世間話
「ま、まぁそれはともかく今日はもう進まないのか?」
刃は話題を変えるために言った。
「えぇ。それが馬車の車輪が壊れてしまいまして…」
「今、俺達の仲間の一人が街に行って替えの車輪を買ってる」
「そうか。じゃあひとつ聞きたいんだか一緒に街へ同行してもいいか?なにぶん世間知らずでな、街への入り方が分からないんだ」
「嫌も何もこっちとしちゃ助かるぜ。助けられてそのまま借りを返さぁねぇ訳に行かねぇからな」
「私としましてもジンさんには助けられたのです。
入り用がありましたらなんなりと」
「そうか助かる」
「(危なかった、断られたらまた俺一人で歩く事になってたよ。でもユイガもいるし安心か」
刃は安堵した。
「そ、それでな…その…なんで胸が膨らんでんだ?ジンは男だろ?」
ヨアンは不思議に思った。刃の胸辺りが膨らんでモゾモゾと動いているからだ。
「ああこれは…」
刃が言い終わると同時に
「ガゥ」
とユイガが刃の首もとから顔を出した。
「?!」←サバナ
「うぉおっ!」←ヨアン
二人が驚き、出てきたユイガをまじまじと見た。
「っ!てそれ、ブラックタイガーウルフの子供じゃねぇか!」
「これはまた……本物を見られるとは」
「ジン!どうしたんだそれ!」
「それって……拾った」
「拾っただぁ!?あのなジン、本来ブラックタイガーウルフの子供は成体に成るまでは親と一緒に暮らすんだ。それにブラックタイガーウルフは何よりも子供を大事にする。子供のためにゃ命さえ捨てるんだ。子供がここに居たら親が取り返しに来るぞ?
ジンの強さならブラックタイガーウルフに勝てるかもしんないが、群れは無理だ。単体だけならBランクだが群れとなるとAランクにも匹敵する強さだからな」
「ふーん」
「ふーん、って…」
「それよりあのオークたちどうする?回収するか?」
「あれか…いや俺達にあれを街まで持っていけはしない。ジンおまえさんにやるよ」
「そっか。じゃ遠慮無く」
刃はヨアンから承諾を貰い次々とオークたちをマジックバックに入れた。
「っ!」
サバナは刃のマジックバックをみて何やら驚いている
刃が入れ終わり戻ってくると
「ジンさん、あ、あのぅそのマジックバックは?」
「?これか、知り合いに貰ったんだが」
「ジ、ジンさん、それどれ程の物か分かっていますか?」
サバナは震えている。
「ん?どれ程のって普通のだろ?」
「違いますよ!ヨアンさん!通常のマジックバックでオークが16体も入るはずがありません!せいぜい2体が限界です!ジンさんそれを何処で!!」
「何処でって…知り合いに」
「その知り合いは何処に!!」
「さぁ?旅をしてるからな今何処にいるのやら」
真っ赤な嘘である。
「そ、そうですか」
「どうしたんだ?サバナの旦那?らしくねえぜ」
「は、はい。実はですね私の持っている鑑定スキルでジンさんのマジックバックを拝見したんですが、その……視れないのです。」
「っ!それは…」
「はい、通常の鑑定では視た物の名前、作者名、詳細が視れるはずなんですが…ジンさんのマジックバックは名前はおろか作者名も視れませんでした。かろうじて視れたのが詳細の一部『許容制限がない。』と言うところでした。
「っ!許容制限がない!?それは本当かサバナの旦那!ジン、おまえさんのマジックバックひょっとすると国宝級、いや神話級の物だぞ!」
刃は内心驚いていた。ファンタジーの世界なのに無制限のマジックバックが無いことにだ。
「へぇー凄いんだなー」
「(まぁ神界製だし。というかファンタジーなんだし無制限のマジックバック位あってもいいと思うんだが)」
「それよりその鑑定はなんでも分かるのか?」
「はい。私は鑑定がLV3なので名前や作者名、詳細までしか視れませんが、鑑定を極めし者は世界の理をも理解すると云われています」
「へぇー」
「ジン、おまえマジックバックを出来るだけ人の目に触れさせない方がいいぞ」
「私からも申しますとそのマジックバックを狙い襲われるかも知れませんのでご注意を」
「そっか。分かった」
「(いい人達だな。助けて良かった。)」
「じゃあそろそろ明日に備えて寝るか。もう夜だし」
サバナとヨアンは刃に言われ、もうすっかり辺りが夜なのに気づき食事を摂って寝た。
翌日
刃たちは朝食を終えレノスが車輪を持って来る間雑談を始めた。
「それでジンはどっから来たんだ?」
「やはり私達と同じようにウルリカの街からですか?」
「いや、俺はそのウルリカ?って街から来たわけでは無い」
「じゃ、どっから?」
「(どうするか?草原からなんて言えないし…)」
「あー、まぁ西からだ」
刃が西と言った瞬間ヨアンとサバナの表情が強張った。
「……おまえさん帝国からか?」
「?帝国?いや違うが」
