ストライク『ファンブル』ゲーム
僕と彼女は付き合っている。
「先輩、暇ですよね。知ってますよ。やる事がないなぁ。あー、暇すぎて殺されそうだっていう顔をしています」
僕の家、勉強机がない僕の部屋には真ん中にテーブルが設置されていてその上には山の様に置かれた課題があった。
そして僕と課題の間に割り込み覗き込むように、彼女がニヤニヤしながら僕の心情を語ってきた。
勿論百パーセント脚色している。
たくさん出された課題の山を消化するだけの生活を脱却しようとしている僕はその努力の成果もあり、ほとんど片付けた。
そして邪魔する彼女は課題を済ませていないのだろう。
僕は彼女に嫌そうな目を向ける。
「なわけないだろう。僕はお前みたいに暇じゃないんだ」
「嘘だー。先輩そんな顔をしてないですよ、絶対暇だっていう顔をしていますよ」
なんでこうも彼女は自分勝手なのだろうか。
「あのな、今から連休に入る。今年はなんと十連休だ。学校の創立記念日もあって十連休だったものが十一連休にもなる。意味がわかるか?」
今年は祝日が重なったりしたことで十一連休になる。そして今日はその十一連休の三日目。ほとんど終わらせた課題によって残った九日間は暇となる。
その質問に彼女は特に何も考えていない顔をして僕を見ていた。
「うん、私と遊ぶ時間がたっぷりあるってことでしょ?」
「……」
大体正解だけど、個人的には全然違うと言いたい。
早く終わらせたい理由はいくらでも作ることはできる。
その理由の一つをあげるなら、彼女との遊ぶ時間……もとい、あんなことやこんなことができる時間が増えるわけだ。
僕も高校生だが、彼女の彼氏だ。
「んもー。先輩ったら素直になればいいんですよ。素直に『はい』と言ってくれれば私の全部あげるのに」
「それはお断りだ」
僕は彼女の『お誘い』を拒否する。
「僕はお前の全てをもらえるほどの人間じゃないし……」
「先輩……」
僕はまだ高校生だ。経済力も何もない、親の脛を齧らねば生きていけない子どもだ。
だから彼女の全てを受け入れたとして僕一人が受け止めるわけではない。
「先輩ってそこまで真面目な人でしたっけ?」
「お前今の一言で婚期が伸びると思った方がいいぞ」
口は災いの元って言うだろう。
「あはははは、そんなこと言う先輩は本当真面目ですね」
「どうとでもいえ」
そのためにも今は僕がしなきゃいけない方は課題を全て終わらせる事だ。
「……ところでお前、課題は?」
「ふふん。ゲーマーの私には造作もないことですよ」
「……ゲーマーの私とはなんだ?」
「簡単なことですよ。攻略本を使ったんです」
チート……どう言うことだ?
「ゲーマーというのは困難に対してはベストな状態で全力を尽くすのです。この三日間……いや私は二日で全てを終わらせてきたのですよ」
ドヤ顔しながら彼女は話す。
攻略本とはなんなのだろう?
