第31話 準決勝 イル対リレス
殆どバトルパートです。
ついに来た八日目。イルとリレス、ダスタとセナの試合の日である。そしてこの試合に勝った二人が午後の決勝戦で戦う。
「いいんですか?何か一言言わなくて」
「別にいいよ。気を散らしたらいやだし。ていうか何でお前がいるんだよ」
お前とはジュラではなくもう一人のほうである。
「そんな冷たいこと言わないでよ。」
とセナが言った。
「いいのか?試合前に精神統一とかしなくて」
「僕はそういうのはしないよ。変に気張っちゃうといやだから」
「そうか。まあ俺もそうだけど。」
「エドさんはどっちが勝つと思っていますか?」
「うーん。俺からはどうも言えないな。一応二人の師匠なわけだし」
「二人はエドが教えたのかい?」
「そうだよ」
「それは楽しみだね」
「始め!!」
そして準決勝が始まった。
最初に動いたのは意外なことにリレスのほうだった。
何か呪文を呟くとリレスの目の前にバスケットボールよりもいくらか大きい水の玉が出る。
さらにリレスがなにか呟くと目の前の水の玉からテニスボールサイズの水の玉がイルに向かって飛んでいく。そのぶん目の前の水の玉は小さくなっている。
イルは次々と飛んでくる水の玉を避けつつ徐々にリレスに近づいていく。イルに避けられた水の玉はリングの床とぶつかって小さな水溜りを作っている。
イルが鞭の間合いまで近づくとリレスは鞭をイルの胸に向けて放つ。
イルはこの攻撃を斜め前にステップして回避。
しかしリレスはこれを予測していたのか丁度イルが移動した位置に残りの水の玉全てを放つ。この時点でイルとリレスの距離五メートル。
この攻撃はかわせないように見えたイルだが驚くべきことに足からのスライディングで回避。おまけに水の玉を回避した直後に手で地面を叩いて体を起こす。そしてそのままリレスに突っ込む。イルとリレスの距離三メートル。
そしてとうとうイルの間合いになる。あまりに近いと鞭は使えない。リレスはどうするのかと思っていると、イルとリレスの間で爆風が出る。
イルは爆風に当たらないようにバックダッシュをする。しかしリレスは避ける余裕がなかったのかまともに当たってしまった。
おそらくさっきの爆風はリレスが起こしたのだろう。火魔法を火力を抑えて爆風のほうに魔力をまわしたのだろう。
「リレスさんいい魔法の使い方をしますね。」
「ああ。だけどさっきのはリレスにしても痛手だろう。距離を離すことは出来たがもろに爆風を受けた。」
今度も先手を取ったのはリレスだった。
おそらく爆風に当てられながらも唱えていたであろう水魔法を発動。イルとリレスの中間地点に水の壁が出る。おまけに無理矢理通られないようにするためか水は壁の中で巡回している。しかし完璧には制御できていないのいくらかの水が壁から離れて水溜りを作っている。
たぶんイルが水の壁を迂回している間にさらに呪文を唱えるつもりだったのだろう。しかしその作戦は失敗に終わる。
イルは水の壁をジャンプで乗り越えたのだ。ジャンプでである。勿論週刊少年ではない。
しかし着地したときに水の壁から離れてしまって出来た水溜りでころびかける。
だがイルは転んだのにも関わらず体が地面に付く前に手を地面につく。そして手を使って体を斜め上に押し上げた。
「イルさんのあの動き何かスキルの効果ですね」
「流石ジュラいい目をしてるな」
「軽業かな?」
どうやらセナも中々いい目をしているようだ。軽業とはその名のとおり無理な体勢からの行動やアクロバットな動きに補正がつくのだ。俺がイルに覚えさせたスキルの一つだ。
ロスタイムを極力なくしたイルはクロースキルの派生であるダブルラッシュを発動させる。ダブルラッシュというのはその名のとおり相手に勢いよく突進して両手のクローで相手を攻撃する技である。相手との間合いを詰めたりするのに便利な技だ。この場合はさっきの爆風対策だろうが。
この攻撃にリレスはどう対抗するのかと思っているとリレスはイルの右手のクローをいつの間にか腕に巻いていた鞭で防ぐ。しかしすぐさま左手のクローが襲い掛かる。
これは勝負あったかと思ったが何故かリレスの体が急に迫ってくるクローとは逆方向、つまり右側にぶっ飛んだ。
どうやら風魔法を己にだけ発動したのだろう。確かにそれならイルのスキルは関係ないが、無茶をする。おまけに左手のクローは回避仕切れなかったのか血が出ている。このままでは出血の効果で徐々に体力が奪われてしまう。魔法使いのリレスは今でさえギリギリだというのに。
そう思ってリレスがどう攻めるのかと考えているとリレスは驚きの行動に出る。
