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ふわり、恋心  作者: 紫月咲
1章 初めての友達
4/8

花ひらく月夜、繋ぐ絆




サーナと出会った翌日、ミリアリスは彼女のアドバイス通りに、メルアドネの花を植え替えた。

そこは、まだ手をつけていなかった中庭の最奥、太陽の光も月の光も遮らない、最もよい場所。

その場所に植え替え、ミリアリスは満月の夜を待った。


サーナとの、約束の通りに。




そして待ちに待った、満月の夜。

雲一つなく、闇夜に散らばる星空の下で、ミリアリスはメルアドネの蕾の前にいた。

父母にも兄にも何も告げず、使用人達にも気づかれぬように、そっと部屋を抜け出して。




(本当にサーナ様は、訪れて下さるのかしら…)


父母と兄に対して初めて抱いた秘密に、ミリアリスの胸の中では、経験したことのない程の高鳴りが響いていた。

それはけして、淑女(レディ)にあるまじき行いをしてしまった(やま)しさだけではなく、自分の環境へ起きた変化と、そして何より――サーナへの憧れのような感情のせいでもあった。


サーナの持つ、神々しい雰囲気と親しみやすさ、その相反する雰囲気が、出会ったばかりのミリアリスを惹きつけ、その感情を強く揺すっていた。

そして何より、サーナのことをもっと知りたい、話してみたいと、ミリアリスは純粋な想いを抱いていた。



ミリアリスは、一度夜空を見上げて、サーナの姿がないか確かめてみたが、月と星明かりのみではその姿は見えず、ミリアリスはその瞳を、今度はメルアドネの蕾へと向ける。

メルアドネの蕾は柔らかな月の光に照らされながら、それでもその花を咲かせてはいない。

けれど、その蕾は咲くのを堪えるかのように、その重なり合う花弁を微かに震わせている。


まるで、来るべき人を待ちわびるように。



するとその時、月の光が微かに陰った。

けれどそれは一瞬のことで、ミリアリスがその気配に気づいた時には、『彼女』は既にその眼前へと近づいていた。




(サーナ様、本当に来て下さったのだわ…!)


自分の瞳に映った姿に、ミリアリスは喜びを抑えきれず、また淑女(レディ)にあるまじき行動に出た。

そしてサーナは、空から中庭へと降り立ちながら、自分に駆け寄ってくるミリアリスの姿を見つめて、クスリと笑みを漏らし、地に浮いたままミリアリスを待った。






「こんばんは、ミリアリスさん。お待たせしてすみません。」


柔らかな笑みを浮かべたまま、そう詫びたサーナの前で立ち止まり、ミリアリスは息を整えながら首を横に振り、慌てた様子で紙に文字を綴る。

その姿に、落ち着いてと声をかけながら、差し出された紙に視線を落としたサーナは、またクスリと笑みを零す。





『サーナ様とお会い出来る今日を、心待ちにしていました。

今更なのですが、こんな夜更けに外出されて、大丈夫でしたでしょうか?』


その紙には、サーナに会えた喜びと気遣いが溢れていて、サーナは温かな気持ちになりながら、ミリアリスを見つめて同じことを口にする。





「私も、ミリアリスさんにまた会えて嬉しいです。私のことはお気遣いなく。私は1人ではありません(・・・・・・・・・)から。…それより、ミリアリスさんこそ大丈夫ですか?」


