ! 福町閂!」
「ああー……も、もちろん知ってたぞ?」
「疑問文じゃねーか! 絶対忘れてたよなぁ!?」
「…………チッ」
「舌打ちした!?」
どうやら誤魔化されてくれなかったようだ。名前を忘れていたのは本当なので強く反論できないし、仕方ない。
それにしても、何の用だろう? 同じクラスになってから、ほとんど話したことはないはずだが。
「で、何の用なんだ?」
「おいおい、何言ってんだよ。今日は『ビリオン』の正式なサービス開始の日だろ?」
『ビリオン』とは完成したばかりの、新作VRーMMORPGのことだ。様々な大企業が出資、及び技術提供して作られたとの触れ込みですごく話題になっている。
膨大な数の職業やアイテム、全てのNPCにAIを組み込んでいるなどクオリティが圧倒的に高いのに、最初のダウンロード料以外は一切無課金で遊べるという冗談みたいなゲームだ。
利益を度外視していることから、どこかの資産家が道楽の為に寄付したんじゃないかとの噂も流れている。
福町の名前は忘れていたが、どんなやつかはだいたい知っている。部活には入っていないようだが、教室でも運動部の連中とよく話しているし、いわゆるリア充に近いタイプだと思う。一見、ゲームに興味なさそうに見える。
「俺、結構ゲーム好きなんだよ。MMOもいくつかやりこんでたし」
そう言って、これまでプレイしてきたゲームのタイトルをいくつか挙げてきた。有名どころからマニアックなものまであって、にわかゲーマーじゃなくて熟練者であると分かる経歴だった。
「なるほど……お前が見かけによらず、ゲーマーなのは分かった。でもなんで、俺にその話を振ってきたんだ?」
俺は物静かだとよく言われるタイプで、普段人とあんまり話さない。もちろんこいつとも話したことはないし、ましてゲームの話題も出したことがない。
俺と雑談したかっただけにしても、いきなりその話題はちょっと無理がある気がする。
「え、だって黒崎、ベータテストに参加してただろ?」
「なぜ知ってる!?」
「俺も参加してたんだよ。たまたま見かけた時に、なんか雰囲気とか似てるなーって思ってたんだよ。で、よく見たらプレイヤー名が『ヒヤク』ってなってたから、多分本人なんだなって」
しまった、失敗した……! ベータテストの抽選に運よく当たったから気を抜いていた。すごく倍率高かったし、どうせ知り合いもいないだろうと本名を使ったのが間違いだった。
「ベータだけでもめちゃくちゃ面白かったし、黒崎も正式版やるだろと思って話しかけてみたんだ」
「そういうことか……。まぁ、帰ったらやるつもりだけど」
「だろー! じゃあさ、良かったら俺と一緒にプレイ……」
「断る」
「……しないか、って断るの早いな!?」
なんとなく気付いていたが、やっぱりそういうことか。
「悪いな。俺は皆でワイワイやるより、マイペースに進めたい人間なんだ」
「そこをなんとか!」
「無理」
「一回だけでも!」
「拒否」
「なっ、頼むよ!」
スパッと断ってるのに、しつこく食い下がってくる。とうとう頭まで下げ始めた。まずい、他のクラスメイトがチラチラこっちを見ている。
「この通り!」
「わかった、わかったから、頭上げろって……!」
「じゃあ一緒に遊んでくれるか!?」
「いやそれは…………なぁ、どうしてそんなに俺にこだわるんだよ?」
一昔前のゲームと違って、これはMMORPGだ。遠く離れたところの人とも遊べるのが醍醐味なんだから、別に俺に頼み込まなくても、ゲーム内でいくらでも友達なんて作れるはず。こいつみたいに社交的な奴なら、そう難しいことじゃないだろう。
「え、あー……。俺さ、誤解されがちなんだけど、体を鍛えてるのは健康の為っつーか、必要だからやってるだけでさ。どっちかといえばインドア派の人間なんだよ」
