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叶わない愛情【他√における風雅】

「風雅ってさ、なんで彼女作んねーの?」


 大学でできた男友達に突然そう尋ねられて風雅は固まった。


「え? そんなの、あ……あー」


 そんなのみんな知ってることじゃん、と答えようとして風雅はやめる。

 高校時代、その理由を知らない人間はいなかった。でも今は、新しい生活を始めたここで風雅の過去を正確に知る人は少ない。他校でもファンクラブに属していた女子なら知っていても、男子なら知っているほうが珍しい。


「なんだよ?」

「ううん、なんでも。彼女は……好きな子がいるから作らないだけ」

「好きな子って……前言ってた彼氏いる子?」

「うん」

「うんって、お前……」


 友人は呆れた顔をしている。それも当然だ。


「たしかお前の話じゃ、その子彼氏とラブラブで、しかもお前が自分を好きだって知ってるんだろ?」


 その友人には、芽榴のことを話したことがある。

 何もかもが完璧で、自分が傷つけて、それでもそばにいてくれた、大切な友達。

 友達以上にはなれても、恋人にはしてもらえなかったこと。


「お前に好きって言われてて振り向かない女とかいるんだな」

「当たり前でしょ。オレよりいい男なんてたくさんいるんだから」

「……お前って本当に見た目に反して自己評価低いよな」


 友人は「そういうとこが好きなんだけどさ」なんて言って笑う。

 友人いわく風雅の第一印象は『この世で一番かっこいいと自他ともに理解していて自信にあふれてキラキラしているリア充』だったらしい。

 風雅と仲良くなった今は『見た目はかっこいいのに、とてつもなく不憫なバカ』となったらしい。それはそれでどうなのかとも思うが、風雅にとっては第一印象の評価より今の評価のほうが好きだった。


「昔はみんなが思う『イケメン』ってやつに頑張ってなろうとしたんだけどね。そのときはそれなりに彼女もいたよ」

「風雅がイケメンな言動するとか想像つかねーな」

「あはは。うん、だからめちゃくちゃ大変で、毎日息が詰まりそうだったよ」

「そのころにお前と会ってたら確実に仲良くなってねーだろうな」

「ひど! でも否定はできないなぁ」


 かつては当たり前だった『風雅のかりそめの姿』が、今は想像にもできないものになっている。

 だからこそ、大学に入ってからは男友達がたくさんできた。

 麗龍にいた時は役員のみんなが唯一の友達で、これからも変わらない最高の友人。

 でも、大学で新しくできた男友達も、飾らない風雅を見て評価してくれた。風雅にとって大切な友人となっている。

 風雅の顔目当てで寄ってくる女子はまだいるけれど、みんなちゃんと風雅の素の性格を見てくれているから、気が楽で、毎日が楽しいと思える。


「オレが今幸せなのは全部、その子のおかげなんだよ」


 芽榴の隣にいたい。ずっと、芽榴の一番でいたい。

 風雅が何よりも望んだ、そんな幸せを芽榴は風雅に与えてはくれなかった。

 その代わり、芽榴は風雅に残りのすべての永遠の幸せを与えてくれた。



(だから、オレはいまだに芽榴ちゃんを忘れられない)



 自分じゃない男の恋人になっても。

 その隣で幸せそうに笑う姿を見ても。

 そんな不幸を突きつけられても、嫌いになるどころか好きだという思いが募る。


 永遠に芽榴にとらわれたまま――このたった一つの不幸の代わりに、持て余すほどの幸せが振ってくる。


「強がらずに彼女作れよって言いてーのにさ、お前その子の話するとき本当に幸せそうだから何も言えねーよ」

「当たり前でしょ。考えるだけで幸せなんだよ」


 風雅は自覚している。

 おそらく、芽榴よりも好きになる女の子には、もう出会えないと。

 それでもいい。それでもいいと思えるくらい、芽榴との思い出を頭に思い浮かべるだけで幸せなのだ。



(何かが違えば、オレが芽榴ちゃんのそばにいる未来もあったのかもしれないけど……いや、それはないか。きっとどんな世界でも、オレは芽榴ちゃんを傷つけちゃうから)



 目を閉じれば、すぐに芽榴の笑顔が浮かぶ。

 同じくらい、悲しい顔も。

 それくらい、あの頃あの瞬間、風雅はずっと芽榴のそばにいた。



(ごめんね、芽榴ちゃん。オレと出会わない世界があったら、芽榴ちゃんはあんなふうに傷つかずに済んだかもしれないけど。……それでもオレは芽榴ちゃんと出会うことができたら、それだけで一生分の幸せを手に入れられる)


 好きになったことを一度だって後悔したことはない。

 きっと何度だって、好きになる。

 すべてが終わった今、彼女が隣にいない悲しい現実を前にしても、苦しい気持ちを抱えても。

 そう思うのだから、この気持ちは本物だ。

 手に入らないからこそ、この気持ちが本物だと実感できた。


「また、芽榴ちゃんに会いたいな」


 純粋に、言葉が口から洩れる。

 友人は困り顔。

 脳裏に浮かぶ、芽榴の顔も困り顔で――でも、優しかった。

 





最近、乙女ゲームをしながらBADエンドのしんどさを覚えまして。

自作品でBADエンドがあるとしたらどうなるだろうと考えた結果、その√ではさすがに幸せにしてあげないとなと思ったので(笑)

他√でさんざんふられまくった風雅くんが、どういう気持ちでその後を過ごしていくのか考えてみた結果が今回のお話でした!(土下座)

もうちょっと切なくしんどくなるはずだったんですけど、風雅くんはやはり光属性だった。

√的に病むBADは……一人しかいないですね!!!(笑)

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