第62話 物語の紡ぎ手
最終話スペシャルで3話一挙更新です
第3話目
昔神前とある話をしたことがある。それはこんな会話だった。
「エド君。君は前世ではエロイことで興奮すると性格も強さもまるで変わる主人公の話を読んだことはある?」
「ああ。あるよ」
「あれは遺伝性のもので解離性同一性障害いわゆる二重人格とは正確には違うらしいけど・・・よく人が変わったようにっていうじゃない」
「人が変わったように怒ったとかそういうのか?」
「うんそうそう。それも酷くなると二重人格って言えるのかな?」
その時の俺はなんて返事をしたんだっけか。あの時はただ変なこと聞いてくるなとしか思わなかったけど。
「神前、お前二重人格なのか?」
「いいや。前に言った人が変わったようにの極端な奴だよ。エロイことで興奮すると強くなる主人公に近いかな。もっとも俺はエロイことじゃなくて戦って興奮するとだけどな」
なるほどな。別人格ではないってことか。
「さて無駄話も程ほどに・・・行くぜ」
幸いなことに獣人たちと戦っていた直後なので俺は夜叉の衣も着ている。神前も条件は一緒だ。
「先に言っとくとロキが結界を張ってるから巻き添えは考えなくていいぞ」
「それは至れりつくせりだな!!」
《銀狼》と身体強化を使っての突進。神前はこれにしっかりと反応してくる。
「はあ!!」
俺の攻撃を避けざま《黒刀》で斬りかかってくる。俺はその攻撃を如意棒で防ぐ。《竜》の腕力で神前を吹っ飛ばす。神前が地面に着地する瞬間神前の真下の地面にむかって凍結を使う。
「うお!」
着地しようとした地面が凍っていたせいで足を滑らせる神前。
「アイスピアー!!」
凍らせた地面から何本もの氷の針を出す。
「甘い!!」
神前はその全てを居合い切りで切り裂いた。さらに距離が離れているにも関わらず俺に向かって刀を振りかぶった。すると神前の刀から黒い振動波のようなものが飛んできた。
「《守炎》!!」
《不死鳥》の炎を目の前に出して余裕をもって防ぐ。《守炎》を解除すると目の前まで神前が迫っていた。《守炎》の影に隠れてここまで来たのだ。
「これが狙いか!!」
《守炎》もこの距離じゃ間に合わない。それなら!!
《変身融合》《不死竜》
カキン!!
流石の神前の刀も俺の《守炎》と竜鱗で守られた体は貫けないらしい。ノーダメージとは言えないが深い傷を負うこともないだろう。
懐からナイフを出して直ぐ近くにある神前の顔めがけて投擲する。避けられないと思ったのかは神前はナイフを左腕で防ごうとする。
「それはフェ~イク。そしてお前は終わりだ」
《雷獣》を起動する。するとさっき神前に投げたなんの変哲もないナイフが電気を帯びる。これが体に刺されば痺れて動けなくなり終わりだ。
「馬鹿が。それは偽手だ」
ナイフは神前の左腕に刺さった。そして刺さった箇所を中心に電気が神前の体を廻る直前神前の左腕が落ちた。落ちた神前の腕は真っ黒な色をしていた。どうやら例の万能魔法で作った身代わりらしい。まさに偽手だな。
「黒陣結界」
神前が刀を地面に刺す。地面に刺した刀を中心に半径10メートル程の黒い陣が出来た。急いでその場を離れようとすると地面から黒い刀が俺めがけて飛び出してきた。《銀狼》を足だけ起動してジャンプして避けるが刀はどこまでもついてくる。仕方がないので如意棒で叩き折るとあっさり折れた。しかし折れた刀はまるで意思を持っているかのように俺に斬りかかって来る。
「おら!!」
今度はさっきよりも強く叩くと黒い陣の外まで飛んでいった。すると今度はさっきのように俺のところに向かっては来ず地面に落ちる途中で掻き消えた。どうやらこの黒い陣の中でのみ自由に刀を操るのが黒陣結界の効果のようだ。それなら
「《竜炎》!!」
今俺は丁度神前の真上にいる。この位置から神前目掛けて《竜炎》を放てば動かざるをえないだろう。
俺の予想通り《竜炎》を見た神前は黒陣結界から離れていく。
「影蛇」
空中にいる俺に向かって神前が手から蛇の形をした魔法を放つ。蛇が俺の足を咥えると神前は腕を勢いよく地面に下ろした。当然地面に引き寄せられる俺。そのままの勢いで地面に叩きつけられる。
「くそ。《治癒炎》」
急いで体の傷を治していく。
