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ふわり、恋心  作者: 紫月咲
1章 初めての友達
3/8

『黒の御使い』




その女性はふわりと浮いたまま、穏やかな微笑みでミリアリスを見つめている。

そして、呆然とした表情で自分を見つめるミリアリスに向けて、ゆったりと話しかけた。






「こんにちは。」


その柔らかい声にミリアリスの緊張は少しほぐれ、漸く目の前の女性を窺える余裕が生まれる。

女性が纏う色も容姿も、今までミリアリスが出会った人達の誰もと違い、そしてその雰囲気もまた、人間離れした、何か神々しいものに感じられた。

そして何よりも、魔力に長けた魔術師でさえ、空を自在に飛べることなどないのに、当たり前のように空を飛び、ミリアリスの前に浮いたままの女性に、ミリアリスは1つの答えを導き出した。



はっとした様子で、ミリアリスは女性に向けて深く頭を下げると、首を傾げる女性を後目(しりめ)に、エプロンのポケットから筆談用具を取り出すと、さらさらと書き込み、その紙を引き抜くと女性に近づいて、その紙を差し出す。

そのどこか興奮した様子と突然差し出された紙に、女性は最初は戸惑った様子だったものの、その紙に書かれている言葉に、瞳を瞬かせた。





『はじめまして、ミリアリス・ドードリンと申します。

私は生まれつき話すことが出来ませんが、声は聞こえています。

そしてあなた様は、聖域に住まわれる聖獣様とお見受け致しますが、間違いでしょうか?』


乙女らしい繊細な文字で綴られた言葉に、女性は瞳を数度瞬かせた後、しかしそこに侮蔑も同情も浮かべずに、変わらぬ微笑みをミリアリスに向けてくれた。





「私は聖獣ではないの。でも、聖域に住んでいる者です。名は――サーナと言います。」


優しく語りかけるようにそう答えてくれたサーナと名乗った女性は、聖獣ではないという。

その濁した答えに、ミリアリスは深くは詮索せずに、また紙に言葉を綴るとサーナに差し出した。

他人の秘密を不作法に詮索しない、それもまたミリアリスの良さであった。





『サーナ様と仰るのですね。

こうしてお知り合いになることが出来て、とても嬉しく思います。

太陽を意味する名を持つなんて…“太陽姫”と呼ばれる半身様と同じですね。』

「…半身を、知っているんですか?」


綴られた言葉を読んだサーナが、その柔らかい声にどこか硬さを纏わせるが、ミリアリスはその問いにきょとんとした表情を浮かべた後、また言葉を綴った。





『いいえ、私は存じ上げません。

お父様方やお兄様はご存知なのかもしれませんが、私は家からあまり出ることがありませんので、龍王様や半身様、属龍様のことは、学院で学んだこと以外には存じ上げないのです。』

「…何か、病気なんですか?」

『いいえ、私は話せないこと以外は健康なのです。

でも、花達のお世話や研究に忙しく、外出することが少ないのです。

世俗にも疎くて…いつもお兄様を心配させてしまっています。』


綴られた言葉と苦笑いを浮かべたミリアリスの表情に、サーナはほっとしたような表情を浮かべてから、その微笑みをどこかリラックスしたものへと変える。





「やっぱりあなたが、この花達を育てているんですね。研究されているということは、専門家でしょう?…でも、“この子”には困らされているのね。」


サーナはクスクスと柔らかな笑みを零しながらそう言って、ふわりと動くと、メルアドネの花の蕾を優しく指で撫でる。

その行動に瞳を瞬かせたミリアリスは、しかしそこでサーナの言葉に含まれたある事柄に気づき、傍に駆け寄ると慌てた様子で言葉を綴った。





『どうして分かったのですか?!

