雲行き
ユーキタスの街ギルド前。そこでは一人の少年と三人の男が
言い争っていた。
「おいっ!返せよ!」
「へへっ、お前なんかのガキが使うより俺たちが有効活用してやるよ」
「それは俺が働いた金だぞ!」
「おいおい、嘘はいけねぇな~」
「お前みてぇなガキがこんな大金持ってるわけねぇだろ」
「どうせ盗んだ金だろ」
「違う!ちゃんと依頼を完了させて稼いだ金だ!」
「うっせぇ!んなこたぁどーでもいいんだよ!」
「俺たちCランクパーティ『ノイズ』に恵んでくれればいいんだよっ」
その後三人の男たちは少年を囲い込み、少年の背後に回り込んだ男は少年の両脇に腕を入れ動けなくし、横にいる男は少年の髪の毛を掴み、正面にいる男は動けなくなった少年を殴る蹴る等少年を痛めつけていった。男に暴力を振るわれていた少年は5分程耐えたがついに限界が来、倒れた。
「ぅっ」
「ったく。手こずらせやがって、素直に渡しゃいいものを」
「あぁ~疲れた。飲みに行こうぜ。勿論こいつの金でな」
「そうだな。えーと、この辺に……」
男は少年の来ているジャケットの内ポケットから金が入った袋を取りだし中身を見た。
「ちっ、たった銀貨4枚かよ」
「だがまぁ飲めんだ。これでよしにしとくか」
「じゃあな、ガキ」
男たちはそう言うと宿屋街に消えていった。
「ぐぁはっ!……くそ!」
少年は男たちが立ち去った後身を起こし言った。
「っ!大丈夫?!レイ君!!」
「……あぁ、ありがとうソルナさん」
このソルナと呼ばれた女性はギルド会館の中、依頼受付カウンターで働いていたがレイが報酬を受け取りギルド会館から出て行こうとする直後、Cランクパーティー『ノイズ』の三人に連れられギルド会館を出て行ったのを見て不安に思い、直ぐ様事務処理を全て終わらせてレイの後を追ったのだ。
「『ノイズ』の奴等にやられたのね!」
「うん……」
「あいつら、これで20件目よ!今この街にギルド長と副ギルド長が居ないからっていくら何でも好き勝手し過ぎよ!」
ソルナが言った通り、今ユーキタスギルド支部にはギルド長、副ギルド長が不在である。何故ならばバジス帝国がファリアス王国へ向けて戦争の動きを見せ始め、レバノン王国にあるギルド本部で緊急会議が行われる事になり現在王国に出向いているからなのである。ちなみにその護衛としてユーキタスの街高ランク冒険者パーティーが護衛として同行している。そのため、現在ユーキタスの街では実力的にはAランク並みの実力を持つCランクパーティー『ノイズ』が好き放題にしているのである。その為Bランク冒険者が止めようとしても実力が敵わなく、誰も止められ無いという事だ。
「どうしよう……今日の飯代が……」
「ごめんね。何も出来なくて……はいこれ。これで妹さんとご飯でも食べて?」
ソルナはレイに、銀貨を2枚渡した。
「え……でも……」
「いいの。子供が遠慮しない!返さなくていいから」
「……ありがとう。」
レイはそう言うと銀貨を握りしめながら走って行った。
「私に何かできないかな……」
ソルナはレイの後ろ姿を見ながら彼の身に起こった悲劇を思いだしながら呟いた。
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ユーキタスの街中心部にある貴族街、その中央にある領主の館では一人壮年の男性が息を漏らしていた。
「はぁ……またか」
「はい。ホーエン様。ジェラス卿の監視をさせている者からの知らせです。」
ため息を吐きながら部下の報告を聞くこの男は、ユーキタス領の領主のホーエン・ユーキタスである。
ホーエンはレバノン王からこの地を任されているユーキタス一族の10代目当主であり、また王国貴族の位である公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、準男爵、騎士の中で侯爵と同等の地位である辺境伯を務めている。
「それで、詳細を頼む。」
「はい。昨夜ジェラス卿の館に帝国の間者と思われる者が出入りし、その者の一人がユーキタスの地形を調べていた、とのことです。それと別件ではありますが各地で魔物が活発になっており、冒険者ギルドでは近々討伐隊を組むとの事です。」
「そうか。遂にジェラス卿は表立って行動を始めたか」
「そのようです」
「もう2年前の様な事は起こしたくはない。ゾル、このままジェラス卿の動向を探れ」
「かしこまりました。」
