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子育て日記【神代颯】~お題箱より

「お母さん、手伝うよー」


 夕飯の支度をしていると、娘のあおいが隣に立った。

 葵は先日麗龍の初等部から中等部へ進学したばかり。おろしたての中等部の制服を着たまま芽榴の隣に並んだ。


「ありがとー。でもその前に、制服着替えないと汚れるよ」

「エプロンするから大丈夫だよー」


 そう言って、葵は壁にかかっているエプロンをとろうと後ろを振り返り、目を細めた。


「へぇ、今日は葵の料理? 楽しみだね」


 颯と同じ口調、同じ声。

 見上げた顔も昔の颯と瓜二つ。たまに芽榴も分からなくなる。

 葵より一つ年上の息子、みやびが葵を見下ろしてにこやかに笑っている。


「……うわ、お兄ちゃん」

「うわってなに?」

「別に……。お母さん、やっぱり制服着替えてくる」


 葵は雅から逃げるように二階の部屋へと駆けあがっていった。


「はあ、葵のやつまた僕から逃げてる」

「そういう時期なんだよ」


 芽榴は眉を下げて笑う。

 兄妹仲が悪いというわけではないのだが、雅も麗龍の中等部に通っていて、かつての颯同様目立つ人間。

 一方の葵は芽榴に似て注目を浴びるのが苦手なタイプ。

 ゆえに葵は公私ともに雅のことを避けたいらしいのだ。その気持ちが芽榴も分からなくはない。


「僕は葵が大好きなんだけどな」

「その気持ちは十分伝わってると思うよ」

「まあ……一番好きなのは芽榴さんだけど」

「……お母さんって呼びなさい」


 雅に困っているのは葵だけではない。母である芽榴も彼の言動に悩んでいる。

 雅は昔から芽榴のことを「お母さん」と滅多に呼んでくれないのだ。


「お父さんは『芽榴』って呼んでるのに?」

「なんで比べるの……。ていうかお父さんのことはちゃんと『お父さん』って呼ぶんだから、ちゃんと『お母さん』って言いなさい」

「昔のお父さんを思い出す?」


 雅は自分が颯と似ていることを知っている。写真を見たり、芽榴と颯の友人たちから聞いていることも理由だが、何より自分が一番そう感じているのだと思う。


「雅、あんまり親をからかうと怒るよ」

「怒ってる芽榴さんも僕は楽しめるけどね」

「じゃあ……僕が怒ろうか」


 雅と同じ声。けれどその発言から醸し出される威厳がまるで違う。

 仕事から帰ってきたスーツ姿の颯がにこにこと笑っている。


「ああ……お父さん」

「雅、お前は本当に他のことに関しては何も言わなくてもできるのに、どうして芽榴のことに関しては口うるさく言ってもできないのかな」

「できないじゃなくて、しないが正しいと思うよ? お父さん」

「……本当、お前は僕にそっくりだね」


 颯と雅は互いに笑みを絶やさない。

 それが逆に恐ろしい。


「あ、お父さんだー。おかえりなさい」


 制服から部屋着に着替えた葵が戻って来た。颯の姿を見るなり、葵は颯の胸に飛びつく。

 年頃だから父親を避けそうものなのに、葵はいまだ颯にべったりだ。


「ただいま、葵」

「葵まで、お父さんのほうに行くし」


 雅は拗ねてしまう。颯と似ているようで、颯より子どもらしい。

 生意気だけれど、そんな雅のことが芽榴はやっぱり大好きだ。


「雅」

「なに、芽榴さん」

「お母さんって呼びなさい。……そしたら、夕食の後チェスをしてあげる」

「え、本当?」


 颯と同じで、雅もオセロやチェスといった知的戦略ゲームが得意でよく挑んでくる。

 最近あまり相手をしていなかったから、たまにはしてあげよう。そんなふうに思って芽榴が提案すると――。


「芽榴。僕とも最近全然してないのに、なんで先に雅とするの?」


 いい歳をした旦那様が大人げない発言をぶつけてきて、芽榴は半目になる。


「じゃあ、お父さん。葵とオセロしよーよ」

「葵が僕にかまってくれるの? なら、いいかな」


 すぐに手の平を返された。まったくもって颯も子どもに甘い。


「家族みんなで久しぶりにあそぼっか」


 芽榴の提案に、みんなが笑顔で頷いた。

お題箱より『犬猿の仲組(颯、風雅、聖夜、慎)の子育て編が見たい』ということで書かせていただきました!颯編でしたー!

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