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第61話 肩書きと意地

今日は3話更新です

第2話目

 獣人族の繁殖期は一ヶ月間続いた。その間俺と神前はずっと獣人と戦う羽目になった。学園長が結界を張ったせいで外にでることもできなかった。神前のシャドウゲートまで無効にするってどんだけだよ。


「取り敢えず僕は一旦家に帰るよ」


 結界か解除されて神前は俺を追うことの不毛さに気付いたのか刀を鞘に入れて言った。


「お前家なんかあったのか」


考えてみれば当然だがこいつにもこっちでの故郷があるんだよな。今までそんな素振り見せなかったから考えもしなかったけど。


「まあね。こっちの世界に来たときに人が直ぐ近くに住んでてね。そこに一緒に住んでるんだ」


 無人の荒野とかに落ちなくてよかったな。それともメヤが気を利かせたのか?


「今度行ってもいいか?」


 こいつの故郷って興味がある。それにほらたまには友達の家に遊びに行くのもいいもんじゃん。


「別にいいけどまた今度ね。一応家の人たちに許可もらわないと」


「迷惑じゃないといいんだけど」


「大丈夫大丈夫。みんな気がいい、いい奴らだよ。君のことも気に入ってくれると思うよ」


 神前は家の人たちにお土産を買っていくと言って商店街のほうに行った。実家、か。


「俺もたまには帰郷するかな」


 まあ言うほど遠くないんだが。むしろ近いんだけどね。


「あれ?そういえばジュラは?」


 さっきまで俺の隣にいたはずなんだが。まあジュラもわりと神出鬼没なところがあるしな。なによりあのユニークスキルだ。




「あの人にはこれとこれ。リュ-クにはプロテインを買っていこう」


 買い物をしながらさっきのエド君との会話を思い出す。


「いつの間にか選択から逃げてたのかな」


 このままこの生活が続いてもいいと思う自分もいる。だけどそれでは最初の決意と反することになる。


「最初はちょっと引っかきまわすだけのつもりだったんだけど」


 思ったよりも深入りしてしまった。ここらが潮時かもしれない。いや、もしからしたらもう・・・


「お土産も買い終わったしそろそろ行こう」


 ここでシャドウゲートを使って移動してもいいんだがなんとなくさっきエド君と会話していたところまで戻る。そしてシャドウゲートで転移しようとした瞬間、


 ヒュン


 という音とともに何か白く細いものが僕を縛り付けた。これ鋼糸?ということは


「デートのお誘いにしてはちょっと過激じゃない?ジュラさん」


「ご安心を。デートのお誘いではありません」


 このタイミングで現れたと言うことはそういうことかな。


「じゃあ一体なんの用?」


「このまま終わるならそのままでもいいと思いましたがどうやら貴方は何かしてしまうようなので私も行動せざるをえなくなりました」


 これは殆どばれてると見ていいのかな?


「例の情報屋の情報かな?」


「ええ。彼女は優秀ですから。ですが今回は私が自分で様子を見ました」


 会話に応じてくれてはいるがいつ鋼糸が僕を切り裂いてもおかしくない。


「えーと最後にいいかな」


 徐々に意識が切り替わっていく。この人相手では油断するとやられかねない。


「いいですよ」


 やりたかったのはワンテンポ置くこと。それだけの隙さえあれば、


「獲物を前に舌なめずりか。三流のすることだな」


 彼に変われる。


 俺は転移する時にもらった黒刀《闇刀》で俺を縛り付けている鋼糸を切り裂く。しかし油断は出来ない。ジュラのことだ二重三重に罠を張り巡らしているはずだ。そして俺にそれを見破る自信はない。こいつの術中から抜け出すにはこいつの予想外の行動を取ること。この状況でそれは、


「ロキ、時間を稼げ」


「仰せのままに」


 流石にロキが隠れていたのにはジュラも気付けなかっただろう。なんせ俺も気付いたのはついさっき、俺になったときだ。


「この間の続きと行きましょうジュラ様」


「ということはやっぱり神前さんは」


「ええ。魔王陛下その人です」


「え!?」


 その発言に反応をしたのはジュラでも神前でもなく・・・いつの間にかその場にいたエドだった。





 神前と分かれてから数分後急に神前からさっき分かれた場所に来てくれと《悪夢霊(ナイトメアゴースト)》を使って言われた。そういや解除してなかったなと思いつつ言われたとおりその場に向かうと・・・


「一体どういう状況だ?」


 ジュラはロキと睨み合っていてロキの後ろでは神前が立っている。ロキに神前が誘拐されそうになったのかと思ったがジュラと神前の顔を見るとその考えも否定された。ジュラは悔しげにロキと神前をみていて神前はどこか面白げな表情でロキとジュラを見ている。そしてロキは神前をジュラから守るように立っていた。


「神前・・・さっきの本当なのか?」


 ロキの神前が魔王だという発言。確かにそれなら今の状況と合致するが。神前は俺の質問に答えずに満足げに笑うと喋りだした。


「役者も揃ったことだし行くとしますか」


「行くってどこにだよ」


「そりゃ勿論・・・決戦のバトルフィールドへ!!」


 次の瞬間ロキと神前が同時に指を鳴らすと視界が光でホワイトアウトする。視力が戻ると俺たちはどこかの荒野に立っていた。見覚えのない場所だ。見渡す限り何もなく正に荒野という感じである。