「本気でこいよ」
「なに?」
「まだまだ隠してんだろ。それを出せよ。じゃないと俺は倒せないぜ」
ばれてたか。見たところ神前もなにか隠してるみたいだが。
「いいぜ。お前に俺の限界・・・いや人間の限界をみせてやるよ」
これを使うと手加減ができなくなるのであまり使いたくなかったのだが、そうも言ってられなくなった。
《変身融合》《不死獣》モード《炎雷の衣》
人間の体の動きは全て電気信号で成り立っている。一度脳に指示を仰いでから命令を電気信号で受け取って人間は行動する。しかし何か強い刺激を与えられると無意識で体が反応する。これが反応反射だ。《炎雷の衣》は常に《雷獣》の電気の力を使って全ての行動を反射反応にすることができる。そして《炎雷の衣》の効果はそれだけじゃない。人間の体は脳によってリミッターが設けられていて20%程しか力を出せていない。そのリミッターを《雷獣》の能力で強制的に解除するのだ。要するに火事場の馬鹿力である。しかしずっとそんなことをやっていたら当然体にかかる負担は信じられないものになる。直ぐに使いものにならなくなるだろう。けれどそれを防ぐのが《炎雷の衣》の最後の能力《治癒炎》だ。リミッター解除によって傷ついた部分を常時治していく。これによって俺は実質ノーダメージでいられる。デメリットとしてこの状態のときは《守炎》と《治癒炎》が一切使えないのだがそれを考えてもお釣りが来る。まさに人間の限界だ。
「とんでもない力だな。なら俺も切り札を見せてやるよ。魔王としての限界をな」
神前は一度息を吐くと一気に吸い込んだ。
「限界突破!!」
その瞬間神前の雰囲気が変わる。ヤバイものから更にヤバイものへと。
「魔王固有スキル限界突破。これで条件は対等だ」
俺と神前は一瞬で相手の所まで行くと・・・殴り合いを始めた。拳が一回振るわれる度に衝撃波生まれた。さっきまでとは比較にならない威力。
「オラっ!!」
「グッ!フンっ!!」
殴り殴られ蹴り蹴られる。そんな状態が何分か続いた。俺も神前も力が強すぎてあまり細かいコントロールはできないのだ。よって行われるのは無骨な肉弾戦のみ。
神前を蹴るために右足を上げる。それを防ごうと神前は右腕を動かした。しかしそれはフェイク。俺の狙いは神前ではなくその下。地面だ。
今までの殴り合いで痛んでいたのと人間を超越した脚力で踏み抜かれたせいで地面が大きく陥没する。
「くそっ」
神前は突然のことに対応できずに地面の下に落ちていく。土煙が収まり神前が上を見る。その目には上から襲い掛かる俺が見えたことだろう。神前は俺に向かって刀を振る。俺が一刀両断される。しかし俺は斬られた直後炎に姿を変える。
「なに!?」
「隙あり!!」
俺は神前が偽者の俺を切り裂いた瞬間後ろから抱きつく。《雷炎の衣》は既に解いてある。
「神前俺はお前を殺すことも、死んでやることもできない。だけどな・・・一緒に死んでやることくらいは出来るぜ」
神前が諦めたように抵抗をやめる。その瞬間俺が体から放った全力の電気によって俺と神前の心臓は停止した。
その数秒後俺の心臓はまた動き出した。
「ふう。死ぬかと思った」
リュクシオンのときに使ったのとは違う遅延型の《治癒炎》だ。一ヶ月に一回のほうだと神前を助けられないからな。
「安心しろよ。前のなにも出来なかった俺とは違う」
俺の《治癒炎》は完全な死人は蘇らせることはできない。だけど心肺蘇生法などで生き返るレベルなら簡単に生き返らせることができる。
「《治癒炎》」
急いで神前の体に《治癒炎》をかけてやる。遅くなると本当に死ぬかもしれないからだ。
数秒後神前もまた無事に息を吹き返した。
「・・・負けたのか俺は」
「まあな」
そういえばまだ大事なことを確認していなかった。俺はステータスと念じて称号の部分を見る。すると思ったとおり消えていた。代わりに変なのが出ていたが。
「おい神前。ステータスの称号を見て見ろよ。お前を縛っていたのが消えてるぜ」
「え?」
慌てたように神前が空中を見る。ステータスを出しているんだろう。
「本当だ。魔王の称号が消えてる。代わりに変なのが出てるけど」
お前もかよ!!メヤが言っていた称号は死んだら消えるというを聞いてもしかしてと思って試したのだが・・・どうやら成功したらしい。
