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過去→今【楠原圭】

「圭はさ、彼女できたら何したい?」


 高校1年の春。

 休み時間に目の前で漫画を読んでいた透にそんなことを聞かれた。

 竜司と透とは、中3で転校してきたときに同じクラスで、すぐに仲が良くなった。高校も同じところに合格して、今では親友と呼べるほど仲良くなって、そのときからずっと一緒にいた。


「できないのに、そんな話しても意味ないだろ」

「圭の場合、できないんじゃなくて作らないんだろ!」


 透がぷんぷん怒っている。

 それも仕方のないことで、作りたいと思えば作れるくらいには告白もされていた。

 しかし、圭には彼女が人生で1人もいなかった。


「透、声でけー。圭の恋話だから、女子が聞き耳立ててっぞ」

「いでっ!!」


 竜司がペットボトルで透の頭を軽く叩く。

 彼の言葉通り、クラスの女子が数人、こちらの話をうかがっているような素振りが見えた。

 そんなことを分かっていながら、圭は「気のせいだろ」と能天気なふりをして笑っていた。


「はいはい。でもそんな鈍感な圭にも、理想とかはあるんだろ? ちゃんと」

「どんな子がタイプなんだよ」


 圭があまりにも告白をあっさり断るものだから、竜司と透は圭の好みに興味津々なのだ。


「前も言っただろ。性格いい子って」

「ざっくりすぎんだろ!」

「中3のときクラスで一番性格のいい女子振ったのはなんなんだよ!?」


 どこからその情報を仕入れているのか、と疑問に思うほど、二人は圭の恋愛事情に詳しい。

 圭が苦笑すると、二人は勝手な推測を始める。


「めっちゃかわいい子も振ってたしなぁ〜。顔でも性格でもダメ?」

「いや、どっちもそろってないとダメなんじゃね?」

「理想高すぎだろ!」

「別にそんなんじゃないよ」


 たしかに、圭の好きな人は、圭にとってかわいくて性格もいい素晴らしい人だけれど。


「たとえば、そうだな……」


(芽榴姉みたいな人って……いや、顔も性格も全部完璧すぎるし。……うーん、他に言えるとしたら……)


 必死に考えて、圭はこう口にする。


「自分のことを自分でどうにかできちゃう人。……でもそのくせに、守ってあげたくなる弱さを垣間見せて……でも守らせてはくれない人、かな」


 芽榴のことを思い浮かべて、自分が惹かれたところではなく、好きでいることをやめられない理由を口にした。


 それはとても、圭の中では納得のいく言葉だったけれど、竜司と透は口をポカンと開けてしまう。


「圭……なにそのマニアックな趣味」

「ふられた女子に同情するしかねーわ」


 散々な言われようだ。

 でも二人はいつもこんな感じで、騒ぐだけ騒いですぐ話題を次に移す。

 今回は最初の話題に戻った。


「で、圭は彼女できたら何したい?」

「何って……」

「あ、ヤラシイの禁止な!」

「……バカか」


 圭が呆れ顔をすると、透が「かっこつけんな!」とか「考えただろ!?」とか、うるさく絡んできた。

 が、圭はそれらの言葉を無視して、少しだけ真剣に考えてみた。


(彼女、っていうのが想像できないからなあ……)


 架空の彼女を思っても、それは形にならない。姿のない彼女と何をしたいという願望も生まれやしない。


 だから、やっぱり圭はこう考える。


(もし、芽榴姉を俺の好きにしていいなら……)


 そう考えたら、たくさん思いが溢れた。

 したいことなんて、ありすぎてわけがわからなくなるくらい。

 でも、言い出したらキリがないから。


「一緒にいられるだけでいいかな」

「うわっ、何それ。かっこつけんなよ!」

「そうそう。ほら欲望を言ってみ」


 竜司と透は他の言葉を求めてくる。

 でも今のが圭の本音だ。

 一緒にいられるだけで、圭は幸せなのだ。だから、圭は今、ちゃんと幸せなのだから。


 でも、それでも強いてあげるなら。


「公然でさ、堂々といちゃつきたいかな」


 もし願いが叶っても、それが許されないと分かっているから。

 これは、無い物ねだりみたいなもの。


「この子が俺の彼女だよって、見せびらかしたい」


 そんな圭の貪欲な願いを友人たちは、楽しそうに笑った。







 それから、何年が経っただろう。


「……芽榴姉、顔真っ赤」


 圭に恋人つなぎをされて、芽榴は頰を真っ赤に染めている。


「そんなことない……。ほら、行くよー」


 誤魔化すように言って、圭の手を引っ張る。

 その仕草の、なんて可愛らしいことだろう。

 そう思うと同時に、そんな顔を誰にも見せたくないとも感じる。


 自分という彼氏の存在が隣にあるのに、道行く人が可愛らしい芽榴に視線を奪われてしまうのが、圭をなんとも言えない気持ちにさせる。


 まるで圭がただの装飾であるかのような扱い。

 圭にお構いなく、芽榴を「女の子」として見つめる視線は嫌なのだ。


「……圭? ひゃっ!?」


 繋いだ手を自分の口元に引き寄せる。

 芽榴の冷たい真っ白な手に口づけると、芽榴が愛らしい声を出した。


「へへっ、芽榴姉かわいい」

「あんまりからかうと、怒るよ!」


 ムッとしてみせるけど、真っ赤な顔だから迫力がない。もっとかわいいと思ってしまう。



「からかってない。芽榴姉にかまってほしいんだよ、俺」

「かまってるじゃん」

「うん。でも……もっと、さ」


 そう言って、圭は道行く人が見ているにも関わらず芽榴にキスをしようと腰を屈めた。

 芽榴の隣から、倒れこむように芽榴の眼前に顔を寄せるけど。


「……芽榴姉のいじわる」


 芽榴は両手で目の前の圭の唇を塞いだ。


「こんなところでそーいうことしないの。……圭らしくないよ」

「芽榴姉のいう『俺らしい』は、弟らしいって意味なんだからそうでしょ」


 圭は肩を竦め、芽榴から離れようとする。

 そうすると、芽榴の警戒が解けるから。


 それが、狙い。


「……っ、圭!」

「だーめ。俺、もう彼氏だよ? ……芽榴さん」


 姉、とつけない圭は卑怯だ。

 芽榴の反応がわずかに遅れて、芽榴は圭のキスを受け入れてしまう。


 文句が言いたくて、唇が放れるとすぐに芽榴は口を開いた。

 けれど、その口からは言葉が出ない。


「めちゃくちゃ……うれしい」


 これ以上ないくらい幸せそうに圭が笑うから、文句なんて出てかなかった。


「……次は怒るからね」

「あたたっ」


 芽榴が困り顔でぽこっと圭の頭を叩く。

 それすらも圭にとってはご褒美でしかなくて。


「約束はしないよ。……俺は、そういう男だって、もう芽榴姉知ってるでしょ?」


 その笑顔の裏にある欲望も、もう圭は隠したりしない。


 





リクエストで、またまた圭くんと芽榴ちゃんのお話でした!

芽榴ちゃんと圭のイチャイチャと、過去の片想い話が読みたいとのことで混ぜてしまいました!


圭くんの過去の苦悩はもはやエクストラで書き尽くしてるのですが、それでも書き足りないくらい!サブキャラですが本当に切ない子ですので!

みなさんに読みたいと言ってもらえてうれしいかぎりです。


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