クリスマスSS【柊来羅】
「るーちゃん、こっち向いて」
来羅の声に導かれ、芽榴が視線を動かすとシャッターがきられる。
自分とともに芽榴の姿を映して、来羅は嬉しそうな声をあげた。
「うん、ばっちり。るーちゃん、かわいい」
撮影した写真を確認して、来羅はスマホをポケットに直した。
そして芽榴の指に自分の指を絡め、ギュッと握りしめる。
「さーて、と。次はどこ行こっか?」
イルミネーションが煌めく街の中を二人で歩く。周りには、芽榴と来羅以外にもたくさんのカップルがいた。
楽しそうに、寄り添いあって、幸せに。
「私たちも、あんなふうに幸せそうなカップルに見えてるかな?」
来羅が小さな声で尋ねた。
芽榴が顔を上げると、来羅はごめんね、と眉を下げて笑う。
「来羅ちゃん?」
「女装の期間が長すぎて、どうしてもこの姿でも自分が男に見えるのか不安になっちゃって」
来羅が女装をすることは、芽榴の知る限り卒業してから今まで一度もない。
でも女装をしていた頃に身についた綺麗な所作は、来羅に男らしさをいまだに感じさせない。
だからといって、来羅が男らしくないというわけでもないのだが。
「どうしても、たまーに、ね? るーちゃんとも女友達感覚が延長してる気がしちゃうんだよね」
「そう、かな?」
芽榴は思案するように視線を上向かせる。
たしかに、一緒にかわいいカフェに行って写真を撮ったり、イルミネーションの煌めきに目を輝かせたり。
女子会ともいえるようなデートが多いのはたしかだ。
「でも、やっぱり違うかなぁー」
芽榴は自分でそう口にして、納得するように頷いた。
「だって、舞子ちゃんといるときは楽しいって気持ちばっかりだけど……。来羅ちゃんと一緒にいるときはやっぱりドキドキしちゃうから」
「うそぉ! るーちゃんが私にドキドキするなんて、滅多にないでしょ」
「そんなことないよー」
芽榴はそう言って、繋がれた手を目に見えるように掲げる。
「こうやって、手を繋いでもらうと、『彼女なんだー』って実感しちゃうし。来羅ちゃんとのデートだから、頑張ってオシャレしようって努力してみたり」
今日も朝から慣れないオシャレにお慌て。真理子に服選びを手伝ってもらって、練習したメイクを時間をかけて施してみたり。
「そういうささいな気持ちは、好きとは違うのかな?」
芽榴がはにかんだ顔で尋ねると、来羅は少しだけ驚いた顔をした。
「るーちゃんにそう言われると、照れちゃうよ」
「あはは、私も照れる」
そうして溢れる来羅のクスクスと笑う声も、芽榴は好きだと思った。
「逆に来羅ちゃんは、私と女友達感覚で一緒にいる?」
「この感覚で満足できるなら、告白なんてしてないよ」
恋人になりたかったから、来羅は変わった。
芽榴のことが大好きだから。
「るーちゃんが想像している以上に、私はるーちゃんしか、見えてないんだもの」
けれど来羅の過去が、芽榴との関係を躊躇させていた。でもどんなに躊躇しても、この想いが変わることはなくて、深くなるばかりで。
だからこそ、来羅は先に進むきっかけをやっぱり芽榴に求めてしまう。
いつだって、来羅を動かすのは、芽榴の言葉だから。
「ごめん、るーちゃん。今のは、ちょっとるーちゃんを試しただけなのかも」
「え?」
そう言って、芽榴が首を傾けると、来羅は芽榴の唇にキスをした。
それを見ていた人がいたのだろう。周囲では冷やかしの声があがっていたけれど、芽榴の耳には届かない。
キスなんて、もう何度も交わした。人前でされることだって、大学の構内でもあった。
でも今日のキスは少しだけ意味が違う気がした。
「るーちゃんサンタさん」
クリスマスツリーのイルミネーションがきらきらと光る。
芽榴は来羅に抱きしめられて。
来羅はいたずらな声で、芽榴をそう呼んだ。
「この先に進みたいって願いを、叶えてくれる?」
耳元で来羅の声が響く。周囲の音をかき消すように、芽榴の脳内をその言葉が支配して。
「るーちゃんを僕のものにしていい?」
その願いに、芽榴はゆっくり頷いた。