「これで俺とお前が戦う理由がなくなったな」
「そうだな。・・・まったくお前は大した奴だよ」
しばらく二人で顔を合わせているとどちらともなく笑い出した。
「何を笑っているんですか!!」
突如誰かの怒鳴り声が響いた。驚いて声のほうを見るといつの間にか結界を解いたのかロキとジュラそしてイルとリレスが直ぐ近くに立っていた。どうやらいまのはジュラが叫んだらしい。初めてかもしれないなジュラの怒鳴り声って。
「まったく。あんな戦いを見せられるほうの身にもなってください」
「悪い悪い」
ジュラがなおも何か言おうとすると場の雰囲気が一変した。なにかが来る!!その場の誰もがそれを悟った。そしてその来る存在との挌の違いを。
あたりに光が満ちて視界がホワイトアウトする。またかよ!!と思って視界がもとに戻るのを待つが一向にもとに戻らない。そのうち声が聞こえてくる。
「ファンタスティック!!すばらしい!!まさかこんな結末だとは!意地になっている神前君を魔王という枷から開放するため一度殺すとは・・・実にすばらしい!!」
「この声は神様!?」
「そうだよ。感動のあまり現世に来ちゃった。安心していいよ二人にまた称号をつけようとか考えてないから」
まあなにか悪いことをしようって雰囲気じゃないから別にいいか。だけどこっちの世界だとこうも威厳にあふれた雰囲気なのがなんか嫌だな。姿は見えないけど。
「いやーやっぱりエド君と神前君をこの世界に転生・転移させてよかったよ。まあ、まだまだ言いたいことはあるんだけどそれはまた今夜ということで。とにかくおめでとう!!」
神様は言いたいことだけ言うと直ぐに消えていった。もしかしたら大勢の前に出るのが恥ずかしくて視界をホワイトアウトさせたのかもしれない。
視界が戻るとさっきと同じ光景・・・ではなくジュラとリレスとイルが俺に詰め寄ってきた。
「エドさん説明してください!!」
「説明ってなんの?」
「さっきのよくわかんないのもそうですがあれが言っていたあなたをこの世界に転生させたというのです」
そういえばさっきそんなこと言ってたっけ。ジュラたちにも聞こえてる可能性をすっかり忘れてた。一体どうやって誤魔化せばいいんだ。同じ苦しみを味わっているであろう神前のほうを見ると特に詰め寄られたりはしていなかった。
「いや俺は最初から説明してたから」
なんか負けた気分だった。どうやら神前はロキを信用して自分のことを説明していたらしい。俺もいままで隠してきたが本当に仲間を信用しているなら言うべきだろう。非常に長くなるがこいつらになら言っても大丈夫な気がする。
「話すと長くなるんだが」
「短く分かりやすくお願いします!!」
そんな無茶な。俺は必死で考えて調度いい答えを見つけた。
「要するに、死んだら神様にチートをもらって」
「転生したんだが、と」
メヤはついさっきエドがジュラたちに言ったセリフを一冊の本に書き写した。
「取り敢えず完成かな。ふふふ。またコレクションが増えたよ」
メヤは書き終わったばかりの本を撫でながら嬉しそうに言った。
「いやーだけど最後は驚いたな。まさかシステムが勝手に仲間想いの勇者の称号を仲間想いの少年に、面白がりやの魔王を面白がりやの少年に変えるだなんて。これであの二人はただの少年になったわけだ」
これからどうするのか非常に楽しみだ。本をそろそろ一杯になってきた本棚にしまいながら思案する。
「さーて次は誰をどの世界に呼ぼうかな」
メヤは物語の神様。転生・転移させた人たちの人生を一冊の本にするのが趣味だ。
「お!面白そうな人発見!!次は彼にしよう!!」
こうして新たな物語が紡がれていく。
取り敢えずストーリーはこれで終わりです。これまで読んでくださってありがとうございます。打ちきりではではありません。最後のほうの神前の心情など分かりにくかったら質問ください。簡単に言うと男の意地ですね。一回言っちゃったからやらないと、みたいな。本当に今までありがとうございました!!たまに番外編や後日談を更新するかとおもいます。新しい作品もだいたい考えてあらりま。書き溜めてから掲載しますので少しお待ちください。




