第18話 勘違いと手料理
昨日と今日の分をまとめて乗せたので長いです。
この話を全てのイルファンとイルファン予備軍に送ります。勿論他の読者にも。
襲いかかってくる、モンスターを如意棒で飛ばす。
「いったぞイル。」
「分かってるニャ」
そのまま飛んできたモンスター、種族名ローンウルフと戦闘を始めるイル。
俺は油断はしないが一息つく。
少し経つとイルがローンウルフを倒して戻ってきた。
「ホントにありがとうニャリーダー」
「良いって言ってるだろ。お前の実力が上がればパーティーの地力も上がるんだし。」
何故俺がイルと二人だけでモンスターを倒しに来ているのか。それを説明するには数時間前に戻らなければならない。
病院を退院してからもう二週間近く経つ。俺の骨折も治り俺は少々手持ち無沙汰にある。
「暇だな。」
俺が寮の自室で呟くと、
「エドさん今日はお暇なんですか。」
何故か自室で呟いたにも関わらず返事がある。
「さらりと俺の独り言に入ってくるな。いつのまに部屋に入ってきたんだ。」
いつものニコニコした笑顔で応じるジュラ。
「あなたにユニークスキルが効かないのは私が自然体でいるときのですから。私がその気になればエドさんでも気付けませんよ。」
そのことは痛いほど分かっている。
「ところで今日暇ならどうです?私と・・・」
ジュラの言葉はまだ途中だったが俺はその先を予測して言葉を言う。
「くどいぞ。それに関してはもう言ったはずだ。」
「それがわからないんですよね。何故あなたはそこまで嫌がるのですか?」
「仮にも人間観察が趣味なら当ててみせろ。もっともお前じゃ絶対に分からないかもしれないけどな。」
俺らがそんなことを話していると部屋のドアが遠慮がちにノックされ開く。
「リーダーはまだかニャ?」
なんでイルが俺たちの部屋にいるんだ?鍵はちゃんとかけた筈だが。
「そうそう忘れるところでしたよ。なにやらイルさんがあなたに頼みがあるそうですよ」
それでいつまで経っても俺が出てこないので業を煮やしたイルが俺の部屋に入ってきたと。因みに寮の部屋は居間とキッチンそれとトイレ風呂の共同部屋にそれぞれの自室で出来ている。
「さっきのは忘れるところじゃなくて忘れたんだろうが」
しかしジュラは俺の突っ込みを無視して部屋をでていく。
俺はイルに向き直ると、
「で?一体何のようだ」
「実は私のクエストについてきて欲しいニョニャ」
事情を聞くとイルは自分の実力を上げたいと思ったようだ。それでギルドのランクという明確な物差しがあるクエストをやることによって実力を上げたいらしい。
「ん、取り敢えず事情は分かった。じゃあリレスにも声を掛けてみるか。」
「リレスは今日は取りたい授業があるって言ってたニャ。」
「なら無理だな。お前にしては気が利くな。先に聞いておくなんて。」
「これくらい普通ニャ。リーダーは私を食べるだけの女だと思ってたのかニャ?」
「そんなわけないだろうが。」
イルはちゃんと胸もある女だよ。
後の発言は心の中だけに留めておく。
「なんのクエストをやるかは決めてあるのか?」
「ローンウルフの討伐ニャ」
ローンウルフか。大変だな。何故ローンウルフが大変なのか。ローンウルフは強さ的には普通の狼と大差ない。ローンウルフの討伐が面倒なのは・・・
回想から戻ってくるとイルに聞く。
「今ので何匹目だ?」
「六匹目ニャ」
六匹か。それなら今日中に帰れそうだな。ローンウルフの討伐が面倒な理由。ローンウルフは名前の通り、一匹で行動する。そして一匹一匹が縄張りを持つ。簡単に言うと出会うのに時間がかかるのだ。
「もうそろそろ昼にするか。」
俺は太陽の位置を見て言う。
「それニャら昼ご飯は私に任せて欲しいニョニャ」