「……あ、お前まさか……!」
「そのまさか、同級生の宿題を写させていただきました」
「おまえ、ほんっとう最低奴だな!」
たまにいる勉強したつもりだけど、実は他人の課題を写させてもらった奴。
彼女はその一人でチート使いだった。
「おまえ今すぐ消して書き直せ。僕が許さないぞ」
「え、やですよ。私は私なりの全力で課題を終わらせたんです」
「いやいやいやいや、それ自分の全力じゃないだろ?ダメじゃないか」
ふふん。と彼女は鼻で笑う。
クズの顔をしていた。
「先輩。勝てばよかろうなのだ」
「くっ」
「それに全部友達のやつを写したわけじゃないですよ?私が苦手の科目を友達に、友達が苦手の科目を私がやって終わらせた時点で交換して写したのです。どうです?チートといってもちゃんと課題をこなしています」
「でもそれレギュレーション違反じゃない?」
課題とは一人でやるものだ。
たしかに期日までに課題をこなせとは言われているが、誰もマルチプレイをしろとは言っていない筈だ。
「でも、誰も一人でやれとは言っていないですよ?クラスメイト間が作った暗黙の了解であって私には関係ありません」
「絶対怒られるぞ」
「怒られた時はその時です。少なくとも私のこの事情を知っているのは先輩と私とその友達だけです」
「……」
確かに教師には一人でやれとは言っていない。
確かに休日だ、誰かと会うことくらい許される。
「どうかしましたか?人間強度が落ちてしまう先輩?」
「……ほんっと嫌味だな」
僕は何も反論ができなかった。
「はー、課題終わりっと」
「お疲れ様です先輩」
彼女の課題のやり方とかを考えていて頭が痛くなるような状況で僕はなんとか課題を終わらせることができた僕は両腕を伸ばして仰向けになる。
彼女は僕のベッドで横になりながらスマホでパズルドラゴンをやっていた。
「……」
「どうかしましたか?先輩、私に何か付いています?」
僕の視線に気づいた彼女はスマホゲームを止め、ベッドから起き上がり僕の隣に座った。
体が密着する面積ができて、彼女の体温やら彼女の香りがふわりと漂ってくる。
そのほんのちょっとな出来事に僕はどぎまぎした。
「んふー、先輩幸せですね」
「僕は幸せなのか?」
そうですよ。と彼女はいう。
「可愛い後輩がいて、その後輩が彼女で、先輩の家でデートをしている。この状況を幸せと言わずなんというのですか?」
「……まぁ、確かに幸せだろうな」
彼氏、彼女がいない奴から見れば、今この状況は『羨ましい』やら『妬ましい』になるのだろう。
彼女はむふーと何やら不思議な吐息をした後、僕の肩に頭を預けてきた。
「……」
これは頭を撫でろという意思表示なのか。
僕は恐る恐る彼女の頭を指先でなぞるように触れた。
サラサラとした髪が指先を擽る。
「にへへ」
「笑い方が気持ち悪い」
「先輩の撫で方が恐る恐るすぎて可愛いです」
「……ふん」
少し乱雑に彼女の髪を撫でた。
「先輩ちょっと痛いです」
「気のせいだ」
彼女は頭をあげて僕を見てきた。
じっと見つめてくる彼女の顔を見つめ返すと、そういえばここまで近いところで彼女を見たことなかったなと思った。
そして頬に熱を帯びた僕は彼女から目をそらす。
「先輩ウブですねー」
「うっせ」
そういうおまえも少しだけ紅潮しているのわかっているからな。
「そうだ。先輩。今日もゲームしませんか?」
彼女は僕から離れるように自分の鞄の元へ四つん這いで向かう。
てか、おまえスカート。中身見えてる。
「拒否権は?」
「ありません!」
鞄を手繰り寄せてきた彼女は僕を見て即答する。
はぁ、そうですか。
「今日は『ストライク』というゲームをやりましょう」
「ストライク?ポケモンか?」
「任天堂さんに謝ってください」
「じゃあボーリング」
「それなら今からボーリング場行きましょう」
彼女は面白くなさそうな顔をして僕を見てきた。
「で、ストライクとはなんぞや?」
「ふふん。ストライクはこれを使って遊ぶものです!」
そして鞄から取り出したのは黒い巾着袋だった。
「……何が入ってるんだ」
「あ、これサイコロが入っています」
彼女は巾着袋の口を緩め、ひっくり返すと白いサイコロが十二個でてきた。
「ストライクというのはざっくりいうとサイコロの出目を合わせて回収して最後までサイコロを残した人が勝ちです」
「ふむ」
彼女は六つのサイコロを僕に渡してきた。
そして今度は鞄の中から分厚いものを取り出してくる。
「ここにサイコロを一個ずつ投げ入れていって、出目が揃ったら回収して次のプレイヤーに回すゲームです」
展開させると、それは闘技場みたいなボードだった。
楕円形にそこがあって、まわりは闘技場みたいにバリケードになっている。
