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クエスチョン『ふーあーゆー?』

 

 僕と彼女は付き合っている。


「先輩なんか暇すぎません?」

「僕は全然暇じゃない。てかなんでついてきているんだお前」


 放課後、僕は本を借りるために図書室に来ていた。図書室は基本施錠されておらず、自由に行き来ができる。

 図書室の引き戸を開けると生徒どころか司書委員もおらず、受付には新しく取り寄せた本が平積みにされていた。


「そりゃ、先輩が私の彼氏だからですよ。先輩がいるところに私がいるんです」

「哲学みたいだな」

「そうなんですか?」

「いや、適当に言った」

「もー」


 いつもシーンと音がする図書館は、僕と彼女の会話によって薄暗い雰囲気がやや明るくなった気がした。

 といっても僕たちの周りのみ限定だが。


「しっかし誰もいないですね。誰がここを使っているんですか?」

「僕が使っているじゃないか」

「えぇ、見てわかりますよ」


 彼女は僕をじっと見ている。


「先輩はここで誰かとすれ違ったりしていますか?」

「……いいや?」


 そもそも図書室は昼放課に利用する生徒が多い。放課後に利用する生徒は多分僕くらいだろう。

 何故それを尋ねてくるのか僕には分からなかった。

 ふーん。と彼女は顎に指を当てて図書室を初めて入ったかのようにキョロキョロとしている。

 僕は小説のコーナーにある本棚に行くと本がタイトルシリーズごとで並べられていた。


「最近は何を読んでいるんですか?」

「適当だよ。特になにかを決めて読んでいるわけじゃないし」

「そうでしたね。先輩エロ本とか読みますもんね」

「……」


 僕は嫌そうな目で彼女を見ると笑っていた。


「高校生がエロ本を持っていたらダメなんですよ。『せーしょーねんいくせーほごなんとか』ですよ」

「ならこの学校の男子学生全員が捕まりそうだな」

「え、そうなんですか?」


 僕は本を一冊指で引っ掛け、ジグソーパズルのピースを引き抜くように手にする。


「男っていうのはそういうもんだ。公園にエロ本が捨てられているのは一種の宝物を見つけたようなものだった」

「うわ、先輩きしょいです」

「僕を限定で言うのやめてくれないか?男全員に同じ目をしてくれよ」

「え、じゃあ先輩の性癖がきしょいです」

「エロ本を探し出し、僕の目の前で読んだやつに言われたくない」


 彼女は頬を膨らませた。


「ついでに言うならお前もそうだろう。僕らじゃ買えないゴア系のゲームやってるじゃないか」

「それはそれ、あれはあれです」


 棚に上げやがった。

 僕はちらりと読んだ本を戻した後、となりに並べられている本に手をかけまた本を開いてその本の冒頭を読んでいく。

 図書室は本が焼けないようにカーテンを引かれているため、本の文字を読むには適していなかった。


「先輩」

「なんだ?」


 呼びかけてくる彼女の声に僕は答える。


「この図書室私達だけですね」

「……だから?」


 視線を彼女に向けず、返事を繰り返した。


「……先輩」


 吐息交じりの艶やかな声が聞こえる。

 誰でもない、彼女の声だ。

 二度も呼ばれた僕は視線を本の文字から彼女へと向ける。

 彼女は椅子に座り、僕をじっと見ていた。

 しかしその視線は僕を見る視線が違った。いつもの視線ではなく、先輩を見る目でもなく、恋人の僕を見ているような視線だ。


「……」


