四話
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「アイツはただの人間じゃない」
月が事務所に戻ってきてからの第一声がそれだった。
声こそ悔しそうだけど、表情はやる気無さげだ。
「ただの人間じゃないって?」
「俺の力で、影北を視た。魂は確かに有ったんだ。アイツの腕を掴むことも出来たんだが、すぐにすり抜けちまう」
視る、というのは月が持っている能力。彼は人の魂を視る事が出来る。
死神がとり憑いている所為だとかなんとか言ってるけど、小さい頃想像したヒーローみたいで私はかっこいいと思うし、信じている。
「てことは?」
「アイツは、きっと幽霊にとり憑かれた」
そう言って、いつもの気怠そうな表情をする月。…おかしいな。
彼は幽霊退治が大好きなのに、いまいちのってこない。
いつもならカッターナイフ片手に飛び出して行くんだけど。
「とり憑いてるのって、厄介なの?」
本当に素朴な疑問なので、それとなく聞いてみる。
すると、月は大きな溜め息を吐いて答えた。
「俺が殺すのは幽霊だろ。とり憑いていたら幽霊の魂じゃなくて、とり憑かれた人間の魂だけが視えるんだ。…この話題、前にも話した事があるからいい加減覚えろ」
「えっと、取り憑かれている人間と幽霊を引き離さないと、幽霊は倒せないって事?それなら二人で協力しようよ。私が囮になっても良いし」
正直少し怖いんだけど、誰かがやらないと行けない。
渋々頷く月の手を取って、私は都会の喧騒へと戻る事にした。