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三話
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喫茶店を出てから、三十分程。
上下月はあるビルの屋上に居た。
冬真っ盛りのこの時期は、昼が短い。まだ六時だというのに辺りは真っ暗だ。
夜風に当たりながら、月は独り言を始めた。
「俺、冬って嫌いだ。夜が長いし、寒いしーーー」
ーーー変なヤツが多いから
そう言って月が振り返ると、そこには一人の男が居た。
服装こそ普通だが、目の焦点が合わず、虚ろ。姿勢は猫背で、足を引きずる様に歩いている。
一般人なら逃げ出してしまう状況かもしれない。が、月は違う。
彼は一般人ではない。死神なのだ。性格には死神に取り憑かれた人間で、いつの間にか『生きる屍』になって居たのだった。
彼は、社会から弾き出されてしまう様な異常者そのものだ。だからこそ探偵という職業に就いている。
「アンタの恋人がお待ちかねだぜ、影北拓実」
月は影北を視てから、『獲物』を捉える肉食動物の様に走り出す。
何せ、ここはビルの屋上だ。逃げ場といえば出入り口だけ。
そして。
とても簡単に。
月の手が、影北の腕を掴んだ。