この会話で出たジェラス卿と呼ばれる人物、その人物はホーエンと同等の地位を持つ、ジェラス・バーエン侯爵の事だ。ジェラス卿は王国で貴族派と呼ばれる派閥の中心人物であり、何かと黒い噂が絶えない。ユーキタスの街中で色々といざこざ起こしたり事あるごとにホーエンの邪魔をし、自分がユーキタスの領主に就こうと画策している。
「討伐隊の方は例年通り我が領の財政から資金を出しておく様に」
「かしこまりました。」
ホーエンの指示を受けている人物、それはホーエンの執事をしており、また執事長のゾル・ハンである。
彼の一族は代々ユーキタス一族に仕えており、王国では無くユーキタス一族に忠誠を誓っている。
「帝国がこの時期に動き出したのだ、ジェラス卿も動き出すだろう。街にだけは被害を出したくは無い。何もなければ良いが………」
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ここはユーキタスの街、宿屋街にある店『ゆかりの亭』ではある貴族が騒ぎを起こしていた。
「おい、そこの平民。お前、今日から僕の妾にしてやる。ありがたいと思え。」
「きゃっ!いやっ!離して!」
「マリー!おい、てめぇ!娘を離しやがれ!!」
「むっ、なんだ平民。僕に逆らうのか?」
「うっせぇ!この豚が!!娘を離しやがれ!!」
「っ!ぶ、豚だと!この僕が!貴族に逆らうのか!ええい護衛!この平民を殺してしまえ!!」
「いや!お父さん!」
この我が儘を言いながら大きな腹を揺らしている男、名はルアー・バーエンと言う。そう、ジェラス・バーエン侯爵の次男だ。ルアーは最近街で人気がある『ゆかりの亭』の店員マリーが可愛く明るい接客をし、人々のアイドル的存在になっている事を聞きつけやって来たのだ。
ルアーの護衛騎士がマリーの父親ダンを斬ろうとしたその時。
「そこまでです。」
「っ!なんだ貴様は!」
そこに表れたのは偶然ユーキタスを訪れていたレバノン王国第2王子サータス・レバノンであった。
「貴殿はジェラス・バーエン侯爵の次男のルアー・バーエン殿とお見受けして宜しいか?」
「た、確かに我の父はジェラス・バーエン侯爵であるが貴様は?」
「これは失礼。私はレバノン王国第2王子サータス・レバノンと申します。」
「なっ!サ、サータス殿下でおられましたか」
ルアーはそう言うと掴んでいたマリーの腕を放した。
「いえいえ、そんなにかしこまらなくても良いですよ。それで如何して護衛の方が剣を?」
「そ、それはですな……この平民が我を侮辱しましてな」
ルイがそう言うとダンは
「なっ!てめぇ!」
今にも殴り掛かる勢いである。
「まぁまぁ落ち着いてくださいご主人。しかしルイ殿、理由も無しにルイ殿を侮辱するはすがありません。理由をご存じですかな?」
「…………帰るぞ」
ルイがそう言うと護衛は剣を鞘に戻し、ルイと護衛達は去って行った。
「お父さん!!」
「マリー!!」
二人の会話を聞いていたマリーはルイが去ったと見ると一目散にダンの元に向かい、ダンはマリーを抱きしめた。それを見ていたサータスは
「あの家にも困ったもんだ」
と言い、護衛の騎士達は
「本当です。我々の鎧に王家の紋章が描かれているのに気づきもしないで。」
「王国貴族とは思えない有り様ですね。」
等、次々と不満を言っていく。
「(そうだな~あの家もリストに上げていくか)」
サータスがそう思っていると
「あ、あの~すいません」
ダンが話掛けて来た。
「どうしました?」
「こ、この度は俺の娘を助けて頂いてありがとうですます!」
「お、お父さん!」
ダンは慣れない敬語を使おうとしたが、変な言葉になった。
「ご主人、気を使わなくていいですよ。大した事ではありませんので。」
「い、いや……そういうわけには」
ダンが困っていると護衛騎士が
「ご主人。殿下はあまり固い言葉使いは好まない。どうか普段通りに接して貰えないだろうか?」
ダンは護衛騎士の言葉を聞き、
「わ、分かった」
「それでご主人。私は領主の館に行きたいのだか行き方を教えて貰えないだろうか?」
「そうか……マリーに道案内させるから待ってて貰えるか?」
「分かった」
そうして騒ぎは解決したと思われた。が後にこの騒ぎはレバノン王の耳へと届く問題の始まりとして語られることになる。
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「ちっ、あれが王族か……僕の邪魔をしやがって……父上の言っていた通りだ。……おい!奴の目的を探れ!……僕に逆らうとどんな目に合うのか教えてやる……」
これが刃の訪れる2日前のユーキタスの街であった。
次回の投稿は12月31日木曜11時に投稿します。




