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繋がりの唄―chanson―  作者: さくら彩音
〜第1章〜
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プロローグ

 暑い夏の日。じっとりとした空気と身体をつたう汗が嫌になる。

 日差しが痛いくらいに照りつける中、箒を使って庭掃除など無謀すぎる行いだ。

 朝霞(あさか) 百合菜(ゆりな)は暑さに我慢できず、庭の端にある物置小屋へと向かった。そこなら日差しが気にならない。


 ここは朝霞神社。参拝者など滅多に来ない神社である。

 住んでいるのは、百合菜と育ての親である朝霞(あさか) 光代(みつよ)だけだ。

 百合菜には両親がいない。そもそも両親を知らない。光代曰く、赤ん坊の頃鳥居の前に置かれていたのを拾って、今日まで育ててくれた。

 お金も無いなか高校に入学させてもらったが、流石に生活も厳しくなってきたので、昨日高校を中退した。しかし、百合菜にとってそれは然程問題でもなかった。もともと中学を出たら働こうと思っていたからだ。

 見ず知らずの赤ん坊を育ててくれて、学校まで行かせてもらえたのだから、これ以上は望めない。何より光代は優しかった。本当の祖母のように接してくれていた。だからこそ、これからは光代に恩返しがしたかった。

 学生生活に終わりを告げた百合菜は、そういうわけで、とりあえず掃除から取り掛かっていたのだった。


「流石に今日は暑すぎるな……。しばらく物置小屋の整理でもしよう。お婆ちゃん、なかなかここの掃除してないもんね」

 埃を被ったたくさんの箱を一つずつ綺麗に拭いていく。一通り拭き終わった頃、小さな冊子を見つけた。


 ――セイレイ ノ トオリミチ アーリエント――


 表紙にはそう(つづ)られている。

「アーリエント? てかこれいつの時代の本なのかな? かなりボロボロ」

 とりあえず中を開く。

「朝霞の(やしろ)に五大精霊。二つを結ぶ道。女神の力もつ者のみ通過出来る精霊の道。……なにこれ、意味わかんないな」

 冊子を適当な木箱にしまい、そういえばうちにも小さな社があったなあなどと考えながら小屋を出た。




「おや、社を拝みに来るなんて珍しいね」

 光代はいつものように社の周りを綺麗にしていた。

「んー、なんとなくね。お婆ちゃん、この社ってなんなの?」

「これは、精霊を祀る社だそうだよ。この家の家宝みたいなものさ」

「精霊……」

 あの本にも精霊と書いてあったことを思い出す。

「精霊って、神様とは違うの?」

「精霊とは火や水の精のことだよ。神様…とは少し違うかもしれないねえ。昔、女神様がここを使って精霊の世界に行ったなんて言い伝えもあるようだよ」

 なんだか聞いたことある話だ。まさに先ほどの本に書いてあったことか。

「精霊の世界か……。行ってみたいな」

 そういうと光代は少し驚いたような顔をした。

「そうかい。……今日は本当に暑いね。わたしは部屋に戻るよ」

「はーい!」


 光代が家に入るのを見届けてから、百合菜は社の前にしゃがんで、壊れそうな小さな扉にそっと触れた。

「あの本は結局なんだったんだろう。それも聞けばよかった。精霊の世界……」


 ――アーリエント――


 その言葉が脳裏をかすめ、そう呟いた瞬間、目も開けられないほどの光が百合菜を襲った。

 眩しい光。それに加え酷く気分が悪い。世界が回る。空間がねじれているようだ。頭が痛い。声を張り上げるが、自分には聞こえない。

 自分は今どうなっているのか。只々耐えるしかなかった。


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