途端に目を輝かせて言うイル。
「昼ご飯って言っても持ってきてある干し肉とか果物食うだけだぞ。料理するとしても材料はあるのか?」
俺がそう聞くと、
「材料ならここにあるのニャ」
さっき倒したばかりのローンウルフを指して言う。
「・・・まあ別にいいか。ならイルはローンウルフを捌いといてくれ。俺は薪を探しに行ってくる。」
そう言って俺は薪を探しに行く。心の中では美少女の手料理に期待しながら。
薪を探し始めて二十分ぐらい経ちそろそろ戻ろうかと思っていると、
「ニャ!?」
イルがいる方向からかすかに悲鳴のようなものが聞こえた。
俺は薪をその場に落とすと、大急ぎでイルがいた場所に向かった。
休憩場所に戻った俺が最初に見たのは木に背中を預けて動かないイルだった。急いで駆け寄りそうになるのをぐっとこらえて敵のほうを見る。
一見すればオーガだった。しかしオーガと違うところがいくつかある。一つ目は体一回りも大きいことだ。そして二つ目は体の色が赤黒いこと。
「ブラッディオーガ」
ブラッディオーガとはオーガの上位種だ。ただし変異種でもある。変異種とは文字通りそのモンスターが変異したのだ。どうして変異するのかは不明。周りにある魔力に原因があるとも言われているが定かではない。
ブラッディオーガは見たところ素手だ。どうやらイルは殴られてあそこまで飛んだらしい。オーガはDランクのモンスターだがブラッディオーガは個体によりCからB-ほどである。イルでは相手をするのは無理だろう。
ブラッディオーガが俺のほうを見て何か唸り声をのようなものをあげている。どうやら俺が強敵だと分かったらしい。おそらくブラッディオーガを倒さないとイルの手当ては出来ないだろう。
「普段なら念の為力をセーブして戦うんだが、」
喋りながらスキルを念じていく。《変身魔法》
「今はイルの命も懸かってるんでな」
モデル《銀狼》
「悪いが一瞬で終わらせるぞ」
俺がそういい終わった瞬間《変身魔法》が発動。一瞬にしてブラッディオーガに迫り後ろに回りこみ背中を触り魔法を発動させる。
「氷結境界」
俺が氷魔法を使った瞬間俺の手を中心にブラッディオーガが凍っていく。そしてブラッディオーガは何も出来ずに完全に凍りつく。それに俺は
「とどめだ」
そう言うと如意棒で叩いて粉々に砕く。
俺はブラッディオーガが粉々になるのを見もせずにイルに近寄る。このままでは一体どういう状態なのか分からないのでフォームを変える。
《変身魔法》モデル《不死鳥》
「《治癒炎》」
治していく過程でいくつか分かったことがある。それはイルの胸の大きさはCだった・・ではなく。どうやら一撃受けて吹っ飛んだお陰でそれほど酷い怪我はしていない。
《治癒炎》を使い治すと他のモンスターが襲ってこない内にとローンウルフの討伐証明部位である尻尾だけ素早く切って袋に入れる。そしてイルを背負うとなるべくイルに影響がでない最速の速さで王都に戻りだす。
王都に移動していくらか経つと背中でイルが動く気配がした。どうやら起きたようだ。
「まったく。おんぶに抱っこは御免だと言っただろうが。」
俺はなるべく軽い口調で言った。
しばらくイルはおとなしくしていたかと思ったら、
「御免ニャ」
「仕方ない。ブラッディオーガはランクBのモンスターだ。イルの実力なら怪我しなかっただけで僥倖だ。」
「・・・それもあるけど他の事もニャ」
「他?」
「実はリーダーについて来てもらったのは聞きたいことがあったからニャ」
「聞きたいこと?」
俺が背中に当たる柔らかい感触を楽しみながら軽い気持ちで聞くとイルはとんでもない爆弾を投下してきた。
「リーダーとリレスは付き合ってるのかニャ?」
はあ!?
