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第55話 賞金首冒険者

遅れて申し訳ありません。色々忙しくて。少し長めです。

 まだ朝靄が出ている時間。起きるには早いが寝るには遅い時間。そんな中途半端な時間に俺は外出をしていた。正確には俺たちはだが。


 俺とジュラは道中無言だった。話すのは三人でと思っているのかそれとも・・・。


 目的地には五分ほどで到着した。今まで何回と行っているので迷うことはない。しかし本当の目的地はここではない。この場所のある地点が本当の目的地である。


 その場所はそこから三十秒程で着くような距離にある。そこについてから俺は初めて口を開いた。


「久しぶりコリン」


 俺がそう声を掛けた先にあるもの。それは人影ではなく長方形のもの、そう墓石である。俺とジュラは墓参りに来たのだ。


「イルとリレスが戻ってきたよ。二人とも凄い強くなってた。きっと死ぬほど努力したんだろう」


 当然返事はない。しかし構わず続ける。


「勿論俺も強くなったよ。流石にAランクにはまだ上がれないけどな。でもあの時とは比べられない程の力を得たよ」


 俺がそこで一旦黙ると代わりににジュラが喋りだす。


「今日もみんなで依頼をこなしに行きます。イルさん、リレスさん、神前さん、みんないい心強い仲間です」


「今日は賞金首の依頼を受けようと思っている。安心しろ。前のようなことはもう起こさせない。その為にこの数年間頑張ってきたんだ」


「そうですよ。それにエドさんは私がしっかりと守るので安心してください」


 ジュラのその発言に思わず苦笑する。まあそれでコリンが安心出来るなら安いものだが。



「じゃあもう行くよ」


 最後に墓の前に交差するように刺してある剣を撫でてから立ち上がる。一目で業物だと分かるそれだが今は苔がこびり付いていて手入れをしないと使えないのが見ただけで分かった。だが手入れをしようとは思えなかった。何故ならこれはコリンが最後まで持っていたものだから。なるべくならこの地に残っているコリンの痕跡を消したくはなかった。それがただの感傷だと分かってはいても。




 場所と時は少し移り。


「今日はこないだ言ったとおり二人ともがCランクになったから賞金首冒険者を捕まえる依頼を受けようと思っている」


「賞金首冒険者ニャ?」


 イルがなんのこっちゃと言うように首を傾げた。こいつこないだの話聞いてなかったな。


「賞金首冒険者っていうのは犯罪を犯して賞金首になった冒険者のこと・・・っていう説明はもう何回もした筈なんだが」


「そうだったかニャ?」


「ん」


 またしても首を傾げるイルに対して肯定するようにリレスが返事をした。


「リレスはちゃんと聞いてたみたいだぞ」


「わ、私だってちゃんと聞いてたニャ!!」


 イルが心外だと言わんばかりに大声を出す。結構な大声だがギルド自体がうるさいので特に誰も注目はしなかった。


「なら賞金首冒険者について説明してみろ」


「そんなの簡単ニャ!」


 そう言いながら胸を張るのだが程よく育っている部分が目の毒だ。どこがとは言わないが。


「えっと、ご飯を食べたのにお金を払わなくて賞金首になった冒険者をそう呼ぶのニャ!」


 自信満々にイルが言い切る。まあ間違ってはいないのだが。


「無銭飲食だけじゃなく他の犯罪でもだけどな。じゃあみんなが理解してくれてるということで話を進めるぞ」


 懐から一枚の紙を出す。これは先に俺が選んどいた賞金首冒険者の捕縛または殺傷の依頼書だ。そう捕獲または殺傷の。


「依頼は先に見繕っといた。今回の冒険者のランクはC。名前はセルエス。武器は片手剣。魔法も使える所謂魔法剣士ってやつだな。基本はソロだ。実力はCランクの中でも上のほうだから油断するなよ」


 最後のセリフはジュラと神前に向けたものだ。当然のように神前がここにいるのはもはや誰も突っ込まない。案外これも人徳という奴なのかもしれない。


「何か質問は?」


 イルが直ぐに手を上げた。なんとなく言おうとしていることは分かるが一応聞いておく。


「なんだイル?」


「バナナはおやつに・・・」


「さて各自必要だと思うものを用意して一時間後に門の前に集合だ。夜営の道具や料理道具は俺が用意するからそれは心配しなくてもいいぞ」


 用意するのは俺でも持つのは分担だが。


「はいじゃあ解散!」



 一時間後全員が門の前に集合した。俺はその場で荷物を均等に分配する。因みにイルはしっかりバナナを持ってきていた。まあ栄養的には問題ないし摂取して直ぐにエネルギーになる優秀な食料だから全然いいのだが。



 ギルドの情報によるとセルエスは森の中に隠れてるらしい。どこかに洞窟でも見つけたか盗賊団を手下にしたか。後者だと少々厄介だがこの森に盗賊が住んでいるという話は聞かないので大丈夫だろう。


「反応がありました」


 鋼糸を周囲にばら撒いて捜索していたジュラがセルエスを見つけたと報告してくる。鋼糸使いは探し物をするには本当に便利である。ひとまず俺の空間把握の有効範囲までに移動する。


