とりあえず高校の説明を聞きに行った。
『今日はとても素晴らしい経験をさせて頂きました。フィジカル面で明らかに不利な私を、岩波選手のような選手の後に出場させて頂いたこと、本当に嬉しく思います。サポーターの皆さんは大変不安に感じたことだったと思いますし、テレビで応援してくれていた皆さんも不安だったのではないでしょうか。今日、アシスト出来た時の大きな歓声と拍手はずっと忘れられません。まだまだこれから頑張れるので、応援よろしくお願いします。』
大切に保管している俺のお宝映像から歓声が聞こえる。
あーいつ見ても可愛いなー。と小5の少女に対し、1人でムフムフしている高2の俺。はたから見たらすんごい変態ちっくだってのは分かってるよ!でも可愛いのは本当だから。そして今は俺と同じ高2なはずだから!小5で、世界のメディアに対してこの発言は神!と思いながら、いそいそと支度を始めた。
今日は新しく行く高校の、転校前の説明らしい。正直面倒い。高2にもなって必要なのかそれは。新しい高校の制服は、濃い色のグレーのブレザー。部屋に置いてある姿見の鏡で自分を見る。うむ、今日もなかなか見目麗しいぞ、俺。でも9月からの登校だからブレザーは着れない。ネクタイは学年色の緑の縞模様だった。
鏡の前で1人、脱いだりきたりのプチファッションショーをしていると、オカンが部屋にやってきた。で、悲しい顔をし、頷きながらそっと扉を閉めようとする。「おい!ノックしろよ!そしてなんで閉めるんだよ!」さすがにオカンに見られたら恥ずかしいだろーがよ。
「あー、ハイハイ。今日も秀君カッコイーわねー。分かったから早く支度しなさいよー。」おいオカン。いや、お母さん、棒読みは胸に来るからやめてください。
高校まではバスで20分ほどだった。バス停からまっすぐ伸びる、長い坂道を見てゲンナリする。長い坂道の上に高校はあった。桜並木に挟まれた坂をオカンと登る。まぁ、時期が時期だから桜は咲いてない。8月のアスファルトの脇道に、青々とした葉が木陰を作っていた。
オカンと脇道にあるベンチに腰掛けて休んでいると、坂の下から自転車がやってきた。電動自転車なのか、スイスイ漕いでやってくる。長い黒髪の女子なのは遠くからでも分かった。チェックのスカートが眩しいぜー、などと考えていると、俺たちの目の前をスイスイ通過していった。
またオカンと歩き始める。「いやー。さっきの子美人だったわねー。眼福だわー。」とニマニマしながら、オカンが肘で突ついてくる。いや、そこまで見てねぇし。そんな言い方するなら、目の前を通る時に教えてくれよ。と思いつつ「ふーん」と相槌を打った。
オカンには、オカン曰く「美人センサー」なるものが付いているらしい。そう考えると、親父はイケメンの部類に入るな。オカンも美人な方だろし。よって俺もイケメンの部類に入る!と思いたいが、そうでもないらしい。
よくよく考えると、親父とオカンの一族は、イケメンと美人のあつまりだ。でも俺はそいつらに比べ、本当に普通みたいだ。
夏休みの中頃に、伯父さんの家に一族が集まった。その時たくさんの武勇伝を聞かされた。従兄弟も沢山いるが、いずれも武勇伝なるものを持っていた。従姉妹も変わらずだった。でも、俺だけ無い。
適当に相槌を打ち聞いていると「お前はないのか?まぁ、小5のガキに本気になってちゃあ無理だな‼︎」と伯父さんに馬鹿にされた。でも可愛いもんは可愛いんだよ!何か思い出してたら、悲しくなって来たなー。あ、泣きそう。などと考えている内に高校に着いた。
「大きいわねー。」「うん、でかいね。」転校する学校は、マンモス校と呼ばれるに相応しいデカさだ。オカンと2人で校舎を見上げる。玄関の周囲では吹奏楽部と思わしき集団が、キャイキャイと楽しそうに練習していた。第一印象が大事だと考えて、笑顔を作った。
俺とオカンが玄関に向かって歩いていくと、ピタッと練習の音色が止んだ。あ、またこのパターンだ。俺とオカンのいる周りの生徒が、スッと遠くなる。そして、コッチをみながらヒソヒソやってる。
俺の笑顔はそんなに変なんだろうか。悲しい気持ちになり、下を向いて歩いていると、オカンが隣で、凄い勢いでクスクスやっている。息子が凹んでるのに何故笑う。俺は人前とか関係無く涙が出そうだぞ。息子の恥ずかしい姿をそんなに見たいのか、オカンよ。
玄関に入り、右に向かうと警備員室があった。中の職員に声を掛け、案内してもらう。気を効かせてくれた担任が、俺の通う教室近くで説明してくれるみたいだ。教室の場所も教えてくれた。
担任は初老の男性だった。俺が高3で卒業する時に、一緒に退職するらしい。担任の説明によると、この学校は文武両道をモットーにしていること。そしてその一旦として、生徒会が多くの行事を取り仕切っていること。とかが分かった。
担任から「この学校は基本的に、全生徒部活に参加してもらっています。何かやりたい部活はありますか?」と聞かれた。「サッカーがやりたいです」と答えた。どうやら、この学校はサッカーの強豪らしい。「始業式の日に、入部届を持ってきてください。」と入部届を渡された。
担任の話を聞きながら、もらった学校案内のパンフレットをパラパラ捲る。登校前には学校内の配置をある程度覚えないとなー。と考えていると、チラリとあるものがパンフレットから見えた。担任の話そっちのけで、慌ててパンフレットを捲るーーーーーー。
自己満の世界です。
お付き合いよろしくお願いします。