クリスマスSS【藍堂有利】
イブの夜、芽榴は有利とオシャレなバーで食事をして一緒に有利の家にやってきて、彼の部屋まで向かった……のだが。
「芽榴は本当に僕のこと好きなんですか?」
なぜか。
芽榴は座布団に正座した状態で有利に詰め寄られている。
「ゆ、有利くん……えっと、いきなり、どうしたの、かなー?」
芽榴は有利から目をそらしてぎこちなく笑う。
有利と一緒にお酒を飲むのは今日が初めてだった。
そして、今ここでこうして、芽榴は事前に功利に言われていたことを思い出した。
『兄様が、飲みすぎないように注意してくださいね』
とはいえ、有利と芽榴はシャンパンをそれなり程度に飲んだだけ。
芽榴もほろ酔い気分ではあるが、飲みすぎ、というレベルではない。
「有利くん、お酒弱い?」
「僕は強いですよ。芽榴も僕がどんなに強いか、知ってるでしょう?」
酔っている。
顔はいつも通り無表情で、呂律もしっかり回っているため、ほとんど誰も気づかないだろう。
が、芽榴には分かる。
「えっと、水持ってくる……ね!?」
芽榴が立ち上がろうとすると、有利に腕を引っ張られた。
「ゆ、有利くん? な……っ」
言葉を発しようとして、芽榴の顔が強張った。
理由は恐怖や不安などではなく、疑問で、だ。
「何、逃げようとしてんだよ……」
勢いのまま、芽榴は有利に組み敷かれている。
顔を見た瞬間、有利の空気が変わったことが芽榴には分かった。そして、この発言。
なぜか。ブラック有利モードが展開されている。
「俺と一緒にいたくねぇってかぁ?」
「そんなことない! そんなことないから!」
「何焦ってんだよ……余計に怪しいだろうが」
有利はムッとした顔で芽榴の首筋に顔を埋めた。
「有利くん!? あの、ちょっと!」
必死に抵抗を試みるも、芽榴より有利のほうが力は強かった。
「俺にこうされるの嫌なのか?」
顔を上げた有利がどこか切なげな顔で、寂しそうな声で尋ねてくる。
聞き慣れない口調が、芽榴の心臓を高鳴らせた。
「顔真っ赤じゃねぇか。……俺の、好きな顔」
有利が嬉しそうに笑う。
見慣れないその顔に、芽榴の思考は限界値を迎えた。
「ゆ……有利くん、水! 水飲もう!」
「やだ。今は、水なんかより芽榴がいい」
「んんんっ!?」
有利が噛み付くように芽榴にキスをする。そのあまりの激しさに芽榴は息ができなかった。
そろそろ酸素不足、というところで芽榴は力いっぱい有利の髪を引っ張った。
「い……っ!」
「ごめんね。でも……っ、ちょっと、酸素が……」
芽榴が涙目で笑うと、有利は複雑そうに眉をひそめた。
「……すみません。思わず」
髪を引っ張った衝撃で、ブラック有利モードはストップしたみたいだ。
でも、まだ酔いは全然さめていない。それどころか、芽榴の口内の甘ったるい酒の香りに有利の酔いが加速していた。
「芽榴がかわいくて、かわいくてしかたなくて……」
「……有利くん、ちょっと黙って」
有利は依然芽榴の上に乗っかったまま。その態勢も相まって、芽榴は恥ずかしさから自分の顔を隠した。
でも、その行動がさらに有利の心を煽ったみたいで。
「じゃあ、芽榴が僕を黙らせてください」
「え? ゆ……うっ」
黙らされたのは、芽榴のほう。
芽榴の顔からその手を無理やり解いて、味わうように有利がキスをしてくる。
その心地よさと、羞恥心が混ざり混ざって、芽榴の頭の中もふわふわしていた。
「芽榴……僕と、このまま……」
そう口にして、有利は芽榴の肩に顔を埋める。
ぐったりと、有利の身体から力が抜けて、芽榴は眉を下げた。
「……寝ちゃった、かな?」
寝息が耳元に聞こえる。
まだ芽榴の心臓はドキドキしているけれど、心はホッとしていた。
でもどこかでガッカリしている自分もいて、そんな心に呆れてしまう。
「……芽、榴」
むにゃむにゃと幸せそうな寝顔で有利が芽榴の名を呼ぶ。
芽榴はくすくすと笑って「はーい?」と答えてみるが、有利は寝息を立てるだけ。
いつもしっかりしている有利の、こんな無防備な姿は滅多に見られない。
だから、一番近くでその姿を芽榴は存分に見つめる。そして明日、少しだけ有利のことをからかってみよう。
そんなことを企みながら。
「メリークリスマス、有利くん」
芽榴は有利の頰にキスをした。