サーナの問いにきょとんとした表情をしたミリアリスは、次の瞬間にはその問いの意味に気づいて、また紙に文字を綴った。





『実は私、今日のことはお父様方にもお兄様にも、誰にも話していないのです。

話してしまったら、きっと反対されたでしょうし、そうしたらサーナ様ともお会い出来ず、メルアドネの花の咲く瞬間も見れません。

それだけは嫌で…』

「でも、ご家族が一緒なら、メルアドネの花の咲く瞬間には立ち会えるでしょう?」

『はい。でも…でも私は、サーナ様にお会いしたかったのです。

サーナ様との約束は、満月の夜だったから…』

「…私のために、誰にも内緒で部屋を抜け出してくれたんですか?」


その問いに、瞳を伏せながらもコクリと頷いたミリアリスに、サーナは喜びを隠しきれずに、きゅっとミリアリスの両手を自分の両手で握り締める。

そして、驚きに伏せた瞳を開いたミリアリスに柔らかく笑いかけて、サーナはおどけたように言葉を紡いだ。





「じゃあ、今日のことは私とミリアリスさんだけの秘密…ね?」


その言葉に瞳を瞬かせたミリアリスは、含まれた意味に気づくと、楽しげな表情でコクリと頷く。

それを同意と取ったサーナは、その両手を離すと、自分の右隣に視線を向ける。

すると次の瞬間、2人がいる場所の周辺を、薄いベールのようなものが包み込む。

その光景にミリアリスが目を見張ると、サーナは安心させるように微笑みかけ、言葉を紡いだ。





「驚かせてごめんなさい。ちょっとだけ、魔術を施しました。」

『魔術、ですか?』

「いくら中庭の奥でも声は響きますから…防音と不可視の魔術を施しました。私達以外には見えませんし、それにこれで、ミリアリスさんのご家族にも、警備の方にも気づかれないと思います。」

『サーナ様は、魔術の才をお持ちなのですね…』


ミリアリスの言葉に、サーナは否定も肯定もせず曖昧に微笑むと、ミリアリスを促してメルアドネの蕾の元に近づいていく。

そしてメルアドネの蕾に触れたサーナは、その蕾を撫でてから、そっと声をかけた。






「待たせてごめんね…さあ、ミリアリスさんにあなたのキレイな姿を見せてあげて。」


その言葉を合図に、メルアドネの蕾はゆっくりと開いていく。

大輪の薄紫色の花は、まるで月の光を余すことなく受け止めたように、淡い光を放ちながら、辺り一帯に鮮やかな香りを漂わせている。

ミリアリスにはそれが、まるで輝く月のように見えた。





「メルアドネは、『光り輝く』という意味でしょう?この花を生み出した人は、きっとこの子が『月光花』だということを知らなかったんでしょうけど…凄い偶然ね。」


クスリと笑みを零したサーナに、ミリアリスはメルアドネの花の美しさから、逸らせずにいた瞳をサーナへと向ける。

その視線に気づいたサーナが、問いかけるように見つめれば、ミリアリスは紙に文字を綴る。




『私、メルアドネの花が月光花だということに、サーナ様の助言を聞くまで…気づかなかったんです。

月光花が存在することを、知っていたのに…』

「それは仕方ないと思います。月光花は…聖域にしか存在しない花。文献に載っていても、実際に目にする人は少ないと思いますし。」

『でも私は、花の研究者の端くれです。

なのに気づくことが出来なかった…勉強が足りない証拠です。』


綴られた言葉と悔しそうな表情が物語るミリアリスの心境に、サーナはそれを肯定することも否定することもなく、ただ真摯な言葉を紡いだ。





「ミリアリスさんがそう思うなら、きっとそうなんでしょうね。でも、勉強不足だと思うなら、これからもっと勉強していけばいいでしょう?」

「…!」

「人は、いくらでも学ぶことが出来ます。その意欲があれば、今以上に成長出来るはずです。」

「……」

「…それに、私のアドバイスがきっかけだったとしても、この子を咲かせたのはミリアリスさんの力です。…花は自分で水を得ることも、咲く場所を選ぶことも出来ません。この子を育てたのは、あなたです。それを、この子は誰よりも分かってますよ?」


サーナの言葉と視線に促されるように、ミリアリスがメルアドネの花に瞳を向ければ、淡い光を放つ花が、ミリアリスの方に向き、懸命に何かを伝えようとするかのように、その花弁を輝かせている。

