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ふわり、恋心  作者: 紫月咲
2章 取り戻したもの
6/8

兄妹それぞれの想い

1ヶ月ぶりの更新になり、申し訳ありません。

そして、突然ですが新章、始まります。

短いですが、ミリィちゃんの兄、アルベルト視点のお話です。





「――ミリィ、あまり長居すると身体が冷え切ってしまうよ。」


背後から聞こえた声に、名を呼ばれたミリアリスは、ビクッと肩を震わせて、驚きを露わにした表情で振り返る。

そして月明かりに映し出される兄の姿に、その表情をまるで悪戯が見つかった子供のようなものへと変えて、俯く。

そんな妹の姿に、アルベルトは苦笑いを浮かべた。



アルベルトがそれに気づいたのは、この日が初めてではなかった。

きっかけは、眠れぬ夜更けに本を読んでいた時、自分の居室の外から聞こえた物音だった。


微かな物音に、バルコニーから庭を見下ろせば、夜着にショールを纏わせただけの妹が、足早に庭の奥へと歩いていく姿が見えて。

その後を気づかれぬように追いかけたのが、数週間前のこと。


妹の友人である龍王陛下の半身――サーナと、アルベルトが庭で出会った、数日後の夜更けのことだった。






「ミリィは、その花にご執心のようだね。」


ミリアリスの隣りに並び立ち、アルベルトは妹の前に佇むその花へと視線を向ける。

月明かりに照らされるその花――メルアドネの花は、高潔な佇まいと気品さで、その大輪の花を咲かせている。

ミリアリスがサーナと出会うまで、一度も花開くことのなかった、未知の花。


妹がその意味を知るのは、一体いつになることか。

アルベルトの脳裏にはここ最近、ずっとそんな問いかけが浮かんでは消えていた。





「…ああ、ごめんね。渡すのを忘れていたよ。」


そんなことをアルベルトが考えていた時、そんな自分を見上げて困ったような表情をしているミリアリスに気づき、アルベルトは自分の懐から筆談用具を取り出すと、ミリアリスに差し出す。

夜着にショール姿の妹は、こんな風に自分に見つかるとは思っていないだろうと、機転を利かせて持ってきていたが、どうやら正解だったようで。


ミリアリスはほっとした様子でそれを受け取ると、さらさらと言葉を綴り、アルベルトに差し出した。






淑女(レディ)にあるまじき行いをしてしまって、ごめんなさい…お兄様。

でも私、どうしてもメルアドネの花が咲いている姿を見たくて。』

「怒っていないから、謝らなくてもいいんだよ、ミリィ。君がずっと気にかけていた花だからね。それに、何度でも見たくなる気持ちもよく分かるよ。」


アルベルトが容易く納得する、それほどに、メルアドネの花は魅力的な花だった。

薄紫色の花びらは、月明かりを纏うように淡い光を放ちながら、闇夜の中で存在を主張している。

その姿はまさに“月光花”の名に相応しく、ミリアリスが植物の研究者としても、そして植物を愛する者としても、惹かれる気持ちはアルベルトにも理解出来た。


けれど、ミリアリスは兄の言葉に緩く首を振って、また言葉を綴った。





『それだけではないの、お兄様。

きっと私、メルアドネの花を見て、語りかけて、実感したいんだと思うのです。』

「実感?」

『サーナとの繋がりを。まだ、どこか信じられないのです…サーナとお友達になれたこと。サーナはきっと、特別な方だから…』


ミリアリスの意外な言葉に、アルベルトは瞳を瞬かせた。



(まさか、ミリィは既に殿下の正体に気づいているのか…?)



アルベルトが内心でそんな予感を抱いた時、ミリアリスはまた言葉を綴った。





『サーナは、時々…何かを私に言い掛けるのです。

でも、いつも途中で止めてしまわれて…きっと、私に話したいことがあるのだと思うの。』

「…ミリィからは、聞かないのかい?」

『聞けませんわ、お兄様。

だって…怖いの。もしその話を聞いてしまったら、今のようにここでサーナに会えなくなってしまいそうで、怖いのです…』

「ミリィ…」

『私、サーナのことが大好きなのです、お兄様。

出会って間もないけれど、どんどん惹かれていて…私にとってサーナはもう、かけがえのない大切なお友達なの…』


ミリアリスの恐れを現すように、震える手で綴られた文字に、アルベルトはそっと寄り添うようにその肩を抱いた。

そんな兄にされるがままになりながら、ミリアリスは言葉を綴り、その細い指でまた、メルアドネの花びらを撫でた。





『だから、サーナの立場を知るのが怖いのです。

私とサーナを、隔ててしまうような気がするから…』

「ミリィ…」

『でも、そんな私をメルアドネの花がいつも励ましてくれるのです。

語りかけると、答えてくれているような気がして…』

「!花が…?」


ミリアリスの言葉にアルベルトは驚き、思わずメルアドネの花に視線を向けた。

その視線の先にあるメルアドネの花は、淡い光を放っているだけで、ミリアリスが言うような様子は見受けられない。

だがしかし、もし本当に花びらを撫でるミリアリスとメルアドネの花の間に、明確な意志のやり取りがあるのだとしたら。



(ミリィは殿下だけではなく、見えざる者達からも、愛されているということなのか…?)



アルベルトの心に浮かんだ疑問。

その疑問に答えられる人物は、たった1人しか存在しない。


そのことにアルベルトは深い息を吐いてから、そっと促すようにミリアリスの肩を抱いた手に力を込めた。






「…ミリィの憂いを、メルアドネの花が晴らしてくれているなら、僕もお礼を言わなければね。さあ、今日はもう戻ろう。明日は、サーナ様が来られるのだろう?ミリィが体調を崩しては、お会い出来なくなってしまうよ。」

「……」

「一緒にお茶をして、今日はもう休もう、ミリィ。今日のことは、僕達兄妹の秘密にしよう。」


そう優しく語りかけて、アルベルトがミリアリスの瞳を覗き込めば、ミリアリスは素直に頷き、兄に促されるままにその場から離れるために歩き出す。

そんな妹と共に歩きながら、アルベルトは明日、サーナに会える時間を作るため、自分の予定を頭に思い浮かべたのだった。








お待たせして、申し訳ありませんでした…!

どんな切り口で行こうかと考えて、そうだこれはミリィちゃんが主人公のお話!…と改めて気づき、立て直しました。

なつなちゃんの存在が強過ぎて、思わず引っ張られてしまうんですよね(苦笑)

なので、思いきって新章を始めることにしました。

この章のタイトルでお気づきかと思いますが、これから物語が大きく動き出します。

お楽しみに!

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