そして彼女はそこにサイコロを一つ投げ入れる。
「まず最初のプレイヤーはサイコロを投げます。最初は四ですね。そしてプレイヤーは続けて二個目を投げます。この時、そのサイコロに当てて出目を操作をしても構いません」
そう言いながら彼女は二個目のサイコロを投げ入れる。
カチンと音を鳴らしてサイコロは転がり、一個目のサイコロの出目は二。二個目のサイコロは三になった。
「今回は揃いませんでしたが、もし揃った場合。揃ったサイコロを回収して次のプレイヤーになります」
そう言って出目が三のサイコロを一個目のサイコロと出目を一緒にして回収する。
「そして、もし出目が違う場合は三投目を行います、この時もサイコロにぶつけても構いませんし、そのまま投げても構いません」
そう言って二個のサイコロが入っている闘技場に三個目のサイコロを投げ入れる。
何も当たらずに転がり続けた出目は一だった。
「そして、出目が一の場合は一個のみで除外します。そしてプレイヤーはそこでプレイを中止します」
「ほう、なるほど」
つまり、出目が揃うまで、出目の一が出るまで投げることができるわけか。
「あと、場外も除外です。そしてプレイヤーもプレイを中止します」
「ギャンブルみたいだな」
「私が大好きなゲームですよ」
ニヤニヤと笑いながら彼女はいう。
最後までゲームをやり続けるサイコロを持っていれば勝ち。
単純なゲームで面白そうだ。
「どうですか?やりますか?」
「仕方ない。やってやろうじゃないか」
彼女は嬉しそうな笑顔を作った。
「じゃあ、先攻はわたしから行きますね」
そう言って彼女はサイコロを投げる。
最初の出目は五だった。
「じゃあ二投目」
そう言って彼女はサイコロをぶつけるように投げる。
一個目のサイコロは弾かれるように動いたがバリケードに阻まれ、五のまま。
弾いたサイコロはへんな軌道を描きながら出した出目は六だった。
「なかなか難しいですね」
「だな。というか次三投目だけど大丈夫か?」
「先輩。確率というのはゼロに収束するんですよ」
……つまりどういうことだってばよ。
「気を取り直して!よっ!」
そう言って彼女はサイコロを投げる。
二個目のサイコロにぶつかったサイコロは四の出目で、ぶつけられたサイコロの出目は二だった。
「……」
「なぁ、おい」
「まって!ちょっと待ってください!」
明らかに焦っていた。
これまで彼女かここまで焦ったのを見たことはない。
テストで赤点ギリギリの時も、全然焦る様子はなかった。
しかしこのゲームで一個も上がりがない状態でしかもまともなプレイもせずに終わることに彼女はこれまで以上に焦っていた。
「ちょ、深呼吸をしろ。焦りすぎだ」
「邪魔しないでください。先輩。これはわたしの勝負です!」
「……えぇ」
というか出目悪すぎだろ。おまえ。
彼女は慎重な手つきで五個目のサイコロを投げ入れる。他のサイコロに当てずに転がり、止まる。
出た出目は三だった。
「よし、一応クリア……!」
「だけど、一発目から三つ失う出鼻くじき……」
「今度はちゃんと投げますもん!」
彼女は頬を膨らませて僕を睨んできた。
「今度は先輩の番ですよ」
「はいはい」
闘技場に出ているサイコロ三つ。
出ている出目は二、四、五の三つ。
「ほい」
「さぁ!わたしと同じ羽目になるのだ!」
恨みを込めていう彼女に僕は嫌そうな顔をした。
コロコロと音を鳴らしながら闘技場のバリケードをなぞるように転がっていくサイコロ。そして他のサイコロに行く手を阻まれたサイコロが出した出目は……。
一だった。
「……ぶっ!」
「な、そんなバカな……!」
「先輩!一発目から出目が一とか爆笑ものですよ!」
膝をバンバン叩きながら笑う彼女を僕は睨んだ。
「ひー、ひー、先輩本当運なさすぎですね」
「おまえに言われたくねぇし」
現状で、僕の持っているサイコロは五つ。
彼女は三つ。明らかに僕の方が有利だ。
「先輩まだまだですよ。わたしは逆転劇が大得意なんです!」
そう言って彼女はサイコロを投げ入れる。
カチンと音を鳴らしたサイコロはコロコロと動いたが、出目は三だ。
そして投げ入れたサイコロはボールよろしく場外に飛んで行った。
「……」
「……」
なんというか居た堪れない。
お互い出番が悪すぎるこの状況。
どっちが先に終わるか、わからない状況へとなりました。
わなわな震えていた彼女に僕は、どう声をかけたらいいのかわからなかった。
「お、おい」
「先輩賭け事しましょう!」
「お、おう?」
唐突すぎてびっくりした。
「負けた人は勝った人の言うことをなんでも聞く!ってどうですか!」
「……なんでも?」
僕の耳は疑っていた。
なんでもと言ったな?こいつ。
つまり、おっぱいを揉んでもいいってことだよな?