 時間が止まった気がした。

 さっきまで僕と彼女が話していて明るくなっていた空気が熱を奪う金属のように冷えていく。

 心臓が高鳴った。


 これはいいのだろうか。


 と僕の脳裏で過ぎる。

 キスとか、なんかエッチなことをしていいのだろうか。おっぱいとか触ってもいいのだろうか。

 変わらず見つめてくる彼女に手繰り寄せられるように僕は一歩、また一歩と歩みを進め、彼女へと近づいていく。


「……」


 お互いの吐息が聞こえるような位置まで近づいても変わらず僕を見ている彼女。

 綺麗な顔をしている。と思った。

 可愛らしい目をしている。と思った。

 柔らかそうな健康的な唇だな。と思った。


「先輩……」


 彼女に近づいていく。月面接触のようにゆっくりと、時間をかけてゆっくりと。人類の新たな一歩を踏み出すように、新しい世界に降り立つように。

 そして触れようとした瞬間。


「ゲームしませんか?」

「僕の今までの期待と淡い思い出を返してくれ」


 その大地が月面ではなく、地球のどこかだと理解した。

 一瞬にして心拍数が元に戻る。

 ほんと台無しすぎる。


「え、先輩何を考えていたんですか?私に何をしようとしたんですか?」

「うるさい」

「え、先輩。ゲームしましょうって言っただけじゃないですか、何を怒っているんですか」

「うるさい」


 彼女はニヤニヤと笑いながら僕を攻めてくる。

 彼女は分かっているやった。間違いない。

 僕は彼女から離れると本棚へと戻る。


「で、先輩ゲームしましょうって」

「しない。お前がいたずらしたからしない」


 人を騙すのは良くない。

 相手がどうあれそう言うのは良くない。


「でも、先輩、私を以前騙していませんでした?」

「騙していない。お前が勝手に想像を膨らませていった結果だろ?」

「でも、それって騙したと変わらないと思うんですけど」


 言葉に詰まった。

 確かにあの時は彼女のテストが良くなるようにあやふやにして口にし、そしてデートという名前の勉強会を実施した。

 一見普通には見えるが、相手本人からしたらそれは詐欺のようなものだ。


「ふふーん。墓穴を掘りましたね」

「……」


 ずっと彼女とこう言うやり取りをしていい加減学ばないかな。僕は……。

 ため息を漏らしながら手にしていた本を元に戻し彼女の前にある椅子に座る。


「仕方ないなぁ。ちょっとだけだぞ」

「よっしゃ。先輩ちょろいですね」


 お前だけには言われたくない。




「今回やるゲームは『クエスチョン』っていうゲームです」

「クエスチョン?なんだそれ」

「それです」


 いや、意味ワカンねぇから。多分、『?』の部分のことに対して言ってるのだろうが、それ僕には見えないし。

 彼女はこほんと咳払いをすると口を開いた。


「アキネーターってしってます?」

「んーと、自分が思い浮かべた人が当てられるってやつだっけ」

「そうです。あれって質問をしていって結果該当した人を言い当てるって言うゲームなんですけど。今回やるクエスチョンっていうゲームはそういう類のゲームです」

「へぇ。そういうゲームもあるんだな」


 はい。と嬉しそうに彼女は答える。

 本当、彼女はいろんなゲームを知っているなぁ。


「ルールは簡単。出題者は一つの答えを思い描きながら回答者からの質問を『はい』か『いいえ』か『わからない』で答えていきます。その質問の回数は十回まで。そして十回の質問までに正解を当てたら勝ち。当たらなかったら負けです」