私が困っていると…』

「“この子”に聞きました。私には、この子の言葉もこの庭に咲く花達の言葉も、全て分かりますから。」


サーナが漏らした言葉の重大性に、ミリアリスは気づかなかった。

何故なら、そのことよりも自分の前に現れた、メルアドネの花を咲かせるための答えを持つかもしれないサーナの存在の方が、より重要だったからだ。





『私、本当に分からなくて…!

この子が何を求めているのか、どうしてあげたらいいのか…。』

「…ミリアリスさんは、この子達をちゃんと見て(・・)くれているんですね。」


自分の腕に縋るようにして、綴られた言葉を伝えようとするミリアリスに、サーナは嬉しそうに瞳を緩めて、またその指でメルアドネの蕾を撫でる。

それから暫くそのままでいたサーナは、蕾から指を離すと、穏やかな眼差しでミリアリスを見つめた。





「…私が咲かせるのは簡単です。でもミリアリスさんも“この子”も、それは望んでないみたい。自分の手で、咲いて欲しいでしょう?」


その言葉にコクリと頷いたミリアリスに、サーナもまた頷くと、ミリアリスにアドバイスを授けた。






「この子は人一倍気難しいから、周りに他の花達が咲く今の環境では、どれだけ待っても咲かないわ。だから、場所を移してあげてください。それから…この子が花を咲かせるのは、満月の夜です。」

『満月の、夜ですか…?』

「そうです。この子は『月光花』…月の光に導かれて、きっとキレイな花を咲かせます。」


そう伝えると、サーナは空を見上げて何かを確かめて、またふわりと浮かび上がる。

その姿を瞳で追ったミリアリスに、サーナはまた柔らかく笑いかけると、言葉を紡いだ。





「また会いに来ます。今度は、満月の夜に。さよなら、ミリアリスさん。」


次の約束を告げて、またふわりと飛び去ったその姿を、ミリアリスは惚けた様子で、いつまでも見送っていた。

突然の出来事の連続に、その鼓動を高鳴らせながら。





     ◇◇◇◇◇





いつもより遅く、白王宮の庭に降り立ったなつなを出迎えたのは、その半身である龍王レイだった。

地に降り立つなつなに手を貸し、出迎えの挨拶を告げたレイは、なつなのどこか嬉しそうな、はにかんだ笑みに気づき、首を傾げながら問いかけた。





「なつな、どうかしたの?」

「ふふ、あのね…とっても可愛い女の子に出会ったの。」

「女の子?」

「そう。帰り道に通りかかったんだけど、見たこともない花達に囲まれて、“彼女”達がみんな、その子を好意的に見つめているの。だから、凄く気になって声をかけちゃった!」

「見えざる者達が…?」


自分の話に驚いたように瞳を瞬かせるレイに、なつなはその瞳を慈しむものへと変えながら、レイに寄り添った。





「その子ね…生まれた時から話せないみたいなの。でも、そのことを枷に思わずに微笑んでる姿を見て、私…凄いなって思ったの。それにね、私のことも知らなくて…」

「!なつなを、知らない…?」

「世俗に疎いみたい。フィオ達も嘘は言ってないって認めてたし…私も、そう思うの。」

「メルフィオーサ達が…」

「だからね、レイ…。私、その子と…ミリアリスさんと、友達になれたらいいなって、そう思うんだ。」


そう呟いて、きゅっと繋がれた手に力を込めたなつなに、レイは慈しむように頬を頭に擦り寄せて、優しく囁いた。





「なつなの友達に、なってくれるといいね…」


その言葉に頷いて、なつなはレイと共に白王宮に入っていくのだった。







ミリィちゃんとなつなちゃんの、初めての交流でした。

ミリィちゃんはほとんど家に閉じこもりで、アルベルト達とも世俗の詳しい話はしないため、なつなちゃんの容姿などは知らないのです。

そしてなつなちゃんも、シェリア達に囲まれていますが、純粋な『友達』はいないのです。

これから暫くは、2人の交流が続きます。

オルガが登場するのは、まだ先になりそうですね…。

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