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プロローグ:馴れ初め

 


 僕と彼女は付き合っている。



 どこかの独り身のいう『リア充』ってやつだ。

 彼女とは中学からの知り合いで、同じ部活の先輩後輩という関係だった。

 ちなみに僕が先輩で、彼女が後輩。

 あの時はお互いそんなに意識してなかったからあんまり話すことはなかったと思う。

 きっかけはほんの些細なことだった。




 部活を引退し、受験勉強に集中しなきゃいけない時期。僕は胃腸風邪になるくらいのストレスに浸かり、踠いていた。

 気持ちも受験に縛り上げられ身も心も廃れそうな状態で自宅に向かっている時、体育館から声が聞こえた。

 足を止めて体育館に行くと、そこには僕が辞めて人が少なくなった部活が活動をしていた。

 今年引退した人数はかなり多く、いなくなったことで少し寂しくなったような気がした。

 しかし、真面目に取り組むその姿はまるで去年の僕のようだ。


「……」


 混ざりたいと想いと、勉強をしなければならないという想いが天秤にかけられ僕は動かないでいた。

 そんな時だ。


「あれ?先輩どうしたんですか?」


 彼女がタオルで汗を拭き取りながら僕に話しかけてきた。

 紺色の体操服とハーフパンツ、踝までの靴下、そしてスポーツ用のシューズを履いていた彼女を今までしっかりと見てこなかった僕は彼女が可愛い子だと今更になって認識をした。


「いや、ストレス解消に君たちの部活姿を見ようかなって」


 邪魔するつもりはないよ。というニュアンスで僕は答える。


「へぇ、先輩も大変ですね」


 全くだ。毎日勉強、勉強、勉強、勉強。

 本当、逃げ出したくなる。

 がっくりと項垂れると、彼女は手を叩いた。


「確かに先輩って勉強苦手そうですもんね」

「名誉毀損だぞ。訴えてやるからな」

「私未成年なんで訴えれますかね?」


 そんなことはどうでもよかった。

 意識し始めた僕の思考はいつしか、部活に混ざりたいという気持ちから、彼女と話したいという気持ちに切り替わっていた。


「僕、A高校に行こうかなって思ってるんだ」


 それが、きっかけだった。


「ほー、A高校といえばこの辺りでそこそこ頭がいい学校じゃないですか。先輩やっぱり頭良かったんですね」

「やっぱりは蛇足だ。だけど模試はB判定だった」


 B判定だと、合格率は七割あるかないかのあたりだ。たとえ内申点が良くても、点数が悪ければふるいにかけられてしまう。


「合格できるように頑張らないといけないな」

「……」


 本当にただ、他人に自分のやっていることを知って欲しかっただけだった。

 頑張れとか、大変でしたね。とか聞く前に僕は話を切り上げようとした。


「じゃあ先輩()()()、しませんか?」

「賭け事?」


 僕は不思議そうな顔をして彼女を見ると、彼女はニヤリと彼女らしからぬ笑顔を作り出し唇に指を当てた。

 その小悪魔みたいな姿にドキドキした。


「先輩がA高校に合格したら、私と()()()()()()()()


 彼女から風が吹いた。ふわりとした汗の匂いと一緒に女性特有のシャンプーの香りがした。


「なんで……僕は君と話したことないじゃないか」

「そうですね。多分こうやってしっかり話し合ったのは今日が初めてでしょうね」


 彼女はニコニコと笑いながら答える。


「でも、私、それなりに先輩のこと気になっていたんですよ?さりげなく先輩のそばに寄ったり、さりげなく先輩に教えてもらったりしてたの知らなかったんですか?」

「……」


 言われれば確かにそうだと思う。

 彼女と話す時間は短いものの、合計時間でいえば彼女が一番だったと思う。


「やっと気付きましたか?」


 笑っていた顔から一変し不機嫌そうな顔をする。

 僕は両手を合わせて謝った。


「まぁいいですよ。今日ちゃんといえたのでチャラとしましょう」

「だけど、なんで高校に合格が条件なんだ?」


 別に今でも構わないけど。と思っていたら、彼女はニヤリと笑った。


「受験生が今恋愛をしたら私を()()()()にして相手してくれないかもしれないからです。それに先輩がA高校に合格できなくて、私がA高校に合格したらそれはそれで確執みたいになっちゃうじゃないですか」


 保険ですよ。保険。と彼女はいう。


「じゃあ、もし僕がA高校に合格できなかったら……」

「先輩はやっぱり勉強が苦手だったんですねって言いますよ」

「……」


 ならば、やるしかない。自分のプライドを守るためにも。


「見てろよ」

「ええ、見てますよ」



 そして、彼女と付き合い始めてから一年になる。



「先輩」


 僕がいる二年生の廊下にわざわざ彼女かやってくる。僕はその彼女に声をかけられ振り向いた。


「先輩暇ですか?」

「今からご飯食べるところだけど」


 ほーほー、と彼女は推理探偵よろしく手を顎につけた。

 彼女は僕の恋人だ。

 しかしそれ以前に僕は彼女のことを教えておかなければならない。


「じゃあ、先輩。その弁当を賭けて私と()()()をしませんか?」


 彼女は、ギャンブル好きのゲームオタクだった。


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