 単純明快なゲームだことで。

 彼女は右手の指をくるくるして追加ルールをする。


「ただし、相手がわからない専門的なもの。個人的にしかわからないもの。そういうのはダメです。ボール、鉛筆、消しゴム。私たちが知っているものでお願いしますね」

「ウミガメのスープみたいなものか?」

「『人肉』は使いませんよ?」


 にっこりと彼女は笑いながら答える。

 僕は彼女の表情を見た後、手のひらを二、三度振った。


「じゃあ、最初は練習で私に質問してみてください」


 そう言って胸を張る彼女。

 僕は顎を手で隠すようにして考え込む。

 とりあえずざっくりと質問してみることにした。


「男性ですか?」

「んー……はい」


 彼女は悩みながら回答する。

 男性、ということは女性でもないし、物質でもないわけか。

 千ある選択肢から一気に三分の一に削られる。


「ドラマとかにでてる?」

「いいえ」


 ドラマにはでていないなら俳優とかの有名人ではないということか。

 そこから二分の一に削り。


「動画サイトの人?」

「いいえ」


 動画サイトでもない……、なら学校の人物かな。

 さらに二分の一に削って……。


「十八歳より年上?」

「わからない」


 一気に絶望する。口を閉じることができなかった。

 男性であって、ドラマとかにでていなくて、動画サイトの人間でもなくて、十八歳なのかどうかわからない。

 この時点で学校関係の人間ではなく、僕が知っていそうな存在が不明となってしまった。

 しかも、現時点で四回も質問をしてしまっている。


「先輩口開いたままですよ」

「そうだな……」


 開いたままの口を閉じて咳払いをし、もう一度思考回路を動かす。


「……」

「先輩何考えているんですか?」

「もっと効率のいい質問を答えようとおもってるんだよ」

「まぁ、四回も使っちゃいましたしね。残り六回で頑張ってくださいね。それに練習なのでそれくらい失敗しても仕方ありません」


 良く言うよ。と思わず心の中で苦言を漏らした。

 とにかく、残り六回で答えを導かなければならない状況になってしまった僕は頭を使う。

 あやふやになった想像したものをもう一度形にしなければならない。しかし何を質問すれば……。


「そうだ、それは人間?」

「……いいえ?」


 ニヤニヤ笑っていた彼女がつまらなさそうにして呟く。

 この時点で、イメージがかなり絞られた。

 人間ではない。つまり『四足歩行の生き物』となったわけだ。

 この時点で、犬、猫、馬などが絞られる。


「先輩なんか面白そうな顔していますね」

「頭を使うゲームは面白いからな」


 相手の表情を伺いながら質問するこのゲームは面白い。

 そして、この時点で次の質問は決まっていた。


「エンターテイメントとかに関係している?」

「いいえ」

「つまり、遊園地とかのキャラクターでもないわけか」

「ふふふー、どうでしょうかね」

「おい、イメージを変えるなよ」

「わかってますよ」


 彼女はまたニヤニヤと笑い始める。

 しかしこの時点で絞られている状況でイマイチ決め手がない。

 現時点で、六回。

 後四回で答えが導き出せるか。


「毛が茶色?」

「はい」

「よし。わかった」


 僕は自信を持ち、答えを導き出したと思った。


「はい、正解をどうぞ」

「うちの学校にいるネコ。ヨシキだろ」


 この学校には用務員がいる。

 そして少し前にこの学校で捨て猫が拾われたのだ。

 毛色は茶色で、オス。

 名前はヨシキ。それが僕の答えだった。


「正解です。よく、わかりましたね」

「最初は人間かと思っていたけど、まさか猫だとは思わなかったな」

「でもわかったじゃないですか。先輩すごいですよ」


 満遍の笑みで僕を褒めちぎってくる。

 やめてくれ、いまの僕にお前の笑顔は眩しすぎる。


「さて、練習も終わったことだし、勝負するか」

「ちなみに、時間がそこそこかかるので一人一回ずつにしましょう。先輩、結構長考しますし」

「悪かったな」


 お前みたいに頭の回転が速いやつの真似ができないんだ。

 ゲームの才能を持ち合わせていない僕にはない頭を使って答えを導き出すしかない。


「じゃあ、今度は私が質問者です。先輩なにか考えてくださいね」

「あぁ、わかった」


 僕はゲームをしている時のお前が羨ましく感じるよ。




「よし、きまった」

「じゃー、質問しますね。それは実在しますか?」


 実在する。

 たしかに実在はするけど、他の人にとってはどうだろうか。


「わからない」

「一発目からあやふやになってしまいました」

「まぁ、僕にとってはいるものだけど、他人からしたらいるかどうかわからないしな」


 彼女はすこし考える表情をした後、質問をする。


「動画関係者ですか?」

「いいえ」

「ふむ。男性ですか?」

「いいえ」

「先輩。一体なに考えているんですか?」


 なにって、普通のことを考えているだけだよ。

 ただお前の質問が僕が想像しているものとは見当違いなだけだが。

 僕は答えず、じっと彼女を見つめる。


「あ、あの、先輩」

「なんだ」


 その視線に耐えきれなかったのか、彼女はスカートの上から太ももの間に手を入れてもじもじと動く。


「そんな熱い視線で見られるとドキドキしちゃいます」

「……すまん」


 意外と彼女は、熱い視線に弱いらしい。

 今後なにか押し負けそうなことがあったらじっと見つめることにするか。


「んー。じゃあ髪の毛生えてますか?」

「……え、髪の毛?」

「はい、髪の毛です」


 え、髪の毛生えてるとかあるの?

