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オレのお姫様【蓮月風雅】〜お題箱より

 その日、芽榴は東條家主催のパーティーに出向いていた。


「最近まともに休ませてあげられていないのに、こんな夜遅くまで付き合わせてすまないね。芽榴」


 東條が申し訳なさそうに芽榴に告げる。東條の言う通り、芽榴は連日徹夜続きでまともな休みを取ったのは数週間前、という状況だった。

 しかし芽榴はそのことについて不平を言うことはせず、むしろ当然のように笑顔を携えた。


「たぶん休みなさいって言われても参加していたと思います。今後のことを考えて、東條家に関わることを知っておきたいですから」


 東條家から離れた十年あまりの時間を取り戻すためにも。これからグループを背負いたいと考えているのならなおさら、芽榴は疲労を理由に逃げるわけにはいかない。


「ありがとう。挨拶回りもほとんど済んでいるし、車を用意しよう」


 東條が気を利かせてくれる。

 けれど芽榴はふるふると首を横に振って、その申し出を断った。


「芽榴。そんな格好で夜道を一人歩きさせるわけには……」

「大丈夫です。その、一人じゃないですから」


 芽榴が少し照れたように笑って答えると、東條は一瞬不思議そうな顔をするが、すぐに何事かを察した。


「蓮月くんか。迎えに来てくれるのかい?」

「タクシー呼ぶからいいって言ったんですけど……」


 風雅は「タクシーの運転手が絶対安全ってわけじゃないんだよ!」という迷言を提示して聞かなかった。


「彼らしい」


 東條はそう言ってクスクスと笑った。




 そういうわけで、芽榴は会場のホテルで東條と別れた。

 風雅にはホテルのエントランスで待っていて、と言われているため、芽榴はその場で待つ。


「そういえば……会うの久しぶり、だな」


 風雅に会う時間すらなかなか取れていなかった。電話はいつもしていたけれど直接会うのは1ヶ月ぶりくらいかもしれない。


「早く、会いたいなぁ」


 らしくもない言葉が、芽榴の口からこぼれる。

 すると芽榴の肩がトン、と叩かれた。


(……この手は、違う)