出血は傷を塞ぐがなにかしないと治ることはない。だがリレスは治癒魔法が使えない。しかしリレスは物凄い方法、しかし当然の方法で傷を塞いだ。
なんと火魔法で傷口を焼いたのだ。この方法なら確かに出血の効果は消える。しかしだからと言って出来るものではない。必要以上に焼かない魔法操作力に、焼いている時の痛みに耐える我慢強さ、そして何より考えて実行しようとする胆力。
リレスの行動に全員が息を呑む。・・・・そう対戦相手のイルまでも。結果としてこの瞬間が勝敗を分けた。
リレスは傷口を焼き終わると直ぐに詠唱を開始する。
「偉大なる五元素の一つにして全ての物を切り裂く烈風・・・」
空間把握で詠唱を拾う。そして今日何度目かの驚愕に襲われる。今リレスが発動しようとしているのは風系統の大魔法である。こんなものが当たったらりしたらイルは戦闘不能ではすまないかもしれない。それにいくら魔法が得意なエルフといってもあの大魔法をリレスの実力で放てるとは思えない。足りない実力の代償として生命力を失いかねない。
イルはリレスが勝負に出たのを悟ったのかリレスの魔法が発動する前にリレスを倒すため最高速度で突っ込む。俺はこのとき不覚にもイルのこの行動が成功するようにと思ってしまった。確かに俺の《治癒炎》があれば傷の完治は可能だろう。痕さえ残さないと保障できる。しかしそういう問題ではないのだ。
イルが後五メートルまで接近した。その瞬間なんとリレスは水魔法をで大きな水の塊を作って飛ばした。魔法をある程度知っている者全員が驚いただろう。なんせさっきリレスが唱えていたのは風の大魔法である。リレスの実力では生命力までも使って発動できるかどうかの魔法を唱えている時に他の魔法を発動できるはずがない。全集中力をそれに使っているのだ。
そこで俺は気付く。まさか。しかしこれ以外考えられない。こちらのほうがまだ可能性があるだろう。
その可能性というのは、リレスはそもそも風の大魔法など唱えていなかったというものだ。
そもそも魔法を発動させるには呪文を唱えると、発動させる魔法のイメージを脳内で描くという二つが必要になる。これは左脳で呪文を唱えて、右脳で魔法を思い描いているのだ。なので必ず呪文を唱えなくていけないわけではない。声に出さずにやる場合には右脳と左脳で別のことを考えればいいのだがこれは難しい。だから声に出しているのだ。因みに俺が知っている無詠唱の使い手は父さんと姉さん、そしてジュラだ。一応俺も使えるが、あれは厳密には魔法ではなくスキルだ。
しかしリレスが今やったのは無詠唱以上のものだ。口で他の魔法の詠唱をしつつ実際にはまったく別の魔法を発動するのだから。ジュラなら余裕だろうが。
俺が考えている間にも試合は続く。
リレスの水魔法をイルはかろうじてかわす。しかし水魔法の影に隠れるようにリレスの鞭が迫ってきていた。
だがそれもギリギリかわす。このままイルの間合いに持ち込んでイルの勝ち、かと思った。
イルがリレスにクローで攻撃する・・・直前イルが倒れた。そしてイルの体に水がかかる。
「え?」
セナが思わず声をあげる。
解説するとリレスはイルがかわした水魔法を自分の鞭でイルの方に叩いて飛ばした。そしてそれが背中に当たったイルは気絶した。
ちゃんと説明するので石を投げないでほしい。
まずリレスが水魔法つまり水の塊を鞭で叩いて飛ばせた理由。これはリレスが鞭と水の塊に純粋な魔力で覆っていたからだろう。魔力で魔力を叩いたのだ。
次に水の塊が当たっただけのイルが気絶した理由。聞いたことはないだろうか?数メートルの高さから水に落ちるとコンクリートに当たったのと同じことになると。つまりリレスはイルにそれ程の速さで水の塊を飛ばしたのだ。それ程の速さが出た理由は鞭の魔力と水の塊を覆っている魔力をぶつけた時に魔力を一点で開放したからだろう。
以上がさっき起きた現象だ。
審判がイルの状態を確認している。そして、
「勝者リレス選手!!」
決勝進出はリレスに決定した。
「リレスの勝因はなにかな?」
セナが俺とジュラに聞いてくる。
するとジュラが
「覚悟でしょう」
「覚悟?」
「ええ。あなたも見たでしょう?リレスさんのあの行動」
傷を焼いたことを言っているのだろう。
「リレスさんは何がなんでも勝ちたかったのでしょうね。それこそ覚悟が違った。強くなりたかったのでしょう。」
確かにリレスのあの実力は驚いた。戦いの運び方もかなりのものだった。何回もイメージトレーニングをしたのだろう。
「私があのことを教えたからでしょうね」
最後にジュラが何か言っていたがあいにく俺には聞こえなかった。
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