出会い
どれくらいたったろうか、まだ少し痛む頭を押さえ、百合菜は前を向いた。
「……え、どこ? ここ」
見渡す限り広い高原。さっきまで自宅の神社にいたはずだ。ここは何処なのだろう。
頭を打って混乱しているのか、はたまた夢を見ているのか。しかし、いくら瞬きしようが頭を振ろうが、この状況は変わってはくれない。
「もしかして、精霊の世界? うそ、そんなわけない。だって、あれはおとぎ話みたいな、そう、現実にはありえない……はず」
独り言を呟いていたその時、頭上に影がかかる。見上げると巨大な鳥が飛んでいた。鳥というには大きく、くちばしも巨大で羽は色鮮やかである。それは見とれてしまうほどで、綺麗だと素直に思った。
見たこともない巨大鳥を口を開けて見続けていると、目があった。
近づいてくる。嫌な予感がした。
巨大鳥はすごい勢いで向かってくる。
「うそ! やだ!」
大きなくちばしを開けて、耳障りなかん高い鳴き声を上げながら百合菜のいる地上まで真っ直ぐ突っ込んでくる。
くちばしは鋭く、捕まればひとたまりもないだろう。百合菜は必死で逃げた。
足がもつれる。十メートル、五メートル、どんどん迫ってくる。
もうだめだ。息が切れる。自身の体力の無さを呪った。もっと日頃から運動しておけばよかった。
頭の中をいろいろな考えが巡る。
目の前には大きなくちばし。百合菜はとっさに目をつむった。
鳥の叫び声と何かを切ったような音が聞こえる。
目を開けると、巨大鳥は地面に横たわって瀕死の状態だった。よく見ると巨大鳥と自分の間に人がいる。ゆっくり見上げると、自分とあまり変わらないくらいの少年がいた。
「お前、こんなとこで丸腰で、何やってんだ?」
赤みがかかった髪。背丈は百七十センチくらいだろうか、自分より少し高いくらい。端正な顔立ち。片手に剣を持った少年は、怪訝な顔でこっちを見る。
彼は助けてくれたのだろうか。
「おい、聞いてるのか?」
「あ、ありがとう。助けてくれて……」
礼を言い、立ち上がろうとするが、足に力が入らない。
「腰抜かしたのか? まったく……。こいつは人食い鳥だ。ここら辺は縄張りだからな。武器も持たずに出歩くなんて、自殺行為だぞ」
人食い鳥。目の前で息絶えているであろうこの鳥は人食い鳥だったのか。百合菜は身が震えるのを感じた。
「あの! ここってどこなんですか? わたし、いきなりここに、その、よくわからないんですけど……」
「どこって、お前異国のやつか? まあ身なりは見たことない感じだが。ここはアレスティア王国。んで、この場所はゼフィール高原」
アレスティア。聞いたことのない国だ。
「そうですか……。わたし、百合菜って言います。あなたは? あと、よければ安全な所まで連れてってもらえると、ありがたいんですけど……」
少年は持っていた剣をしまいながら答えた。
「百合菜……ね。俺はユート。ユート・ランカスターだ」
これが百合菜とユートの出会い。
そして百合菜の人生を変える、旅の始まりだった――