「そ、そうか。違うのか」
「そ、そうですよヨアンさん。ジンの様に強い方が帝国からとは限りませんよ。」
「??その帝国って何だ?」
刃はヨアン達が帝国と言っている言葉に疑問に思った。
「!ジン!おまえ帝国を知らないのか?」
「ああ、この大陸に来たのは初めてだからな」
「この大陸?もしかしてジンさんが来られたのって…?」
「ああ、西にずっとある国からだ」
「ジン、おまえな?帝国の西って言うと海だぞ?」
「(しまった…海だったか…)」
「そうだ。海の向こうにある島国から来た」
刃は男相手には平気で嘘を付けるのである。
「そりゃ本当か!すげぇなおい!」
「これは驚きました。まさか海の向こうに人が居るとは…」
「??」
サバナは不思議がっている刃を見て
「ジンさんは私達がどうしてこんなに驚いているのか分からないのも当然です。私達がいるこの大陸、レイグノ大陸では4つの国がありましてそこにそれぞれの種族が暮らしているのです。先ほどヨアンさんがおっしゃいましたバジス帝国、私達は帝国と呼んでいるのですがこのレイグノ大陸の西にありましてそのさらに西と言いますと海があるのです。そしてその海には年中霧が掛かっており、今まで海の向こうは謎に包まれ私達の様な人は存在しないとされてきたのです。」
「ふーん。それなら船を出して霧の中を行けばいいんじゃないか?」
「ああ、そう考えた奴等が幾度と船を出したんだが不思議な事に翌日には岸に舞い戻って来るんだ」
「?それは戻ろうとしてでは無く?」
「はい。実際に船を出した航海士達によりますと『真っ直ぐ進んでいたが何故か岸に戻ってきてしまう』と。」
「不思議な事もあるもんだな」
刃はは楽観的である。
「それでサバナは商人をしてるんだろ?どんな物を扱ってるんだ?」
「はい、私は食料、魔導機、魔石等を扱っております。本店はレバノン王国の王都にありまして、私は今カリウスの街、シャータの街、ウルリカの街、ユーキタスの街にある支店を訪れている最中なのです。」
「へぇー、て事はサバナは偉いのか?」
「ジン、サバナの旦那は偉いなんてもんじゃねぇ王国でも指折りの商人なんだ。それに王家とも取引きしてる凄腕なんだぜ?」
「へぇーーー」
刃はそれがどれ程凄いか分からなかった。
「それでサバナは冒険者なんだろ?」
「ああ。俺とそこに寝てるソルテは冒険者でな丁度ウルリカの街へ行っててな、ユーキタスに歩いて戻るよりも護衛依頼しながら帰った方が良いって事になってなサバナの旦那の護衛依頼を受けたという感じだ」
「へぇー、冒険者って誰でもなれんの?」
刃はウキウキしてる。
「そうだな…基本は誰でもなれるが犯罪者とか指名手配とかになってる奴は出来ないな。冒険者登録が出来るのが15才からで、それより早くやりたいって奴は登録は出来るがランクの一番下のFランクからだ。15になるまではずっとFなんだがその間に受けた依頼の数やギルドへの貢献度によって15になったと同時にランクが変動するんだ。」
「そのランクっていくつあるんだ?」
「このランクってのは一番下からF、E、D、C、B、A、S、SSとある。だいたいCランクが冒険者として一人前ってなってるな。Bランクは頑張れば何とかなるがAランクは限られた奴等しかなれねぇんだ」
「じゃあSとかSSは?」
「Sランクは化け物だな…一度見たことがあるが姿を見ただけで気絶しそうになった。SSランクは最早伝説だな。何故かっていうとSSランクになるには4つのギルドと1つの国の承認を受けなければならないからだ。一介の冒険者が国の承認を受けるなんざぁ不可能だからな」
「ふーんそうなんだぁー」
刃は素っ気なく返事をしたが内心では
「(冒険者ねぇ~まぁテンプレだな。今後の為にも冒険者になった方がいいか。テンプレ通りなら身分証明にも使えるかもだし)」
冒険者になる気満々だ。
刃達が話し合い2時間が経った所でユーキタス方面から誰かが歩いてきた。
「あれは…イリスさんですね」
「おっ!やっとか」
そしてイリスと合流し、
「皆さんただ今戻りましたよ。?そちらの方は?」
イリスが刃を見て聴いて来たのでサバナ達は説明した。
「そうでしたか。仲間を救って頂きありがとうございます」
(キラッ!)
イリスは刃へ礼を言うのと同時に爽やかな笑顔を作り、白い歯が光った。
「あ、あぁ当然の事をしたまでだ」
「(イケメンか……死ね!)」
刃はイリスの顔を見てそう思った。
まったくその通りである。
「それでもう行けるのか?」
「ええ、イリスさんが替わりの車輪を持って来てくれたお陰でやっと出発することが出来ます」
「そうか。なら出発しよう」
刃たちはユーキタスの街へ向かい出発した。
次回は来週金曜25日昼11時に投稿予定です。