まるで意志のあるようなそれに、ミリアリスは瞳を瞬かせると、サーナが触れたように、その花弁へと触れる。

すると触れた瞬間、伝わってきた意志のようなものに、ミリアリスは驚き、反射的に手を引くも、恐怖のようなものは一切感じられず、恐る恐るだがまた花弁へと触れた。





「…分かりますか?この子の気持ち。ミリアリスさんなら、きっと分かるはずです。」


傍に立つサーナの言葉に、ミリアリスはメルアドネの花に意識を集中させる。

花弁から伝わってくるのは、自分(ミリアリス)に対する感謝の気持ちと、漸く花開けたことを誇るような、褒めて欲しいと請うような、そんな気持ち。

伝わってくる感情に、花弁に触れたままミリアリスがサーナを見れば、自分を見つめて優しく微笑む表情と出会う。






「良かった…ちゃんと伝わったみたいで。」

『サーナ様、今のは…』

「私の魔術の1つだと思ってください。この子に頼まれてしまったので…ミリアリスさんに自分の気持ちを伝えたいって。」


現実味のない出来事に、ミリアリスが微かに震える手で綴った文字に、そうサーナが答えれば、ミリアリスはサーナの両手をきゅっと掴む。

その表情は、まるできらきらと瞳を輝かせる子供のようで。




『サーナ様…あなた様は本当に素晴らしい方なのですね!

魔術の才がおありで、そのお力を私にまで使って下さるなんて…

まさか、花と意志疎通が出来る日が来るなんて、想像もしていませんでした!』

「ミリアリスさん…?」

『私、私…サーナ様とお会いしてから、嬉しいことばかりが起きて、なんとお礼を伝えていいか…!

私も、サーナ様に何かお返しが出来たらいいのに…』


興奮した様子で綴られる文字は、ミリアリスの喜びを余すことなくサーナに伝えてくる。

そんな姿にサーナは嬉しそうな表情でミリアリスを見つめると、今度は自分からその両手を握って、どこか緊張した様子で言葉を紡ぐ。






「なら、ミリアリスさんに…お願いしたいことがあります。」

「…?」

「もし良かったら、私と――私と、友達になって貰えませんか…?」


自分を見下ろしながら、窺うように紡がれた言葉に、ミリアリスはきょとんとした表情をしたものの、その言葉を理解すると、クスクスと笑みを漏らしながら、文字を綴った。





『私、もうサーナ様とはお友達になったと思っていました。』

「ホント、に…?」

『本当です。どうして、そんなご不安そうなお顔をされるのですか?』

「私…初めてなんです。友達になりたいって、友達になって欲しいって…誰かに対してそう思うのが。」


サーナの呟くような声に、驚きに瞳を瞬かせたミリアリスは、けれどその瞳と姿に嘘ではないことを知り、また文字を綴った。





『私、とても嬉しいです。

なら私は、サーナ様にとって…初めてのお友達なのですね。』

「ミリアリスさんは、驚かないんですか…?」

『人には、誰にだって事情があるでしょう?

それは、聖域に住まわれるサーナ様とて同じことです。』

「ミリアリスさん…」

『私も改めてお願い致します。

私のお友達に、なって下さいますか?』


ミリアリスの問いかけに、サーナはまたその両手でミリアリスの両手を握り締め、何度も何度も首を縦に振る。

その(まなじり)に浮かぶ涙に、ミリアリスは慌ててチーフを取り出そうとするも、自分が夜着にショール姿だったことに気づき、どうしたらとわたわたするしかなかった。

そんなミリアリスにクスリと笑みを漏らしたサーナの、眦に浮かんでいた涙が何かに拭われたかのように消え去り、しかし動揺していたミリアリスが、そのことに気づくことはなかった。





「嬉しい…嬉しいです、ありがとうございます、ミリアリスさん。」

『サーナ様、私達はもうお友達でしょう?

なら、敬語は止めませんか?

どうか、私のことはミリィと気安く呼んで下さい。

お友達も家族も、私のことをそう呼ぶのです。』

「ふふ、そうね。なら、ミリィも私のこと、サーナって呼んでね。敬語もなし、友達なんでしょう?」


ミリアリスの言葉に、同じことを告げたサーナに、ミリアリスははたと気づくと、2人はお互いの顔を見合わせて笑い合う。

そんな2人の乙女の姿を、月とメルアドネの花だけが、優しく見守っていた。






なつなちゃんとミリィちゃん、お友達になるの巻でした。

いやー、ガールズトークが楽しくて、龍王本編が思うように進まないって弊害が…。

いかんせん、今執筆中の本編は悪意の全面対決なもので_|\○_

気合を入れないと書けない…!

…すみません、逃げに逃げましたが、なんとか今日中には本編更新しますー!


さて、恋心はいよいよ次話で、お兄様が再登場します。

なつなちゃんの正体を、ミリィちゃんはいつ知るのかしら?

それはわたしにも分かりません!(笑)


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