第57話 命の価値
しょうしょう遅くなってしまい申し訳ありません
「実験だと?」
実験、という言葉に不吉な予感を感じつつ聞く。こういう道化師の格好をしていてカードを武器にしそうな奴が実験や試験と言い出したら碌なことが起きないと相場が決まっている。
「ええ。具体的には・・・こんな実験です!」
喋っている途中にロキは右手を斜め下に振り下ろした。するとロキの右手から何か半透明なものが俺たちに向かって飛んできた。
「なっ!?」
突然のことに反応が遅れる。ロキの右手から飛び出た何かはかなりの速度で俺の横を通過し俺の後ろにいた神前にぶつかる。そして神前ごと後ろにある木に激突した。すると半透明の何かは粘土のように伸びて木の周りを一周してくっついた。
「神前!!」
呼びかけると大丈夫だと言うように顔が上下に動いた。両手は半透明の何かの下で身動きがとれないようだ。
「慌てなくても大丈夫ですよ。あれはただの魔力の塊ですから」
「魔力の塊?」
聞きなれない単語に思わず聞きかえす。語感から大体の予想はできるが。
「ええ。あれは私の魔力に物理的な形を持たせたもの。何の属性もついておりません。まあ言うならば無属性と言ったところでしょうか」
魔力の塊?無属性?なにか引っかかる・・・
「数年前に雷獣の動きを止めるのにも使用致しました」
「あ!」
思い出した!雷獣の予想外な行動にやられそうになったときにどこからか飛んできた魔力!
「あれはお前だったのか」
「ええ。少し危なそうだったので助太刀させて頂きました」
・・・ということは大変遺憾だがこいつは命の恩人になるのか。あの攻撃で死ぬかどうかはわからないが。
「命の恩人ってことならここで帰ってくれればなかったことにしてもいいんだけど・・・」
この俺の提案にロキは頭を振った。
「いえいえそういうわけにもいきません。それでさっきの話の続きなのですが、今神前様を木に縛り付けている魔力は私の意志一つで大蛇のように神前様を絞め殺すことが可能です」
この発言に思わず体に力が入る。あの神前がそう簡単にやられるとは思わないがそれでも気持ちが焦るのは止められない。
「・・・それで?お前の実験とやらは俺を怒らせることか?」
「まあそれも実験の内に入るかもしれませんが本来の目的は違います」
ロキは一旦喋るのをやめて回りを見回すと、
「エド様はここから1キロほどのところにある村をご存知でしょうか?」
唐突な話題展開に反射的に素直に答えてしまう。
「あ、ああ。この丘に来る途中にあったからすこし立ち寄った」
小さく正に農業で暮らしています、というような村だった。
「住民二百人ほどの本当に小さな村です。外との交易や関わり合いもない、なくなっても地図を作る仕事の人が困るだけの村です」
何か不穏な空気を感じる。残念ながら俺の悪い予感は当たるというジンクスがついさっきできてしまった。
「ではここで質問です。神崎様とその村の住民全員の命・・・どちらか選べと言われたらエド様はどちらを選びますか?」
ほらな?やっぱり当たった。
「選べ、だと」
「はい。選ばなかった方をワタクシが殺します。この状況であなたは神前様お一人の命と村民の二百の命どちらをお選びになりますか?」
俺の観察力ではこいつが本気で言っているのかどうかはわからない。ただ確実なのはこの男にはそれをするだけの実力があるということだ。
「・・・そんなの神前に決まってるだろう」
こいつが本気であろうとなかろうと俺の答えは変わらない
「よく命の価値は平等だなんて聞くがあれは嘘だ。少なくとも俺にとっては仲間の命は他の奴らとは比べ物にならない」
そう俺はあの日誓ったんだ。もう二度と一人だって仲間を失わないと。他の何を捨てても仲間を守ると。
「まあ神崎様のほうを取るというのはわかっていました。あなたは異常なほど仲間に執着しますから。さてここからが本題です」
そう言うとロキは指を鳴らした。すると神前を木に縛り付けていた魔力が音を立てて絞まって行く。
「グッ」
神前の口からうめき声が漏れる。
「お前!!」
「さっきも言いましたとおりあれはワタクシの意志で簡単に神崎様を絞め殺すことができます。あれは触れている物の魔力を吸い取るので脱出は困難。ですがここで一つチャンスがあります」
「チャンス、だと?」
「はい。ワタクシと戦い倒すことができれば神崎様の拘束は解けます。逆にワタクシと戦い負ければ神崎様と皆様方の命はなくなります。もしワタクシと戦わずに退くというのであれば神崎様一人だけが死にます。因みにワタクシと戦い勝ったとしてもあなた方の内誰かは死ぬことになるかもしれません。そしてさらに・・・もう分かっているとは思いますがワタクシは非常に強いです。あなた方全員でかかってきても勝てるかどうか分からないくらい」
かつてないほど悪い状況。かつてないほど分の悪い賭け。そしてかつてないほどの強敵。これが漫画や小説だったら確実に最終回だろう。だけどそれでも
「俺の答えは変わらない。俺は誰一人仲間を失わずお前を倒す。そして神前を助ける」
「ではワタクシと戦うということですね」
「ああ。そういうことだ」
俺が決意をあらわにすると後ろからため息が聞こえた。
「まったくあなたは昔から勝手なんですから」
ため息の主はジュラだ。
「何ならお前らだけで逃げていいぞ」
目でロキに確認を取る。
「ええ。別に構いませんよ」
「だってよ」
ジュラは呆れたように首を横に振った。
「あなたは一人にすると何をしでかすか分かりませんからね。私がちゃんと見張っておかないと」
「お前なぁ」
思わぬ子ども扱いに脱力する。
「・・・それに私も誓いましたから。あなたを一生支えると」
その発言に今度は笑いが漏れる。
「も、もちろん私もニャ!!」
「・・・エドは一人にしておけない」
何故か焦ったような声音で二人からも賛同の意を得る。
「というわけだ。満場一致でお前と戦う」
俺たち四人は戦闘態勢を取る。
「いいでしょう。死ぬ気でかかってきてください」
こうしてかつてない強敵との戦いが幕を開けた。
最後の最終回というのはフラグではありません
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