告げられた事実
気づけば2ヶ月以上経ってました…大変長らくお待たせしました!
言い訳は活動報告にて!
では恋心、新年最初の更新になります。
お楽しみいただければ幸いです。
「アルベルトさん達ご家族に何の説明も許可も取らずに、ミリィに『加護』を与えたことは、申し訳ないと思ってます。でも、与えた『加護』がミリィを傷つけることはありません。それだけは、お約束します。」
「私どもの許可など…!…ただ、その、サーナ様がミリィに『加護』をお与えになったことは、龍王陛下並びに属龍様方も、ご承知のことなのでしょうか…?」
「はい。レイ達は、私とミリィの出会いも知ってますし、ミリィに『加護』を与える前に、事前に話もしました。特に反対もされてません。」
「そう、ですか…」
自分の問いに真摯に答えてくれるサーナに、それでもアルベルトの動揺は治まらず、騒ぐ鼓動を落ち着けようと胸に手を添えながら、更なる問いを口にした。
「サーナ様の『加護』がどういったものか、それを私が詳しくお聞きすることなど、出来ないでしょう。それは、ミリアリスとサーナ様の間でお話されるべきこと。…しかし『加護』を与えられるには、ミリアリスの真名を知る必要があるはず。サーナ様はいつ、ミリアリスの真名を…?」
僅かに震える声でそう問いかけたアルベルトに、サーナは自分の記憶を辿るように視線を上向かせてから、静かに口にした。
「――私が、アルベルトさんに初めて会った日です。アルベルトさんが執務に戻った後、日が暮れる前に帰ろうとした時、ミリィからそっと…真名が書かれた紙を渡されました。」
『サーナにだけは、私の真名をお教えします。
私の真名は、ミリアリス・ラド・メルナ・ドードリン。
然るべき時に、私の真名が必要であれば…サーナの思うままにこの名をお使い下さい。』
そう綴られた文字からは、ミリアリスが無意識に示したであろう、サーナへの誠意が感じ取れた。
そのことをアルベルトに告げれば、彼はそんなに前から…と目を見張った。
「もしかしたら…あの時からミリィは、私の正体に気づき始めていたのかもしれません。でもそれを口にはしないで、私に自分の真名を明かしてくれた…」
「……」
「そんなミリィの気持ちに、私は私なりに応えたかったから…だからミリィに『加護』を与えました。信頼には、信頼を返すのが一番だと思ったから。」
「サーナ様…」
「でも、このことは私の独断です。だからもしミリィが、私からの『加護』をいらないと言えば、すぐに取り消します。ミリィが嫌なことはしたくないですから。」
そう言って微笑んだサーナに、アルベルトは浮かんでくる感情を表す言葉が見当たらず、ただただ深く、その想いのままに頭を下げるのだった。
◇◇◇◇◇
「こんにちは、ミリィ。」
ミリアリスが自らが作ったお菓子達と新しい紅茶を載せた配膳車をおして、庭の四阿にやってくると、そこにいたのはサーナだけで。
アルベルトがいないことに瞳を瞬かせたミリアリスに微笑みかけ、サーナは近づいてくるミリアリスを迎え入れた。
「アルベルトさんには、私から執務に戻って貰えるように断ったの。今日はミリィにね…大事な話をしようと思って。」
ミリアリスが文字を綴ろうとするのを制して、その疑問を察したようにそう答えたサーナに、ミリアリスは頷いてから、四阿のテーブルにある冷えた茶器等を、自分が運んできた新しい茶器やお菓子と入れ替えてから、サーナの向かいに腰掛ける。
そして覚悟を決めたように、強張った表情で自分を見つめるミリアリスに、サーナはまるで落ち着かせようとするかのような微笑みを浮かべてから、目の前にあるお菓子に視線を落とした。
「…話の前に、まず食べてもいいかな?折角ミリィが作ってくれたんだもの、温かい内に…ね?」
『…そう、ですね。私もサーナに頂いて欲しくて作りましたし…お口に合えばいいんですけど。』
サーナの求めに強張った表情を緩め、そう綴ったミリアリスは、自身が作った何種類ものお菓子をサーナに勧め、嬉しそうに感想を述べて舌鼓をうつサーナと同じように口へと運びながら、いつものように話に花を咲かせる。
そんな恒例のお茶会をしながらも、気づけば時間は経ち、テーブルを彩っていたお菓子達も、残り僅かとなっていた。
