決意
先ほどマナを引き出したせいか、はたまた目まぐるしい一日だったせいか、百合菜は酷く疲れていた。
イリスに温かい紅茶を入れてもらい身体を温める。
こちらの夜はだいぶ気温が下がるようだ。昼間は程よい気温だったのに。
「考えたんだけど、やっぱり帰るには情報を集めるしかないと思うのよね」
同じく紅茶を飲んでいたイリスが話しかける。
「百合菜ちゃんの世界とこっちを結ぶ道を、こちらから探さないといけないわけでしょ? この村じゃそんな資料もないし、大きな街とかに行った方がいいんじゃないかしら?」
「街……ですか。この辺りに大きな街があるんですか?」
「この国で一番大きな街はアレスティア城下街。でもここからだと遠いわね……。一番近いのはスィエル町かな」
「じゃあとりあえずはそこに行けばいいんですね!」
少しだが希望が見えてきた。自然と疲れも吹き飛ぶ。スィエル町。明日はそこに行こう。
百合菜がそう考えていたとき、イリスがまた話し始めた。
「そうね。じゃあ武器の特訓とかしないとね! 外は危ないし!」
「ふぇ?」
変な声がでた。
「だって、またゼフィール高原とか通らないといけないし、他の所行くのにも森とか山とか海とかいろんな所を通るでしょ? アレスティアで手がかりが掴めなかったら他の国も行くことになるわ。魔獣に襲われることもあるだろうし、タチの悪い盗賊なんかもいるかもしれないし、武器を持たずに行くのは危険よ」
魔獣――そうだ。今日だって襲われたではないか。
百合菜は自分の血の気が引くのがわかった。
「でも、武器なんて持ったことないですし、どうすれば……」
「あら、ユートに教わればいいわよ! あの子戦闘関係に関してはピカイチだから!」
ガバッと言う音が聞こえる。
先ほどまで仰向けで寝ていたはずのユートがソファから起き上がっていた。寝ていたんじゃなかったのか。
「はあ!? なんで俺が!」
「いいじゃないべつに。わたしは剣術とか苦手だし。武器とかマナとかの使い方を一週間くらい練習して、そのあと百合菜ちゃんの旅のお供についていきなさいな!」
「ふざけんな!」
「百合菜ちゃん一人じゃ可哀想でしょ! 知らない世界で心細いのに……。あんたは百合菜ちゃんをしっかり守って、元の世界に帰る方法を見つけなさい!」
話についていけない。武器の練習? ユートと二人旅? 二人が言い争っている中、百合菜は混乱していた。
――何を迷っているんだろう。このまま帰れないかもしれないのに。そうだ……背に腹は変えられない。
「わたし!」
言い争っていた二人が百合菜を見る。
「わ、わたし、旅にでます。ユート、マナの使い方とかいろいろ教えて!」
「なっ!」
「……お願い。頑張って、早く帰る方法見つけるから!」
「百合菜ちゃん……」
イリスの目には涙が光る。
「くそっ! あーわかったよ! しょうがねーな!」
百合菜の決意に溢れた眼を見て、半ばやけくそでユートは了承した。
「本当? ありがとう、ユート! これからよろしくお願いします!」
百合菜の眩しい笑顔に、ユートはため息しか出なかった。