「そうなんでもです!先輩に勝つためには賭け事が必要です!」
つまり、キスしたりしてもいいってことだよな?
「それは……本気かい?」
「はい!もちろんです!」
この出目が最悪の二人が賭け事をする。
どうなるかわからない状況で。
「……ふふふ、ふふふふ」
僕は思わず笑みをこぼした。
「やっとやる気になりましたか。先輩」
「あぁ、僕の本気をやっと見せる時が来たようだ」
そう、僕は下半身に正直な生き物だ。
「私も全力で相手しますよ……!」
つまり、あーんなことや、こーんなことをしても何も言われないってことだよな!?
「よっしゃぁぁぁぁぁ!かかってこいやぁぁぁ!」
そう言って僕はサイコロを振り投げた。
それからは出目の悪さが露見しまくった。
「くっ、なんでそこで一が出るんだよ!二投目で一とか損しまくりじゃねえか!」
「ふふふ、先輩の運もここまでです!ぜったいかぁぁぁぁつ……あっ、なんで場外なんですか!このサイコロ細工されてませんか!?」
「悪かったな!僕のサイコロはスパイだから持ち主の言うことを聞かないんだ!」
「なんで……はっまさか!」
「そのまさか!手汗で濡らしておいたのだ!」
「……あ、いや先輩それは幾ら何でもひどすぎません?手汗でサイコロを細工とか酷すぎると思いますけど」
「ふふふ、勝てばよかろうなのだ!」
「この人私のセリフをパクりました!パクりましたよこの人!」
「そもそもこのセリフおまえのセリフじゃないだろ!先生に謝れ!」
「負けられません!負けられませんよ!」
「よし、僕の番!」
僕の手持ち、三。
彼女の手持ち、四。
闘技場にあるサイコロ、二。
場外に出た、出目が一のサイコロ、三。
「よっしゃ、回収!」
「ちぃ!先輩やるじゃないですか。
「ふはははは、運命の女神は僕に笑いかけたやうだぞ!」
「古い言葉を使っても面白くありません!よし、回収!」
僕の手持ち、三。
彼女の手持ち、五。
闘技場のサイコロ、一。
「くっ、運命の神よ!僕に力を……だぁぁぁぁ!?ナンデ!ナンデ場外!?」
「ふはははは!運命の神様は私に微笑んだぞ!」
「まけてたまるかぁぁぁぁ!」
白熱した勝負。
それは出目の悪さによって拮抗状態が続く。
そして消耗戦のように繰り広げられる状況。
最終局面。
僕と彼女のサイコロは一個ずつ。
闘技場のサイコロ三つ。
という意味不明な状況になっていた。
「はぁ、はぁ、まさかここまで白熱するとは思いませんでした」
「手汗握る試合とはこういうことなんだな……」
久しぶりに昂ぶった気がする。
部屋でだったんバッタンやっていた僕たちは息を上げながらにらみ合っている。
そしてお互い一個ずつとなった状況で、僕の出番だ。
手持ちにあるサイコロに願いを込める。
「たのむ。たのむ!勝たせてくれ!たのむ!」
「ふふふ、運命の神様は私に微笑んでいる。絶対に負けない!」
受けて立つ彼女。僕はそれを無視してサイコロにたった一個のサイコロに願いを込める。
勝たせてくれ!
「うおおおおお!」
勝たせてくれ!
願いを込めたサイコロを闘技場にサイコロにぶつけるように投げた!