「――もう、覚悟を決めなくちゃね。」
ぽつりと漏らされたサーナの言葉が、ミリアリスがずっと恐れていたその時を、告げた。
反射的に視線を交わした自分に向けられる、優しくもどこか諦観したようなサーナの微笑みが、ミリアリスの心にある感情を映すようで、ミリアリスの心を慰めてくれた。
「ずっと、ずっとね…いつかはミリィに言わなきゃいけないことは、分かってたの。――私の、『立場』について。」
「…!」
「……でもね、やっぱり怖くて。ミリィとの今の関係を、続けられなくなるかもしれないって…怖くて。ずっとね、言えなかったの。」
「……」
「だけど、それじゃあダメよね。ミリィのこと、疑ってるみたいで…そんなつもりもないのに。」
「…!」
「…ねぇ、ミリィ?あなたも私と同じ気持ちだったって、そう思っても、いい…?」
自信なさげに問いかけてくるサーナに、ミリアリスは言葉を綴ることも忘れ、ただただその感情のまま首を縦に振る。
その仕草にほっとした表情で、深く息を吐き出したサーナは、次の瞬間にはその表情を真剣なものへと変え、背を正して、告げずにいた事実を口にした。
「――改めて、名乗らせて貰うね。私の真名は、澤木なつな。生まれ変わってからの23年間、異世界で育ち、7年前にこの世界に戻ってきた…龍王の半身です。」
サーナの口から告げられた聞いたことのない響きの名前と、『異世界』という言葉。
そして何より、『龍王の半身』という――ミリアリスが察していた通りの立場を告げられ、覚悟はしていたものの、その様々な事実をいざ聞くと、頭が真っ白になる。
固まったまま微動だにしないミリアリスに、サーナは苦笑いを零しながら、告げられたことに深い安堵の息を吐き出すと、ミリアリスの動揺が治まるのを待つように、沈黙した。
そして暫くののち、ミリアリスは微かに震える手で文字を綴り始め、いつもより長くかかったそれをサーナへと差し出した。
『今、私が取るべき相応しい行動はなんなのかしら…。
サーナを半身様として敬い、淑女の礼を取ることでしょうか?
それとも、サーナの友人として、今までと同じように接することでしょうか?』
綴られていたのは、今のミリアリスの素直な気持ち。
ミリアリスの身分は子爵令嬢。
貴族としては下位の身分となるが、しかしミリアリスが築いた豊富な財力と数千年前から続く血筋、祖先から続く武官・文官としての優秀さによって、上位貴族と変わりない地位を維持し続けている。
故に、龍王の半身であるサーナへの態度は、子爵令嬢として相応しいものを取らなければならない。
でも、ミリアリスには今この時にその行動を取るべきだとは、思えなかった。
何故ならその行動は、今までサーナと過ごしてきた日々に、一線を画すものになってしまうからだ。
もし自分がその行動を取った時、サーナは悲しまないだろうか。
一度でもそう思ってしまうと、ミリアリスは思考の渦から抜け出せず、それがまたミリアリスの動揺を大きくし、気がつけばサーナに問いかけてしまっていた。
「……今までと同じように、接してくれると嬉しいな。ミリィの前では、この世界に生きる、1人の人間としての“澤木なつな”として、過ごしていたから。だから、ミリィの態度が変わってしまったら…凄く悲しい。」
けれどサーナは、ミリアリスのある意味決断力のない問いに、それを咎めることもせず、答えてくれた。
そしてそれは何よりミリアリスが考えていたことが、間違っていなかったことを肯定する答えだった。
「ミリィとの間に、『身分』なんてものはいらないの。私はルシェラザルトに生きる1人の人間で、それはミリィも同じ。たとえ生きる時間の長さが違っても、それは変わらない。――私は、ミリィと『対等』でいたいの。」
「…!」
「私の願いを、ミリィに押しつけたりしたくないけど…でも今までみたいな、そんな関係でいたいと思うの。…ミリィが、嫌じゃなかったら。」
真っ直ぐに自分を見つめて、真摯な態度でそう話すサーナの言葉を聞きながら、ミリアリスの瞳からは自然と、涙が溢れていた。
2ヶ月ぶりなのにきりが良くないっていうね_|\○_
申し訳ありません…なんとか早めに続きを更新しますー!