「どうするエド?」


 神前が聞いているのはどのように行動するのかだろう。アジトや仲間を発見する為に泳がせるのかそれともさっさと襲うのか。・・・なんか俺が悪党みたいだな。


「セルエスは上位のCランク冒険者でおまけにソロだ。ここら辺に盗賊団の目撃証言はないからたぶん一人で行動してるだろう。なら特に泳がせる必要もないだろ」


「わかった。それでどんな感じで行く?」


 少し考える。おそらく俺と神前とジュラが出張ればセルエスは簡単に捕まえられるだろう。神前とジュラにはああ言ったがいくら上位といっても所詮はCランク。俺たちの敵ではない。それくらいCランクとBランクの実力は離れている。


「じゃあ今回はイルとリレスの実力を見せてもらおう」


「ニャ?」


「俺と神前とジュラはピンチになるまで手を出さないから二人で少し戦ってみてくれ。二人も自分たちの連携がどこまで通じるか気になるだろう」


 二人の師匠曰く連携を入れたらBランクにも届くレベルだとか。


「どんな風に戦うかは二人に任せるから行って来い」


 イルとリレスは目を合わせると頷いた。


「じゃあ目の前の魚作戦で行くのニャ」


「ん」


 作戦名に思わずこけそうになる。目の前の魚作戦ってどんな作戦だよ。


「じゃあ行くのニャ」


「ん」


 イルは木を上り上に、リレスは自分にインビジブルをかける。そのままイルは木を伝いセルエスの真上に移動した。そして枝に足を掛けるとそこを足場にして上からセルエスに急降下する。自然落下速度プラスイルの脚力の速さでセルエスに迫る。しかしセルエスも僅かな空気の動きから察知したのかすこし場所を移動する。そう空中ではイルは身動きが出来ない。このままだと落下地点でまんまとセルエスに斬られてしまう。


 セルエスはイルによける方法がないと判断したのか構えに入る。そこにイルが落ちて・・・こなかった。イルは途中の細い木の枝に足を引っ掛けると方向転換、さらに移動した先の木の幹を蹴りセルエスの後ろに回りこむ。


 セルエスもこれは想像しなかったのか防ぐのが精一杯だった。イルとセルエスが鍔迫り合いになる。こうなると筋力で劣るイルが不利だ。そのことはセルエスも分かっているのか僅かに余裕が見て取れる。そして徐々にイルを押していく。そしてその背中に近づく黒い影。


 セルエスが一気にイルを倒そうと力んだ瞬間、後頭部にリレスが魔法で作った土の塊が激突する。いくらCランク冒険者でも思わぬ方向からの強力な一撃にはたまらずその場に倒れる。どうやら気絶したようだ。


「意外と楽勝だったな」


 隠れていた茂みから出てきつつ言う。二人の連携には中々に見事だった。イルが囮として出て行きわざとやられそうになる。その隙をリレスがつく。まさに目の前の魚作戦だ。


「さてと、こいつだが」


 セルエスが本当に気絶しているか確認するために足で小突く。どうやらしっかりと気絶しているようだ。


「殺そうと思ってる」


 俺はなるべくあっさり言ったつもりだったがすこし声が緊張していた。しかしこれは必要なことだと自分に言い聞かせる。


「殺す?」


「ああ」


 リレスが不思議そうに聞いてくる。


「じゃあ俺がやるよ」


 神前が自ら名乗り出る。殺しをしたいのではなくく汚れ役を引き受けようとしてくれているのだろう。


「いや悪いがこいつはイルかリレスに殺させたいと思ってる」


 神前が驚愕の気配を漏らす。ジュラは俺がこう言うことを見越していたかのような表情だ。


「おいおいエド。わざわざ女の子二人にやらせることはないだろう。俺がやるって言ってるだろ」


 神前が不思議そうに言う。確かに俺の行動は不可解でしかないだろう。わざわざ女の子に人殺しをさせるなどと。この世界じゃ女も男もないのかもしれないがそれでもだ。自分でもおかしいと思っている。だけどこれは譲れないのだ。もうあんなことが起きないようにするために。


「いいや。これは二人にやってもらう」


 俺は頑として言う。


「おいおいエド、何をそんなに意地になってんだよ。なにかあったのか?」


 流石におかしいと思ったのか神前が聞いてくる。俺がそれに返事をしようとすると、


「それについてはワタクシがお教えして差し上げましょう」


 という声がどこからともなく聞こえてくると同時に凄まじい速さでナイフがセルエスの首に突き刺さった。セルエスが一瞬で絶命する。


「誰だ!」


 気配も何もなく声だけが響いていた。


「これはこれはワタクシとしたことがとんだご無礼を」


 そう言いながら俺たちの前に一人の男が現れた。そいつを一言で言うならば・・・道化師だ。


「ワタクシ魔界の大公ロキと申します。以後お見知りおきを」


 男―ロキは慇懃に頭を下げながら言った。

 

突如現れたこの男の目的とは一体なんなのか!?


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