カチンと大きな音を鳴らし二つのサイコロが動き出す。
コロコロと動いた二つが示した出目は『一』。
「ふ、先輩、私の勝ちです!」
彼女は勝ち誇った顔で僕を見下ろした。
勝者の笑みだ。私が買ったと確信していた。
だが、僕は希望を捨てていない!
「ふっ、おまえの、負けだ!」
「なんだと!?」
ぶつけたサイコロ、出ている出目は、もう一つのサイコロの出目と揃っていた。
「これで場にあるサイコロはゼロ、おまえの手持ちのサイコロは一個だ!」
つまり、投げ入れても揃えれるサイコロはない!
「あ、がっ……」
彼女は愕然としていた。
この状況。場にあるサイコロを全て除外と、回収を同時で行うことなんて難しい技だ。
もちろん、僕はそんな技術は存在しない。
あるのは運命の女神にキスをされただけだ!
「……私の……負けね」
彼女はうなだれながら、サイコロを……最後のサイコロを持つ。
「お互い出目の悪さを呪いながらやっていたのに、本当なんて運がないのかしら」
「本当にな」
彼女は誰もいない、何もない闘技場にサイコロを振りいれる。
転がり出た出目は四だった。
「いやー、めちゃくちゃ楽しかったー」
「……」
僕は充実した顔で感想を述べていた。それに対して彼女は面白くなさそうに俯いている。
「拗ねるなよ。サイコロ勝負は運も実力のうちだぜ?」
「でも悔しいです」
初めて彼女から悔しいという言葉を聞いた気がした。
「私が買って、先輩と連休デートをしたいとお願いしようとしたのに負けちゃった」
ぐずぐずとした、湿った声が聞こえてくる。
「……まぁ、負けたことは仕方ないさ。僕だって今までおまえに負けてきたんだし……」
「でもぉ……」
「ゲーマーは勝って負けてを繰り返して強くなるんだぜ?常勝なんてありえない」
「……」
僕は彼女の頭を撫でながら諭すように言う。
「また勝負すれば今度は僕が負けるかもしれないんだ。また挑めばいいじゃないか」
「……!はい!」
最後の最後、いい風に終わらせようと努力する。
「さて、今日のゲームはお開きですね……」
「いいや?まだだ」
彼女はピタリと止まる。
「賭け事。僕が勝ったんだから言うこと聞くんだろ?」
「あ、えっとー」
そう、この勝負。負けた人は言うことを聞かなきゃいけない。
僕の言うことを彼女は強制的に言うことを聞かなきゃいけなかった。
「そ、そうだ!実は先輩私宿題終わってなくてですね」
「おまえ友達とマルチプレイして終わらせたと言ってたじゃないか」
「う、そうでした!」
あぁ、これが勝者の余裕なのか。と僕は実感する。
王様ゲームで王様の気分になった僕はその余韻に浸るように笑った。
「さあ、僕の願いを叶えるんだ!」
「い、いやー!先輩に犯されるー!」
「なにを失礼な……。今週末空いてるか?」
「え?」
僕は財布の中から紙を二つ取り出した。
「実は前にクルクル回すくじ引きで金賞が当たってな。動物園にタダでいけるんだけど……」
「……え?」
そう、早く終わらせようとしたのはこれが目的だった。
「二人様。カップル限定なんだけどさ、僕には偶然カップルというか、後輩で可愛い彼女がいるからさ」
「……」
「よかったら、一緒に……行かないかなーって」
彼女は泣きそうな顔をして、両手で顔を隠していた。
「……ま、まぁ行きたくないなら仕方ないよな。動物園ってうんこくさいし、しょうがない……」
「行く!絶対に行く!」
彼女は僕の胸倉を掴んで前後に揺らしてくる。
脳、脳が揺れる……!
「まっ……で!」
「先輩!そうならそうと言ってくださいよ!絶対行きますよ!先輩ほんとうに大好きです!」
「わかった!わかったから!揺らすのやめて!あ、やばい!グワングワンしてきた!きもびわるい!」
きゃーきゃー、女の子らしく叫ぶ彼女を見れて、僕は嬉しいよ。