「へぇ……。意外だな」
そんな鍛えられた体つき見たら、たいていの人はアスリートか何かだと思うだろうな。
「中学の時は運動部の連中とつるんでることが多かったんだけど、そいつらはあんまりゲームしなくてさ……」
「それは分かる」
「学校でもゲームの話したかったんだけど、あんまりできなかったんだ」
実際、スポーツに打ち込んでたらゲームをやり込む暇は無いだろうし、やるとしても時間つぶし位だろう。
「だから高校に入ったら、今度こそ一緒にゲームできる奴と仲良くなろうと思ってたんだ」
「それで俺を見つけて、仲間にしようと」
「ああ、そういう訳だ」
なるほど、筋は通ってるな。
「うーん……その話聞いてしまうと、一緒に遊んでやりたくはあるが……」
腕を組んで考える俺を、福町は不安そうに見つめていた。俺は少し悩んだ末に結論を出した。
「じゃあ、こうしよう」
「どうするんだ?」
「やっぱり俺は、始めてからしばらくは一人でプレイする」
「マジか……」
俺の話を聞いて、福町は分かりやすくガクッと俯いていた。無理もないと思うが、まだ話は終わってない。
「最後まで聞けって。その後ある程度慣れてきたら、合流してプレイするってことでどうだ?」
「おお……! それでよろしく頼む!」
今度はきっちり頭を九十度になるくらい下げてきた。こういうところ見ると、体育会系っぽく感じるけどなぁ。
「よし、話も決まったことだし、俺は帰って早速プレイするわ」
「ああ、本当にありがとな! 一緒に遊べるの楽しみにしとくから!」
俺は手早くカバンに教科書類を詰め込み、席を立った。明日は土日だし、ガンガン進めたいところだ。予定をぼんやり考えながら、帰路についた。
「…………まぁ、お前を誘った理由は、それだけじゃないんだけど、な」
◆◆◆
「ただいま」
放課後、寄り道もせずに急いで家に帰ってきた。早くゲームがしたくて待ちきれない。靴を適当に脱ぎ捨て、リビングの横を通り過ぎる。
「んぉ!?」
いや、通り過ぎようとしたところで、ガクンと背中からの衝撃に襲われた。そのまま、おそるおそる振り返ると、目の前に顔があった。
「んふ~」
「よーちゃん……抱きつくのは止めて、っていつも言ってるだろ……」
「え~? いいでしょ、ひーちゃんは大事な弟なんだから~」
間延びした喋り方、肩までで揃えたボブカット、とろんとしたたれ目、雰囲気の全てがほんわかしたこの人こそ俺の姉、黒崎夜目だった。
「毎日抱きつくのは、やり過ぎだってば……」
「そんなことないって~。普通だよ~」
ご覧のように俺のことを溺愛しており、隙があればスキンシップを取ってくる。いわゆるブラコンだ。正確に言えば、実の姉ではないのだが……その辺の事情は省略する。
「それにひーちゃんてば、またゲームに没頭するつもりなんでしょ~? 今抱きつかないでどうするの~」
「頼むからフルダイブ中に体をいじるのだけは、やめてくれよ……。エラー起きるから」
VR機器の使用中、体に強い衝撃を受けると安全機能が働き、強制停止してしまう。以前、プレイ中に抱き付かれたせいでひどい目にあった。
「私もゲームしたら、ひーちゃんと遊べるかな~?」
「それはそうだけど……RPGだぞ? よーちゃん、モンスターと戦うとか苦手でしょ」
「むう~」
俺が指摘すると、不満そうに頬を膨らませていた。俺と遊びたいのはやまやまだけど、事実だから言い返せないってところだな、この顔は。
「ゲームしてない時はよーちゃんに構ってあげるからさ、ね?」
「……うん、わかった~」
頭を撫でながら宥めると、素直に引いてくれた。基本、聞き分けはいいし、俺が困るような無茶はしないから、俺も怒ったりはしない。なんだかんだで、いい姉だ。
よーちゃんを宥めたところで、早くゲームをする為、二階の自分の部屋へと向かった。