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繋がりの唄―chanson―  作者: さくら彩音
〜第1章〜
8/36

練習

「お前……」


 目の前には虚しく地に刺さる一本の矢。百合菜が放った一発目の矢だ。

 力がないのはなんとなく察していたが、これ程までとは夢にも思わなかった。


 ユートは矢に向けていた視線を百合菜に移した。

「いや! 今のは無し! ちょっと手が滑って! ははっ……今度は当てるから!」

 誤魔化しながら、百合菜はもう一度目の前の的に矢を放とうとする。


 まずはマナを流さず的に当てる練習をと始めたわけだが、これは時間がかかりそうだ。

「えー! なんで!?」

 放たれた二発目は距離は伸びたものの、全く見当違いの方向へ飛んでいった。


 ――おいおい、大丈夫かよ? これじゃあ先が思いやられるな。


「おい! 俺は狩りに行ってくる! 今日中に当たるようにしとけよ」

「え!? もっとコツとか教えてよ!」

「さっき教えただろ! 構えが悪い! 軸がぶれぶれだ! あと集中しろ!」

 そんなこと言われても、などと(のたま)っている百合菜を放り、ユートは練習場所を後にした。


 ――今日中と言ったが、無理だろうな。何日かかるやら。





 月が出てきた頃、狩りを終え帰ってきたユートは、家の前の練習場所をちらりと見た。的に矢が刺さった形跡はない。当たり前か。期待はしていなかった。


 家に入ると、明らかに元気がない奴が一人。

「ごめん、今日中にできなかった……」

 百合菜は申し訳なさそうに言う。

「百合菜ちゃんずっと練習してたんだけどね。初めてだから、しょうがないわ」

 姉の言葉を聞かずとも、ずっと練習していたことは百合菜の手を見ればわかる。

「別に怒ってねえよ。今日中にできるとは思ってなかったしな。」

 すると百合菜は一瞬驚いたような顔をした後、また目線を落とした。


 まだ練習一日目。焦る必要はない――




 百合菜の特訓を初めて四日目。

 近くの的にはようやく当たるようになったが、まだ遠くの的には当たらない。弓矢は遠距離武器なのだから、遠くの的に当たらねば意味がない。

 百合菜は筋肉痛が痛いと叫びながら、矢を放ち続けている。

 ユートはイリスと共に、その様子を見ていた。


「なあ、姉さん。なんで武器を練習しろなんて言ったんだ? 別に町に行くくらいなら、俺が一緒なら平気だろ」

 どうせついて行くのなら、とユートは思った。

「あら、あんなに嫌がってたのにそんなこと言うなんて。まあ、そうねぇ。なんとなく、百合菜ちゃんの旅が長くなるような気がしたからかな。ただの予感だけど。それに、そうじゃなくても、あんたが万が一百合菜ちゃんを守れない状況になったとして、百合菜ちゃん自身が何も出来ないのと出来るのじゃあ、全然違うでしょ? いろんな所を巡るわけだから、備えは必要よ」

「俺は早く終わらして、のんびりしたいんだがな」


 ――それにあいつも……早く帰りたいだろうしな。


 百合菜の意外とめげない姿を見て、ユートは思った。

 しかし、やはり矢はまだ当たらない。





「当たったー!」

 それは特訓を始めて五日目の夜。狩りから帰ってきたユートに百合菜が駆け寄る。

「ユート! 当たったよ! ほら見てあれ!」

 的を見ると矢が刺さっている。しかもど真ん中だ。まあそれは偶然だろうが。

「おー。よかったな」

「反応薄いなー。まあいいや! 次の練習は何やればいい?」


 ――こいつまだやるのか?


 ユートは驚いた。

「あー、まあ今度はマナを流す練習だな。とりあえず雷とかどうだ? 矢が当たれば、感電させられる。動きを封じるのにいい」

「雷かー。ユートは火だから、違う方がいいもんね!」

「出来るようになれば、違う属性も試してみればいい。いいか、属性を作り出すのにはイメージが大切だ。雷のイメージを念じて、弓に込める。これは感覚で覚えるしかないな」


 ――果たしてどれだけで出来るか……


 まあ出来なくても、とりあえず旅をしながら練習は出来る。それでもいい。

 ユートがそう考えていると、百合菜は弓にマナを流し始めた。


 バチバチバチィ!


 電気が走る音がする。

 百合菜の弓には雷のマナが流れていた。

「あれ? これって出来たの?」


 ――こいつ……マナを使う才能はあるみたいだな。


 ユートは驚きを隠せなかった。

 こんなにすぐ出来るとは。あの水晶玉にやったときとはわけが違う。あの水晶玉は力を引き出してくれるものだが、精霊石(ラルム)は自分から注がないと反応しない。


「まさかすぐ出来るとはな。じゃあそれで的を狙ってみろ」

「うん!」


 百合菜が矢を放つ。今度も矢は的に当たった。


「やったー!」

 飛び跳ねる百合菜。

「電気が分散してるな。矢の先に一点集中するよう心掛けろ。剣と違って、矢の場合は全体ではなくその先だけでいい」

「あ、うん、わかった」

 百合菜はもう一発狙いを定める。ユートに言われた通り、矢の先にマナを集中させる。

 放たれた矢は的に向かって飛んで行った。


 バキィ!


 木の板が割れた音が響いた。矢が的を突き破ったのだ。

「ええ! うそ!」

「力を集中させれば威力も上がる。なんだ。すぐ出来ちまったな。出発は明後日だ。明日はよく休めよ」

 ユートがそう告げると、百合菜は大喜びしながらイリスの元へ家の中に入る。

 百合菜とイリスの喜ぶ声が家の中から聞こえてきた。


 ――あいつ。案外根性あるな。


 まさか本当に一週間以内に出来るとは。

 先ほど割れてしまった的と共に、自身の疲れも吹き飛んだのか、ユートは狩りの疲れをいつの間にか忘れていた。


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