表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/44

芽榴至上主義【琴蔵聖夜】〜お題箱より

 久しぶりに、芽榴が風邪を引いた。

 聖夜はよく風邪を引いては芽榴に看病されているのだが、芽榴が風邪を引くのは一緒に生活しだしてからはじめてだった。


 だから芽榴は安静第一。薬を飲んでゆっくり休めば治る。お医者さんにもそう言われているのだが……。


「ん、熱測れたか? 見せや」


 芽榴の傍らに座る聖夜が、芽榴の手から体温計を奪う。


「37.8℃……やと」


 今朝は39℃近くあったため、かなり熱は引いてもう微熱程度。聖夜の看病の甲斐あって、だいぶ治ったようだ。

 そのことに安堵し、芽榴は聖夜の絶対監視下でベッドに縫いつけられていた体を起こそうとしたのだが……。


「まだ熱下がってへんのになに起きようとしてんねん、アホ」


 聖夜の腕に抱きとめられ、再びふかふかのマットレスに体が沈み込む。


「下がったよ。もう微熱……」

「まだ平熱ちゃうわ。ぶり返したらどうすんねん。安静第一て言われたやろ」

「安静にしたよ」

「あかん」

「……聖夜くんも休んだら? 看病して疲れたでしょ? 聖夜くんまで風邪引いたら……」

「俺がおらんあいだに動き回る気やろ」


 図星を突かれて芽榴はあははと笑う。すると聖夜は呆れたようにため息を吐いた。


「つーか、なんでまだ37℃も熱あんねん」

「いや……手厚い看病のおかげですごく熱下がってるけど」

「……さっきの女、藪医者なんとちゃうか」

「簑原さんがお医者さん調べてくれたから、それはたぶんないと思……って、聖夜くん?」


 芽榴の発言に、聖夜があからさまに不機嫌な顔をする。ムスーッと、とんでもない仏頂面で芽榴を見下ろしている。


「俺の前で慎のこと褒めんな」

「いや、別に褒めてはないけど……コホッ」

「大丈夫か!?」

「だ、大丈夫だから……落ち着いて」


 芽榴が咳をしただけで、聖夜の表情は焦りに満ちる。

 聖夜の看病はありがたいのだが、先程からこれの繰り返しで芽榴の気がまったく休まらない。


「やっぱり別の医者呼ぶ」

「え、ま、待って」

「あー……ほんまは俺のことよう診てくれる内科医に診てもらいたいけど、男やから論外やし……女医ってなると他に慎が勧めてたのは……」


 最初に慎に医者を探してもらったときも「男の医者は却下や!」という怒鳴り声を電話の向こうに投げつけていた。

 別に性別はどうでもいいではないか、と芽榴が言うと「今の無防備すぎてかわいくてたまらんお前に、男が指一本でも触れようもんならそいつ殺す」というとんでも発言が飛んだのだ。


「聖夜くん。大丈夫だから……あの、本当にただの風邪だから」

「ただの風邪なら、ええ薬飲んでんやからもう治ってもええやろ」

「うん。だから治って……」

「くっそ。さすがに今から新薬開発なんて無理な話やし。……ちっ、将来のことも考えてもっと即効性のある風邪薬の開発に力入れるよう製薬会社に連絡しとくわ」

「それは私関係なく、力を入れてほしいところかな」


 どう反応していいのか分からなくなってきて、芽榴は半笑い状態だ。

 その様子も聖夜は風邪のせいだと思って、落ち着いてはくれない。


「もうお前に二度と風邪引かせん。部屋の中を完全無菌状態にするからほんま許して」

「そもそも怒ってないし……。むしろこっちが謝りたいのに。もう、自分が風邪引いたときは全然熱引いてないのに仕事しようとしたり、無理したりするのに」

「俺はええの」

「よくないよ。ちゃんと自分を大切にして」


 芽榴は困り顔で笑って聖夜の頰に手を伸ばす。

 優しく触れて聖夜の頰を撫でると、聖夜は気持ちよさそうに目を細めた。


「聖夜くんは心配しすぎ。そんなんじゃ、これから大変だよ?」

「……大変? まさか芽榴、なんか悪い病気でも」

「違うよ、そうじゃなくて……」


 芽榴は赤い頰を緩ませて「たとえばね」と小さく紡いだ。


「もしいつか、聖夜くんとの赤ちゃんができたら……聖夜くんもっと心配するでしょ。心配のしすぎで倒れちゃうよ」


 芽榴がそう答えると、聖夜は目を大きく見張った。


「たぶんその子のことも心配して、お仕事できなくなっちゃうし。それじゃダメでしょ? パパとして」


 芽榴が言い聞かせるように、「ね?」と聖夜に返事を求める。でも聖夜は答えない。

 ピクリともしなくて、その様子に芽榴がやっと異変を覚えた瞬間、聖夜がベッドサイドに置いた芽榴の飲みかけの水を口にした。


「聖夜く……、っ!」


 口移しで、芽榴の喉に水が流れ込んでいく。どさくさに紛れて、聖夜はがっつり芽榴にキスをしていた。


「ちょ、っと、風邪移っちゃう、から……!」

「……っ、水、そろそろ飲みたかったやろ」


 満足そうな顔をして、でもまだ少し物足りそうな様子で聖夜は芽榴の額に自分の額をくっつける。


「熱い。……また熱上がってるんちゃう?」

「誰があげたと思ってるの」

「しゃあないやん。安静にさせたいのに、芽榴煽りすぎやろ。俺どうしたらええの」


 熱のせいで、芽榴の額は熱い。でも風邪を引いていないはずの聖夜の額も熱を帯びていた。


「……なんもできんて分かってるときにかぎって、かわいすぎること言わんでよ、ほんまに」


 どこか泣きそうな聖夜の声が、声色に似合わなすぎてそれすらも愛しく思える。


「芽榴……」

「うん」


 聖夜の頭を撫でる。まるで子どもみたい。

 でも違う。聖夜は芽榴の子どもじゃない。


「早く風邪治して。……俺をはよパパにさせてや」


 愛しい愛しい旦那様。



 

Twitterのお題箱より「聖夜くんが芽榴ちゃんのこと看病する話。過保護かよっ!ってくらい心配するやつ」でしたー!

ちゃんと過保護になってたかな……と不安はありますが。


いやぁ、聖夜くんはおもしろいし書きやすい子ですね。そして勢いのままもう勝手に結婚させちゃってやしたがらプロポーズもちゃんと書きたいですね笑

個人的に聖夜くんの最後のセリフは書いてて破壊力がありました。


長くなりましたが、

お題ありがとうございましたー!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