「ニャ?ここはどこニャ?あと五分でサラマンダーの肉一キロ食べなきゃいけニャいのに」


「私の本」


 何故かあの場にはいなかったイルとリレスまで一緒に転移してきてる。ていうかイル。お前どんだけ食うんだよ。


「神前どういうつもりだ」


「そりゃあ勿論観客だよ」


「観客?」


 何の観客だ?ここには俺たちしかいないというのに。凄い嫌な予感がする。


「それよりもさっきの質問に答えてやるよ」


 さっきの質問というのは魔王というのは本当かと聞いたのだろう。


「さっきロキが言ったとおり俺は・・・魔王だ」


 その事実に俺は愕然とする。


「俺が魔王だと知ってショックか?」


 確かにショックだ。しかしそれは神前が魔王だったからじゃない。それなら驚きはしてもショックは受けなかっただろう。だけど神前が魔王だということは必然的に、


「ロキに俺たちを襲うように命令したのもお前だっていうのか?」


 嫌だ聞きたくない。これを聞いたらもしかしたら俺は神前を許せなくなるかもしれない。


「ああ。そうだ。ロキにお前たちを襲うように命令したのは俺だ」


 殆ど確定していたことだが本人から言われるとそれでもショックを受けてしまう。神前は俺の仲間だ。そしてロキは他の仲間を傷つけた。そしてそう指示を出したのは神前。


「じゃあ今までの俺たちと過ごした時間は」


「ただの上っ面だけのもんだ。俺はいつでもよかった。いつ正体を明かしてお前がショックを受ける姿を見てもよかった。ただなるべく深い仲になってからだと思ってはいたな」


 そんな。今まで俺たちと神前が過ごしていた時間は全部無駄だったのか?神前を俺たちのことを仲間だなんてこれっぽちも思っていなかった?心の中で俺のことをあざ笑っていのか?だとしたら俺は・・・とんだ道化じゃないか。


「それならなんで貴方自信が人質になったんですか?」


 混乱に陥った俺を呼び戻したのはジュラの質問だった。確かにそうだ。あそこで神前が人質になる必要はなかった。ジュラやリレスでもよかったはずだ。


「俺が人質になるのが一番確実だろ。他の奴を人質にしようとして失敗したら目も当てられない」


「嘘ですね」


 間髪入れずジュラが否定する。


「貴方はもしかしてリレスさんやイルさんを人質にしたくなかったんじゃないんですか?」


「人質にしたくなかった?なんでだよ?」


「人質にすると確実に苦しい思いをする。もし私たちがロキさんに勝てなかったらそのまま死んでしまっていたかもしれないから・・・じゃないですか」

 

「だったらなんなんだよ」


「だったら・・・神崎さんはまだエドさんの大切な仲間足りうるかもしれない・・・そういうことですよエドさん」


 確かにそうだ。もし神前が俺たちと過ごす内に俺たちのことを仲間だと思うようになったらのなら・・・それならまだ希望は持てる。


「神前。今からでも遅くない。魔王をやめろとも言わない。こっちにこいとも言わない。だから頼む。俺と・・・俺たちと本音で過ごしてくれないか?」


 右手を差し出しつつ言う。俺の言葉にたじろぐ神前。その右手が一瞬動く。しかし首を振ると神前の口から出たのは否定の言葉だった。


「いいや無理だね。俺とお前はこの世界に来た瞬間から戦う運命にあったんだ。それもただの戦いじゃない。殺し合いをするな」


 何を言ってるんだコイツは?別に前世からの因縁とかはない。


「なんで俺とお前が殺し合いをしなきゃいけないんだ」


「そりゃ勿論魔王と勇者だからだよ」


 それだけ?ただそれだけの理由で


「俺とお前は殺し合うっていうのかよ」


「俺とお前が殺し合う理由なんてそれで十分だろう」


 もう神前には動揺する気配は微塵もない。だけど俺にはわかる。


「嘘だな」


「なに?」


「お前はそんなこと思ってない。殺し合いなんてしたくないはずだ」


 神前が馬鹿にした様なだけどどこか嬉しそうな顔で言った。


「何を根拠にそんなことを?」


「仲間だからだ」


 俺の返事に神前が言うと思ったという顔をする。


「お前と過ごした数年間がさっきの発言は嘘だと教えてくれる」


 俺にはわかる。なんでこいつが魔王になったのかはわからない。だけどこいつはただ意地になってるだけだ。一度言い出したから歯止めが利かなくなってるだけだ。俺が数年間ともに過ごした神前という男は勇者というだけで仲間を殺したりはしない。俺はそう信じてる。


「ふん。馬鹿だな。いつかお前は騙されるぞ」


「でも今じゃない」


 神前が呆れたようにため息をつく。


「だったら俺を止めてみろよ。魔王である俺を、勇者であるお前が止めてみろ」


「いいぜ。意固地になってるお前を止めてやるよ。俺の仲間であるお前を、お前の仲間である俺がな」


 男と男の意見が食い違ったらどうするか。そんなことはずっと前から決まっている。決闘だ。ただし殺し合いではない。勝ったほうが自分の意思を貫ける。実にシンプルなルールだ。


「殺す気でこいよ」


「いいや。死ぬ気で行くぜ」


 俺と神前の男の意地を賭けた戦いが始まった。







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