一話
◆
「えっ!?脱法ハーブ!!?」
「声がデカいぞ、舞花」
十二月中旬の夕方。駅前の喫茶店内。大声でそう叫ぶ私こと壱条舞花と、それを静める上下月。
落ち着け。今は探偵の仕事をしているんだから。
と、心の中で言い聞かせて深呼吸する。
「ご、ごめんなさい。それで、彼氏さんーーー影北拓実さんが脱法ハーブやってるって、どうしてそう思ったんですか?」
今度はしっかりと、一言一言丁寧に伝えていく。
目の前に座る依頼者、秋川美久さんは沈んだ表情をして答えた。
「三日前、押入れの段ボールに銀色の袋が入ってて…開けたら草の様なものが出てきたんです。その時ニュースで観てた脱法ハーブとほとんど同じで…でも聞けなかったから」
「聞けなかった?」
「最後に会ったのは二日前で。帰って来たので、勇気を出して聞こうと思ったらすぐ外出してしまって。それに、何かぶつぶつ呟いてました」
あの時止めていたら、と秋川さんは悔しそうに答えた。
そんな様子を見ていた月は、気怠そうに立ち上がって、出口へと歩いて行く。
…もう、話の途中だっていうのに。
「ちょっと月、何処行くの?」
「影北を探しに行く」
「探しに行くって…まだ何も手かがりがないでしょ?」
「あるさ。脱法ハーブをやってるなら、仕入れてる場所があるって事だ。ソイツらに話を聞けば良い」
さも当然かの様に、月が答える。
話を聞けば良いなんて言ってるけれど、彼は話し合いなんかしない。カッターナイフで脅して聞き出す、いつも実力勝負。
…ちょっと心配だけど、彼も探偵だし、信じる事にしよう。
「わかった。気をつけてね、月」
「こっちの台詞だ。依頼者を頼むぞ、助手」