出発
青く高く広がる空。朝の爽やかな空気を肺いっぱいに取りこむ。
太陽の光がキラリと反射したのを見て、百合菜は微笑んだ。
その指には精霊石が光る指輪。イリスから貰った、武器を通さずにマナを使うための道具だ。
今日は出発の日。
これから旅に出る期待と不安。いろいろな思いが駆け巡る。
弓矢の練習のときはどうなるかと思ったが、無事ユートに合格を貰えて良かったと、内心ホッとする。
最初は嫌な奴だと思ったが、意外に優しい所もあることに気づいた。
――もう少し口の悪さを直せばいいのに。
百合菜は思った。
「百合菜ちゃーん! 準備出来たかしらー?」
イリスの声が聞こえる。
「はーい! 今行きまーす!」
百合菜は荷物を持ち、部屋を出た。
「まあ! よく似合ってるわ!」
百合菜を見てすぐにイリスは言った。
旅に出るならと、イリスが新しい服を買ってくれたのだ。もともと着ていた服はこちらでは目立つ。
「軽さと、動きやすさを重視してみたの。もちろん可愛さも忘れずにね!」
「ありがとうございます! 何から何まですみません」
「いいのよ! 妹がいたらこういう事やってみたかったし」
イリスはそう言うと、百合菜の手を握った。
「気をつけてね。手がかりが見つかるように祈ってるわ。何かあったらいつでも立ち寄ってね!」
「イリスさん……。本当にありがとうございます!」
目には涙が溢れそうになる。
「泣くにははえーだろ。バカ。さっさと出発するぞ」
玄関の前の壁に寄りかかっていたユートがダルそうに言った。
「もう! わかってるよ! じゃあイリスさん、行ってきます!」
「行ってらっしゃい! ユート、百合菜ちゃんを頼んだわよ!」
「へいへい。じゃーな」
遠く見えなくなるまで、イリスは手を振っていた。百合菜もそれに応える。
「いいお姉さんだよね、イリスさん。ユートが羨ましい」
「そうか? 実際実の姉弟だと喧嘩もするし、うるさいし、面倒だぞ?」
「ふふっ! そういうのがいいんだよ!」
ゼフィール村を出て、ゼフィール高原に入る。まず向かう先はスィエル町。
百合菜とユートの、旅は始まった。