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クリスマスSS【蓮月風雅】

「あの、風雅くん」


 芽榴と風雅は2人の母校である麗龍学園近くの公園にいた。

 二人並んで冷たいベンチに座っているのだが、先ほどから風雅の様子がおかしいのだ。


「な、なに!?」


 芽榴に名前を呼ばれて風雅の声が裏返った。やはりおかしい、と芽榴の目が細められた。


「……どーしたの?」


 この様子には既視感がある。

 はじめて芽榴が風雅の家に泊まりにきた時もこうだった。

 ずっと部屋の中をせわしなく動き回っていて、落ち着きがなかった。

 でも、今落ち着きがなくなる意味が分からない。芽榴と風雅がクリスマスを共に過ごすのはこれが初めてではないのだから。


「え、っと……あの……」


 風雅の吐く息は白い。頬は薄く赤に染まっていた。

 そしてしばらく言い淀んだ後、ぎゅっと風雅は目を閉じて立ち上がった。


「め、芽榴ちゃん!」

「うん」

「あ、あの……!」


 風雅はそこまで言って、また口を閉じる。とうとう真っ赤になった頬は風雅の頭が沸騰寸前なのを表していた。


「風――」

「えっと、こ、このリボンつけて『私がプレゼント』って言ってください!」


 風雅がコートのポケットから赤いリボンを取り出して芽榴に差し出した。

 当然、芽榴の目は一段と細められる。

 あきれるような視線を向ける芽榴に風雅の顔が赤から青へと様変わり。


「い、いや! これは冗談で! あ、でもやってみてほしい気持ちはあるけど! でも今じゃなくて! あ、あああああっ! あのね!」


 風雅らしい慌て方だ。

 芽榴が小さなため息を吐くと、風雅が声にならない叫び声をあげた。

 その様子もやはり風雅らしくて、芽榴は困ったような笑みを浮かべた。


「風雅くん」

「は、はい!」


 風雅は肩を強張らせて、芽榴のことを見つめる。

 風雅の緊張がこちらに移ってきそうなほどに伝わってくる。


 でも芽榴はその全部を受け止めて、静かに言った。


「風雅くんが何を言っても、怒らないから落ち着きなよ。……なーに?」


 優しい芽榴の声に、風雅の肩が揺れる。

 そして風雅は情けない、と小さく口にして首を振った。


「……本当にいつまでたっても情けなくてごめんなさい」

「あはは、それも風雅くんらしいところだと思ってるよ」

「それは……どうなんだろう」


 風雅はしょんぼりしているが、その姿も芽榴にとっては風雅の偽らない本当だから愛おしく思える。

 芽榴が優しい顔で風雅のことを見つめると、風雅は意を決したように深呼吸をした。


「芽榴ちゃん」

「はい」


 芽榴が風雅の声に応える。

 それだけで、風雅は嬉しそうな顔をする。


「そのリボンは、プレゼントを包んでたものなんだ」

「……え?」


 芽榴は手に持っている解かれたリボンを見つめる。

 よく見ると、そのリボンには«Everlasting love»という金色の刺繍が施されていた。


「オレは、昔から頼りなくて、何もできなくて……芽榴ちゃんに迷惑かけてばっかりだけど。でも……」


 風雅が芽榴の手を握る。

 震える風雅の手は暖かい。でもひんやりとした心地のいい冷たさが芽榴の指を滑った。


「芽榴ちゃんを好きだって、その気持ちだけがオレの全部なんだ。昔も、今も、これからも……それだけはずっと変わらない」


 芽榴が顔をあげると、風雅は芽榴の手を握ったまま芽榴にキスをした。


「芽榴ちゃん。オレ、青薔薇の奇跡を……今度はちゃんと運命に変えるから」


 芽榴の目から流れた涙を、風雅は愛おしそうに拭った。


「オレと結婚してください」


 芽榴の好きな笑顔で。

 想いを伝えあったこの場所で。


 風雅の想いにまた、芽榴は至福の涙を流した。

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