 いやでもこれには絞られる。髪の毛ではないといえば獣となるし、鳥にもなる。髪の毛とは一概に『体毛』としての役割といえない。


「……はい」


 そこはわかるわからないではなく、生えていたか?という視点でいえばそうなるしかないだろう。

 彼女はすこし確信したかのような表情を浮かべる。


「十八より上ですか?」

「いいえ」


 これで質問は五つ。残りは半分になる。

 現時点でいいえを行った回数は三回くらいか。

 彼女はふむふむと独り言をつぶやいていた。


「先輩ロリコンですか?」

「それは質問として数えていいのか?」

「いえ、私の個人的な意見なので数えないでください」

「質問として数えない質問は答えない」


 彼女はえー……。と嘆く。

 そりゃそうだ。このゲームは十回の質問で相手が考えている物を当てるゲームなんだから。

 質問として数えない質問もヒントとして扱ってしまう『盤外戦術』には引き込まれるつもりはない!


「じゃぁ、()()()()()()()()ので答えてくださいよ」


 吹き出しそうになった。


「他人にもそんな誘い文句したら僕はお前を見損なうからな」

「失礼な。私は先輩にしか見せませんよ」


 口元を隠すように彼女は頬杖をつくとじっとこっちを見つめてきた。

 咳払いをして、背筋を一度伸ばす。

 そしてちらりと、スカートから伸びる白い肌の太ももに視線が行った。


「……」


 正直にいうと彼女のパンツを見てみたいかと聞かれると、もちろんみたい。

 しかしそこで甘んじてしまったら男の恥だと思っている。

 ドキドキと高鳴る心臓の音が僕たちがわいわいと話し合ってるとはいえ、静かな図書館では大きく聞こえた。


「えー、じゃあ……戦いますか?」


 戦うという意味では戦っているのかもしれない。


「はい」

「ふふーん」

「なんだその笑顔は」

「私わかっちゃいました」


 ほう、この状況で僕が考えているものをわかるとはさすがゲーマーってところか。


「でも、質問はまた七回しかしてないですよね」

「あぁ、そうだな」

「じゃあ、もっと確度(かくど)を上げるために質問しちゃうことにしますね」


 ……確度を上げる?一体なにをするつもり……。


()()()()()()()()?」

「……」

「これは質問ですよ?()()()()()()()よ」


 ……しまった。と僕の中で後悔をする。

 相手は僕の答えを知っている。

 だからもう答えてもいいはずだ。

 しかし彼女は最後の質問をするまで答えらつもりはないらしい。


 それはなぜなら、僕の正解は『彼女』だからだ。


 彼女はそれを知っている。


「ねーねー、先輩。答えてくださいよ。先輩はそれが好きなんですか?」

「おまえが思っているものとは違うかもしれないぞ」

「いえいえ、絶対私正解し(あっ)ていますよ。間違いないです。私確信してるんで」

「ぐ……」


 小悪魔みたいな笑顔を作る。

 こいつがその笑顔をした時、絶対的な勝利を収めら時だ。


「ほらほらー、答えてくださいよー。好きなんですか?」


 ニヤニヤしながら僕を煽ってくる。

 答えなければならない。僕は選択に迫られる。

 はいと言えば、彼女の思うツボだ。そしていいえと言えば彼女は怒るだろう。わからないなんてもってのほかだ。

 ここは諦めるしかないのか。


 目を閉じる。

 口を開く。

 二度と空気を取り込む。

 男だろう。覚悟を見せろ。


 僕は目を開いて彼女をもう一度見据えた。


「……はい」


 静かな空間の中、僕のゲームの答えが小さく泡のように浮かんだ。

 まるでエアーが入っていない水槽のようだった。

