表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/44

クリスマスSS【柊来羅】

「るーちゃん、こっち向いて」


 来羅の声に導かれ、芽榴が視線を動かすとシャッターがきられる。

 自分とともに芽榴の姿を映して、来羅は嬉しそうな声をあげた。


「うん、ばっちり。るーちゃん、かわいい」


 撮影した写真を確認して、来羅はスマホをポケットに直した。

 そして芽榴の指に自分の指を絡め、ギュッと握りしめる。


「さーて、と。次はどこ行こっか?」


 イルミネーションが煌めく街の中を二人で歩く。周りには、芽榴と来羅以外にもたくさんのカップルがいた。


 楽しそうに、寄り添いあって、幸せに。


「私たちも、あんなふうに幸せそうなカップルに見えてるかな?」


 来羅が小さな声で尋ねた。

 芽榴が顔を上げると、来羅はごめんね、と眉を下げて笑う。


「来羅ちゃん?」

「女装の期間が長すぎて、どうしてもこの姿でも自分が男に見えるのか不安になっちゃって」


 来羅が女装をすることは、芽榴の知る限り卒業してから今まで一度もない。

 でも女装をしていた頃に身についた綺麗な所作は、来羅に男らしさをいまだに感じさせない。


 だからといって、来羅が男らしくないというわけでもないのだが。


「どうしても、たまーに、ね? るーちゃんとも女友達感覚が延長してる気がしちゃうんだよね」

「そう、かな?」


 芽榴は思案するように視線を上向かせる。


 たしかに、一緒にかわいいカフェに行って写真を撮ったり、イルミネーションの煌めきに目を輝かせたり。

 女子会ともいえるようなデートが多いのはたしかだ。


「でも、やっぱり違うかなぁー」


 芽榴は自分でそう口にして、納得するように頷いた。


「だって、舞子ちゃんといるときは楽しいって気持ちばっかりだけど……。来羅ちゃんと一緒にいるときはやっぱりドキドキしちゃうから」

「うそぉ! るーちゃんが私にドキドキするなんて、滅多にないでしょ」

「そんなことないよー」


 芽榴はそう言って、繋がれた手を目に見えるように掲げる。


「こうやって、手を繋いでもらうと、『彼女なんだー』って実感しちゃうし。来羅ちゃんとのデートだから、頑張ってオシャレしようって努力してみたり」


 今日も朝から慣れないオシャレにお慌て。真理子に服選びを手伝ってもらって、練習したメイクを時間をかけて施してみたり。


「そういうささいな気持ちは、好きとは違うのかな?」


 芽榴がはにかんだ顔で尋ねると、来羅は少しだけ驚いた顔をした。


「るーちゃんにそう言われると、照れちゃうよ」

「あはは、私も照れる」


 そうして溢れる来羅のクスクスと笑う声も、芽榴は好きだと思った。


「逆に来羅ちゃんは、私と女友達感覚で一緒にいる?」

「この感覚で満足できるなら、告白なんてしてないよ」


 恋人になりたかったから、来羅は変わった。

 芽榴のことが大好きだから。


「るーちゃんが想像している以上に、私はるーちゃんしか、見えてないんだもの」


 けれど来羅の過去が、芽榴との関係を躊躇させていた。でもどんなに躊躇しても、この想いが変わることはなくて、深くなるばかりで。


 だからこそ、来羅は先に進むきっかけをやっぱり芽榴に求めてしまう。


 いつだって、来羅を動かすのは、芽榴の言葉だから。


「ごめん、るーちゃん。今のは、ちょっとるーちゃんを試しただけなのかも」

「え?」


 そう言って、芽榴が首を傾けると、来羅は芽榴の唇にキスをした。


 それを見ていた人がいたのだろう。周囲では冷やかしの声があがっていたけれど、芽榴の耳には届かない。


 キスなんて、もう何度も交わした。人前でされることだって、大学の構内でもあった。


 でも今日のキスは少しだけ意味が違う気がした。


「るーちゃんサンタさん」


 クリスマスツリーのイルミネーションがきらきらと光る。

 芽榴は来羅に抱きしめられて。

 来羅はいたずらな声で、芽榴をそう呼んだ。


「この先に進みたいって願いを、叶えてくれる?」


 耳元で来羅の声が響く。周囲の音をかき消すように、芽榴の脳内をその言葉が支配して。


「るーちゃんを僕のものにしていい?」


 その願いに、芽榴はゆっくり頷いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