 そんなことを思いながら振り返って、芽榴は社交辞令の笑みを返す。


「芽榴さん、帰らずにどうしたの?」


 先程、東條と一緒に挨拶をした男性が立っていた。たしか彼はグループ傘下の企業の社長令息。芽榴の名前を律儀にも覚えてくれたらしい。


「迎えが来るので」

「女性を待たせるなんて良くない運転手だ。僕が代わりに送るけど?」


 慣れたように相手の口から言葉が出てくる。なんとなく、苦手だなと思いながら芽榴は手を横に振る。


「あー、いえ。お気になさらず」

「そんなこと言わずに……」


 強引に芽榴の手を引こうとする。

 それを芽榴は振り払おうとするけれど、意識はすぐに別の方へと向かってしまった。


「芽榴ちゃん!」


 風雅がエントランスに現れた。

 それだけで相手の男性は、風雅が芽榴の何なのかを察したようで。


「なるほど。これは失礼」


 白々しい言葉を吐いて、男は芽榴の手の甲にキスをした。

 とっさのことで芽榴は目を丸くする。それを見ていた風雅も同じように、目をまん丸に見開いていた。

「ぜひまたお会いしましょう、芽榴さん」

 悪びれなく笑って、男性は優雅に去っていった。

 芽榴はその姿を見送ることもせず、急いで風雅に駆け寄った。


「風雅くん、あの……」


 何を言おうとしたか、芽榴にも分からない。とにかく何か言い訳をしなきゃと思ったのに。


「芽榴ちゃん。帰ろ」


 風雅がにっこり笑って手を引くから、何も言えなかった。

 ただその笑顔が、昔よく見た無理した笑顔だったことくらい芽榴には分かってしまう。





 それから、風雅の車で彼の家にやってきた。

 もちろん車内は沈黙。

 正確には、一言で終わってしまうような会話が数度繰り返されてはいたけれど。

 風雅と一緒にいてこんな沈黙に会うことは滅多にない。付き合いだしてからはゼロだったのに。


「芽榴ちゃん、どうぞ」


 そう言う声音はとても優しいのに、とても寂しく響く。いっそ冷たく思えるくらい。


「あの……」


 部屋に通してくれるのに、風雅は芽榴に視線をくれない。さっさと部屋の奥へ向かおうとする風雅が遠い人のように思えて。


「ごめんなさい」


 気づけば、芽榴は風雅の背中にしがみついていた。


「久しぶりに会ったのに、嫌な思いさせて……ごめんね」


 キュッと拳を握る。風雅のシャツに皺ができてしまうと、頭の隅で心配しながら。それでも芽榴は風雅を離さなかった。


「……芽榴ちゃん」


 でも風雅は背中にしがみつく芽榴を引き離す。その行動とは裏腹に手つきは優しい。


「風雅く……っ、わっとと!」


 風雅は引き離すために掴んだ芽榴の手を離すことをせずに、そのまま芽榴を部屋の奥に連れて行く。

 そうしてやっぱり優しく芽榴をベッドの淵に座らせた。


「えっと、あの……」

「オレは怒ってるよ」


 風雅はカーペットに立膝をついて、芽榴に視線を合わせる。

 自分は怒っているんだと、頰を膨らませるくせに。

 自分は床に膝をついて、芽榴はベッドに座らせて、行動がまったく一致しない。


「オレ、芽榴ちゃんと会えるのめちゃくちゃ嬉しくて、すっっごく会いたくてしかたなかったのに」


 そうしてプイッとそっぽを向いて、唇を尖らせた。


「なんでオレじゃない男に、お姫様みたいに扱われちゃってるの」

「ごめんなさい」

「……芽榴ちゃんが悪くないのは分かってるけど。いや、芽榴ちゃんがカワイイのが悪い。全面的に」

「それは……」

「今はオレがお説教してるんだから芽榴ちゃんの反論は聞きません!」


 そう声を張って、風雅は鼻を鳴らす。

 子どもっぽい仕草を見せた後、風雅は困ったように眉を下げた。


「やっぱり、会いたすぎて死にそうになるのはオレだけ?」


 そんな悲しそうな顔で言われたら、芽榴まで悲しくなる。


「不安に、させてるよね」

「不安だよ。でも芽榴ちゃんがオレを好きだって言ってくれるなら不安も芽榴ちゃんがくれるものだってオレは好きになれるよ」


 冗談なんて言えるほど心に余裕なんてないくせに、風雅は冗談みたく言って笑った。


「……バカ」


 小さく呟いて、芽榴はふるふると首を横に振る。


「風雅くん。怒らせちゃったお詫びに、ひとつだけ言うことなんでも聞くよ」

「ほんとに?」

「うん」

「なんでも?」

「……うん」


 少し不安そうにしながらも頷いた芽榴に、風雅は嬉しそうな笑顔を見せる。やっと風雅らしい笑顔を見せてくれる。


「じゃあ仲直りしよ、芽榴ちゃん」


 そう言って風雅は芽榴の手の甲にキスをする。


「まずは消毒から」


 別の男性から触れられた感触は、もう風雅で上書きされてよく分からない。

 キスの所作がまるで王子様みたいで。

 さっき他の人にされたときは、まったく思わなかったのに。

 なんだか本当にお姫様にでもなった気分に襲われる。

 風雅の唇がゆっくり手から離れていく。


「……今のでいいの? 仲直り?」

「違う違う! 言ったじゃん、今のは消毒だって」


 風雅はにんまり笑って、その顔を下降させていく。


「え……ちょ、待って! 風雅くん!」

「なんでもするって、言ったでしょ。芽榴ちゃん」

「うっ……」


 芽榴の視線の先、風雅は芽榴の右足を抱えて自分の顔に近づけている。


「シャワー浴びてないし、足なんて汚いから!」

「芽榴ちゃんに汚いとこなんてないよ」


 風雅は芽榴の白い足を優しく撫でる。まるで慈しむように。


「芽榴ちゃんのすべてが、真っ白で、ふわふわで、綺麗で……オレの好きでいっぱい」


 心からの愛を言葉に乗せて。

 風雅は芽榴の足の甲に唇を落とす。


「オレの心を削るくらいに愛し尽くすから」


 見ているだけで恥ずかしいのに、目が離せない。


「オレだけのお姫様でいて、芽榴ちゃん」


 思わず頷いてしまった芽榴は、風雅が思っている以上に風雅の愛に溺れている。



Twitterのお題箱からのリクエストで「芽榴ちゃんに心酔して足元に跪いてる風雅くんとまんざらでも無さそうな芽榴ちゃん」でした!

めっっちゃ私の読解能力がなくて悩んだんですが、たぶんきっと意図に沿えてない!ごめんなさい!でも私は書いてて楽しかったです!笑

ぜひまたリベンジリクエストお願いします。。

ありがとうございました!

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