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始業式と部活

まだまだ秀明君には憧れの人とは会わせません。

今日は始業式だ。しかも、初めての共学。女子のスカートってこんなにも眩しいんだね!!でもこの上り坂はきつい。9月はまだまだ暑いけど、朝のこの時間は涼しい。フワッと通り過ぎる風は爽やかだ。しかもあの憧れの人がいる学校と考えるだけでウキウキする。きっと今、俺はとてつもなく緩んだ顔をしているんだろう。皆俺を見てそっと距離を置いていく。悲しい現実だね。「センパーイ!」と、後ろから声が聞こえた。




あ!あの後ろ姿は花木先輩だ!声をかけつつ駆け寄る。「おはよう。中沼君。今日からよろしくね。」そう言って先輩がほほ笑む。朝から眩しいですよ、先輩。なんだか先輩はご機嫌そうだ。話からすると、どうもクラスが外村先輩と隣のクラスらしい。一緒のクラスじゃなくてもここまで喜べるなんて…。ピュアなんですね!「一緒のクラスじゃなくていいんですか?」と聞いてみると、「眺めるだけで十分だよ。」と消極的な答えが返ってきた。えぇ!そんなんでほんとにそこまで喜んでイイの?と思ったのが顔に出てしまっていたのか「憧れの人と同じ校舎にいるだけで十分幸せ。」と、先輩はちょっとはにかみながら言った。ピュアさが眩しいです、先輩。




始業式前に職員室で待っていると、担任に「先にクラスの皆に紹介するからね。」と言われた。大人しく付いていき、教室前で待っていると中から「転校生を紹介するー。」と声が聞こえた。教室内の期待する声が高まっている。イカン。緊張する。教室の中から担任が「どうぞ、入っておいで。」と穏やかに言い、ドアを開けてくれた。教室に足を踏み入れる。笑顔で、笑顔で!自分を励ます。「花木 秀明です。部活はサッカー部に入部しようと考えています。よろしくお願いします。」よし、笑顔で乗り切れた!顔を上げる。新しいクラスメイト達はポカンとした顔で俺を見ていた。まずい、失敗したのか―――――



「お前、神奈川選抜にいなかったか?」と声が聞こえてきた。そちらに顔を向けると知っている顔がいた。短髪茶髪の整った男らしい顔立ちのかつてはライバルで、旧友の、緒方 雷がにやりと笑っていた。



席はたまたま緒方の隣だった。「ぴょんす!元気にしてた?会えてうれしい。」さっそく声を掛ける。ぴょんすっていうのは俺が過去に付けたあだ名だ。≪おがぴょん≫から気づいたら≪ぴょんす≫になっていた。小・中と県選抜に入っていた俺は、福岡の県選抜に入っていたぴょんすと、遠征のときに合宿所が一緒であったことを通じて仲良くなった。練習試合も何度もした。ぴょんすは当時、ズバ抜けてうまかった。福岡のチームのやつらはぴょんすに引っ張られる形で全国大会も優勝した経験があった。



「俺も会えてうれしいよ。高校になってお前の名前聞かんくなった…どうしたんだ?」どうしたって聞かれても親の言いなりでサッカーから離れてしまったから言いづらいな。でも一緒のチームになれるからいいや。と短絡的に考えてぴょんすに伝える。「んー。進学校に進学することがおやじとの約束だったから…中学で辞めらせられた。向こうには運動部もなかったし。でもこっちにはサッカー部があって、両立できるならって許可もらえた。ぴょんすは続けてるんでしょ?」ぴょんすとサッカーできるなんて楽しみだ!



