マナ
食事を終え一息ついた頃、イリスは手のひらに乗るくらいの水晶玉を持ってきた。
これから百合菜のマナを調べるというのだ。
「とりあえず、マナについて教えなきゃいけないわね」
イリスは一呼吸置いて、話し始めた。
「マナというのは、大昔に精霊から授けられた力のこと。この世界の人々は、みんなその力を使って生活しているの。マナは日常生活に使うことはもちろん、戦争みたいな争い事にも使われてきたわ」
戦争というフレーズを聞いて、身が引き締まる。マナが恐ろしい力のように思えた。
「主な使い方はこれね。例外に回復のマナとかもあったりするかな。あとこれは伝説だけど、マナを声に乗せて、世界を滅ぼすことも救うことも出来る力があるらしいわ。『唄』っていうんだけど……」
「……心配すんな、そんな力使える奴はいねーよ」
百合菜の強張った顔に気づいたユートが、ソファに横になりながら話しかけてきた。
「そうそう! これはあくまで伝説。まあそんな力もあるってことよ! で……話の続きだけど、マナは五大精霊から授けられた力だから、属性があるの。火、風、雷、土、水の五つね。そしてわたし達はどれか得意な属性を持ってる。鍛錬次第では、どの属性も少しは使えたりはするけれど、得意な属性は大きな力が使えるの。だから自分の得意な属性は知っておかないとね。ちなみにユートもわたしも火。だいたい家系で決まってきちゃったりもするのよね。絶対じゃないけど」
「なるほど、じゃあもしかしてマナを調べるって、属性を調べるってことですか?」
そういうこと、と言いながら、イリスは百合菜に水晶玉を渡す。
「そいつにマナなんかあるのか?」
ユートの声が聞こえる。確かに、自分にマナがあるとは思えない。ただ、イリスが乗り気だから何も言えない。
「あら! やってみないとわからないじゃない? じゃあ百合菜ちゃん、手のひらに乗せて集中して念を込めてみて。これはマナに敏感な水晶なの。赤く光れば火。青は水。緑は風。黄色は雷。オレンジは土」
イリスに言われた通りに、目を閉じ念を込めてみる。
これであっているのか、やり方がいまいちわからない。しかししばらくすると、内側から何か引き出されるような感覚が襲った。
すると冷たかった水晶が暖かくなってきた。光っているのだろうか。閉じていた目をそっと開けた。
「え?」
百合菜は目を疑った。イリスが言ったどの色にもなっていない。
水晶玉は五色全てが混ざり光っていたのだ。
「あ、あの! イリスさん、これはどういう……?」
イリスは固まっている。ユートはいつの間にかソファから起き上がっていた。
「信じられないわ……百合菜ちゃん! あなた全て使えるのね!」
イリスはとても興奮していた。
「全て? 全てって属性全てですか?」
「そうよ! こんな子は見たことないわ! しかも輝きが凄すぎる! 力が強大な証拠よ! 百合菜ちゃんの世界の人達はみんなこうなのかしら? 凄いわ!」
イリスは興奮しながらまくしたてる。ユートは唖然としていた。
百合菜はただ水晶を見つめた。この光は確かに眩しい。直視するときついものがある。
ただこの光は、どこか暖かかった。