学校案内と友達の中沼君
途中で視点が変わります。
【生徒会副会長 外村 梢】青々と生い茂る緑を背景にした写真。真っ黒なロングヘアー。まっすぐに写真越しに見つめる瞳。お宝映像から何度も想像した、天真爛漫な今の姿、とは少し違うキツめの真顔。パンフレットをパタパタと何度も確認する。担任が訝しむ。でも間違いないーーー。俺のアイドルが‼︎今の姿でここに‼︎わーーーー‼︎
「マジなのかーーーーーーーー‼︎」
驚愕して思わず叫びながら、座っていたパイプ椅子から立ち上がる。パイプ椅子がガターンと音を立てて倒れた。担任はビックリしながら、オカンはニヤリとしながらコッチをみてる。「どうかしましたか?」担任が恐る恐る聞いてくる。隣でオカンは「何で気づかなかったの」と小さく言い、ため息をついている。
「あのー。大丈夫ですか?調子が悪いのならこの辺にしますか?この後は校内の案内を考えていたのですが…」担任がこちらを気遣う声が聞こえ、ハッと我に返る。この状況は何だか恥ずかしいと気づいて「い、いえ、すみません。」と続けながら座る。「越して来られたばかりで友達とも離れ、まだ新しい環境にも慣れていないのでしょう?」と更に気遣う担任。…………離れて泣くほどの友達何てほとんど居ない。…気遣いで傷つく。本当に個人事で騒いでごめんなさい。俺に気を遣うのはもういいです。止めてくれ。
「いえ、すみません。本当に大丈夫です。続きをよろしくお願いします。」精一杯の笑顔で担任を促すことにした。「……では、当校の生徒会役員に、 校内の案内をお願いしてありますので。」と担任が席を立った所で、扉が開いた。
「会長が不在のため、本日案内させて頂きます。」
嘘、早速過ぎるんじゃないのか…?俺は今全力で踊れるぞ…‼︎と思いドキドキしながら、やっぱりここでも第一印象が…と考え、笑顔を作り待つ。
「生徒会書記の1年、中沼です。よろしくお願いします。」
ーーーー。1年?書記?…男だし…中沼?え?…誰?期待を大幅に裏切られ、俺は脱力する。でも「よろしくね。」となんとか体裁を守る。俺はちゃんと笑顔でいられたかな。大丈夫、きっと泣いてはいない。
オカンは担任と話があるとかで、そのまま職員室へ行った。俺は書記の中沼君と他愛の無い話をしつつ、校内を歩いている。中沼君は「本来なら会長が案内をすべきなんですが、直前になって体調不良を訴えましてーーー」とか色々言っていた。書記君も色々大変なんだろうか。ちょっと哀愁漂うものがある。
中沼君は短髪の似合う、快活な人だった。気遣いも上手いし、人懐っこい笑顔が零れている。色々な話をしながら、少し仲良くなれたかなーと考えていると「先輩はモテるんでしょうねー。」とか言ってきた。急にブっこんでくる奴だな。でも、優しい彼になら聞けるかもしれない。勇気を出して聞いてみた。
「ねえ、中沼君。俺は気持ち悪くない?いつも家族以外の人には、避けられ気味なんだよ。ニコニコしててもアウトみたいなんだよねー。」あ、言ってみたら凄く寂しい奴だ俺。
転校してきたばかりの、目の前のイケメンな先輩が何か言っている。今まで何があったんだろう。ちょっと涙ぐんでるし。「先輩は全然気持ち悪くなんてないですよー。」中沼は答える。だって、普通にカッコいいと思う。身長も高いし、目鼻立ちもスッキリハッキリしてるし。僕もそんな風になりたい位だ。
そう言えば会長は、この花木先輩を見て逃げて行ったな。会長の苦手なイケメンだったからなのかなー。と考えながら歩いていると、前方から数人の女生徒が楽しそうに歩いてきた。「ーーーっ‼︎」その中の一人がこちらに気付き、周りの女生徒もこちらに気付き見ている。その瞬間、蜘蛛の子を散らさんとばかりに、女生徒達は走り去って行った。
「ほらね中沼君。いつもこんな感じで、友達も数えるほどしかいないよ。」先輩が隣で苦笑いしながら言う。不憫だ。しかも、この人は自分がイケメンだと気付いていない。それなら…「先輩。僕と友達になって下さい!」先輩を救える言葉はコレ以外無い。ついでに僕の男磨きも!と思い伝えた。あ、泣いて喜んでいる。
「先輩はどの部活に入るんですか⁇」学校案内もそろそろ終わりなので、先輩に聞いてみる。「サッカーだよ。大好きで憧れの選手がいるんだ。」嬉しそうに先輩は言う。「そうなんですね。頑張って下さい!憧れの選手って誰なんですか?」最後の疑問文を投げかけたことを、僕は後に後悔した。マシンガントークとはこのことを言うんだ、と記憶に刻む程、先輩の愛はとてつもなく重かった…。それはあの人も避けるわなーーー。
これからも友達で居てあげてね、中沼君。