「もちろんレギュラーだ。なんだ。怪我して辞めたとかじゃないんだな。安心したよ。お前の得意な左サイド空いてるぞ。」再会を喜んでくれるぴょんすに俺も笑顔で答える。「ほんとに?部活が楽しみだなー。下手な心配かけちゃってたみたいで、なんかごめんね。」「…お前、何か昔から全然変わってないな…。」ぴょんすが苦笑しながら言う。「えー。少しは男らしくなったつもりなんだけど…ぴょんすにはまだまだ負けちゃうかな。ぴょんすは何か男に人になっちゃたね…。サッカー離れてた期間もあるからちょっと寂しいかな。」「ほんと…変わってねぇ…。」呆れた顔でぴょんすが言った。「そこ、イチャイチャうるさいぞー。」と担任に言われたところで始業式のために体育館に向かった。クラスメートは皆何か優しい顔して笑っていた。よし。受け入れてもらえたみたいだ。頑張った俺!!ぴょんすのおかげでもあるかな。



ぴょんすと体育館に向かった。そして始業式が始まった。生徒会メンバーの挨拶もあるらしい。中沼君も挨拶に参加すると今朝言っていた。憧れの外村さんも挨拶するって言っていた!わーい!マイクのハウリングが聞こえ、生徒会の挨拶が始まった。生徒会長は今日も体調不良で欠席しているみたいだ。司会である中沼君の進行でそう伝えられた。いよいよ副会長の挨拶だ。何か緊張してきたから目をつぶって下を向いた。そして「みなさんおはようございます―――」ほぇ?声が野太い。風邪でも引いているのか?チラリと声の主を確認する。…サピーン!!ぉ…男!!あの可憐な外村さんが…性転換している!?「新しく副会長となりました、杉野です―――」知らない男が挨拶し始めた。名前が違うから性転換はしていないな!なら誰だよお前。外村さんをどこにやった――――!



「ねぇ、ぴょんす…外村さんじゃぁないよ。あの人。」「ん?あぁ、そうだな、欠席なんだろ?それがどうし―――」ぴょんすが俺の顔を見てびっくりしている。だって悲しくてさめざめと泣いちゃったからね。迷惑ばかりかけてごめんね、ぴょんす。「おい、とりあえず落ち着けよ。同じ学年だし、いつでも会えるだろ?」あわててそうフォローする優しいぴょんす。「見るだけでよかったのに…」とても悲しい始業式となった。俺だけだけど。



ホームルームが終わって、昼からは部活の時間だ。さっきまでぴょんすがたくさん慰めてくれたし(外村さんへの憧れを全部話したら、変な顔してたけど)、外村さんのことは一旦置いておいて、部活を楽しむことにした。「2年に転入してきました花木です。今日からよろしくお願いします。」きちんと挨拶をしてスパイクを履く。おやじにお願いして新しいスパイクを買ってもらった。久々のサッカーだ!ストレッチ体操をして、パス練習、シュート練習をこなす。結構体力は大丈夫みたいだ。フォーメーション練習へと移る。キャプテンに「ポジションはどこだ?」と聞かれたので、「オフェンス全般です。得意は左サイドです。」と答えた。



「なら、左に入ってくれ。お前と仲良しの緒方は、トップだ。ちなみに俺はボランチ。よろしくな。」ザ・キャプテンという感じの優しい先輩に言われた。「ハイ!よろしくお願いします!」フォーメーション練習はコートを半分使ったオフェンスとディフェンスによるミニゲームみたいなものだった。キャプテンめちゃくちゃ上手い。後頭部にも目が付いているんじゃないかってくらい、正確なパスを紡いでいく。



俺のところにもパスが来た。ぴょんすはフリー。ぴょんすに出すか――――いや、デイフェンスがパスカットを狙っている。とりあえず、目も前のデイフェンスを突破だな。デイフェンスの足が伸びてくるのが見えた。軽くループでかわし、ゴール前を確認。逆サイドのオフェンスがどフリーだ。アシストを上げてもあの距離じゃディフェンスは届かないはず。ループでかわしたボールが地面に着くか着かないかのところで右足を踏ん張り、左足でフォアサイドへのアシストを蹴った。逆サイドのオフェンス選手はヘディングで決めてくれた。「やるじゃねぇか、花木ー!」キャプテンがほめてくれる。うん。勘は鈍っていないみたいだ。こうして俺はサッカー部に迎えられた。校庭にある大木の木の陰で一人の人物が見ていたのには気づかないほど久々のサッカーにのめりこんだ。




会わせない結果、より女々しい秀明君になりました。

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