その発言に思わずイルを落としそうになる。
「・・・そんな話は一体だれから聞いたんだ?」
「こないだ病室に行ったらリーダーとリレスがその、あれなことになってたのを扉ごしに聞いたニャ」
・・・おそらく俺がリレスにドギマギしていた時のことだろう。いくら動揺していたとはいえ空間把握の反応を見落とすとは我ながら情けない。
そんな現実逃避をした後イルの質問に答える。
「それは俺がリレスに如意棒を見せていたんだよ」
「如意棒ってニャんニャ」
俺はその質問に腰の如意棒を見せたくなるが我慢して普通の如意棒を出してイルに見せる。
「これだよ長さ重さ太さ自由自在でおまけに普段はよく分からない空間に入っている。」
イルは俺の説明を聞くとしばし黙考してやがて納得したのか、
「分かったニャ。私の勘違いだったニャ」
「だろ?それに万が一俺がリレスと付き合っても一緒にイルも愛してやるから心配すんな。」
最後に冗談めかして付け加える。
「・・・エドはやっぱりエッチニャ」
イルはそう言ったきり黙って俺の背中に体重を預けてきた。そのまま俺たちは王都まで喋らなかったのだが不思議と気まずくはなかった。
王都に近づくとイルが、
「そろそろ降りるのニャ」
と言った。背中の感触を逃したくなかった俺は
「無理すんな。ぶっ倒れたばかりなんだから。普段なんだかんだ言っているがお前は女の子なんだからこういう時は俺に甘えていればいいんだよ。」
と言った。イルはそう言うと納得したのかもう降ろせとは言わなくなった。
王都に入りイルに聞く。
「これからどこ行く?俺の部屋かお前の部屋か病院か」
「私の部屋に連れてってほしいニョニャ」
「あいよ」
途中で特に知り合いにも会わずに無事にイルの部屋に辿り着く。そのままイルから鍵を受け取り開けて中に入る。するとそこにはたくさんの下着が・・・なんてことはなくて最初は共同スペースなので綺麗である。
「ありがとうにゃ」
イルを居間にあるソファに降ろす。
「ちょっと待ってて欲しいニョニャ」
イルはそう言うと立ち上がりキッチンのほうに行く。一応ついて行くがぶっちゃけさっきの心配する台詞はゲスイ目的から出た言葉なのでもうイルは大丈夫だろう。
キッチンに行ったイルは戸棚から何やら布を出すとそれを着始めた。
「さっき料理を作れなかった代わりに今作ってやるニャ」
イルが布を着終わると分かったのだがどうやらエプロンのようだ。そしてこう言っては失礼だが物凄く似合っていてびっくりした。
「それはありがたいけど体は大丈夫か?」
大丈夫という確信はあるけど一応聞いておく。
「ん。もう平気ニャ」
「それならいいんだけど。それで何を作ってくれるんだ?」
「内緒ニャ」
とイルは言うとパチリとウインクした。それに不覚にもドキリとしてしまった。
「そっそうか。それなら俺はどうしていたらいい?」
ドギマギしながら聞く。
「さっき私が座っていたソファで待っていて欲しいニョニャ」
「わかった。悪いな俺ばっか楽して。」
「いいニャよ。エドには命を救ってもらったニャ」
俺はその後言われたとおりソファに座って料理をするイルを見ていたのだがエプロンを着けて俺の為に料理を作っている姿を見るとどうしようもなくイルを可愛く感じてしまう。これがギャップ萌えというやつだろうか?
それからしばらくして出来た料理をイルが持ってた。
「出来たニャ」
そう言ってイルが持ってきた料理は・・・
「肉じゃが?」
「ニャに行ってるニャ?これは獣人族の家庭料理のヤルメニャ」
イル曰くヤルメは見た目は完全に肉じゃがである。そしてどうやらこちらの世界でもこれは家庭料理のようだ。
「早速食べて欲しいニョニャ」
スプーンを差し出しながら言う。
「ああ、分かった。」
スプーンを受け取り恐る恐る一口食べる。そして次の瞬間目を見開いた。口に入れて咀嚼した口の中を満たす暖かさ。味のほうもさることながら俺が感動したのはその暖かさのほうだ。それはただの料理の温度以上のなにかを含んでいた。そして噛めば噛むほど湧く故郷への郷愁。この時浮かんだ故郷は地球にいた時の家族のほうだった。
俺は転生してからほとんど前の家族のことを思い出さなかった。その溜めていた思いが一気にきたかのような感じだ。俺は不覚にも本当に不覚にも涙ぐんでしまたった。
「どっどうしたかニャ?まずかったかニャ?」
俺が泣いているのに気付いたイルが慌てて聞いてくる。
「いやうまいよ。俺が今まで食べてきた料理の中で一番。ただうますぎて。」
これは俺の偽らざる思いだ。
それでもなお泣く俺をどう思ったのかイルは俺の横に座ると・・・頭を撫でてきた。
「・・・どうして頭を撫でるんだ?」
「わっわかんニャいけど体が勝手に動いたニャ」
「普通こういう時は背中を撫でるか、抱きしめるかだろ。でも・・・ありがとう。」
そういうとイルは照れくさそうに笑った。
俺は料理を食べ終わると、
「イルありがとう。」
「いいってことニャ。」
「それで一つ頼みがあるんだけど。」
「何ニャ?」
「・・これからもたまにヤルメを作って食べさせてくれないか?」
「勿論いいニョニャ。いつでも言うニョニャ。」
「ありがとう。じゃあ俺は帰るよ。」
「じゃーニャ。エド」
「ん。じゃあな」
俺はそう言って寮の自室に帰った。
その日は初めて前の家族の夢を見た。
トラップカード「イルの手料理」を発動!!これからずっとイルのターンだぜ!!
になるかどうかは皆さんの感想にかかってます。感想待ってます。




