クリスマスSS【神代颯】
今日はクリスマスイブ。
芽榴は颯の部屋にお邪魔している。
暖かい部屋の中は外の寒さを一切感じさせない。けれどその暖かさは決して暖房だけが理由ではない。
「芽榴」
芽榴の膝元で静かな声がする。
芽榴は正面を向いていた顔を少し下に向け、自分の膝に頭を乗せた颯を見つめた。
「何ー?」
「それはこっちのセリフだよ」
ソファーの上、颯は芽榴に膝枕をされて横たわっている。
長い脚はソファーに収まりきらず、優雅に投げ出されていた。
「僕といるのに、考え事?」
颯は目を細め、芽榴の頬に手を伸ばす。芽榴は颯の冷たい手にビクリと体を震わせた。
「手、冷たいよ」
「話を逸らさない。僕といるときは僕のことだけ考えてほしいんだけど?」
颯はそう告げると、芽榴の頬から後頭部へ手を滑らせ、芽榴の顔を自分の顔に引き寄せた。
芽榴の柔らかい唇に触れ、颯は満足げに笑む。
その笑顔に、芽榴は困った顔を返した。
「考えてるのは、颯くんのことだよ」
「僕のこと?」
それは驚きだ、とでも言うように颯はわずがに目を丸くした。
「だって、クリスマスプレゼントに何が欲しいか聞いたら、ちゃんと欲しいものがあるから何も用意しないできてって颯くん言ったでしょ?」
「うん、言ったね。そして、ちゃんと今そのプレゼントをもらってる」
そう。颯が願ったプレゼントは、今あげている。
颯の望んだプレゼント――それは、「芽榴に一日甘やかしてもらうこと」だった。
「こんなのプレゼントじゃないよ」
「だって、芽榴はなかなか僕を甘やかしてくれないから」
「……面白がってるだけだって分かってるんだからね」
芽榴が眉を寄せると、颯は楽しげに笑った。
その笑い声にも芽榴は困ってしまう。
「私はちゃんとプレゼントもらったのに」
芽榴の胸元にある華奢なネックレスが揺れる。颯はそのネックレスを満足げに眺めた。
「だって、それはあげておかないと……芽榴はすぐ別の男からもらったネックレスをつけるだろ?」
その理由で、誕生日にはブレスレットも送られている。
誰からもらったか、伝えた覚えはないのに、颯はそれらのアクセサリーが誰からの貰い物なのか把握しているのだ。
「別の男って、あの人たちは……」
「だめだよ」
そう口にして、颯は芽榴の唇を塞ぐ。
「僕の前で他の男の話はしないで」
口調は穏やかだが、漂う空気からそれが冗談ではないと分かる。
「颯くんは気にしすぎだよ」
「芽榴が嫉妬させるのが悪いね」
「……じゃあ、嫉妬しすぎ」
「ははっ、今さら。これでも我慢してるよ」
「どこが……っ!」
芽榴が言い返そうとすると、颯が芽榴の口に指を添えた。
「知りたい? 僕がどれだけ芽榴のこと、独占したいのか」
芽榴の声を遮って、颯の真剣な声が部屋に響く。
芽榴の不安げな瞳には、颯のまっすぐな熱い瞳が映った。
「……怖いよ」
「否定はできないかな。……怖いくらい、君のことが好きだから」
颯の頭に触れる芽榴の手を握り、颯は静かに言った。
「だから、甘やかして。もっと、僕だけを」
颯は体を起こして、芽榴の眼前に自分の顔を持っていった。
芽榴の逃げ道をふさぐように、颯は芽榴の手も視線も、すべて奪ってしまう。
だから、芽榴は颯に従うしかない。
「ねえ……芽榴」
その声に導かれるように、芽榴は颯の頬に手を添えて、遠慮がちにキスをする。
そうすれば颯は嬉しそうに笑って芽榴からのキスを自分のものに変えてしまう。
「……本当、ずるいんだから」
その言葉ごと飲み込むように、颯は芽榴の体を抱き寄せた。