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第45話 とある勇者の物語

呪本(じゅほん)


正にそう呼ぶべきな本が今俺の目の前にある。閉じていても感じる。その本からは瘴気が滲み出るようだ。


誰だってわかる。この本を開いて読んだら最後。のた打ち回り苦しみことを本能で察するだろう。そういう呪いが掛かっているのだ。そんな危険な本誰も読もうとは思わない。


しかし俺は読まねばならない。何故ならばそれが俺に課せられた使命なのだから。


だから俺はこの呪本を手にする。だから俺はこの呪本を読む。


その本の表紙には『とある勇者の物語』と書いてあった。恐らく題名なのであろう文字を読んだ俺は笑い出しそうになった。


何故なら知っているから。


勇者など存在しないことを。


もし勇者というものが存在して、もし勇者の使命が困っている人を助けることだとしたら・・・


何故勇者は俺を助けてくれない?何故勇者はこの場にいない?俺は今こんなにも苦しみ困っているというのに。


だから勇者などいない。


だから俺がこの本を読まねばならない。


何故ならそれが俺の使命だから。




物語は勇者が産まれる所から始まる。


彼の名前はエリオ・エド。


彼は生まれながらにして多くのものを持っていた。


家柄、権力、金、容姿。


彼は勇者になるべくして産まれていた。しかしそれを知る者はいない。今はまだ。


彼が産まれてから何年か経った時。彼は一人の少女と会う。


彼女は美しい黒い髪を持っていた。彼女の名前はエウロス・ジュラ。


出会った二人は友達となった。


それから(とき)は進み彼と黒髪の少女は王都にある学校に入学する。


そこで彼は更に二人の少女と出会う。


一人はイルという名前の蒼い髪の猫獣人の女の子。


一人はリレスという名前の碧の髪のエルフの女の子。


二人の少女は彼と共に過ごす内に徐々に彼に惹かれていく。


少し(とき)は進む。


彼は王国が開く武道大会に出ることになる。そしてその武道大会で彼の名は万人が知ることとなる。


彼が武道大会で戦っていると魔族が王都を襲来した。


彼はその事件で非常に優秀な働きをし、更には魔族側のリーダーを倒すに至る。


場所は移り。


暗い部屋で三つの存在が話をしている。一つ一つが非常に強い力を持っている。三つの内一つが喋り出す。


「リュクシオンがやられたらしい」


「ほう。あのリュクシオンがか。」


「して誰にやられたのだ?」


「人間の小僧だそうだ。」


「人間のたかが小僧にやられるとは四天王の面汚しだな。」


「それが唯の小僧ではないらしい。どうやらあの白夜叉の子孫だそうだ。」


「ほう。あの白夜叉のか。」


「なるほど。あの者の子孫か。」


「中々に楽しめそうな小僧ではないか。」


「左様。しかしリュクシオンは我ら四天王の中でも最弱。」


「それもまたしかり。」


そこに今までいた三つのどの存在よりも強い力を持った存在が現れる。


「これは魔王様」


三人が慌てて膝をついて(こうべ)を垂れる。


「貴様らの言うとおり中々に面白うそうな人間だな。名前はなんというのだ。」


「エリオ・エドでございます。」


「そうかエリオ・エドか。フッフッフ。会うのが楽しみだ。」


再び場面は変わる。


彼は仲間と共に旅に出ていた。旅の目的は魔王を倒すこと。


旅を邪魔するべく次々に現れる魔王の手下を倒しつつ進むこと幾ばくか。


彼はついに四天王の一人であるアクトーを倒すことに成功する。


そして(とき)は進み。


残りの四天王のワルサーとサイアークをも倒した彼は遂に魔王の目の前に立っていた。


「ここまで辛い旅だったがそれもこれで終わりだ魔王。ここでお前を倒して世界に平和を取り戻す!!」


「いいだろう勇者よ。しかし貴様は一つ勘違いをしている。」


「なに!?」


「お前は俺を倒すには天龍の秘宝が必要だと思っているようだがそんなものは必要ないぞ。」


「そうだったのか!ところで魔王、俺もお前に言っておきたいことがある。」


「なんだ勇者よ。」


「俺には隠された力とか覚醒すると目覚める力があった気がしたが別にそんなのなかったぜ!!」


「そうか。」


「じゃあ行くぜ魔王!!」


「来るがいい勇者エリオ・エドよ!!」



エドの勇気が魔王を倒すと信じて!!ご愛読ありがとうございます。




「ぐはっ!!」


読み終わった瞬間俺は血を吐いた。もうあれだった。これから大事な時だってのに色々台無しにされた気分である。


「どうだった?面白い?」


俺にワクワク顔でそう聞いてくるのは何を隠そうセナである。


事の発端はこうだ。


魔族襲来からしばらく。俺とジュラが王様に呼ばれたのも大分前になったある日。セナが俺に紙の束を持って来て聞いてきた。


「僕が書いた小説を読んでくれないかな?」


俺はそれを特に何も考えずに了承した。元々本を読むのは好きだったからだ。俺がその本を受け取った瞬間セナは言った。


「ある人をモデルとした勇者の話なんだ」


この時点でかなりの悪い予感はしていた。しかしその思いを一度引き受けたという責任感でねじ伏せた俺はセナが書いた小説を読み・・・死んだ。


みんな想像してほしい。自分が主人公となり物凄い美化された小説を読むのだ。もうこのまま十六小地獄の一つになってもおかしくないレベルだ。


おまけにこの小説は上手い。そしてなまじ上手いから傷は深いのだ。


「確かに面白い。面白いけど・・・他人には見せるな」


これを他人が読むと考えただけで悶え死にそうになる。


「えー。面白いのに?」


「そうだ!!ったく、この後大事な待ち合わせだってのに」


「そういやもうそろそろその時間じゃない」


時間を確認してみると確かにその通りだ。


「やば!お前がそんなもん見せるから!!」


セナの返事は聞かずに駆け出す。今日は絶対に遅れる訳にはいかない。


何故なら今日は・・・別れの日だからだ。


最初の方の書き方は今回だけなので嫌だった方はご安心ください。

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