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用心棒 新堂守子の上京  作者: 福 青藍
2/2

チョコレート・ジェラート

そこまで高くないが、慣れないヒールで飛行機を降りた。荷物をとってロビーへ出ると、細身の女の人が手招きした。

「守子ちゃん。こっち。」

お母さんと目元がそっくりな叔母さん。彼女の名前は吉原栄。お母さんのお姉さんにあたる人だ。これから、この人のお家でお世話になる。会社員で、独身の叔母さんはお母さんに似て神経質そうな顔立ちをしていた。

叔母さんの後に続いて、都会の雰囲気漂う空港を歩いていた。もうすぐ出口というところで、

「守子ちゃん。何か食べたいもの、ない?」

ぎこちない笑みで叔母さんが問いかけた。私は反射的に

「ないです。」

と答えて、小さな声で

「都会っぽい食べ物とか、食べてみたいです。」

と言った。

結局、空港でソフトクリームを買ってもらい、叔母さんと食べた。叔母さんは、

「飛行機はどうだった?」

とか

「最近、お仕事はどう?」

と聞いた。それでも時たま訪れる静寂に、私は胸をドキドキさせた。

叔母さんの後に続いて大きな駅に行き、電車に乗って叔母さんの家に行った。立派なマンションの6階で、なかなか立派なところだった。

叔母さんにもんじゃ焼きを作ってもらい、お風呂から上がるとそのまま寝てしまった。


いつものように5時に起きてお父さんからもらった携帯電話を見ていた。仕事に使うこともあるので、電話帳は大きな会社の社長、警察に政治家、総理大臣まであって、到底もうすぐ中学生になる女の子の携帯とは思えなかった。新しく入った電話番号は、『吉原栄』。

しばらくすると、おばさんが起きてくる気配がした。おばさんは眠そうな目をこすり、

「あら、早いわね。」

と驚いたように言った。もう着替えも済ませ、目がぱっちり開いている私とは裏腹に、叔母さんはまだパジャマ姿で、たまにウトウトと目を閉じていた。叔母さんも着替えを済ませ、仕事の準備をしていた時、私の携帯がブルブルと震えた。警察からだ。

「はい。新堂です。」

「こちら警察です。大庭食品の社長邸に、強盗が入った様子なんですけど、社長のガードマンをお願いします。」

早速仕事の依頼だ。私の携帯にかけるよう、お父さんが仕込んだのだろう。

「はい、今行きます。えぇと……。どこですか?」

警官が電話口で微笑んだ様子が目に浮かんだ。

「〇〇駅まで来ていただけたら、迎えに行きますので。」

私は電話を切ると、部屋に戻ってコートを羽織り、ワイヤーガンと小刀を持った。


叔母さんに道を教えられて、警察のいる〇〇駅に行った。40くらいの警官が私を呼んだ。

「こちらです。」

意外と駅の近くで大きな家だったが、実を言うと実家の方がでかかった。田舎だから土地が安いのだ。

警官に連れられて80くらいの老人の元へ来た。彼が社長だそうだ。

「盗まれたものは、美術品と骨董品。お金が少々だそうだ。」

警官はそう行って去っていった。社長は、突然小さな女の子が来て、驚いた様子だった。

「用心棒の新堂守子と申します。齢は12ですが、ちゃんと仕事はできます。」

私はそういって名刺を取り出した。社長もまだ疑わしそうな目をしていたが、優しそうな声で言った。

「大庭食品グループの、大庭良雄です。お嬢さんはもう働いているのかい?」

「家業の手伝いです。」

社長は微笑んだ。

「操作の邪魔になるようじゃな。散歩にでも行こうか。」


社長はもうすぐ88歳だそうだ。

「米寿ですね。」

というと、

「若いのに、よく知っておるな。」

と感心された。社長は、私の話をとても聞いてくれた。

「昨日来て、今日仕事とな。感心、感心。」

そう言って、ふぉっふぉっふぉと笑った。また、都会のことをよく教えてくれた。偶然だが、社長も生まれは愛媛だそうだ。

「お嬢さんも愛媛なのか。」

そう社長が言った時だった。道路で車がぶつかった音がした。振り返ると、ぶつかられた方の車はボンネットが大きく潰れていた。ぶつかった方の車から1人の男が出てきて、ぶつけた車を見て身震いした。

「僕は……僕はわざとじゃないんです!」

男はそう言って逃げ出した。慌てて歩行人が反射的に身を避けた。私の方も反射的に男の方へ走り出した。

社長の驚いたような視線が背中に刺さる。

男が道を塞いだ私の体を押しのけようとした。男の襟を掴んで、引き寄せる。肘の下あたりも握り、一気に距離を詰め、さらに引き寄せ、バランスを崩させる。。右のつま先を半円を描くようにして男の足を刈る。

大内刈り。

地面に倒れた男の首に手を回し右手を脇の下で抑える。騒ぎを聞きつけた警察と、野次馬が駆け寄ってくる。警察が野次馬を追い払い、さらに駆け寄ってきた。そして、驚いたように私を見る。

「あれ、新堂さん。」

案内をしてくれた警察官が、驚いたように私を見る。ぶつけた車のところに戻らされている男の後ろ姿を見て、警官が言った。

「あの男、昨日の強盗だったそうな。気が動転していたんだろう。車から盗まれた絵が出てきた。」

社長がゆっくりと寄ってきた。

「ありがとうな。お嬢さんや。」

社長が微笑んだ。私は少し申し訳なく思った。

「いや、でも……。私の任務は社長のそばにいることでしたから。」

社長も警官も笑った。警官は言った。

「社長には何もなかった。犯人は君の手で捕まった。これ以上にいい結果はあるか?」

社長も言った。

「儂はお嬢さんのこと気に入ったぞ。勇敢で、態度も良い。」

またふぉっふぉっふぉと社長が笑った。


依頼者 大庭良雄

依頼内容 ガードマン

成功報酬 25000円とチョコレート・ジェラート

結果 強盗犯を逮捕。社長と仲良くなった。

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