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「嘘つき。」
────私の恋の時間は、あの日からずっと止まったままだ。
「九遠先輩、今日飲みに行きませんか?」
定時終わりにノートパソコンをシャットアウトしていると、隣の席の昔宮くんがいつもの調子で声をかけてきた。
35才で独身な私と、入社二年目でまだまだ若い昔宮くんはほぼ毎週のように飲みに行く。
お互い一人暮らしで、帰ってもごはんがないから貴重な存在だ。
「いいよ。いつものところでいい?」
行きつけの飲み屋に連絡しようとスマホを取り出すと、昔宮くんが言った。
「あ、今日人数って増やせます?」
「え?誰か誘いたい子いた?」
「はい、受付の久住さんを────」
そこまで聞いて、何も察しない訳じゃない。
「へぇ、オメデト!ついにやったのね!」
「あざーす!!で、久住さんもぜひ先輩と仲良くなりたいって言うので」
「嬉しい!可愛い子、大歓迎!」
久住さんはいかにも受付嬢な感じのおしとやかな女の子で。
派遣で入ってきてからずっと昔宮くんと可愛い可愛い言っていたのだ。
そうか、ついに付き合えたのか。
自分のことみたいに喜んで、ついはしゃいでしまった。