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子育て日記【琴蔵聖夜】~お題箱より

 その日は家族にとって特別な日。


「パ、パー」


 ソファーに腰かける聖夜の腕に抱かれ、息子の恭弥きょうやが愛らしい笑顔を振りまく。

 まだ歩くこともできない幼い息子に、聖夜はこれ以上ないくらい愛情に満ちた視線を送る。

 どんなに忙しくても、出張などで物理的に会いに来れないときを除いて、最低一日一回必ず息子を抱く。それは聖夜が決めた日課で、娘が生まれた時も果たした父親としての目標のひとつだ。


 単語しか話せない恭弥が覚えた「パパ」が嬉しくて、呼ばれるたびに聖夜の涙腺を刺激する。


「かわええな、恭弥は。ちゃんと育ってええ男なれよ」


 頬をふにふにと押すと、きゃっきゃっとかわいらしく笑う。自分の遺伝子が入った息子とは思えないくらい愛嬌がある――それが聖夜の素直な感想だ。


「芽榴と理子りこはなにしてんやろな?」


 言葉の分からない恭弥に尋ねる。恭弥はきゃっきゃっと笑うだけ。

 芽榴と、小学1年生の娘・理子は現在キッチンにいる。

 せっかくのクリスマスなのだからみんなでゆっくりしよう、と聖夜が提案したのに却下されてしまった。


「クリスマスプレゼント喜ぶ理子はかわいかったなぁ。昔の芽榴そっくりや。……いや芽榴はそないに無邪気に笑ってくれへんか」


 今朝、自分と変わらないくらいの大きさのくまのぬいぐるみを抱えて笑顔で現れた理子を、聖夜は本気で天使かと思ったくらいだ。

 娘も、息子も、芽榴が心配するくらい聖夜は溺愛している。


「隙あり!」


 物思いにふけっていると、聖夜の背後から小さい手がにょきっと現れて聖夜の目を塞ぐ。


「理子、何してんの? もう夕飯できたん?」

「うん! ママといっしょにがんばったんだよ!」


 どうやら理子も一緒に夕飯を作ったらしい。


「えらいな。せやったらはよ食べたい。手どけて」


 聖夜は優しい口調で言って、理子の手に触れる。

 聖夜の視界が開けていき、聖夜の目が一気に見開く。


 目の前には愛しい妻と、子ども。

 そして――。


「おたんじょうびおめでとう、パパ!」


 理子が元気にそう告げる。

 目の前には理子が書いた不格好な『おめでとう』のプレートが乗った手作りケーキ。


「なんで……祝わんでいいって俺……」


 祝われることに慣れないから、聖夜はいつも誕生日を祝わなくていいと告げる。

 祝われたくないから、いつもクリスマスには本家のパーティーに行って、聖夜は極力家にいない。

 もちろん理子へのプレゼントはちゃんと準備していて朝と夜はいるけれど。

 こうしてしっかりお祝いできるほど長く家にいなかった。


 今日は理子が「クリスマスにパパと遊びたい」とお願いして、聖夜がすべての予定を断った結果できたオフの日だった。


「理子が、どうしても聖夜くんのこと祝いたいって」

「パパ、理子のお祝いたくさんしてくれるもん!」


 だからパパのお祝いがしたかった、と。

 そう告げられて、聖夜の瞳から涙が流れた。


「え……ごめんね、パパ! そんなにいやだった?」

「ちがう……。ほんまごめん。そうやなくて……嬉しくて」


 娘が自分のために作ってくれたお祝いの料理が、不格好なのにどんなプレゼントよりも宝物のように思えて――。


「ありがとう」


 本当は祝われたかった。でもきっと嬉しすぎてかっこ悪い自分を見せてしまうことが分かっていたから素直になれないだけだった。

 案の定、聖夜の姿はとても凛々しいとは言えない。

 でも、とても愛らしかった。


「やった! ママ、大成功だよ!」

「うん。がんばったかいがあったね」


 芽榴と理子の笑い声を聞いて、恭弥もきゃはっと大きな声をあげて笑う。

 温もりと優しさに満ちた笑顔に包まれて、聖夜の心には幸せが溢れる。


「聖夜くん、おめでとう」


 呼ばれて聖夜は芽榴の顔を見る。

 本当に、日々好きになる。子どもが生まれても、子どもを溺愛しても。芽榴を好きな気持ちは変わらないどころか増していく。


「ありがとう」


 ――祝ってくれて。

 ――そばにいてくれて。


 ――家族をくれて。


 いろんな気持ちを込めて告げた感謝の気持ちに、みんなが笑顔を返してくれた。


お題箱より『犬猿の仲組(颯、風雅、聖夜、慎)の子育て編が見たい』ということで書かせていただきました!聖夜編でしたー!

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