 体を押し付ける静寂の空気が肌に触れる。

 じっとりとした汗が滴った。


「……にへへ」


 彼女は顔を真っ赤にして、猫の撫で声のような笑みをこぼした。

 僕も顔を真っ赤にした。恥ずかしい。早くこのゲーム終わらせたいと願った。


「じゃあ、じゃあ、次の質問!結婚したいですか?」

「おい、飛躍しすぎじゃないか?」

「答えてくださいよ。大丈夫です。これはゲームなんですから」


 ゲームだとしても、ゲームの記憶ではない。

 しかも、完全に攻め込まれた状態で僕は踠き逃げることなどできなかった。


「ほーらー、先輩。言ってくださいよー」


 さぁさぁとさらに煽る彼女。


「めちゃくちゃ言わされてる気がする『はい』で」

「それ、不愉快です」

「僕は言わせられているのでさらに不愉快です」


 お互い顔を見合わせて睨み合う。

 でも、こんな風な関係がずっと続いたら面白いんだろうなと思った。


「じゃあ、最後。最後の質問です」

「どーせ、子供が欲しいと思いますか?とか言ってくるんだろ。知ってんぞ」

「んもー、先輩私を誰だと思ってるんですか?」


 彼女は頬を膨らませた。

 この際だ。いうだけ言ってやる。


「悪魔。魔王。ゲームの神さま」

「よくわかってるじゃないですか」


 否定をしない!?

 ニヤニヤと表情変えずに僕を見てくる彼女。


「あー、もー好きにしてくれ。僕はもう負けた」


 死体蹴りでも、煮るなり焼くなり、どうにでもしてくれ。僕は机に頭を乗せて体を投げ捨てた。

 さらば僕の体。また会う日まで会おうじゃないか。


「先輩は、帰り道。手……を繋ぎたいと、思いますか?」

「……」


 それは意外な質問だった。

 意識が体に戻り、顔をゆっくりとあげる。

 そこには遮光カーテンではっきりはしなかったが、恥ずかしそうな初々しい表情の僕の彼女がいた。


「……え?」

「だから、先輩は帰り道手を繋ぎたいと思いますか?って聞いたんです。質問に答えてくださいよ」


 まさかその話が来るとは。

 ……いいや、そうじゃないか。

 僕と彼女は付き合って一年。まだ手を繋いだこともない。

 僕達はタイミングを逃した遅れているカップルなんだ。

 僕は口に溜まった唾を飲み込む。

 ゴクリと喉を鳴らした。


「……はい」

「にへへ、じゃあ、()()()()()()()()()()()()()()()?先輩」


 僕はどうやらこのゲームでも、彼女にも負けたらしい。


「あー、結局また負けたわー」


 僕は鞄をクッション代わりにしてうなだれていた。彼女はニコニコとご機嫌で笑っている。


「先輩、難易度低すぎでしょ。最初の四問目あたりでもう察しちゃいましたよ」

「まじかー。アキネーターよりも早くないか?お前」

「先輩のことは全部わかりますからね」


 全く恐ろしい人だ。


「『なんでもは知らない。知っていることだけ』ってやつか」

「え、なんですかそれ」

「最近悩み始めた奴の登場人物の口癖」

「へー。まるで先輩しか知らない私のようですね」


 自分で自分のこというのか?お前。


「さささ、帰りましょうよ。先輩」

「あぁ、そうだな」


 僕と彼女は図書室から出る。

 引き戸をしっかりと閉めた僕は振り返ると、彼女が嬉しそうに左手を差し出してきた。


「……」

「先輩。早く帰りますよ」

「……わかった」


 僕は右手で彼女の手を握りしめた。

 甘くて痺れるような、柑橘系の香りが鼻腔をくすぐった気がした。

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