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第18章「俺と忍先輩」

【前回までのあらすじ】


俺の名前は日向ひなた。GWを前に俺は柊を連れて日本へ帰ることにした。


残念ながら遊佐教授は出張中だったが、俺たちは帰国してすぐに忍先輩の家へと向かった。そこで忍先輩に案内されて製鉄所の見学を行った。


夜には柊の協力の下、魔法の実験を行い、地球に来た異世界人が魔法が使えることと、地球では日向の魔法耐性の効果がないことが分かった。


寝る前に、柊の失言で、日向に正室と側室がいて日常的に一緒に寝ていることがわかり、忍先輩を不機嫌にさせてしまった。

 俺と忍先輩が出会ったのは、俺が大学に入って間もない頃だ。


 情報教育棟の掲示板に雰囲気にそぐわないポスターが貼ってあって、なにやら興味を持って早速メールを送ってみたのがオカルト研究会とのファーストコンタクトだった。


 後で聞いた話だが、どうやら教授が学内のコネを使って普通のサークルではポスターを貼れないようなところに貼らせてもらっていたらしい。職権乱用!


 部室に顔を出してみると、その時はたまたま忍先輩だけが部室にいて、心霊スポットで撮った写真から心霊写真を選別しているところだった。


 当時の忍先輩は大学3年。俺は18歳で、先輩は20歳だった。会った時から先輩にほとんど一目惚れで、若さの勢いでその場で入部した。


 先輩の印象は、快活で、さっぱりしていて、女々しくなくて、化粧っ気がなくて、質素で、頼りがいがあって、背が高めで、付け加えると美人だった。


 先輩が遊佐グループのお嬢様で、お父さんが工学部で教授をしていて、しかもオカルト研究会の顧問をしていることに気づいたのはそれから随分経ってからのことだった。


 その後、先輩を追いかけるように進振りで工学部機械工学科を志望して、最終的には遊佐研究室に所属することになった。先輩との距離は時間とともに縮まっていったが、仲の良い先輩後輩という関係以上のものにはならなかった。


 それは特に俺だけの話ではなく、先輩に特定の男性がいるという気配は全くなかった。


 大体、理系の機械工学みたいな学科を志望する女子は絶滅危惧種に近い存在で、その中であれだけ美人なのだから彼氏がいないはずがないというのが普通なのだけれど、そんな様子はさらさらなさそうなのは不思議だった。


 これは何も俺1人が一人合点してそう思い込んでいたというわけではなく、オカルト研究会の中でも噂になっていたのだから間違いないことなんだと思う。


 忍先輩と同じクラスの別の先輩は、クラスの同級生が告白して玉砕した時に、「特定の人とお付き合いするつもりはない」と言って断られたという話をしていた。


 そんなわけで、結局、最終的には他の誰でもない俺が男女通して一番仲の良い友人というポジションに収まっていた。


 その頃には遊佐教授とも顔見知りになって、家に呼んでもらって夕飯を一緒に食べたことも一度や二度ではないほどだった。


 それだけではない。20歳になってお酒が解禁されてからは、しょっちゅう一緒に飲みに行っていた。といっても、大抵は深酒をするわけではなく、ビールを片手にオカルトや工学関連の他愛もない話を延々と話し続けるだけなのたけど。


 飲む場所は、大学の近くの安い居酒屋が中心で、お嬢様だからと言って高級フレンチやら寿司やらに行ったりするわけではなかった。


 たまに忍先輩がいいツマミを手に入れたと言って俺のアパートに来て夜通し飲むこともあって、そういう時は割りと考え無しに強いお酒もどんどん飲んで、最後は酔いつぶれて適当に毛布を引っ張り出して雑魚寝をしたりしていた。


 でも、それだけの関係で、それ以上の関係になることはなかった。それどころか、二人で遊園地に行ったこともなければ雰囲気のいいレストランに行ったこともない。


 それが、俺が大学4年生になって一つ事件が起きた。


 新人の1年の後輩の女の子から告白されたのだ。


 俺の忍先輩への気持ちはオカルト研究会の中では誰も知らない人はいないというほどの公然の秘密でたったのだけれども、事情を知らなかった後輩が突撃してしまったということらしい。


 後から聞いた話では、俺がサークル内であれこれと面倒見よく切り盛りしていたのに惹かれたようだ。俺としてはそれは忍先輩の役に立とうと思ってのことだったんだけれど。


 とにかく、その件はその場で丁重に断ってそれで終わりだったものの、その後、忍先輩と俺のアパートでいつものように飲む機会があった時、その話をしたところ忍先輩が文句を言い始めたのだ。


 「○○ちゃんはいい娘なのにもったいない」

 「何が不満だったのか」

 「私は日向くんに彼女ができないことを心配している」


 などと言って、アパートで飲んでいるときはいつものことだけれど、今回もかなりハイペースで飲んでいたので、俺も忍先輩も口が軽くなって言いたいことを言うような状態だった。


 それで、ねちねちと絡んでくる先輩に対して、酔った勢いで思わず「僕が好きなのは忍先輩だ」と叫んで、押し倒してキスまでしてしまった。


 そうしたら、嫌がられたり怒られたりするかと思ったら、全く抵抗の素振りすら見せないので最後までしてしまったのだ。


 というか、さんざん酔っていたせいでその辺りの記憶が曖昧で、最後までしたと言う記憶はあるものの、その途中でどんな感じだったかとか何をしたとか話したとかの記憶はほとんど抜けている。


 とにかく、昼過ぎに起きたら忍先輩はもういなくなっていて、残ったのは二日酔いと罪悪感と喪失感だけだった。


 それで、しばらくの間、顔を合わせづらくてオカルト研究会の方にも顔を出さずにいたのだけれども、流石に研究室のミーティングをサボるわけにもいかず、重い足取りで出かけたところ、そこにはいつもと変わらない風の忍先輩がいたのだった。


 その後、研究室では普通に過ごしてアパートに帰ると、お酒とつまみの代わりにすき焼き鍋と肉やら野菜やらを持った忍先輩が押しかけてきたのだった。


 結局、先輩のペースに巻き込まれてすき焼きを作って2人で食べることになり、若干気まずかったものの、珍しく素面しらふで2人で鍋をつつきあって食べた。


 完食した後に忍先輩が言うことには、「この間のことは忘れて、また今までみたいに友達として付き合っていこうよ。私は恋人は欲しくないし、友人を失いたくもないんだよ」と言った。


 そして、俺の家に来るようになって初めて、お酒も飲まず、泊まることもせずに、日付が変わる前に帰っていったのだ。


 そんなことがあって以降も、傍目には俺と忍先輩の友人関係はほとんど変わりがない。


 オカルト研究会では交際秒読みと言われてすでに随分経ち、2人ともお互いに一番信頼できる友人と公言してはばからないのに、交際が始まったという話を全く聞かないことからオカルト研究会史上最大のオカルトなどと言って時折話のネタにされる。


 そんな関係が1年弱も続いている。


 ただし、忍先輩が俺の家に泊まることは、あれ以来、一度もなかった。

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